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ひさね
2022-08-04 23:37:13
1977文字
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マコト誕生日SS
「相棒、誕生日おめでと〜」
部屋に入るなり、マコトの隣に座り込んだ。尻から落ちるように着地したものだからベッドのスプリングが派手に軋んで、一瞬彼の眉がキュッと眉間に集まった。
「もっと静かに座れって。下に響く」
「ごめんごめん。相棒を祝うのが楽しくってさ」
「あー、はいはい、朝から晩まで態々どうも。馬齢を重ねるばっかだかどうぞよろしく」
「馬齢なんて若人が謙遜する必要ありませ〜ん」
素っ気ない素振りにケラケラ笑いながら、目の前の黒髪をわっしわっしと撫でる。意外とごわついた髪が指に引っかかっては抜けていく、こそばゆさが心地良い。ちらりと視線をマコトの方に集めれば、この行為を目を瞑って享受していた。まるで子供が親からの愛撫を素直に、いとけなく受け止めているようだった。
ふふ、とつい笑うと、ぱちりと瞼が開いて、「何だよ」と低い声が漏れて、怪訝そうにジロジロと眺めてくる。
「やっぱり思った以上に若いな〜と思って」
「若いって、吸血鬼からしてみりゃどんな奴もそう見えるだろ」
「いいや、そういう若いじゃなくてね。ほら、人間って姿形がすぐ変わるでしょ? その段階的な意味の方だよ」
「ふーん。で、それがどうした」
「正に年を重ねている感じで良いな〜って。あんまり変わらないと単に時間が流れていくだけで、重ねてる感じはないからさ。人間ってやっぱり特別だなって、それだけ」
「
……
たかだか一年じゃさして変わんねえけどな」
指が彼のもみあげまでたどり着いた所で、もういいだろうと言いたげに手の甲でわたしの手を軽く叩く。
「いや〜、結構変わるもんだよ。ほら」
丁度良く叩いてきた手に、すかさず自分の手のひらを合わせる。
「ほら、手、おっきくなったんじゃない?」
と言えば、彼のひんやりとした手がもぞもぞと動いて、慎重に正確に始点をぴたり、と重ねた。それから、暫く穴が空くほどに見つめていたが、到頭首を横に振った。
「わっかんねえ。あんま変わんないだろ」
「そんなことないよ〜。第三関節、ここまで高くなかったって」
「わからんわからん。そこまで覚えてない」
「前はここらへんだったよ」
ああだこうだと言い合いながら、彼の、下手をしたらわたしよりも細いかもしれない指を挟んだり絡めたり、もみくちゃにする。その時、ちらりと袖口から覗いた腕が、普段剣を振るっているとは思えないほどに細くて、いやに目についた。
無言のじゃれ合いの最中、ふと彼の手のひらに硬いしこりを見つけた。どきりと胸が跳ねて、冷える。先程までのいとけない顔が過る。
そして、それに全く馴染まないしこりを誤魔化すように、柔く揉みこみながら口を切る。
「あは、タコかな。
……
まあ、毎日鍛錬してるもんね。ひとつやふたつある方が自然か」
「ん、腕を鈍らせるわけにはいかないからな。旅が終わっても使うもんだし」
「傭兵みたいなことしてるんだもんね。それは、そうか」
「
……
人を殺す生業ってどう思う」
鋭い声だった。そしてわたしの図星を容易く突いた。意識的なのか、はたまた無意識の結果なのかはわからないが。
揉む手を止めて、訥々と呟く。
「さあ、どう思うのが良いんだろう。必要な状況があるのは確かで、でも当事者でもそこに易々と介入できるものでもなくて。
……
その中で、その仕事をしなきゃいけないのは不条理だな、とは思うよ」
「そうか」
彼は目を伏せてそうこぼした。
悲痛な顔だった。こちらの胸にまで痛みが伝わるほどに、悲しい表情をしていた。
「
……
どうしてそれになったの」
顔を覗き込みながら尋ねる。
「金が必要だったから。家族を養うのには、こうするしかなかった」
そう言いつつも、彼の表情は暗くなるばかりだった。
それもそうだろう。いとけなく愛情を受け止める彼に向いているはずがないのだ。
でも、大事なものを懸命に背負って足掻いているのが彼なのだ。
「嫌ならもう、どこへでも行ってしまえよ」
とは、言えるわけがなかったから。
曖昧に唇を均して、「身体には気を付けなよ」と口走り、しゅるりと手を離した。
「ただでさえ、もやしみたいなんだからさ。旅についていけるかも心配になるぐらい!」
「そんなヘマしないが?」
「嘘だ〜。無茶してソウに怒られてたの知ってるぞ〜」
「
……
寝るか」
「あはは、逸らし方が雑〜」
思わず弾けるように笑うと、マコトはムッと口を結んで、さっきわたしの手を退かしたようにぺちぺちと額を叩いてきた。
うへえと情けない声を上げると、フッと彼の口角が上がった。
「じゃあ電気消すぞ」
「はいは〜い。おやすみ、いい夜を」
「そっちこそ」
そのままリモコンのスイッチを押す。ぱちり、と灯りが消えた瞬間のマコトの表情は、何故かいつもより幾分か柔らかかった。
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