望月 鏡翠
2024-01-01 13:17:31
891文字
Public 日課
 

#1224 「山羊」「校長」「手袋」

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 校長先生は山羊だという噂がある。なんでそんなことを言われているんだろう。全然そんな感じはしない。たとえば小学校の先生は猿に似ていた。体育の先生は、熊に似ている。
 でも校長先生は、髪の毛もふさふさだし、服はいつも綺麗だ。お父さんは襟の周りが黒っぽくなっていることがあるし、ヨレヨレだ。先生はそんなことはない。靴下も手袋もいつも新品みたいにシワひとつない。
 格好いい大人には見えるけれど、山羊になんて見えない。
 きっと校長先生のことを嫌っている人が、そんな悪い噂を流しているのだ。そう思っていたけれど、気づいてしまった。校長先生のことをじっと見ていたからだ。夏の日だって外さない手袋の下に何があるのか。
 とても暑そうで、階段を登ったあとシャツのカフスを外した。その下にチラリと見えた肌色ではないもの。それは毛皮だ。こんな暑い日に下に肌着を着ているわけがない。
 校長先生は山羊。そんな言葉が頭をよぎった。
 単なる悪口じゃなくて、もしかして本当にそうだったんじゃないだろうか。
 手首の毛皮。もしかしたらそれ以外も山羊なんじゃないか。
 好奇心を抑え切れなくなった私は、やってはいけないことをしてしまった。カメラを手に取り、校長先生の部屋に忍び込んだ。もし本当に山羊なら大発見だ。半分人間で半分人の獣人がこの世に存在しているなんて。
 クローゼットの隙間から、そっと外を見る。
 あれ、でももしかして着替えるってことは、服を脱いだあとはここを開けてしまうんじゃない?
 今更気づいても遅い。隠れていた場所のドアが開いて、明るくなる。
「おや、いけないお嬢さんだ」
 校長先生が笑う。黄ばんだ牙が生えている。山羊に牙ってあったっけ。
 捻れた立派な角。肌を覆うごわごわの毛。鋭い爪。
「最近、みんな行儀が良くなってしまって退屈していたんです。なんのルールもなく魂を齧るわけにはいかない。そんなことをしたらすぐに目をつけられてしまいますからね」
 これは山羊なんかではない。別のもの。角を持ち、横に切れた金色の瞳孔。魂を食べるもの。
 その正体を私は誰にも伝えられなかった。