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木綿子
2017-05-21 20:10:38
1612文字
Public
P5(岩主)
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コイントスの話
表が出たら岩井に会いに行くぺごくんの話
毎日、コイントスをする。
使うコインは様々だ。10円だったり、100円だったり、500円だったり。1円は使わない。一回使った時に、失敗して部屋の何処かへ飛んでいったままなのだ。
今日は、100円。
ピン、と軽やかな音を立てて弾いたコインをキャッチして、手の甲で受け止める。
表か、裏か。
ゆっくりとコインを押さえた指をずらす。
表だ。
表の時は、会いに行く。
そう決めたのは、数ヶ月前。モルガナに言わせれば「行きたい時に行きゃいいだろ」だそうなのだが、そんな風に行きたい時に行き、会いたい時に会う、欲のままの行動が酷く子どもじみたものに思えて素直に「そうだな」と言えなかった。
暁の心には欲がある。
会いたい、話したい、触れたい、深くまで触れたい。
そんな欲だ。
普通か、普通でないかで言えば、この気持が「普通でないもの」だとはわかっている。わかっていても「だから止める」なんて簡単に切り捨てることは出来ない。甘苦しく、厄介な感情だ。
何故こうなった、など、野暮な問いかけである。そんなものはわからない。自問自答なら何度もした。けれど答えは出ない。
過程は分からなくとも、今現在熱病のような感情の揺れが、暁の中にあることは確かだ。
だから会いに行くときは、欲を隠さない。
真正面から見つめ、隙きあらば擦り寄り、事あるごとに「好きだ」と言う。
けれど、それが功を奏したことはない。
人好きな猫のようにぺったりとくっついても、岩井の態度は変わらない。
ちらりと暁の顔を見て、総スルーである。
靡きもしなければ、拒絶もしない。
ただ一度だけ無理やりキスをしようとした時に、「うぜえなお前」と言われて額にチョップをカマされたくらいだ。
どうやら許容範囲はくっつくまでらしい。
割とその定義は守っている気がする。その後、キスをしようとしたことはない。本心ではものすごくしたいけれど、拒絶されたのでは意味がない。
ならば、時間の許す限りゼロ距離でくっつくまでだ。
暁が同じ空間にいる時は、必ずくっついているもの、と定義付けてしまいたい。離れた時に、寂しさを感じるくらいに。
そんなことを思いつつ、今日も暁はヤモリの入れ墨に頭を擦り付けるように、擦り寄る。腕を抱いて、ぎゅっと寄り添う。
「好き」と言いたくて見上げると、岩井もまた暁を見ていた。
じっと見つめる鈍色の虹彩は、少し笑んでいるようにも見えた。
「暁、手ぇ出せ」
よくわからないが、言われるままに左手を差し出す。すると、ひっくり返されて上を向いた手のひらに、暖かく体温の移った金属を乗せられて、ぐっと指を強制的に閉じられた。
「それやるから、今日はもう帰んな。シゴトは終わりだ」
「え、なんで
……
」
「またな、気をつけて帰れよ」
質問は許されなかった。そのまま肩を押され、強制的に退店である。
呆然と店の前に立ち尽くし、暁は握った形のままの左手を見下ろした。
手の中の、薄く丸みのある金属片。
恐る恐る、指を広げる。
薄暗い街灯の下、小さく銀色に光るそれは、一枚のコインだった。
人の横顔がエンボスになっている。どこか知らない、外国のコイン。
何故これをくれたのか意味がわからない。それなりに価値のあるものなのだろうか。
検分しようと手のひらのコインを裏返す。
息が、止まった。
現れたのは、同じ図柄。同じ、人の横顔。
両面表のコインだった。
「うそ、なんで
……
」
心臓が痛い。早鐘を打つ。停滞していた血流が、わっと頭に上った気がした。
コイントスのことなど、岩井に話したことはない。なのに何故、急にこんなものを暁に寄越してきたのか。
聞きたい。
聞かなければならない。
でなければ帰られない。絶対に。
たった今しがた追い出された扉に駆け寄り、暁は震える指先をドアノブにかけた。
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