鹿
2023-12-31 19:42:08
2370文字
Public
 

クリスマスがみんなにやって来る

11月も半ば過ぎて突如告げられたぐだぐだイベント予告に「今年はぐだぐだクリスマス……ってコト!?」となり、CPシチュスロット「教会で/愛おしげに/名前を呼ぶ」として書いてたのを路線変更したもの。

「綺麗なとこだったんだろうになあ、もったいない」
 蠢魔の触手を斬り落としながら、斎藤がぼやく。教会の床から天井まで埋める大きなステンドグラスは、魔物の血ですっかり汚れてしまった。惜しむようなことを言っても、建物の被害を気にしながら斬るような、繊細なことはしないのがこの男らしさだった。
「うっわ、土方さんって本当斬るの汚いですね」
 そう言って隣の区画を一通り切り伏せてきた沖田が笑う。どこもかしこも崩れ、血が撒き散った戦場では、髪も肌も色が薄く羽織も綺麗なままの姿は、ひどく浮いていた。沖田はいつも、何人斬ろうが返り血の一滴すら浴びはしない。
「うるせえ、斬れりゃいいだろ。手前みてえにドンパチやった後で団子食いに行くわけじゃねえんだ」
 だが確かに自分の姿はひどいものだ。とても斎藤のことを言えた立場ではない。全身が魔物の血に塗れ、歩くだけで教会の床を汚している。肩に担いだズダ袋からは、瘴気と呼ぶべき嫌な雰囲気が漂っている。触れればたちまち狂気に囚われるなどという噂の闇色の石。そんなもの出来れば持ち歩きたくなどないが、今日はこれが目当てでこの教会にレイシフトしているのだから仕方がない。
「今日は手ぬぐいを持って行かせたんだけどね。こうも全身に血を被ってしまうんじゃ意味がなかったなあ……
 そう言って土方の背後で呆れている山南は、血が目立たぬよう第二再臨姿だ。先生を通り越して母親のようなことを言い出すのがあまりにも似合わない。
「色男が台無しですよ副長。いや、血も滴る良い男。とか言ってあげたら良いんですかね?」
 けらけらと軽薄に笑ってみせる部下の機嫌が妙に良い。ひとまず石が必要量集まり、あとはマスターと合流するだけになったからだろうか。
「みんな、こっちにもひとつ落ちていたぞ」
 隣の部屋からオルタの方の沖田が、両手で球のような石を持ってくる。そんなものいつまでも素手で持たないで主と彼女の愛刀が心配しているので、やれやれとズダ袋を持って近づく。そして、こちらを見上げたオルタは言った。
「優しい人、全身真っ赤だな。大きな袋も担いでいるし、サンタクロースみたいだ」
 斎藤が思い切り吹き出した。ノーマルな方の沖田は腹を抱えて笑う。
「こんな血生臭いサンタクロースが子ども達に近づいたら、思わず斬ってしまいそうだよ……
 山南はそう言って青ざめるので、睨んでおく。気にされた様子はなかった。
「ぷはは、それはそうと山南さん、サンタさんに興味が? どうです、今年のサンタサーヴァントに立候補するというのは」
「ああ、ほぼ毎年選出されるという。あれって立候補制なのかい?」
「うーん? わりと基準謎なんですよね。沖田さんも幕末一の大人気美少女セイバーとして、隙あらば狙っていくつもりはあるんですが」
「インドのボクサーや美味しいお菓子をくれる髭の人もやっていたし、男の人にもチャンスはある。懐かしい人も頑張るんだぞ」
……いや、そもそもサンタは男性のはずでは……?」
 どこもかしこも血だらけの戦場とは思えない呑気な会話。しかもこの教会に祀られていた神のこともサンタの由来も、ろくに知らない日本の人斬りどもが言っているのだから、不遜極まりなかった。
「副長はどうですか? サンタクロース」
「興味ねえ」
 別に斎藤は本気で自分にサンタを勧めたいわけでもない。ただ、ポケットに入れていたハンカチを手渡すのさえ、何か他の会話で誤魔化しながらでないとできない、そういうところがこの男にはある。
 ハンカチを受け取り、ひとまず顔だけでもと血を拭った。白いハンカチはあっという間に血に染まったが、斎藤はずっとヘラヘラしている。
 いつもそうと言えばそうなのだが、今日はどうにもニコニコ寄りのヘラヘラに見えたので、なんなのだろうと思ってしまう。
「なんだ、手前もクリスマスが楽しみか?」
 ふ、と吐き出したため息は、呆れたようにも、笑っているようにも見えた。
「まあ、マスターちゃんがボックスボックスって呻くのはあれですが。比較的平和な方のイベントですから、クリスマスは」
 あの小さい聖女さんのお料理は良かったですよねえ、知らない家庭の味なのに落ち着くというか。そう言って斎藤はまたのらくらと回り道した会話をはじめる。急いでいれば手短に話せと一喝するところだが、今日の仕事はもう帰還するだけだ。沖田達と山南も次のサンタはどんな方向になるかという予想で盛り上がっているし、好きに話させてやることにした。
「良い子にプレゼントを贈るってのも良い風習ですよ。どうですか? 副長は何か欲しいものあります?」
 どうやらこれが本題のようだ。しかしまあ、良い子とはどういう言い方であろう。
「あいにく、物心ついた頃からのバラガキだ。サンタの野郎も素通りするだろうぜ」
「いえいえ。元気であれば、それだけで十分です」
 ああ、とようやく腑に落ちた。自分はスキルの関係上、常に負傷上等の動きしかしておらず、その度に斎藤は苦虫を噛み潰したような顔ばかりしている。だが今日の魔物は数は多いが比較的弱く、血は全て返り血だった。それで、ハンカチが汚れても機嫌が良かったらしい。
「クリスマスまで元気にしてたら、きっと歳三くんにもプレゼントがありますよ」
 慈しむような顔だ。お前、下の名前でなんか今まで一度も呼んだことはないくせに。この男は自分が死んだ後も生きて孫までいたものだから、たまにこういう顔をする。生前この男の九つ上の上司であった自分としては、妙に気恥ずかしいような、悔しいような気分である。
「お前も、サンタに立候補したらどうだ? 爺さんなんだろ、サンタってのは」
 誰がジジイですか、言い返すその顔は、照れながらも満面の笑みだった。