【安栖と白神の確執】

真琴の父親視点。
ただただ安栖が怖いだけの話。短い。

……ああ、非常につまらない。
頭の固い老人たちの話を聞くことほど、無駄なことはない。
それは数十分前にも言っていただろう。もう忘れたのか。馬鹿が。
再放送のように繰り返される無益な言葉の数々。そういうのは井戸端会議でやってもらいたい。一番権力者な私を蚊帳の外に話を進めるな、不愉快だ。

「皆さん、話が脱線しすぎです。この場はそのような関係ない話をするところではない。そこのところお忘れなく」

凛と通る低い声が輪唱のように重なっていた声たちをピシャリと遮る。
声の主は村の小さい会議室の端で、一人立たされていた、安栖。この中では一番若造だからと椅子も用意されず毎回立たされている。奴が席に着いているところを見たことがない。仮にも私に次ぐ権力者だというのに理不尽な扱いだ。……まぁ、私には関係ないし奴は澄ましてる割に生意気だ。助け舟を出す理由なんかさらさらない。普段の行いが悪いからそうなるんだぞと心の中で冷笑する。
年寄りたちは黙りはしたものの、安栖を睨みつけたり舌打ちした後、何事もなかったように無駄話を再開した。年寄りたちは若者に従わない。この私でも、だ。歳しか自慢する取り柄がないくせに。腹立たしい。
しかし、安栖は怯むどころか満面の笑みで私の方を見ると。

「白神の主がここにいるというのに、なんて罰当たりな。神の罰を受けたい物好きな愚か者はどうぞ気が済むまで喋り立てろ。明日も生きたければ、今すぐその口を閉じろ。白神の主に恥をかかせるな」

人が変わったように冷酷な声音で暴言に似た文言を並べ立てる安栖。すると反抗的だった年寄りたちは顔面蒼白になり、歯をガタガタ言わせ、土下座するように皆揃って私に向けて頭を下げる。
年寄りたちは若者を軽視する一方で権威に異様に弱い。先程安栖が言った『白神の主』『神の罰』は白神家が音羽村の最高権力なのだと暗に言う言葉として、昔から使われている常套文句だ。使いすぎて聞き慣れた者もいるだろうにこの言葉を使えば、このようにひれ伏してしまう。洗脳のようなものだ。
今この瞬間、頭を上げているのは私と安栖の二人だけ。
安栖は先程のお手本のような満面の笑みはどこに行ったのか、年寄りたちを蔑むように酷薄な笑みで見下ろしている。
一部の村の者は、こいつを裏表のない性格だと評するが、全くの節穴だと言いたい。穏やかかと思えば冷酷な奴だ。そんな奴が裏表のない性格だと? ハッ、笑わせる。

「白神の主よ、どうされました? 続きをどうぞ」

安栖は面倒くさそうに私を促す。普段は言わない『白神の主』を念押しするように言うのは、年寄りたちを牽制して暴れないようにするためだ。しかし、早くしろと言わんばかりの投げやりな呼び方に苛立ちが募る。それこそ、これを利用して見せしめとして罰を受けさせてもいいのだが、いかんせん相手が悪い。
悔しいことに権力は私が上だが、霊力はこいつが上だ。過去に罰を与えたものの、不思議な力で跳ね返され、その後数え切れないほどの不幸が私を襲ったことがある。それは私が安栖に許しを乞うまで続いた。圧倒的な力の差。私は名ばかりの権力を持っているだけに過ぎない。

…………次期の、主」
……!!」

なかなか話し出さない私に痺れを切らしたのか、安栖は不意に呟く。
それは、私にとって、白神にとっての禁句。それ以上を喋らせてはいけない。

「皆の者、聴け。今日は〜」

私の弱味を簡単に晒しものにされては困る。全ての秘密を知っている安栖には余計なことを言わせてはいけない。さもないと、私が地の底に引きずり下ろされるから。
急き立てられるように話し始めた私に安栖は忌々しげに大きく舌打ちした。