kokokisu
2021-02-18 21:56:07
2294文字
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ACさんのお気に入りの店【モブクラ】


 小汚いマッサージ店の似つかわしくない男だった。
 年はまだ二十代半ばにもならないほどだろうか。身体は良く鍛え上げられており、大柄ではないが筋肉質な体格をしている。くすんだ金髪に、濃淡の違う緑の複雑に交じり合った瞳、眉間から上唇まで真っ直ぐに通った鼻筋。ノースリーブのハイネックから伸びた腕は眩く感じる程に白い。
 俳優かモデルのように見映えの良い男だった。その端正な顔に浮かぶ陰鬱な表情を除いて。
 男は錆びついた廃材で組み上げられた店に入ると、不愛想な顔のまま受付へとやってきた。
「マッサージを頼む。一時間」
 絹で出来た舌でも持っているのだろうか。恐ろしく円やかな甘い声で男はそう言った。
 マッサージ店の店主は、読んでいたゴシップ誌をカウンターに放り投げて立ち上がった。
「店、間違えてねえだろうな。ここは六番街のスパやサロンじゃねえぞ」
 何を言っているんだ、という目つきで、その美貌の男は店主を見つめた。
「マッサージと言っただろう。看板にもそう書いてあった。違うなら出ていくが」
 店主はふんと息を吐くと、男を店の奥へと案内した。エッジにマッサージ屋ならいくらでもあるのに、何故わざわざうちを選んだのか。この店の常連は泥臭い親父どもばかりで、彼のように小奇麗な輩がお気に召すとは思えない。肉体労働で岩のようになった身体を力づくで解してやるような、粗野なマッサージ屋だ。彼のように綺麗な男が身体を触らせてやる店ではない。
 染みのある古びた施術台に寝かせながら店主は指の骨を慣らした。一言でも痛いとか下手だとか文句を言ったら摘まみ出してやる。

 ギッ、ギッとベッドの軋む音に合わせて男は薄桃色の唇から喘ぎを零した。解れた身体は熱を帯びて、白かった肌は血色を取り戻し紅潮している。店主の指が彼の良い所を巧みに押し込む度、男は快感を耐えかねたように甘い吐息を漏らしていた。
……っ、そこ、いい。もっと強くしてくれ……
 男が施術台の隅に爪を立てながらそう訴える。店主は彼に求められるまま、節くれ立った指を彼の身体に深く捩じ込ませた。
「あっ……!待って、くれ、そんな一気に、っされたら」
 どんなに痛くしても善がっていた男がようやく苦しそうに顔を歪めた。店主は思わず頬を上げて笑みを浮かべた。やっと男の弱い部分を見つけた気分だ。
「お前がやってくれって言ったんだろ?」
 腰の逃げようとしている男を抑えつけ、店主は彼の身体の更に深い部分までを解していく。
「んっ、く……、あっ、こんなの、……ああっ!」
 男は目に涙を浮かべながら悲鳴を上げた。途方もない苦痛と快感が同時に襲ってきている。弱い一点を刺激してくる指から逃れたいと思うが、同時にもっと気持ち良くして欲しいと身体は訴えていた。既に他の部分は彼の手によって別の物のように柔らかくされている。強い痛みは確かにあるが、それでも全てを彼の手に委ねてみたい。こんなに酷く、だが気持ち良くしてくれたのはこの施術師が初めてだった。
 店主は青年の細い腰を掴んで低い笑い声を漏らした。
「こんなガチガチにしやがって。俺じゃなかったらあんたを満足させるのは無理だな」
 再びベッドが規則的に軋み始める。先ほどまでの一点を刺激するような手つきとは違い、広い部分を包み込んで圧迫するような動きだった。青年は緩急のある刺激にうっとりとした息を吐いた。
「んっ……、だからここに来たんだ。俺の客に紹介して貰った。痛いけど、良くしてくれるって……。こんなに身体が楽になったのは久しぶりだ」
 青年の素直な感想に店主は上機嫌な笑い声を漏らした。店に入ってきた時はすかしていていけ好かないと思ったが、話してみると笑えるくらいに純朴だ。
 何より彼の身体と自分の相性が良かった。どんなにこちらが手を尽くしても、それで良くなろうと思っていない相手の身体は解れない。だがこの男は、驚くほど素直に施術を受け入れてくる。鍛え上げられた身体はどこを触っても無抵抗で、筋肉が強張りもしない。自分を信じ切って全てを委ねているようだった。
 店主はこの若くて見目の良い客をすっかり気に入っていた。殆ど全身をマッサージしたが、もう少しサービスしてやりたくなった。
「他につらいところはあるか?」
 尋ねられた青年は、仰向けから起き上がってベッドに腰かけた。全身を揉まれて血流が良くなり、頬は赤く染まって目は涙の膜が張るほど潤んでいる。心なしか息も上がって紡ぎ出される声は艶めかしい響きを纏っていた。
 青年は座ったまま膝を開くと、ささくれ一つない白い手を自身の足の間へと滑り込ませた。優しい手つきですりすりと鼠径部を撫でながら、店主の顔を覗き込む。
……いつも大きいのに跨ってるから、ここが辛くて。あんたなら、良くしてくれるか?」
 店主は得意げに笑いながら両手を重ねてすり合わせた。そんなの、お安い御用だ。さっきまでで彼の身体の造りはもう隅々まで知り尽くしている。
 青年を再び台に横たえさせると、店主は彼の腿を掴んで押し上げた。そこが伸びる痛くて心地よい感覚に、青年が低い呻き声を漏らす。男の体重が折りたたまれた脚に掛けられて、青年は恥ずかしく感じるほどに足を開脚させられた。
「初めはちょっと痛いかもしれねえが、なに、直ぐ良くなる」
 店主の言葉に青年はこれから味わう苦痛と快楽を予感した。身体の他の場所は既に彼の手の味を学んでいて、先ほどまでの余韻で甘く疼いている。青年はその無骨な手に触られただけで先走った吐息が漏れてしまうのを止められなかった。