倉木
2023-12-28 21:38:00
9138文字
Public Rot
 

In the arms of Morpheus【前】

RotLD
後半は年齢制限含むので鍵つきです

テーブルの横をすり抜けようとして、指先に走る強い衝撃。
その後断続的に来る痛みで蹲った、反射で出てきた涙で視界がぼやける。

「うわぁ……ドナちゃん大丈夫?痛い?」

覗き込んできたミケランジェロに返す言葉が出てこず、代わりに頷くが何も大丈夫じゃないことは明らかだった。
優しく背を撫でてくれる弟にようやく痛みがおさまってきて、ふらつきながら立ち上がる。
甲斐甲斐しく支えてくれたミケランジェロの後ろで、ラファエロも眉を下げてこちらを見ていた。

「目の下の隈すごいぞ、また寝てないのか?」

純度100%の心配という眼に、醜態を晒してしまった気まずさで、まっすぐ見れなかった。

「寝てないというか……最近良く寝れないんだ」

合わせるように出てきた欠伸に、溜まっていた涙が一筋落ちた。
寝ようとして眼を瞑ると言いようのない焦燥感に襲われる。
寝なければいけないと思えば思うほど、その焦りで心拍数が上がって身体は意識せず活発状態。

「一時的な症状だよ、そんな大げさなことじゃない」

それならいっそ起きてればいいと作業をしているが、最初こそ捗ったものの睡眠もないと集中力だって切れるもの。
そしてまた苛立ちがが酷くなるの悪循環。
作業がうまくいかないとこうなるのはいつものことだった。

「本当に大丈夫か?ふらふらだし、そんなんだとどこかで大きな怪我とかするぞ」

まともになった足を軽く動かし、問題なことを確認して部屋を出ようとしたところで、ラファエロに止められた。
納得しないことはわかっていたからさっさと言い逃げしようとしたのに、その後ろで同じような顔をしているミケランジェロも居る。

「ラボにいるだけじゃなくて、身体動かせば寝れるようになるんじゃない?遊びに行こうよ」

「今の状態で行ったらそれこそ怪我すると思うんだけど?」

見回り任務であればその間ちゃんとする、だがそれ以外で外に行ったところで気晴らしになるとは思えない。
どうせ自己嫌悪に陥るだけだ、一定の期間を過ぎれば大体収まるのでそれまで耐えるのが一番効率が良い。
未だ食い下がる兄弟たちに足をぶつけたくらいで大げさな、と溜息をひとつ。

「なになに、何の話?」

そんな中、部屋を出ようとしたドナテロの前にぬっと顔を出す。
ひとり外出していたらしいレオナルドは首にマフラーを巻いたまま、のんきな声。

「ドニーが最近寝れないんだって」

「マイキー!」

慌てて手を振りながら、静止の言葉をかけようとするも既に遅し。
レオナルドは目をぱちくりとさせた後、後ずさったドナテロの両頬をわし掴んだ。
外気に晒されていたらしい指は飛び上がりそうなくらい冷たくて、出そうになった悲鳴を必死で飲み込む。

「ほんとだ、隈やっばいじゃん」

目元の隈があるであろう場所を痛いくらい強く擦られ。
無遠慮なそれに乱暴に引き離すも、レオナルドは気にした様子もなく今度は考える素振りを見せる。
嫌な予感がしてその横を早々に抜けようとしたのだが、それよりも先、思いついたようにピンと指を立てた。

「良いことを考えた!」

「いい、いらない、めいわく」

「まーまー、また夜にな!」

「あっおいレオ!」

たくさんの否定の言葉を一切無視したレオナルドは満足そうに肩を2度叩くと、そのままさっさといなくなってしまった。
残ったのはなんとも言えない雰囲気の3人。

「ま、まあ……レオもドニーが心配なんだよ」

……ほんとにそう思ってる?」

「あー、えっと多分?」

じとりと見ると嘘のつけない長兄は気まずそうに目を逸らす。
いっそどこかで頭でもぶつけて気絶してしまおうか、その方がずっと楽なんじゃとすら思う。
よりによって一番面倒なやつが乗ってきてしまって、最悪の展開にがっくりと肩を落とすしかなかった。


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そうして夜、ドナテロは早々に作業を切り上げ自室に戻ってきていた。
寝不足ももちろんあったがそれ以上に集中できなかったのだ、乱されて本当に苛々するとベッドの上で再び溜息。
最初は頑丈な鍵でもかけてやろうかと思ったけれど相手はレオナルドだ、ポータルをあけられればその労力も無となる。
これ以上苛立ちを増やされてはたまらない、どのみち作業はさして捗らなかったしだったら真正面から迎え撃って追い返してやろうと考えた。
こみ上げてきた欠伸をまたひとつ、微睡む感覚はあるのに眠れないのは本当に不快指数が上がる。
そんな状態で溌剌とした声とともに部屋をノックされ、このまま本気で居留守をしてしまおうかと思った。
心から不本意のまま扉を開けると、現れたレオナルドが持っていたのは刀ではなく枕とお気に入りらしいブランケット。

……枕投げパーティでもするつもりだったわけ?」

あまりにも意気込んでいた為に、間の抜けた光景にそんな言葉が出てしまった。
レオナルドは自信がある様子で胸を張っている、ひとつの枕を大事そうに抱えたまま。

「それじゃ枕足んないだろ、添い寝してやろーかと思って」

………ハァ?」

渾身の声だったのだがレオナルドは自信満々な様子を崩さなかった。
いや絶対こいつはわかっている、わかっててスルーしているから性質が悪い。

……気が済んだなら帰ってくれ、じゃあおやすみ」

「いいじゃん一日くらい。ダメだったらもう来ないし」

「いやっいらないって!レオ!」

レオナルドは強引にドナテロの手を取ると自室に入ってきた。
強く引かれるがままベッドへ逆戻りすると、ドナテロのベッドの上に枕を放り投げる。
次いでブランケットも丸めてぽい、全く話を聞かない様子にドナテロは早々に抵抗を諦めた。

「はぁ、今日だけだからな」

いつものドナテロだったらそれこそ甲羅でも首根っこでもひっつかんで放り出していただろう、そもそも部屋にすら入れなかったし昼間の時点で後ろを追っかけて大喧嘩でもしていたはずだ。
しかし正直疲れの蓄積は自覚している以上で、レオナルドの相手をするのも大分億劫になほど。
言い合いになる労力を考えたら、一日くらい相手してやれば満足するだろうというように考えがシフトしていた。
うまくいかなければ今後一切の接触を断る良い口実になる。
自分の部屋にひとり残していくのは凄く嫌だけど、レオナルドが寝た後でベッドから起きてラボにでも戻ればいい。
引かれた手に導かれるままベッドに入ると、同じようにレオナルドも潜りこんでくる。

「狭っ」

勝手に入ってきてそれ言うのかとイラっとしたけど、実際本当に狭かった。
壁に追い込まれているドナテロに遠慮なく寄って来て圧迫感に息が詰まる。

「ちょっと、近いんだけど!」

「押すなって落ちる!」

文句を言おうにも元々のスペースを考えればそうなるのは必然、つまりどうやってもくっつかないといけない。
やっぱり追い出そうかと思ったがその前に定位置を探しているらしいレオナルドが覆いかぶさってきて、一瞬言葉が出せなかった。
4本の足がそれぞれ居場所を模索、やがてお互い絡まるような形落ち着く。
腕を上げればすぐ背後に壁、お互いの枕分しかあいていない距離感に気がつけば完全に絡め取られてしまって。
身じろきすら躊躇われる距離は、逃げ出す方が厄介になってしまった。
呼吸できる場所を探して顔を上げると、思った以上に間近にあったレオナルドの顔。
ぱちりと目が合いそして、今まで見たことないような穏やかさで微笑む。

「おやすみ、ドナテロ」

途端湧き上がった気恥ずかしさ。
だってソファでゲームをしていていつの間にか皆で寝落ちしていたことは何度もあるが、こんなにくっついて寝るのは小さい時以来かもしれないのだ。
元よりスキンシップを好まないドナテロにとってはどこもかしも生物の温かさを感じるというこの環境は、火傷でもするんじゃないかと思うくらい。
整った体勢のせいで少しだけ上にあるレオナルドは、いつものムカつくお調子者ではなくすごく成長した大人に見えて。

「っおやすみ」

慌てて目を瞑った。
見えなくなればちょっと狭いだけで変わらないはず。
そう思っていたのに、視覚が消え去ったことで息遣いや微かに聞こえる鼓動がより鮮明に鼓膜を揺さぶる。
それでも目を開ける勇気はなくて、余計に瞼に力を込めた。



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けたたましいアラーム音、定位置に腕を伸ばすもいつものところには見当たらず。
頭上を探ってベッドの端に固い感触を見つけた。
そう言えば置く場所がなさ過ぎて端っこに追いやったことを思い出す。
手製の目覚まし時計はボタンひとつですぐに止み、最近では鳴る前に消してしまったその音を、久しぶりに聞いた。

「信じられない……

狭いスペースを身を起こしたまま、電子時計を握り締める。
念のため確認しても、時間は元々設定したものから極端に早くなってもいない。
時刻はれっきとした朝だ。

「うーん、もう朝ぁ?」

もぞもぞと動く隣の影。
頼むからそのまま起きないで欲しいと願ったが叶わず。
左腕はベッドから投げ出されていて、眼を擦りながらもレオナルドはうっすらと目を開ける。
寝ぼけ眼と視線がかち合う。
見上げた体勢のまま動かなかったレオナルドがおもむろに手を伸ばす。
緩慢な動作で頬に触れ、何度か指を往復させるそれは何かを確かめているようにも感じた。

「ん、良く寝れたな」

そしてかけられた言葉、ドナテロは何も言える言葉が見つからなかった。
言い訳のしようもないくらい、跡も残らなくすっかりと消えてしまった隈。
まだ後頭部がじんわりと重たいがそれもすぐに消えるだろう、まさしく眠れた朝だった。
何も言えないドナテロをからかう様子もなく、心底嬉しそうに笑ったレオナルドは機敏な動作でベッドから飛び降りる。
そして。

「またいつでもご利用ください」

そう会釈しさっさと部屋を出てしまった。
お役目は終わったと言わんばかりのあっさりさに、未だベッドで呆然とするドナテロの方が滑稽なくらい。
ただ、足元で丸まった毛布はそのままでその日10分も経たないうちに戻ってきたのだけれど。
そんなことがあったのが10日ほど前のこと。
その日ドナテロはいつものようにラボにいた。
数時間かけて組み上げていた手元の機器が本日何度目ともしれないエラー音を発し、大きく溜息を吐く。
直前に取り付けた部品を3個取り除き、機器の電源を落とした。
どうやっても途中で動作が止まってしまい完全に煮詰まった、これは一から考え直した方が早いかもしれない。
しかし取り掛かるにはいささか疲労感の方が大きかった、時計を見ると大分夜も遅くなっている。
大きく身体を伸ばすとあちこちから軋む音がする、併せて目の奥に感じる痛みも重たく不快だった。
眼を閉じたままドナテロは少し悩み、緩慢な動作で携帯電話を取り出す。
履歴の一番に電話をかけ数コール。
相手が出た瞬間に通話を切った。
そして真っ暗な画面を数秒眺め、そして重たい息を吐いてゆっくりと自室へ足を向けた。

「こんばんわ」

そうして部屋の前で、電話の主と笑顔で鉢合わせをした。
手に持っているのは枕だけ、ドナテロはそんな様子を一瞥すると、無言で自室の扉を開ける。
迎える言葉もなくレオナルドも一緒に自室に入ってきた。
たまたま眠気が蓄積され過ぎてよく寝れただけ。
そう思い込もうとして、我慢できたのは最初の日だけだった。
もしかしたら不眠が解消されたのだと同じようにベッドに入ったところで症状が逆戻り。
イライラが募ったたところでまるでわかっていたかのようにレオナルドが部屋に来て問答無用で引きずりこんだのが2回目。
その次の日が3回目。
それなりに遅い時間だったが3コールでレオナルドは応対した。
5回目では電話をかけてすぐやっぱりやめようと電話を切ったものの、きっちりとレオナルドは現れた。
寝る時間になって携帯コールで顔を出すようになってから6回目。
回数で見てもこの半月でレオナルドと過ごす夜の方が圧倒的比率を占めていた。
依存し始めているのはわかっているけれど、寝れないと作業も滞るし、戦闘でも注意力散漫になるから迷惑をかけかねない。
だから必要措置だなんて自分に言い訳し続けている。
昨日たまたまドナテロが部屋に戻ってきたときに、彼が直前まで読んでいたらしいコミック本が床に落ちてた。
急な呼び出しにたまたま手に取ってきてしまったのだろうということはわかるが何故忘れていくんだと思ったし、私室の侵食され具合にちょっとげんなりした。
ドナテロが先にベッドに寝転んで、その後でレオナルドが入ってくるのもいつものこと。
最初の頃よりお互い空間の確保が上手になって少しだけ空いたスペース。
ドナテロが壁にくっついてしまうのは代わりはないのだけれど、呼吸がしづらかった時よりはすこしだけ身体を動かせるようなスペースができた。

「狭くない?」

そんな労わる言葉に、小さく頷く。
ドナテロからの夜の呼び出しはそれなりに早い時間の時もあるが今日みたいに更けた夜の日だってある。
それなのにレオナルドはその間の一度も断らなかった。
何よりそんな自分にレオナルドは揶揄うまででもなく、ただ優しいばかりなのもずるい。
いつものうるさいジョークも少な目で、誰だよお前って突っ込みたくなるくらい。
朝起きてからドナテロの様子を確認して満足そうに笑うまで一貫して優しい。
第一普段のあの性格さえなければレオナルドは意外と気が利くし頭が良いからそう付き合いにくいわけでもないのだ、褒めるわけじゃ決してないけれど。
そんな様子照れくささは勿論あるけれど、そんな心地よさを知ってしまったら、手放すには惜しい。

……おやすみ、レオ」

レオナルドの枕と少しずらしたせいで下に落ちる。
微かに聞こえる鼓動音に、酷く安心する。
そうしてそう時間もかからないうち、穏やかに瞼が落ちていった。


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置いておいたコーヒーのストックが切れていたのでキッチンに向かうと、外からでも漂う果物の香り。
夕飯はとっくに終えているはずだと興味を持って覗き込めば、予想通りミケランジェロがオーブンに張り付いているところだった。
大きな布製の手袋でホール状の何かを危なっかしく運んでいるところでドナテロの存在に気付いたらしく、驚きで焼き立てのパイを取り落とす。
が、直前驚くような反射神経でキャッチしていた、思わず拍手。

「ちょうど焼けたとこ、ドニーが一番乗りだね」

褒められたのが嬉しかったのかはたまた完成したのが満足なのか、ミケランジェロは嬉しそうに手招きをしてくる。
誘われるがままにテーブルをにつくと、手際よく切り分けられたのはレモンパイのようだった。
焼き立てではみ出るクリームに漂うレモンの香りはより強くなる。
食欲を強く刺激される感覚に、フォークを差し込むとさくりと軽快な音。
口に運ぶと甘すぎないクリームとレモンの爽快さがとても口当たりがよかった。

「どぉ?」

「マイキーの作るもので今まで最高じゃないことあった?」

賞賛の言葉に心底嬉しそうに笑う、素直な様子にこちらも頬が緩んだ。
最初の一口を見届けたあと同じように席に座り、早いスピードで食べ進める。
どうやら良い出来映えだったらしく、大きな塊を口に含み、涙が出るほど咽ていた。
周辺にセロトニンが直接放出してそうなくらい微笑ましい光景である。

「他の皆は呼ばなくていいの?」

そう問うと、ミケランジェロはちょうど口に入れようとした最後の一口をフォークごと取り落とした。
何やら焦った様子に、そういえばもう夜も遅いことを思い出す。
もっとも、こんなに良い匂いを漂わせておいてこっそりの意味が全くないのだが。

「ま、ま、まだ試作品だからっ!ちゃんと完成してからみんなに分けたいと思ってたしー?」

可哀そうなくらい狼狽えた様子だが、夜通し作業が日常茶飯事のドナテロは彼を言及する立場にないし、今夜はおいしいケーキを食べたという恩恵を受けた身だ。
どうせ自分がなにも言わなくともすぐにばれるだろうし、秘密にしておくくらい構わない。

「そそそそれより、ドニーちゃんと眠れるようになったの?最近顔色良さそう」

しかしなんとか話題を逸らそうとしたミケランジェロのが振った話題は自分こと。
今度はドナテロの方が言葉を詰まらせる。

……まあ、それなりに」

あまり触れたくない話題だったから最後の一口を大きめに頬張り、さっさと逃げようとする。
が、一瞬での出来事で皿が取り替えられ目の前にもう一切れ出現した。
にっこりと微笑んだミケランジェロ、夜のティータイムはまだまだ終わらせる気はないらしい。

「実はね、今朝見たレオがちょっと調子悪そうだったんだよ」

……え」

「ドニーと一緒に寝てるなら夜更かししてるわけじゃないだろうけど、なんかふらふらしてたからもしかして寝不足?なのかなって。もしくはドニー……レオの生気とか吸ってたりする?」

「はぁっ言いがかりもいいところなんだけど!?」

疑いの目に全力で首を振る。
そんな利のないことする気もないし、レオナルドの気を吸ったりなんかしたら馬鹿が移るから選択肢としてなら一番最後だ。。
ここまで言わないとわかってもらえなかった、(何故か、本当に何故か)ドナテロは一部の事柄に置いて兄弟から信用がなさすぎる時がある。
ミケランジェロは半信半疑ながらも一応信じてくれたらしいが、とにかくそういうことだから様子見てあげてと釘を刺された。
不本意極まりなく、言い返そうとしたところで焦げ臭い匂いが漂い始めた。
ミケランジェロがわー!!?という声とともにマシンに飛びつくが黒煙を上げるオーブンを見て真っ青な様子。
まだ言い足りなことはあるが、ああなるときっと呼び掛けても怒られるだけだ。
料理を邪魔されるといつもの天真爛漫さが消え凶悪になるのだ、うちの末弟は。
見たところオーブン自体は壊れてなさそうだし出番はないだろう、ドナテロは手つかずのケーキと目的だったコーヒーのストックを持って速足でキッチンを出た。
考えるのは先ほどの会話のこと。
昨晩もドナテロの部屋で寝ていたレオナルドが朝どんな様子だったか。

………見てろって言われても」

そう問われると、不本意ながらわからないとしか言えなかった。
レオナルドは朝起きるとドナテロの様子を確認したら早々に部屋から出て行ってしまう。
熟睡というものにあまり慣れていないものだから、最近のドナテロは朝起きると少しぼんやりしがちだった。
寝起きでまだ頭働かないまま気が付くともういない、だから次顔を合わせるのは朝食の時でその時はいつもの通り。
不調だったなんて気付く余地もない。
なんたってあいつは他人の領域にずけずけと踏み込んでくるくせ、自分の弱みを見せるのを極端に嫌うから。

なんだかムカついてきた。

そう口に出したら、一層膨れ上がる苛立ちの感情。
ラボに持っていた食べ物をひとまず置き方向転換、向かった先は自室だった。
扉をを開いてすぐ上を見上げる。
頭上へ手をかざすとレーザーが読み込み、目的だったものはそのまま落下して掌に収まった。
半球体上のそれを握り締めてもう一度ラボに向かう。
ケーキの横には淹れたてのコーヒーで準備万全、椅子に腰かけると機械をスキャン装置の上に乗せた。
起動音とともにスクリーンに定期的にバックアップされたカメラの映像履歴が表示される。
選択したのは昨晩時刻。
そうしてスクリーンに映し出されたのは、暗闇でもくっきりと物が見えるように調整された映像だった。
防犯(対レオナルド用)に以前取り付けたものだったがまさかこんなところで役に立つと思わなかった。
我ながら性能の良いカメラだ、しかしそれゆえに改めてレオナルドと並んで寝ているのを見るのは少し、いやかなり恥ずかしい。
なんで自分がこんな気分にならなきゃいけないのか、いたたまれなさを払拭してくてコーヒーを啜る。
先ほどまで甘いものを食べていたおかげで即席でいれたコーヒーがいっとう苦く感じた。
しっかりと眠る様子のドナテロは見ないようにして、同じように目を瞑るレオナルドは昨晩の記憶と一致している。
その寝顔は穏やかそうに見えるのだが、調子が悪そうにしているのに気付けなかったのはドナテロの落ち度だ。
こんなことをいつまでも続くわけにもいかないのはわかってたのだし、レオナルドに支障が出ているのなら、早々に手を引くべき。
要因さえわかれば代替えの手段なんて容易に模索できるだろう。
そう考えながら動きのない画面を眺めていて、その後流れた映像にドナテロは飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。

「なっなん……!?」

動いたのは寝ているであろう自分の方だった。
既にほとんどない隙間を埋めるようにレオナルドにすり寄っていく。
密着度でいえば初日のそれすら超えて、くっついていないところを探す方が難しいくらい。
首元に顔を埋めたことで表情が見えなくなるが宙をさ迷っていた手がレオナルドの手に触れ、指の隙間に差し込んで握り締める。
見るからに甘えたような仕草は明確な意思を持っているようにすら見える。
しかしドナテロには昨晩の記憶は皆無だった。気が付いたら朝だったのだ。
あまりにも衝撃手きな光景に、思わず電源を落とるためにリモコンを手に取る。
そして、そこで気付いた。

………えっ?」

鼻先を頬に擦り付けたドナテロに、レオナルドの目はがうっすらと開いた。
ずり落ちそうになる身体を支えるように背に手を回すと、一層大胆になった自分が首に手を回し抱き着く。
まるで恋人同士かのような逢瀬に、もはや言葉も出ない。
顔の角度が変わり再び見えた自分がどんな表情か読み取る前に、身を乗り出してレオナルドの上に乗った自分自身が顔を寄せて。
レオナルドの頬に唇を寄せたその時、耐えきれずにカメラを叩きつけた。
ぶつりと切れた後真っ暗になったスクリーン。
まだ半分も減っていない湯気のでたコーヒーと、手つかずのレモンパイ。
そうしてドナテロはラボを飛び出した。







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