木綿子
2017-02-20 20:23:15
3627文字
Public P5(岩主)
 

客がいてもお構いなしにちゅーかますぺごくんの話

タイトルのとおりです。
モブ一人称、お遊び文章。

 吾輩はミリオタである。名前は、まぁ必要なかろう。
 住まいは都内である。正直に言うと、都内の、二十三区外である。しかし東京都下だ。それは間違いない。絶対にだ。住所は「東京都」から始まっている。
 自宅界隈にはミリタリー商品を売っている店はない。故に必然的に遠出が必要になるのだが、それはさしたる問題ではない。家賃の方が大いに問題なのである。背に腹は代えられないのだ。
 よく行くミリ屋は決まっている。上野、蒲田、立川、そして渋谷。その辺である。主に主食はモデルガン、時々エアガン。スナック感覚でサバゲーだ。人は吾輩を「軽快に動けるデブ」と呼ぶ。
 まぁそんなことはどうでもいい。吾輩の衝撃的事件を聞いてほしい。
 事は渋谷の店舗で起こった。
 このミリ屋はモデルガン特化仕様だ。他にも模造刀などの観賞用武器やサバゲーで使える装備も売っている、割と気に入りの店である。強面で無口な店主が一人で切り盛りしていて最初の内こそビクビクしながら商品を物色していたが、慣れてしまえばどうということもない。
 その上この店は精巧なカスタムをしてくれる。小うるさいミリタリー仲間をして「すげえ、それ欲しい!」と言わしめる職人技だ。それもあってかなり頻繁に出向いている。
 注文するときは店主の顔をあまり見ないでどもらないように必死だが、それはまた別の話である。
 そんな店に、ある日見ない顏の兄ちゃんがやってきた。制服を着た男子高校生だ。でかい眼鏡ともっさりした髪型のせいでなんとも田舎臭い雰囲気を醸していた。
 うむ、田舎者が都会慣れしようとして気張るとそうなるものである。覚えのある感覚だ。
 吾輩の実家は新潟だ。うるさいな、米農家舐めんなよ。米だけは産地直送だ。
 おいそこ、SAN値直葬とか言うな。家は古いがホラーじゃない。去年リフォームしたばかりだ。
 どうやらこの男子高校生は新しいバイトらしい。ミリ屋をバイトに選ぶとは。将来有望なDKである。モデルガンはいいぞ。しかもこの店なら変な物は絶対に掴まされない。良いチョイスだ。
 そしてできれば辞めないでほしいと切に願った。店主よりもはるかに注文がしやすいのだ。吾輩の楽しいミリタリーライフのためにも、頼む。
 このDKがカウンターに立っている間は、店主は奥に引っ込んでいることが多い。物色も心置きなくできると言うものだ。バイトくんも無暗に話しかけてこないのがまたよろしい。電気屋などで声を掛けられただけで臨戦態勢になってしまう吾輩のような人種にはもってこいの店員だ。
 このバイトくんのシフト時は、心なしか店主の機嫌も良いように見える。なによりなことである。
 そんなこんなで日々充実したミリタリーライフを送っていたある日、第一の衝撃に遭遇することになる。
 いつもと同じように店内物色していた時にバイトくんが眼鏡を外した瞬間を目撃してしまったのだ。
 DKである。繰り返すが、彼はDKである。
 しかしその野暮ったい眼鏡を外したその素顔は、美少女であった。
 何を言っているのかわからないと思うが、美少女としか言いようがない。SBY48のセンターをはれる。総選挙で一等賞だ。断言できる。その睫毛は一体なんなんだ。アレか。マツエクってやつか。それとも育毛しちゃってるのか。瞬きの度にバッサバサ音がするんじゃないのか。ラクダかキリンみたいだぞ。そもそも目がでかい。当社比二倍にでかい。弊社平面瓜実顔であるからして、その眼のでかさたるや目を瞠っても敵うものではない。小顔なのは知っていたが、衝撃の素顔であった。
 そんな美少女DK(恐ろしいことに矛盾はしてない)と目が合ってしまった吾輩の心境、お察しいただきたい。
 当の本人はいたって普通に「あ、すみません、目にゴミ入っちゃって」とぐしぐし右目を擦っていた。うん、それゴミじゃなくてあんたの睫毛じゃなねえかな……。まぁただの客としては「あ、そ、そう。大丈夫?」としか言えなかったけどな! 精神衛生上よくないから早く眼鏡してくんないかな! なんか見てはいけないものを見てしまったような気がするぜ! などと狼狽しまくった。
 とまぁそんなことがありました。もう随分と昔のことのような気がします。
 第二の衝撃の方が酷かった。核弾頭並みに酷かった。
 核弾頭は秋も深まったある日に発射された。
 その日も、相も変わらず吾輩はライフワークであるモデルガン物色中であった。新商品情報と、火薬が無くなったので試しに「超爆音! ストライク発破!」という新しい火薬を買おうと思っていた。店には店主しかおらず、美少女DKバイトはいなかった。
 その時点では。
 バイトくんは吾輩が入店した十分後にやってきた。普通に店のドアを開け、普通にカウンター内に入っていった。
 なるほど、今からシフトインか、ならばバイトくんがカウンターに立つまで待とうか、という浅はかな考えは次の瞬間に爆発四散した。
 美少女DKはつかつかと一直線に店主の元へ歩み寄り、店主の襟首を掴むやいなやあろうことがガッツリべろちゅーをかましたのである。
 ぽかーんと口を開けた吾輩の目の前で、濃厚なラブシーンが展開する。他人のべろちゅーなんぞ、ドラマや映画でしか見たことがない。非現実的に過ぎるが紛うことなきべろちゅーである。何故べろちゅーなのが分かったのかというと、理由は簡単である。ものすごくわかりやすくもぐもぐぺろぺろしてたからである。主に美少女DKが。べろちゅーをしてくれるような彼女のいない吾輩にですら丸わかりである。どちくしょう。
 呆然と立ち尽くすしかない状況で、眼鏡のない美少女DKがちらとこちらを見た。
 凄まじい流し目だった。
 蛇に睨まれたカエル、というのも生温い。これはアレだ。T-レックスに捕食寸前の人間である。ここはジュラシックパークである。幸いにも吾輩は「軽快に動けるデブ」だ。捕食される前に滝の裏もといドアから外へ出られるだろう。ここは軽快にそそくさと素早くスタイリッシュに退店すべきだ。大丈夫、田舎で結婚する予定はないから死亡フラグは立っていない。腹にあるのは脂肪フラグだけである。
 右手と右足が同時に出ていたが、さしたる問題ではない。かつて江戸時代では右手と右足を同時に出す走り方をしていたというではないか。蘇れ現代のナンバ走り!
 ドアを開けた瞬間に、躓いてこけたのはご愛嬌とでも思ってほしい。
 ……今のは一体、夢幻のごとくであろうか……。人間五十年……いやいや敦盛ってる場合じゃない。
 ホモか。ホモなのか。店主とバイトはホモなのか。モデルガンを買おうと思ったらホモのラブシーンに巻き込まれた件について。こんなラノベあっても誰も読まなそうだぞ。いや腐女子なら読むか? つまりはアレか? ベーコンレタスなアレなのか?
 まぁ吾輩は他人の恋路にどうこう言うつもりは毛頭ない故、ゲイだろうがホモだろうがベーコンレタスだろうがなんでも構わんのであるが、これは実に忌々しき事態だ。
 次回、店に入りにくくなった。
 とても。
 ……とっても。
 言っておくが蚤の心臓には定評があるデブとは吾輩のことである。しばらく渋谷には近づけないかもしれない。
 こういう時、どんな顔をしたらいいのかわからないの……
 笑えばいいと思うよ、とは言うは易く行うは難しである。笑ってどうにかなるなら腹肉震わせて爆笑してやんよ! うおおお火薬買いたかったのに!
 そんな感じでしばらく渋谷のミリ屋から遠ざかっていたのだが、やはりどうしてもここでなくては購入できないアイテムができてしまい、恐る恐る店のドアを開けたのはクリスマス直前の頃。
 入店早々店主と目が合いました。
 なんとなく愛想笑いしました。
 ものすごく、苦虫をかみつぶしたような顔をされました。
 なんかすいませんすいませんすぐ買って帰りますんで!
 蚤の心臓を跳ねさせてとにかく商品を手に取り会計を済ませることに専念する。物品さえ手に入ればこっちのもんだ。おう店主、早く包んでおくれやす!
「あー、お前」
 ひぃっ! 話しかけられたっ!
「あ、は、はいぃ?」
 何用でございますかっ!?
「なんだその、こないだは悪かったな。一応、言い聞かせといたから」
「あっ、あっ、いえっ、自由恋愛万歳であります!」
 なんか焦りまくった揚句敬礼してしまったのだが、強面店主が珍しくプッと小さく吹き出したので結果オーライである。なんか帰りに飴もらった。わーい(やけくそ)。

 とまぁこれが渋谷のミリ屋で起こった衝撃的事件の全貌なのであるが、後にタイムラグを経て再会したバイトくんに「あ、この人の前なら何してもだいたい大丈夫だよな」と言われた時に、本当に真の意味で店主と心通じたような気がしたのは、多分気のせいではないと思うのであった。