納豆
2021-02-02 00:06:05
3516文字
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幸いは器と成される

美味しいもの食べてはぴはぴしてるキダです!月白さんハッピーバースデーでした!

休日の朝、寝室はしあわせの匂いで包まれる。
こぷりと気泡を浮かばせるように、意識が揺蕩い目覚めへ向かう。
すっかり寝坊癖をつけられたこの体は、休日になるととろとろ鈍く起動する。
素肌をシーツが包んで、ほっとする暖かさに覆われていた。
ぱし、ぱし、瞬きに揺れる睫毛が視界を遮った。
茫洋として薄く開いた視界の中で、薄く開かれたカーテンが日を招き入れていた。
きらきらカーテンを抜けて入り込む日光が柔く網膜を刺激した。
くんっと鼻を揺らす。
そうすると、ふわふわ香ばしさにも胃袋を刺激する美味しそうな匂いが漂う。
これを俺は知っている、これが俺のしあわせの匂い。
もそもそ起き上がると同時に、こんこんノックがリズミカルに耳に入った。
ぱたり、ぱたり、瞬きしながら緩慢に見つめた先で俺のしあわせはそこにいる。
「ハァイ、お寝坊さん。目は覚めたかな?」
俺を、こんな体にしたのはキミだろうにおかしな事をいう男だ。
怠惰な寝床を準備して寝汚い俺を少しずつ、少しずつ作り上げたのはキミだ。
緩い寝巻きから着替えないまま登場したその姿に目を細める。
ふはりと笑った俺はゆるゆる首を横に振った。
プレートにカトラリーとほこほこした湯気を伸ばす美味しいをいっぱいにした匂いをふわふわ乗せて、彼はこちらにやってくる。
だから俺はくいっと顎を持ち上げて唇を尖らせた。
「キバナ」
俺を目覚めさせるというのなら、キミの躾けた通りにして貰わなければ困る。
んっと顎をもう一度揺らして乞えば、キバナはにまりと嬉しそうに眦を下げていく。
ゆったり瞼を伏せれば、キバナの気配は近付いてうちゅりと柔く唇同士が吸い付いた。
ちゅむちゅむ、甘えつきに唇を吸って、むにゅむにゅ、甘えつきに唇を甘噛みする。
俺のとろとろ甘ったれなキスにキバナは応えてくれる。
ことりとプレートをベッドサイドのチェストに置いて、上から被さるよう両手で頬を包んでくれる。
じゃれ合うようなキスを繰り返して、うっとりその手が伝う温度に蕩けてしまう。
じゅわりと溶け出した脳の芯、それに瞼を震わせればキバナは最後にちゅむっと音を立てて俺から離れた。
ゆったり瞼を持ち上げた先、キバナは俺の前髪をかきあげるよう撫でては頰に一つ口付けた。
「おはよ、ダンデ」
「ん、おはよう、キバナ」
優しい手管に俺は弱くてふわふわした心地に頷いて返事をする。
キバナはベッドに腰掛けるとプレートを膝に置いてじゃじゃーんと声を立てた。
覗き込めばある、俺のしあわせは美味しい姿をしていた。
「本日のメニューは、もも肉とポテトのカルボナーラ風に、自家製ノメルのみドレッシングのサラダ、デザートはこの前ご好評のヨーグルアイスでぇす」
「毎度、キミの手は魔法で出来てるんじゃないかと思うぜ」
くすくす笑った俺に、キバナはにんまりしてフォークを俺に差し出した。
だから俺は緩む頬をそのままに、唾液腺を刺激されて口に溜まった涎を飲み干した。
キバナの膝をテーブルにする贅沢をしながら俺はカルボナーラ風にフォークを伸ばす。
ほくりとポテトに刺さったフォークはとろぉとしたソースを絡めて持ち上がる。
口に招き入れれば、卵は半熟、チーズの風味がふわっと広がる。
ほこ、ほこ、ポテトは形を崩して舌の上、ピリッとした黒胡椒と隠し味だろうニンニクの香りを立てて食欲を膨らませる。
続け様、肉もポテトと共に口に運べばクリーミーなソースが絡まってこってりした味わいにも柔らかく咀嚼されていく。
お次にサラダへ手を伸ばした。
しゃくしゃくと瑞々しい葉物に、さっぱりとしたノメルの酸味とオイルが俺の舌の好みに合っていて、止まらなくなる。
ぱくぱく、もぐもぐ、ごっくん、ぺろり。
次から次に口へ消えては喉を通って消えていく。
そんな俺の食事風景を、キバナは嬉しそうに眺めていた。
俺が食事を楽しむと、キミは喜ぶ。
味わって、あれがおいしかったこれがおいしかった、また食べれたら嬉しいと、口にする度顔を輝かせる。
最初は何がいいのかと思ったものだが、確かに、こうやってキバナが用意してくれたものを俺がおいしく食べて腹に収められるのは堪らなくいいものだと思うようになった。
彼が作った愛情が、俺のしあわせを作る材料になる。
それは、とても素敵な永久機関ではないだろうか。
ふふっとつい笑ってしまう俺に、おいしいか、なんてキバナは尋ねる。
だから俺は大いに頷いて、つと、思いつく。
おいしい、とてもおいしい、キミが与えるものはなんだって。
しかして、まずは目の前の食事を楽しもう。
それが俺ができるキバナの愛情を丸ごとおいしく消化する手段だった。
相変わらず早食いはどうともできず、残念ながらもう最後の品だ。
残されたヨーグルアイスを手に取った。
用意してくれた小さなスプーンを握って、俺はひやりとした爽やかな口当たりのアイスを口に運ぶ。
ミルクを発酵させた酸味がしゅわりと広がり、相好を崩した。
かりゅっと中には砕いたナッツが混ざっていて、口の中が楽しくなる。
香ばしさと爽やかさにできあがるこのアイスは特にお気に入りだった。
ぺろりとこちらも平らげて、俺はことりと容器をプレートに置く。
キバナは空っぽになった膝上を覗き込み、うふふと上機嫌に笑みを転がす。
そんな姿に、あぁ好きだなと思うことは当たり前だったろう。
ぎしりとベッドを軋ませる。
わざと立てる音にキバナはちらりと目をくれて、それからプレートをサイドチェストに静かに置いた。
膝の上、乗り上げて首裏に手を回す。
キバナはされるがままに顔を傾ける。
俺は満足に唇を持ち上げて、ちゅうっと一つキスをした。
ゆったり離れた先で、ふにゃふにゃに解けたキバナの目元を撫でてやる。
「今日の朝食も、昨日のキミも、おいしかったぜ」
「ぶぐっ」
突然むせたキバナをくすくす笑う。
見下ろした俺の体はこの男に残された痕で満たされていた。
休みの前の日は、キバナは心ゆくまで俺を貪り尽しては、気をやった俺をとことんなまでに綺麗に優しく整える。
腰から下は少し怠くて、未だに違和感はある。
けれど、この違和感も丸ごと俺は咀嚼し消化する。
おいしく嬉しく受け入れる。
にこにこ返した俺に、キバナはじわりと頬を焼いて俺を見つめる。
どこか後ろめたいよう、うぐりと歪んだ目元にキスをしてやればキバナはくぅっと呻く。
そんな姿が愛しくて、俺はきゅうきゅう胸を締め上げられる。
ちゅっちゅっと顔中、可愛い可愛い食べてしまいたいとばかりにキスを続けてしまう。
すると、キバナは俺の体をくるりと抱き込む。
そうして抱きこまれたままぼふんっとベッドに沈ませられた。
けらけら声を立てて笑っていた。
素肌を撫でる、キバナの着古した寝巻きの布の柔らかさは擽ったい。
キバナは俺の腕の中に仕舞い込んだまま唸る。
だから俺から背中に腕を回してきゅうっと抱きつき返したのだった。
「キミも、食べるか?」
「昨日、おいしく、いただきました」
「おかわりも、今日は許してやろう」
「御行儀悪いぜ、ダンデ」
食べ終わってからすぐなんて、そんなふうに叱りつける声に俺はふくくと笑ってしまう。
キバナ、俺はキミがきちんと食事をとるようにと世話を焼くからお行儀の良い格好はするが、元来、そう育ちの良い方ではない。
だからぐるんっと膂力にものを言わせて、体勢を無理やりひっくり返す。
突然の回転に押し倒されたキバナは唖然として俺を見上げていた。
きらきらと差し込む光が俺の髪を透けてキバナの目を煌かせる。
青空の色は、いつだって美しいこの男が俺を見つめるときにある色だ。
にんまりとして髪を横に流して体を倒した。
「なぁ、キバナ、おかわりは?」
そっと耳元で囁けば、ぶるりと俺の下震える体はある。
だから嬉しくなって俺は体を起こしてにこにこ見下ろす。
その先でキミはぐぐっと唇を噛み締めて、何かを堪えるように顔中しわくちゃにする。
きっとキバナは無理をさせたら俺の体に負担がかかると心を砕いているのだろう。
だけれど、あぁ、本来は大食漢であるキミが一晩の咀嚼に満足できるはずがない。
いい、このしあわせは、二人でおいしくいただくものだ。
キバナは微笑む俺に、ぎこちなく口を開いた。
ひらりと翻る長くて薄いその舌に、ぺろりと呑み下されることがとても幸福だと俺は知っていた。
「おかわり、する」
「よしきた!」
わっはと声を立てて飛びつく俺に、キバナは手を伸ばす。
そうして朝から美味しくいただかれる俺は、これもまたしあわせの形をなしていたのだった。