アリサリア
2014-08-06 15:09:20
2572文字
Public その他
 

【☆矢:ボツ】北の氷洋は貴方様の物


過去作をリライトしようと思ったけど失敗した系アレ。
上げないのもなんなのでこちらにこっそりと。

〆〆〆〆

海底より、貴方をお迎えに。
深海より、貴方を守るため。

【北の氷洋は貴方様の物】

海界、ポセイドン神殿や巨大柱の存在する地中海海域。
この世界に住まう者からは、中央海底神殿とも呼ばれている。



その中にある巨大柱の一つ、北氷洋の柱の近く。

「っは」

苦しげにあえぐ少年と。



半透明で、青く水面のように輝く青年が一人。
少年は苦しがっている。自分自身を抱きしめて、丸くなって。
青年はただそれを眺めていた。

『そろそろ、お連れしますか』

そうでなければ雑兵に連れて行かれかねない。
それは流石に困るだろう、どこぞのお嬢さんじゃあるまいし。

「っぁ
『大丈夫です、しっかり私が手当てしますから』

少年が聞いているわけがないのに、そう声をかけずには居られなかった。
青年は少年を抱え、急ぎ足で近くにある北氷洋の神殿へ担ぎ込む。
そしてまだ誰も使っていない否、少年以外が使うことのできない部屋へ連れて行く。
その並大抵ではない小宇宙を感じて北氷洋に仕える者たちが姿を見せる。

「クラーケン様?」
『海将軍が、現れた』

小宇宙で伝えて急ぎ足で向かう。
その一言だけで神殿内は慌ただしくなる。

『今、手当ていたします』

部屋のベッドに乗せて傷の手当をする。
目の傷はとても深く、恐らく失明どころか、義眼にする必要がある。
目が完全に潰れてしまっているのだ。

っ」

少年が苦しみにもだえる。
意識が回復しないのはこの痛みがあまりにも酷いからか。

『大丈夫ですから』

そう声をかけて手当てを続ける。
血はすでに止まっている。なら次は、その次は
青年は“モノ”である自分が出来る範囲で手当てを続けた。
そして数時間後全工程を終えて

ここまで、ですね』

青年はただの“モノ”に宿る思念体に戻ってしまった。

………

頭が痛い、目が痛い。そんな言葉が思い浮かんで目が覚める。
少年は周囲を見回す。ここは、どこだ?

『ここは北氷洋の神殿だ』
「!」

青年は少年にそう語りかける。
触れることは出来ずとも、こうして語り合うことは出来る。
最もまだ少年の瞳には青年はただの“モノ”としてしか映っていないのだが。

「おまえは一体それに北氷洋の神殿とは
『私は貴方様の守護者。そしてこの神殿は貴方様の所有物にございます』

少年は頭を抱えてうなる。

「うっ
『まだお体の具合がよろしくないようですね。ご自愛くださいませ』
「だが、いやこの小宇宙

どうやら少年は意識がハッキリしてきたらしい。
この海界に満ちる、彼が信じてきた神と相対する者の小宇宙を感じ取ったようだ。

『何をなさるおつもりですか』
「地上に帰る」
『それが可能なほど貴方様の体は回復しておりません』
「だが!」
もう貴方様に逃げ道はないのです』

青年の言葉が少年に深く突き刺さる。

『貴方様は選ばれたのです。この世界の、守護者として』
「どこにそんな証拠があるというんだ」
『私と会話が出来ること。そして水の中で息ができること、です』
「!」

少年は絶望した。
あぁ、もう二度と地上の、シベリアの凍土を踏むことは出来ないというのか。
愛しい師や、弟弟子とはもう会えないというのか。
少年は悲観した。

「っ、が、あ、あぁっ」
『目が痛みますか』
「うぅ
『涙が血となって溢れてしまうのですね』

左目に巻いた包帯が意味を成さず血に濡れる。
包帯は赤く染まり、痛みが激しさを増す。

『心を落ち着けてください』
「出来ると思ってるのか!」
『むしろ、何故そこまで取り乱しているのですか?』
!」

青年はその目に触れる。
直接的ではなく、小宇宙越しではあるが。

ぇ」
『これでいかがですか』

痛みが引いていく。驚くほど、痛くない。

『貴方様に泣かれると色々困りますから』


とりあえず、導入はこれでいいだろう。
青年はそう思いながら少年からいろいろな話を聞く。

………

彼を助け出したのは何も偶然ではなかった。
むしろ青年が、少年を助けたのは必然的なことだった。
なぜなら彼は選ばれた血筋に存在するからだ。



穏やかに眠る少年の頭を優しく撫でる。
しっかりと触れることが出来たなら、きっと柔らかいのだろう。

『あれから、成長なされたのですね』

青年は思い出す。初めて彼を主として視認した日の事を。
あれはまだ少年が幼かった頃。彼は師や弟弟子と共に水泳の訓練をしていた。
そして彼は水中で呼吸が出来た。
それがキッカケだったのだ。いつでもそうだ、キッカケとは突然訪れる。
呼吸が出来た、ただそれだけで彼は青年の主人となったのだ。

『本当に、成長なされた』

恐らくまだ不安な部分はある。
海皇への忠誠心や他の海将軍と馴染めるか否かという部分で。
特に前者においてはまだ気を許す気がないようだった。
だが恐らく、彼は結局自身の宿命を受け入れるだろう。
そのキッカケが何であるかは分からないが、とにかく。

カミュ氷河」
『寝言、ですね』

海将軍最少年、現在13歳。心の支えが、必要な時期。
自分に彼を支えきれるだろうか。
いいや、そんな事を考えてはいけない。

………

『着心地はどうですか』
「不思議と馴染むものだな」

あれから早数ヶ月。
彼はあまりにもアッサリと“青年”を纏った。

『以外でした。もっと渋るかと思ってたんですけど』
「本当なら渋ってやろうかと思ったさ。だがどうしても血には逆らえないようでな」

あぁやはりそういう問題か。

「頭では聖闘士になりたかった自分が“海皇”を拒むが血は“海皇”を自然と受け入れている」
『そりゃあそうでしょうよ』

神話の時代第一次聖戦の時より海皇と海将軍は深く繋がっているのだから。

「皆が待っている、か」

少年は、アイザックはそう呟いて一歩を踏み出した。
彼が地上での動乱を聞き、最後まで残っていた迷いを捨てる運命の日まであと少し。

=END=