ふたりで使うには幾分狭いベッドに横たわる。彼女は隣に寝転んで、当然のように壁際ではなく俺の方へと身体を寄せた。近くなった分、彼女の短くなった髪からほのかに石鹸の香りがして、すこし、くらくらする。
こうして寝るのは暫くぶりだった。月に一、二度帰るその時だけ、俺達はこうして同じベッドで眠りにつく。それはつまり、そういう事ができる数少ない機会ということで。
「ゼルダ」
だからつい、抱き締めながら呼んだその声に熱が籠ってしまったのは仕方ないことだと目を瞑る。がっついていると思われようと、目の前にご馳走があって待てができるほど、俺はもう利口ではなくなってしまった。
彼女は抵抗することもなく視線を合わせてくれる。深い森のような翠は、普段であれば俺を落ち着けるけれど、今だけは興奮させるばかりだった。
「なんですか」
多分、ゼルダは俺が焦れている事を理解していて、なのにあえてとぼけたようにそう言っている。俺の必死さを楽しむみたいに薄く笑みの形になるその唇が、妙に赤くておいしそうに見えた。
「したい、んだけど」
「何をですか」
今日はこういう感じか。口を尖らせて見せると、彼女は堪えきれないというように笑った。いつもなら素直に差し出されるそれがなかなか貰えなくて、余計に焦れてしまう。
「言っていいの?」
唇が触れるかどうかのぎりぎりまで近づいて、挑発し返す。そうして彼女の唇の横に音を立てて口付けた。少し前までの彼女なら顔を赤くして慌てていたところだろうけれど、どうもすっかり慣れてしまったらしい。落ち着いた、それでいてどこか楽しそうな瞳が俺を見ていた。
「どうぞ」
言えるものなら、とその翠が言っている。それならお望み通りに、と口を開いて、ついでに指先でなぞっていく。
「まず、ここを食べる」
顔にかかっていた髪を耳にかけて、そのまま耳の輪郭を辿った。擽ったそうに瞳が揺れたけれど、まだ、視線は逸らされない。
「それから、ここにキスする」
耳の後ろを撫でると、微かに肩が揺れた。反応がもっと見たくて、つ、と指先を下ろしていく。
「ここも、ここも、舐めたい」
首筋を通り、鎖骨を掠め、ワンピースの首元まで来ると、今度はその上から輪郭をなぞった。下に何も着ていない、薄手の布一枚で隔てられた無防備な肌を、指先に感じる。
「ここは、舌で押されるの、好きだよね」
柔い乳房の形に沿うように指を動かす。あえて彼女の好きな中心の粒には触らない。中央を避けて周辺だけをくるくる可愛がっていると、ん、と鼻にかかった様な息を漏らして、ゼルダが身を捩った。困ったように眉を下げ、それでいて拗ねたように俺を睨めつける。その顔が無闇に可愛くて、自分の吐いた息が熱くなっているのを感じた。
俺だけ焦れているのは面白くない。どうせならゼルダにだって求めて欲しい。
「したい」ことを言いながら指を下へ下へと進めていく。腰を擽り、腹を撫で、脚にかかるかというところでゼルダが声を上げた。
「あ、の」
「ん?」
覗き込むと、ゼルダは熱っぽい、物欲しげな目をしていた。俺の胸元を緩く握っていた指をほどいて、自分の唇に触れる。その動きが色っぽくて、俺の方が動揺した。
「ここは、してくれないんですか」
思わず嚙みつきそうになる。けれどまだ彼女は「いい」と言っていないから、どうにか堪えた。
「して欲しいの?」
その指に口付けて、拗ねたままの彼女が許しをくれる時を待つ。多分二人とも、限界が近い。だからすぐに応えてくれると思ったのに、口を開いたゼルダは違うことを言った。
「一つだけ、約束してください」
首を傾げると、彼女は恥じらうようにふ、と一度視線を外してから、もう一度俺の目を見た。
「明日は、ちゃんとお見送りしたいです……」
確かに明日も早朝に出発する予定だ。寝ている彼女を置いて出ていくこともよく、ある。でも、だからと言って、こんな風に「お願い」されるとは思わなかった。
「……努力します。だから……」
正直自信はないけれど、そこはなんとかすることにして、彼女にせがむ。必死すぎる、と自分でも思うけれど、焦らされすぎて手加減ができなくなりそうだった。
「ね、言って」
「……キスして下さ」
だから、ゼルダのお許しを最後まで聞けなかったのは、愛嬌ということにして欲しい。
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