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木綿子
2017-05-13 00:43:12
4720文字
Public
P5(岩主)
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診断メーカー原案の岩主
7RT(またはいいね)で木綿子の岩主は「お前は、油断ならねえな。目離せねーよほんとに。俺の視界からいなくなんな。」
https://shindanmaker.com/717056
からのベッタベタなお話。えろくもないので流し読み推奨。
さわりが悪かったので、診断メーカーさんの台詞は一部改変しています。
桜が散った後の最初の連休は、とても良い天気だった。
薄青い空、太い毛筆で刷いたような雲。暑くもなく寒くもない丁度良い気温。絶好の行楽日和である。
そんな陽気の中、暁は駅から続く商店街を行き交う人々を眺めた。
日曜日の昼下がり、目の前の商店街はなかなかの賑わいを見せている。初詣の明治神宮のように歩くのが困難、というレベルではないが、それなりに密度が高い。ゆったりとした川のような人の流れがある。
垣間見える店は雑多だ。元々商店街で商売をしている雑貨屋や洋品店に加え、フリーマーケットとしての出店枠があるらしく、直にアスファルトへシートを敷いて商品を並べている様も見受けられた。
「意外に混むもんなんだな」
「一応、地元じゃ毎年恒例で有名らしいから」
商店街に足を踏み入れながら、傍らを歩く岩井にスマホでの検索情報を伝える。だいたいいつでも情報収集は暁の役目だ。
岩井と日曜日に出歩くのはとても珍しい。ラーメン屋のように人が並ぶことはないが、ミリタリーショップも立派な客商売である。普段、暦上の休日に店舗を閉めることはない。ただ今日ばかりは店休日となるのも仕方がなかった。何しろ入居ビルの電気系統が故障し、本日日中に業者が入る予定なのだ。営業は夜からにしろ、とビルの管理会社から通達されたため、いっそ休みにしてしまえという店主の意向により、昨日「臨時休業」の張り紙をシャッターに貼り付けたのは暁だった。
「なんか、肉の匂いがする」
「食いてえのか? さっき昼食ったばっかだってのによく入るなお前」
「歩いてたらお腹すいた」
「消化早すぎんだろ
……
」
この商店街に元々来る予定ではなかった。昼食ついでに外出し、腹ごなしに散歩していたら見つけた、それだけの話だ。
薫とモルガナは同行していない。どちらも朝から出かけている。モルガナに至っては暁と岩井の顔を交互に眺め「まぁ、ほどほどにな」とありがたいお言葉を投げつけてくれた。
実に心外である。別に休日で二人きりだからと言って必ず一日中淫行に耽るわけではない。そういう日がなかったとは言わないが、毎回ではない。この認識は後で正してやる必要がありそうだ。
フリーマーケット開催中の商店街は、なかなか目に楽しいものだった。
昭和が色濃く残るマダム御用達のような洋品店がビビットな色合いの服をこれでもかと並べている隣で、手焼き煎餅屋の小さなお婆さんが黙々と煎餅を焼き、フリマのシートでは良くわからない骨董品の値切り交渉が展開され、その隙間を小学生と思しき子供たちがキャアキャア言いながら駆け抜けていく。
カオスである。カオスではあるが、活気が満ち満ちていた。
さっきの肉の匂いの元は商店街中程にある自家製ソーセージ屋だったが、匂いに釣られた人々ががこぞってソーセージを焼く鉄板に群がっていたため後回しにする。どの道帰りもここを通るのだ。復路で買っても構わない。
楽しい。
別に何をするでもなく、ただ店を冷かして回り、気になったものを眺める。それだけでも何やら満たされた気分になった。
同じものを見て、誰かと共有する。その楽しさは今までも実感してはきたが、相手が岩井となるとまた少し違う気がした。具体的に何が、というのは上手く言葉にできない。何年も昔からこうして来たような、慣れているのにとても新鮮なような、不思議な感覚だ。
岩井が見るもの、ひょいと手に取るもの、ふと零す言葉。そういったものが珍しくもあり、けれども寄木細工のようにぴたりと心地よく暁の中で組み合う。
部分部分で同調している、というのが一番近い言葉かもしれなかった。
「暁、ちょい待て」
その岩井が、突然あるところで足を止めた。
目の前には、フリーマーケットのシート。どこでもよく見かける青いシートだ。その上に、これまたよく見るものが置いてある。
モデルガンである。
いかにもフリーマーケットの品物らしくやや薄汚れてはいるが、見た目は完品だ。
「珍しいな」
「掘り出し物?」
「かも、しれねえ。法定規制前のヤツだな。マズルが埋められてねえし、こっちは金属製だ」
慣れた手つきで検分を始める岩井に、店番の男も「値引きできんけど良品だからな」などと調子よく声をかけている。
シート上のモデルガンはおおよそ二十。これは時間がかかりそうな気配がする。
横で見ていてもいいのだが、もう少し先にカフェらしき看板があったのを、暁は目ざとく見つけていた。甘い匂いもするため、焙煎機もあるはずだ。岩井がモデルガンに夢中になっている間、自分がそちらを覗きに行っても構わないだろう。
岩井は店主と何事かを話し合っている。パーツがどうの値段がどうのと完全に交渉の腹の探り合いが開始されていた。これはもう入り込む余地はない。後でスマホで連絡すればいいだろう。
暁は立ち上がり、気になっていたカフェに向かった。
紺色のオーニング屋根のカフェは、下町の色合いが強めな商店街の中で際立って瀟洒な佇まいだった。まだそれほど年月が経っていないのだろう、壁面は真っ白でひび割れも黒ずみもない。
思った通り、店先の黒板ボードには「焙煎所」の文字がある。どうやら焙煎所と併設されているカフェらしい。丁度今何か焙煎中なのか、辺り一面コーヒー豆の甘い匂いがする。
商店街のフリーマーケットに合わせてか、テラス席には買い物に疲れたらしいマダムがぎっしりと座っており、更には店先のワゴンでアイスコーヒーが販売されていた。暁が近づくと、店頭に立っている青年がにこりと笑いかけてきた。
「水出しコーヒーの販売してますけど、いかがでっすか?」
ギャルソンスタイルの、暁よりも幾つか年上に見える青年が、チャラい口調でコーヒーを勧めてくる。外見も若干チャラい。色黒で辛うじて茶色と言える茶髪、スタイルは悪くないが全体的に浮ついた雰囲気がある。チャラいがそれなりに見栄えがするのは、主に白黒で統一されたギャルソンスタイルのお陰だろう。
「豆はなに?」
「コロンビア。あれ、もしかして君、コーヒー好きなの?」
「うん」
「じゃあ是非飲んでってよ。あ、それに今から店のエスプレッソマシンでカフェラテのデモンストレーションするからさ。よかったらチャレンジしてみる? 簡単なラテアート、教えてあげるよ」
「え、ほんと?」
「ほんとほんと。はい、こっち来て」
すっと、ごく自然に腰に手を回された。女性をエスコートするような格好だ。
なんだか妙だ。
微かな違和感に、暁は少しだけ首を傾げた。その違和感がよくわからないまま、日陰の店内に促されるまま歩を進める。
「あの」
「ん? なに?」
振り返った店員の、視線が奇妙に粘っこい。目を合わせた瞬間、ゾワッとした寒気のようなものが背筋を伝った。すっと商店街のざわめきが遠のいたような錯覚がして、暁は瞬きをした。
これはまずい。
即座にそう判断する。
似たような視線を知っている。確かその時は、一服盛られて押し倒された。ぶわっと記憶が甦り、身体が少しばかり強張った。
足を止めた暁を覗き込み、「どうしたの?」と聞いてくる声音が耳に貼り付くようで気持ち悪い。
「やっぱりいい、帰る」
「なんで? せっかくなんだからやっていきなよ」
「やらない。連れがいるし、戻らないと」
「やだなぁ、そんなこと言わないで。ね、やってきなよ」
腰に絡みついた手が離れない。ぐっとより引き寄せられて、相手の体温が右の体側に密着する。距離が近すぎる。とにかくくっついた体温を剥がしたくて反射的に身を捩った瞬間、背後から低く冷たい声が聞こえた。
「おい、なにしてる」
静かな、やたらと存在感のある声。
抑揚はないのに、背筋が凍りそうなツンドラの風の声音である。これは確実にロシアの冬だ。
急に身体を解放されてたたらを踏むと、ぐいと強く引っ張られて背中が誰かにぶつかった。
見なくてもわかる。岩井だ。
背中から抱き込まれるようにして支えられている。
「こいつになんか用か」
背中が岩井の胸に密着しているせいか、声の響きが直に伝わってくる。なんだか少しばかり、雷の轟のようだ。
「や、ちょっと店でカフェラテでもって
……
」
「へえ? なら持ち帰りでいいだろ。淹れるんなら早くしろ」
「いやあの」
「あぁ?」
岩井がどんな顔をしているのか、背中を胸に預けている暁には見えなかった。ただ、あのチャラいカフェ店員が怯えたように顔を引き攣らせているのを見るに、なんとなくの予想はついた。
岩井はときとき、「なるほど元ヤクザだな」という顔をすることがある。ただのカフェ店員が対抗できるほど肝が据わっているとは考えにくい。
「な
……
なんでもないっす」
案の定、店員は完全に腰が引けていた。そんな筋合いはまるっきりないのだが「なんかごめん」と心のなかで思わず謝ってしまう暁であった。
「なら、もう用はねえな。行くぞ」
「あ、うん
……
」
肩を強引に押され、そのまま歩き出す。カフェの濃紺の屋根がが人ごみに紛れて見えなくなる程度に離れてから、岩井が盛大にため息を吐いた。
「お前なぁ
……
」
岩井が首の後ろをガシガシと掻く。少し苛々しているようだ。一応、岩井をほったらかして歩き回っていた自覚はある。「勝手にフラフラしててごめん」と謝ると、睨まれた。
妙な迫力である。少しだけ怖い。
「それプラス、何簡単に触らせてんだ。バカか。ちったあ危機感持てっつうの」
「いやでも俺、男だし、危機感とか言われても」
「うるせえな」
「痛っ」
頭頂部を拳でぐりぐりされる。加減はしてくれてるのだろうが、だいぶ痛い。痛いが、とりあえず甘んじて受けておく。言ってみればこちらは被害者なのだが、ここで反論しても火に油を注ぐだけだ。
それに、岩井は暁の心身の安全に関してやや過剰に反応する傾向にある。怪盗団絡みのあれこれがあったせいもあるのかもしれないが、要するに時折恐ろしく過保護になるのだ。その切掛も予想はついている。「公安にボコられた傷は隠して店に行くべきだった」と後々になってから暁は述懐したものである。
「まったく、お前は油断ならねえな。ちょっと目ぇ離したらこれだ。俺の視界からいなくなんな」
「うん、わかった
……
あっ?」
右手を取られ、暁は目を白黒させた。
握られた手はまるっきり恋人繋ぎだ。こんなことを、今まで外でされたことはない。そもそも手を繋ぐなど想定外だ。一緒に出掛ける時は、大抵つかず離れずの距離を保っているからだ。
握られた手が温かい。じんわりと体温が移ってきて初めて、暁は自分の指先が冷えていたことに気が付いた。
「ったく、お前たまに幼稚園児並みになるよな。知らない野郎について行くヤツがあるか」
「でもあのカフェの店員だったし」という言葉は呑み込んだ。呆れたように文句を言う岩井は一見いつも通りだが、まだ少しばかり機嫌が悪そうだ。こういう時は素直に謝っておいた方がいい。
「ごめん
……
で、これ、園児対応?」
「迷子にならねえだろ
……
なに笑ってんだおい」
「いや、別に。あっち見に行きたい。薫とモルガナにお土産買おう」
原因がどうあれ、結果的にこれは手繋ぎデートである。
ただ、そんなことを言おうものなら手を振りほどかれてしまいかねない。だから、笑ってごまかして手を引っ張る。「しょうがねえな」と嘯きながら、岩井が横に並んで歩き出す。
繋いだ手を隠すように、暁はその腕にそっと身を寄せた。
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