ひさね
2023-09-27 21:24:11
3260文字
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平行線の果てに

マコシオss。しれっとソウミカが結婚している。
トリカブトの花言葉「復讐」「栄光」を元に作成。
お題は診断メーカーよりお借りしました→https://shindanmaker.com/617121

「まさか結婚式に招待頂けるとはね。流石に戻って来ざるを得ないよ、中々彼も策士だね」
「散々ミカと自分にちょっかいかけてたから来るだろって。ソウの言う通りだったな」
「あれは割と誰でもそうなる気がするんだけど」
 やんややんやと、マコトと言葉を取り交わしながら、森の中を歩く。木の葉の間から日が差し込んで、黄色がちらついていて、柔らかい風が吹けば心地よい。それに、もう低木の影に潜むものを警戒する必要もない。足取りはゆっくりと、それでも軽く、いつも釣りをしていた沢へと向かう。
「それで、何年ぶりに来たんだっけ? ここ」
「三年。相変わらず時間感覚ないんだな」
「へえ、三年ぽっちで大分大きくなるもんだね。ソウより大きくなってない?」
 マコトの顔を見上げる。一緒に旅をしていたときよりも、ずっと上を向かなければ目が合わなくなっていた。それに、以前より幾分か、顔色が良くなって、隈も薄くなっているような気もする。
「三日会わざればとも言うだろ。三年もあれば大分変わる。成長期も多分終わったし」
「え~、早いねえ」
 たかが三年、一切空気に触れたこともない外界に出てからは尚のこと、瞬きの間だった。だから、かつての仲間たちも多少の変化があっても大して変わらないだろうと思ったが、中々そういうわけでもないらしい。マコトの成長ぶりや、かねてから気を揉んでいたソウとミカの関係性の変化を見てしまえば、明らかだった。
「他のメンツはどうしてるの?」
「マリィは即位したらしい。去年の新聞で見た。レノとカキは仕事が順調にいっているそうで、中々忙しくしているみたいだ。カキの方はこの間妹にも会ったな。砂漠の方の面子は……まあ、変わりないんじゃないか」
「あのひとたちは足跡つかみにくいからね。多分変わらないと思うよ、皆ほど変わるものもないし? 特にケントとか」
「結構なこと言うな」
 苦笑するマコトにどう返したものかと考えあぐねて、結局曖昧に笑うしかなかった。
 それから、話題の転換もかねてそそくさと口を開く。
「じゃあ、明日は割と来ない感じ?」
「いや、少なくとも砂漠の方の奴らは全員意地でもドナドナしてくるって、ロイが」
「相変わらずの暴れ馬だこと」
 全員を引きずり倒してくる姿は想像に難くない。少し滑稽な想像に何処か安心感を覚えた。
 お互い、当たり障りのない近況を話している間に、段々と薄暗くなり、道の砂利も大粒になっていく。空気もいくらか湿り気を感じる。さらさらと水が流れる音もかすかに、断続的に聞こえてきた。目的地も近いのだろう。
「シオンは、変わりないな。全く」
「君たちが変わりすぎるだけだよ。変わらない、というか変わりようがないものの方がずっと多い」
「そんなもんか?」
 訝るマコトに「そんなもんだよ」と返しながら、辺りを見渡す。
 たかだか数年では、何も変わりのない自然と植生に囲まれている。自分もおそらくそちら側なのだろう。端から自明な自身の特性に、妙な焦燥感を覚えていた。原因については、いつも通り、目を瞑ろうと思った。
 ふと、視界の中に紫色の小さな花々が入る。横にいたマコトを追い抜かして小走りで駆け寄った。
「ほら、食べたら死ぬやつ」
「解像度ひっく」
「あは、復讐譚とかも知ってるよ。古今東西、自生しているものだし話題には事欠かないよ」
 葉や花に触れないように、そうっと眺めていると、一歩後ろにいたマコトがくすりと笑った。
「前もこんなやりとりしたな、そういえば」
「思い出した?」
「ああ、記憶力は良いな。オレの前で、よく復讐譚とか言えたもんだ」
 そう、何処か晴れ晴れとした面持ちで言われて、呆気にとられた。別れの間際までずっと泣いていた子供とどうにも重ならない。
 人の成長は早い。
……そう。ずいぶん変わったね。昔のことはもう割り切ったの?」
「別に。親の死は割り切る必要もないだろ」
 マコトは淡々と、極々普通に答えた。振り返って見た顔は至って平然としていて特に気を悪くした訳ではないようだ。
 そこが一番、変わったところだと思う。
 まじまじと見つめていると、段々と気恥ずかしそうに、ゆっくりと目をそらされた。
……何というか、あの後も色々考えない訳では、なかった。復讐とか。できるはずもないけどな」
「全部自分で済ませちゃったもんね」
「本当に業務として、やらせられるもんじゃないな。ただでさえ虚無感が凄い」
「処刑の仕事やめなくて良いの?」
 ついぞ言葉がこぼれる。
 マコトは人の顔がついた魔物に躊躇いを覚えるような人だ。太刀筋は鈍りはしないものの、対峙したその一瞬に表情が固くなるのはよく知っていた。初めて会ったときから、気がついていた。穏やかな人間だ。
 だから、ついに漏れてしまった。
「師匠から継いだものを辞めるわけにはいかねえよ。報いる方法がこれしかないし」
「人体構造とかの知識自体は活かせるでしょ。医者とか」
「今から目指すもんか? それ」
 苦笑しているマコトに「割と真面目だよ」と返すと、彼は柔く目を細めた。
「今は、悪くはないとも思ってる」
 諭すような声音だった。
「ある意味、これのおかげで全部過去の話で済んでいる訳だし。それに、やっぱり、正直なところ、多少は溜飲が下がった。何も分かってない状態でも。自分で全部、済ましていたこと」
 軽蔑したか、と問いかける律儀な彼に、首を横に振る。
「そういうものだよ。少しでも憑き物が落ちたならそれで良いじゃん。どのみち罪悪感と後悔は一生ついて回るものだから」
 こう答えると、マコトは少し唖然とした顔をして、それから気まずそうに眉根を下げた。
「そういうものか、本当に」
 おずおずと確かめるような問いに、どうしようもなく引き留めたくなった。仕事も責務も全部放り捨てるように、全部引き剥がしてやりたかった。何もない、まっさらな状態に戻してあげたかった。
 でも、それでは、きっと駄目なのだろう。今ある何もかもを無にしたって、彼自身が過去にやってきたことだけは消してあげられない。経験だけは、彼自身のものだ。誰にも触れられないから、わたしが何をしたって、きっと今みたいに自責を重ねるんだろう。それだけ、穏やかで、どうしようもなく優しい人だ。
 それだけは、何も変わりようがない。
 だから、拙い言葉しかあげられなかった。
「責任感が強いねえ。そういう所が、好きだよ」
 だから、と先を継ぐ。
「そうであってほしいって、わたしは信じてる」
 彼に対して、幸福も栄光も願わずに、ただ何もないようにとしか願えないわたしには、それ以上のことは言えなかった。
……ありがとう。オレも……いや、何でもない」
 言いかけた言葉を取りやめて、いじらしく俯くマコトに、ちくりと胸が痛んだ。
「ごめんね」と小さく謝れば、彼は首を振った。
 それから、「植物観賞はそれくらいにして、さっさと行くぞ」とわたしの袖を引く。
 先ほどまでの湿ったい空気は霧散して、いつも通りの淡々としたマコトがいた。
 話題転換をしてくれたのだろう。そういう優しさに、わたしはずっと寄りかかっている。
「それもそうだね」
 袖を引かれて、隣を歩く。足取りは微かに重くなっていた。本当に少しだけ。これを何とか払拭したくて、口を開く。
「今度は、あの沢に入ってかないようにしてね~?」
「もう寝られるようになったから、そんなヘマしねえって」
「本当に~?」
「本当本当」
 軽くあしらうマコトに、からから笑えば、彼は眉間にしわを寄せる。子供扱いをするなと言いたげに。そういう所は変わっていなかった。
 ここからはもう何もかもいつも通りだった。そうなるようにお互い、努めていた。
 こうやってわたしたちの関係は平行線を辿っていくのだろう。主に、彼の温情によって。
 前より高くなった横顔を見上げたとき、耳の縁が赤いことに気がついたけれど、目を瞑った。