鹿
2022-09-14 15:19:25
2788文字
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アンソロ没案

うまくまとまらないと悟ってアンソロ用にするのやめたやつ

 こんな辺境の惑星の、スラム街の中でもさらに人目を避けるように在るジャンク屋に、わざわざやって来るなんておおよそろくな理由ではない。僕だってそれは承知でここで商売を続けているのだから、客の事情を詮索することはしない主義である。
「それでもねえ、お客さん。こいつはちょっと困りますよ」
「引き取ってくれさえすれば、お金はいりませんから」
 そう言った色白の女が指し示すのは、その細腕でよくここまで引きずってきたと感心するほど巨大なビームライフルだった。銃身の長さは一般成人男性サーヴァントであるの僕の身長を優に超えているだろう。店前の狭い道では回転させられないので、扉をふさぐように置くしかなかった。
「確かに武器でもなんでも扱いますとは言いましたけど、この大きさは艦隊戦用ライフルとかじゃないの⁉なら艦船販売店とかに……
「ええー、間違いなく個人携行用ですよ?」
 そんなわけがあるかとライフルを見下ろせば、信じがたいが確かに艦船接続用端子の類は見当たらない。そのうえ、グリップや引鉄に関しては、巨人系などではなく通常のヒト型サーヴァントの大きさに合わせて作られているようだった。つまり、これの持ち主は身の丈以上に巨大な銃身を振り回して戦っていたということになる。見た目通りの出力であれば発射の反動だけで銀河系の外まですっ飛んでくだろうに。自分の店に持ち込まれたのでなければ、本業エンジニアとして興味深いと言えたかもしれないが。
「いやそもそも物理的に置いとけないって、四次元格納庫なんて高級なもんはうちにはないですから!」
「まーまーそう言わず、本当にちょっとの間ここに置いてくれるだけでいいんです」
 しかし、水着のような薄着に黒いジャージというどこの惑星の文化かわからない格好の女は、こちらの困惑などまるでお構いなしという態度であった。
「だから無理ですって。どうしてもってんなら、むしろこっちが処分費用もらわないと」
「ええー、処分は困りますよ。すぐ引き取りに来る人が現れますし」
「誰が引き取るってんですかこんなも……ん?」
 いけしゃあしゃあとした女の声に、ふと妙な雑音が混じっていることに気づく。
……なんだこの、排気音?」
 不審に思いライフルから視線を上げる。女は店に来た時同様涼しい顔でこちらを見下ろしていたが、どうにもその佇まいに奇妙な落ち着かなさを感じる。そしてその違和感の正体は、女の足元に目を向ければすぐに知れた。
「はぁ⁉」
「うーん、一応静音モードなんですけどやっぱりすぐバレますね」
 なんと、女の体が地面から浮き上がっているではないか!
「くそっ、光学迷彩ジェットパックかよ!」
 そう吠えた時にはすでに、女はエンジンブースト態勢に入っていた。慌てて手を伸ばすも、エーテルジェット推進機構による超加速に届くわけもなく、あっさり上空に逃れられる。
「今はエンジニア業オンリーでしたっけ? そんな鈍った身体じゃこの沖田さんは捕まえられませんよ、鈍ってなくても捕まりませんが!」
 肌と同様色素の薄い髪をなびかせて、ごちゃついた雑居ビルの隙間をあっという間にぶち抜いて飛んでいく。それじゃ、お願いしますね~という女のあっけらかんとした声は、風を切る音に紛れながらあっという間に遠ざかっていった。


「ちっくしょう! やられた!」
 腹立ちまぎれに店の壁を叩いたところで、ただでさえボロい店が余計に傾くだけである。なんとか分解して使えるパーツを取り出すか、最悪でも処分場に持っていけるようにしなくては。ため息をついて、店の前をふさぐ巨大ライフルの横にしゃがみこむ。
 しかし、作業を始めて間もなく頭を抱えることになった。
……こんなもんまだこの宇宙に残ってたのかよ」
 思わず天を仰いでも、相変わらずこの星特有のスモッグに覆われた薄暗い空が広がるばかりである。銀河警察の巡回すら滞っているのはこの場合救いでもあるが。
「所持してるだけで向こう三回のリポップまで懲役になりかねねえじゃねえか!」
 どうせ違法設計品の扱いに困って置いていったのだとは思っていたが、まさか生体エーテル変換機構とは。はるか昔、頭のいかれた軍事国家が支配する惑星で開発されたという、サーヴァント体を直接エネルギー変換し、銃弾とする常軌を逸した欠陥兵器。
「実物初めて見たけど、本当に出力以外何のとりえもねえんだな……変換量調節できないから一発撃ったら確実に死ぬとか、法や倫理以前に武器として失敗だろ」
 武器というのは敵を倒すためのものだが、敵を倒すのは自分の命や利益を守るためだと僕は考えている。自分の命より優先されるものがあると判断するやつも存在するが、そいつだってこんな失敗作は使うまい。
 もちろん試すわけにはいかないし、ざっと調べた限りの推測ではあるが、使用者は撃ってから着弾を確認するまでも生きていられないというポンコツだ。
「しかし……じゃあこのセキュリティはなんなんだ?」
 使用した者の命を奪う超威力の銃、というだけなら、わかりたくはないがまあわかる。これを開発した国が捕らえた敵兵や貧窮した自国民を『弾』にして、当然宇宙国際条約違反で銀河連合に叩き潰されたという話も、なんて馬鹿なんだと思うだけで理解はできる。
「『使用したら必ず死ぬ』モノを、ただ一人にしか使えないようにするってどういうこと?」
 なんとこの生体エーテル変換機構、個人認証システムが搭載されており、事前に登録した「生体」以外はエネルギー変換できないようになっているのだ。
 使い捨てならまだわかるが、このライフルのつくりは明らかにそうではない。サーヴァントの命分ほどには強力な弾の威力にきっちり耐えられる設計になっている。その上調べてみてわかったが、明らかに定期的なメンテナンスを行っている形跡が確認できた。少なくとも複数回使用していると考えられる。
「発射と同時に使用者への強化解除のデメリットもあるからガッツで耐えるってのも無理だよな? もし耐えたところでガッツの回復量なんて消し飛ぶレベルの反動もあるはずだし」
 脳裏にふとよぎったのは、これを持ち込んだ女のいっそ屈託なく聞こえる声。
『処分は困りますよ、すぐ引き取りに来る人が現れますし』
 到底信じられはしないが、もし本当にこの銃を引き取りに来る人間が現れるとしたら、一体そいつは何者だ?
 すぐにでも処分すべきと理性は訴えているのに、明らかに危険な好奇心が頭をもたげてきている。今店にある設備では破壊できないことを言い訳に、手は勝手に元のようにライフルを組み直し始めていた。

「やあ、今日はまた珍しいものを扱っているようだね」
 色々な意味で危険な作業に没頭し、その人が近づいていることにも気が付かなかった。