窓から見えるであろう、一際大きな月を酒の水面越しに眺める。どうやら中秋の名月だったらしい。と言うのも、既に時間は二時を回っていた。
深夜を過ぎても続く酒盛りに、唯一付き合ってくれているニアのツインテールがゆらゆらと揺れる。暗い藍色の空を背景にした金髪とのコントラストが、酔いどれには若干まぶしい。
「吸血鬼って、満月の日は活発になったりとか、何か変わったりとかないの? 陰の気が云々って」
「さあ、よく知らな~い」
興味津々というように弾んだ声で尋ねる彼女に、盃の酒をたゆませながらふわふわと答える。
「え~、何か変わったりはしないの? ちょっとしたことでもいいからさ」
「そんな研究者みたいなこと言わないでよ~」
不満げに口を尖らせると、ニアはけらけらと笑った。
「気になるんだもん。仕方がないでしょ?」
こてんと首をかしげる姿は、なるほど愛らしい。これでどれだけの人間を陥れたのだろうかと頭の片隅に過って、首を振った。今は関係がない。そういう制約もあるのだし。
酔ってもまだ回る頭に何とか本題に入るように仕向ける。
ぐるぐる、思考をくゆらせて、意識していなかった過去に意識を向ける。この間の満月はいつだっただろうか。それが引き出せれば、その前は?
そういう繰り返しを何遍しただろうか。五周程度は過ぎたとき、ようやく共通項を見つけ、「ああ」を我ながら素っ頓狂な声を上げる。よくよく考えてみなければ自然すぎることで、気が付かないことだった。
「一日に吸血する量は、若干多くなった気がする」
「ええ、そうなの?」
と、ニアはもとから丸い目を更に丸くする。
「そんなに吸血してたっけ? あんまり見てないけどさ」
「別に、経口摂取に拘ってるわけじゃないよ。遠隔でも、魔法でちょっちょとやればできる。魔力は潤沢だしね。生物の機構としては結構有利でしょ」
肩を竦めて言えば、彼女は納得したように口元に人差し指を当てた。
「つまり無断拝借ってこと?」
「まあね、気が付かれない限りは生き延びやすいでしょ」
淡々と答えれば、意地悪く、にんまりと唇の端を吊り上げた彼女は問い返す。
「なるほどね。じゃあ今日は特に多く誰かの生力をかじっていた訳だ。それが誰の血かは聞いてもいい?」
「守秘義務があるから言えないで~す」
盃を呷る。満月はただ空に浮かぶだけになる。
「ふうん。じゃあ特に欲しくなる味の傾向はあるの?」
「……それ聞いて炙り出そうとしてるんでしょ~。無自覚なあれそれに頼ってさ」
ちえ、と唇を尖らせながらも、次は何を聞こうかと思案顔の彼女に苦笑する。
酔っているせいか自分の言動に自信がなかった。何が、答えにたどり着くのか。その判断もろくにできない。
だから何も言うべきではないのだろう。
空の盃に新たな酒を酌むように頼めば、ニアはただ嬉しそうににっこりと笑っていた。
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