ひさね
2023-06-19 23:01:12
1710文字
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心霊インタビュー!

心霊って何? と心霊現象に巻き込まれがちなひとに聞いてみる話。ありえないぐらい台詞しかないし、本文の内容は大体デタラメ。あくまでこの世界の中だけの話。一応シオン視点。

 古来より人は何かを認識しては、それらに名前をつけて、物という認識を産んできた。それに人間は、どうやら共通項を見つけるのが得意なようで、抽象的概念もあるとした。そうやって繁栄したものだから、世界に物と抽象的概念を根付かせるだけの力があった。
 その手であらゆるものを、明瞭な物として世界に定着させてきた。あるいは人間にとって普遍的な概念として。そうして世界を輪郭のある物として産み落としてきた。
 それでも、その手からこぼれ落ちるものがある。科学がある今でさえも、たとえ認識できずとも、縷々と流れ落ちる存在はある。
 きみたちが直観するように、人間は万能じゃない。得も言われぬ畏れや、不安、祈りの対象は何なのか。それが一体、具体的に何であるのか。明瞭な言葉では一切語られない。語ろうとすれば破綻する。
 そういう風に、認識から漏れ落ちた何かが在る。
 不明確で。不明瞭で。漠然とした、物自体になれない何かしら。抽象にもなれない何かで現代では無条件に偽とされること、存在すら認識されないことも往々にしてある存在。
 それが心霊だった。
 
「心霊という言葉は元々精神を指すものだった」
 ケントは語る。いつも通り目を細くしていた。笑っているように見せているんだろう。ランプが映した影が、古代語ばかり並べた本棚に伸びる。影と銀髪とのコントラストが眩しかった。
「精神が表に出る。その時点で物自体になれないのに、ロクな抽象にもなれなくなった。流れ落ちるはずのものが、不明瞭なまま、それでもぼやけた輪郭を持って明確に、そこに立ち現れる。世界に表出する。
 所謂幽霊だな。心霊と呼ぶこともあった。一応精神だった。それが、いつの間にか、心霊という言葉自体が幽霊を指すものに変わっていった。精神だったのが、相容れないものになった。ここまではわかるかい?」
「まあね。わかるよ、それなりに。それで? 物でも概念でもない、致命的なズレを背負ったらどうなったの」
……本当はわかってるんじゃないか?」
「生憎、正解を知る機会がどこにもないもので。答えに自信がないんだよ」
「相変わらず、きみの言葉はどこまでも本気にできないな! はは、まあどうでもいいか。
 そう、世界の法則から見て大問題だな。何かだったはずなのに、何でもなくなった時点で破綻している。でも具体的な名前はある。
 だから、そういうものとして根付かせた。破綻ありきの、有耶無耶な存在の溜まり場にしたんだぞ。きみたちが」
 ランプの炎が揺らめいて、ふつと消える。急に暗くなっても、銀色の髪はよく目立つと思った。低い室温が更に下がった気がした。
「根っから破綻しているから、物理法則とか大体の法則を無視できるって訳だな。具体的な存在になれないのを除けば、何でもありだ。おかげで理不尽とか、怪異とも呼ばれるようになった訳だな」
「なるほど。だから、お化け屋敷を本物の幽霊屋敷にすり替えるのも造作ないのか」
「そういうことだな!」
 と、ケントはけらけら笑った。
 笑い事には余りしないだろうに。そうは思っても、何も言わずポケットの中を探った。ライターを取り出し、カチリと火を灯す。辺りが、ぼうっと橙色に染まる。
 読めやしない古代語が、ケントの背後でちらちら輝き出した。
「ふうん。厄介なことばかりするね。初見殺しばっかだし、そこの本は読めないし」
「生き延びられて、対処法を語られたら堪らないんだぞ。食い出が減るから初見で殺すしかない。情報も減らす奴は減らすだろうな。そう考えると、今回のは頭が良く回るタイプなんだぞ」
「そっちの視点にも詳しいようでなにより。……それも随分古典的なお爺ちゃんから聞いたの?」
「ああ、長のことか。そうだぞ、ぼくの知識の大体は長かニアの話から来てるからな」
……ニアはともかく、あの脳味噌が焼き切れた長の話かあ」
「もー! 人の親代わりだぞ」
「思ってもいないことを」
「はは、今はな」
 さて、と軽く伸びをして「探索に戻るか」と言われた。
 これ以上言いたいこともなかったから、「取り敢えずランプ点ける所から始める?」と提案しておいた。