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kokokisu
2020-12-14 00:04:44
10626文字
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【ザックラ】Sunshine above the cloud 18
ミッドガル奪還作戦に参加する傭兵たちは、元七番街とエッジを繋ぐゲートへとトラックで運ばれていった。
傭兵の乗り込んだトラックがWROの敷地を出て大通りを走っている最中、エッジに放送局を持つアナウンサーがわざわざ現場レポートに来ていた。それを見てザックスは、この作戦が一般市民にも情報開示されている公の事業らしいことを知った。だから神羅に後ろ暗い所はないと言ってしまうのは早計だが、それでも昔の彼らの秘密主義に比べると随分とクリーンな組織になったものだと思う。以前の神羅なら、組織と繋がりのあるメディアにしか取材を許さなかったはずだ。
元七番街に配属された傭兵たちはミッドガルを反時計回りに徒歩で進軍する。今回の作戦開始地点である七番街の外壁付近にあるWRO駐屯地で彼らはトラックから下された。傭兵を運んだトラックは外壁修繕のための資材の運搬に使われる。
今回の作戦の目標地点は、魔晄キャノンのあった元八番街からするとミッドガルの対極に位置する元四番街だ。二年前、ミッドガルの西にある海から上陸したウェポンを撃退すると同時に北の大空洞の強大なバリアを破壊する目的で放たれた魔晄キャノンは、動線にある四番街の外壁に大穴を開けていた。
外壁の大破した元四番街は、ミッドガルが都市機能を果たさなくなってからはモンスターたちの恰好の流入箇所となっていた。傭兵たちが四番街の外壁までの道の安全を確保し、外壁工事の妨害になるモンスターを退治し、四番街に開いた大穴を修繕するまでがミッドガル奪還作戦だった。
モンスターは人が集まると寄ってきやすいので、集められた傭兵たちは10名前後からなる分隊に分けられた。分隊ごとにトラック一台を守り、その日の目標地点までトラックを警護する。翌日は再び傭兵をトラックに乗せて最前線まで送り出し、運び出した資材と入れ替えて、また同じように前線を押し上げていく。そうしながら目的地まで資材を運ぶトラックをモンスターから護衛するのが傭兵の最初の任務だった。
クラウドとザックスは同じ分隊に配属されていた。全員が作戦開始地点に運ばれてから、神羅の分隊長の指示に従い進軍を開始する。だが、傭兵たちは隊列を作ろうともせずに、各々の判断で道を選び目的地を目指している。軍隊式の行軍に慣れていたザックスとクラウドは、傭兵たちのまとまりのなさに戸惑ってしまった。中隊の頭には神羅軍の士官を据え、分隊も下士官が率いているが、それは形だけであり、隊列を整えようとすらしていない。彼らの仕事は指揮ではなくただの引率ではと疑いたくなるほどだった。神羅とは思えぬ非効率的な作戦の進め方に、ザックスとクラウドは視線を交わして首を捻った。
作戦開始地点の元七番街はプレートの落下の影響もあり、廃墟と言うよりただの瓦礫の山といっても差し支えない有様だった。コンクリートが割れて剥き出しになった鉄骨が、風化した生物の死骸のように歪な輪郭を作り出している。空から降ってきたプレートの廃材が落下地点の建物を押し潰し小高い丘になっていた。かろうじて建物の形を保っている箇所には、その場に住んでいた人の人生が垣間見える残骸がそのまま放置されている。人が暮らしていた区域が唐突に放棄されたのだと分かる光景だった。
ここで起きた悲劇のことはザックスもクラウドから聞いていた。瓦礫に埋もれてしまった七番街のどこかには、セブンスヘブンの元となった建物があるらしい。崩落前の光景も思い出せないような廃墟を眺めながらザックスの脳裏に蘇るのはティファの気丈な笑顔だった。故郷を焼かれ、新たに住み着いた街も潰され、それでも彼女は家族と共に逞しく生きている。同じく故郷を失ったクラウドが彼女の幸せを願う気持ちが分かる気がした。
エッジに近い元八番街から五番街には、西側と違って強力なモンスターは出没しない。灰色の毛皮を持つカームファングや、背に棘のある二足歩行の蛙のようなヘッジホッグパイなど、モンスター退治に慣れている傭兵などは危うげなく始末できる小物ばかりがうろついていた。時折翼を持った飛行タイプのモンスターが現れて相手に手こずっているようだが、マシンガンを装備した神羅兵が直ぐに掃討してしまう。
時刻は昼を過ぎて、作戦の参加者たちは既に元七番街を通り過ぎて六番街へ侵入しようとしていた。ここに辿りつくまでに起きた事件と言えば、隊列を乱していた同じ分隊の傭兵の一部が途中で行方知れずになったことくらいか。だがザックスは同じ隊にいる傭兵の全員の位置を把握していた。彼らは街ではなく、ミッドガルを囲う外壁を上り、上の通路を進んでいるようだ。モンスターと出くわす危険が低いと判断してのことだろう。神羅の指揮官も彼らの行方を探ろうともせず、咎めもせずに、ただ残りの傭兵を目的地へと進軍させるばかりだった。
ザックスは退屈の余り欠伸を噛み殺さなければならなかった。クラウドが用意してくれたマスターマテリアの嵌ったバングルを見つめる。クラウドたちがセフィロスと戦うために合成した、全ての魔法の力を引き出せるマテリアらしい。現役のソルジャーだった頃にも存在しなかった危険なマテリアだ。使う機会がなければそちらの方が良いことなのだろうが、クラウドと全力で戦った時の高揚を思い出すと、少し残念な気もする。
ミッドガル奪還、などと言う仰々しい作戦名を付けるほどのことでもない。素人を寄せ集めた集団が武器を持って遠足をしているだけだ。わざわざ神羅の社長が直々に契約を迫ったのは一体何だったのかと疑いたくなる。
「俺らが参加する必要あったのか?これ」
ザックスが隣を歩くクラウドへと問いかけた。逆立った金髪が否定を表してふわりと揺れる。こちらを見上げてきたクラウドは、その白い顔を真っ青にしていた。
「分からない
……
。それよりも、ザックス。俺たちは帰りもまたあのトラックに乗せられると思うか?」
神妙な顔をしているので、モンスターか神羅の狙いを警戒しているのかと思っていたのに。どうやら彼にはモンスター以上に恐ろしいものがあるようだ。ザックスは気遣うようにクラウドの背中をぽんぽんと優しく叩いた。エッジの舗装された道でも、人の運転するトラックの荷台に乗せられるのは、クラウドにとって拷問だったようだ。
「俺たちは歩いて帰ろう」
クラウドはこくこくと頷いた。これ以上、人の運転する乗物に乗せられたら、雑魚モンスター相手でも手こずってしまうほど体調を崩してしまう。
行軍というよりも、廃墟を散歩している気分になり始めた頃だった。ザックスとクラウドはいち早くその敵の存在に気付いて空を見上げた。
不意に雷雨が訪れたような暗闇に辺りが覆われた。ギャアア、と断末魔のような鳴き声が辺りの空気を揺るがす。空中に浮かんでいた巨大な怪鳥が両翼をはばたかせると竜巻のようなつむじ風が巻き起こり、子供ほどの大きさの瓦礫が容易く巻き上げられた。ザックスたちと共に行軍していた傭兵たちも、彼らを覆うその影の正体に気が付いた。
射干玉色の胴体に、肉厚な翼、長く伸びた首から頭部にかけて赤い鬣が焔のように逆立っている。黄色い嘴は人の頭を容易く噛み砕けるほどに巨大で、一本一本がナイフのように鋭い牙で覆われていた。威嚇するように拡げられた翼の全長は、傭兵たちを運んだ大型トラックよりも長い。空を飛ぶモンスターでは最大と言われる生物だ。
襤褸切れのようになった肉塊が鉤爪に絡みついている。ザックスはその正体が何かを察して舌打ちをした。ミッドガルの外壁の上を歩いていた彼らは、飛行タイプのモンスターにとっては食べやすい所に餌を差し出されているようなものだったのだろう。
「ズーだ。ニブル山の魔物だぞ、あれは」
クラウドが言いながら背負っていた剣を手にした。ニブルエリアの高山帯に住んでいるモンスターで、普段は地元の住民でも滅多に姿を見ることがない。ニブル山の吊り橋などで偶に姿を目撃されていたが、もし遭遇してしまったら閃光弾や煙幕で目晦ましをしながら逃げるのが定石だ。分厚く硬い羽毛に覆われた身体は刃物も銃弾も通り辛く、ドラゴンと並ぶ恐ろしい強敵とされていた。
何故ズーがミッドガルエリアにいる。体躯が大きすぎて長距離の飛行は苦手な生物だったはずだ。餌を求めて山を下り、村の近くに現れることもあったが、海を渡るという話は聞いたこともない。
クラウドが不信に思っていると、ズーはけたたましい鳴き声と共に、人の胴体ほどもある首を振り回した。隊列から外れていた人間に狙いを定めて、瓦礫の上に降り立つ。猛烈な勢いで首を突き出して噛みつき、その傭兵の胴体は胸から上が消失した。
他の傭兵たちは手にしている武器で応戦しようとしているが、再び空に舞い上がった巨鳥に刃は届かない。分隊長もマシンガンで威嚇してはいるものの、肉に届く以前に鋼のような羽毛で弾かれてしまう。
一部の傭兵はマテリアを保持しているらしく、ファイアやサンダーを上空へ撃って翼の一部を焦がしていた。だがそれがモンスターの怒りを買ってしまった。ズーが耳触りな鳴き声を上げる。壁のような翼を羽ばたかせて生まれた大旋風によって彼らは空高く巻き上げられ、風が収まり瓦礫の上に落下する頃には既に窒息して息絶えていた。
敵わないと悟った傭兵たちが現場から逃げ出そうとする。強敵の出現に戸惑っていた分隊長がそれに気づき彼らを止めようとした。逃げるな、と声を上げかけたところで、別の鋭い声に阻まれた。
「下手に動くな!死にたくなかったら一か所にまとまれ!」
指揮官よりも大きな声で、ザックスがそう叫んだ。その声に怯んだのか、逃げ出そうとしていた男たちの脚が竦んで止まる。既に遠くまで逃げ遂せていた男はそのまま中隊から離れようとしていたが、ズーが一度の飛翔で男に追いつき、彼の身体を頭から丸飲みにしてしまった。
「クソッ
……
!」
また戦闘不能者が出てしまった。ザックスが悪態を吐いた。指示を出すのが遅かったし、傭兵たちの統率が取れていなかったことも災いした。
ズーは集団から離れた獲物を狙う。外壁の上を歩いていた男たちだって、集団から逸れていたから襲われたのだ。地上にいるモンスターに襲われる危険はなかっただろうが、飛行するモンスターにとっては皿に乗せられたご馳走にでも見えたことだろう。
マスターマテリアから力を引き出したザックスの腕に雷光が宿る。また別の人間を襲おうとしていた化け物に向けて紫色に発光する稲妻を放った。強力な魔力を帯びた光が瞬きの間だけ顕現する。滑空していたモンスターの翼に焦げ付いた穴が空き、傭兵目掛けて突進していた黒い影の軌道が大きくずれる。
雷の出所に嘴を向けた怪鳥が、ザックスを一睨みしてから空高く舞い上がった。肌が粟経つような不気味な鳴き声が辺りに響き渡る。先ほど何人もの男たちを巻き上げて殺した竜巻が再び襲い掛かってくる気配を感じた。
瓦礫に足を取られてまだ合流できていない人間がいる。焦りから苛立って、ザックスの指示は自然と語調が強くなっていた。
「さっさと隊列に戻れ!バリアを張る、防壁を広い範囲に展開させるな!」
ザックスの怒号に煽られて、男たちは慌てて彼の元へと這い戻った。クラウドもザックスの傍に駆け寄り、全員が揃っていることを確認してバリアを展開する。クラウドが手を翳した空間から瞬きの間に液状のガラスのようなものが拡がり、球体に展開して、生き残った傭兵たちの周囲に障壁が生まれた。揺らぐ視界の外側で巨鳥が大きく翼を羽搏かせている。彼らを覆うバリアの外側は大気の流れが刃物になったように荒れ狂っていた。
嵐が止むと、ザックスとクラウドだけが守られた空間の外側へと飛び出した。クラウドは防壁を維持したままなのでその場から動けない。ザックスはクラウドと視線を交わして頷くと、片腕を空中へと伸ばした。精神を集中して、マテリアを媒介に大気中のライフストリームから無尽蔵の力を引き出す。ザックスが手を翳した先の空気が白く見えるほど熱く燃え上がり、火系の最上魔法であるファイガが空を覆う巨大な影へと放たれた。
怪鳥の眼前に迫りくる炎は、空中を愚鈍に漂う翼で避けるには巨大すぎた。放たれた高温の火球が油で覆われたような光沢を放つズーの左翼へと一直線に飛んでいく。殺された傭兵たちの放ったファイアとは威力が桁違いだった。剣も通さない鋼のような羽毛に覆われていた翼は、燃え尽きた骨を残して灰と散った。
断末魔を上げた怪鳥が身を捩らせながら地上へと墜落する。体躯の大きなモンスターなので元から動きは早くないが、片翼を失いバランスを崩して今はよたよたと這いずるように歩いていた。クラウドの展開するバリアの中にいる傭兵たちが安堵したように息を漏らしている。あれなら片付けられる、とバリアを出ようとするものさえいた。だがクラウドは防壁を解除しなかった。
「気を付けろ、ザックス。ズーは最後の一撃が一番厄介だ」
鋭利な刃物のような歯の生え揃った嘴が開かれて、石をすり合わせるような醜い鳴き声がザックスたちの鼓膜を揺らす。再び嵐が訪れる予兆だった。地に落ちたズーが、残った片翼を羽搏かせようとしていた。
神羅軍から支給された剣を手にすると、ザックスは高く飛び上がってモンスターの頭部に斬りかかった。夜闇の色をした頭に剣を突き立てる。ザグ、と羽毛を裂く感触が手のひらに伝わった。だが次の瞬間、ズーは首を大きく振って頭を踏みつけていたザックスを振り落とした。ザックスは宙で身を捻り、危うげなく瓦礫の上に着地した。クラウドの警告した必殺の一撃は阻止できたが、敵には何のダメージも与えられていないようだった。
彼が愛用していた大剣ならその重さで敵の頭骨を砕いていただろう。神羅に配給された片手剣では表面に切り傷を付けるのがやっとだ。頭ではなく首を狙えば良かったとザックスが漏らす。
ズーは再び残った片翼を持ち上げて旋風を巻き起こそうとしていた。同時にクラウドがバリアを解除してこちらへ駆けてきているのを視界の端で捕らえる。敵の傍らに着地していたザックスが、ズーの分厚い羽を目掛けて剣を振り上げた。太刀筋を描いて血飛沫が上がる。旋風を生み出そうとしていた屋根のような片翼はザックスの剣によって根元から斬り落とされた。
片側だけに残った翼の重みで胴体の傾いていたズーが均衡を取り戻して、二本の鉤爪で足元の瓦礫にしがみつきながら巨大な駒鳥のように立っている。放っておいても失血で死ぬだろう。死期を悟ったのか、それ以上は足掻くこともしなかった。
クラウドは背負っていた合体剣をズーの長い首目掛けて振り下ろした。ザックスの振るうそれよりも重い鉄の塊は、しかしながら質量の持つ破壊力に頼ることなく、見事な切断面を生み出して怪鳥の長い首と胴体を分断した。一瞬で分隊の人員を半分以下に減らしたモンスターの最後は、まるで悪夢から目覚めたときのように呆気なかった。
自分たちでは決して敵うはずのない強敵が倒されたのだと気付いた途端、傭兵たちは歓声を上げて喜んだ。命を落とすか逃げ切るかの二択だったのに、圧倒的な力で人間を食い荒らしていた化け物が無残な姿を晒して転がっている。そうするだけの力を持つ存在が、自分たちと同じ勢力に属している。辺りに漂っていた死の気配を払拭する強い生の実感に、彼らは感情を露わにして雄叫びを上げた。
傭兵たちが衒いなく喜ぶ姿にザックスは面食らっていた。軍では立身出世の為に能力を固持したがる人間が多いので、強敵を自分たちだけで倒してしまった二人などまず歓迎されない。しかも何人もの死人が出ている状況なのに、彼らは死んだ人間たちのことを何も気にしていないようだった。これが軍隊ならばさっきの戦いで友人や同期を失っていただろう。
これが傭兵という人間なのだろう。彼らは何の組織にも所属していないので、誰かの評価など一切興味がない。同じ戦場にいるだけの人間に必要以上の情も抱かない。依頼を達成できさえすれば、敵を倒すのは誰だっていい。自分の命の安全を保障してくれる有能な存在を歓迎するのは当たり前のようだった。
傭兵の一人がクラウドとザックスの元へと駆け寄って喜色満面の顔で話しかけてきた。
「あんたら、すげえな!なんて強さだよ、こんな化け物倒す奴なんて見たことねえぞ!」
彼を呼び水に他の傭兵たちもザックスたちの元へと駆け寄ってくる。二人は取り囲まれて質問攻めに合った。
「その目、もしかしてソルジャーか?なんで傭兵側にいるんだよ。あんたらは指揮する側の人間だろ」
「どこでそのマテリア手に入れたんだ。とんでもねえ魔力だが、人間が使いこなせるもんなのか?」
ザックスとクラウドが戸惑っていると、彼らを率いていた分隊長が声を張り上げた。
「進軍を続けるぞ!目的地は未だ先だ!」
モンスターの倒された今になって気勢を取り戻している。彼の後を追う傭兵たちはその面にあからさまな嘲笑を浮かべていた。
「偉そうに。兄ちゃんたちがいなかったらあいつも丸飲みにされてたぜ」
一人の男がザックスへと声をかけた。
「兄ちゃん、退役軍人だろ。階級も低くはなさそうだ。兵士を指揮しなれてる感じがしたぜ」
神羅軍に所属して、神羅の為に働いていた過去は、今やザックスにとって苦い思い出でしかない。ザックスは少し気まずそうな表情で答えた。
「
……
まあな。神羅軍の元ソルジャー・クラスファーストだ」
その答えを聞いて相手の男が驚愕したように口を開けた。ソルジャー・クラスファーストと言えば、階級だけなら普通の軍隊で言えば大佐にあたる。戦闘能力を重視されるために経歴の明るくないでもソルジャーになってしまうこと、また上位階級にも関わらず最前線で戦うことから一般的な軍に当て嵌められるものではないが、それでもこの場で傭兵と混じって野戦に繰り出しているのは酷く場違いだった。
今彼らを率いている神羅軍の士官よりも確実に階級は上であったはずなのに、まるで一般兵のように彼の指示に粛々と従っている。多くを語ろうとしないザックスだが、男は察したように短く笑った。
「なるほど、あんたほどの奴が辞めちまうってんならやっぱ神羅軍ってのは碌でもねえな。隣の兄ちゃんもソルジャーか?」
クラウドが言葉に詰まるのを見て、ザックスは苦笑いを零しながら答えた。
「いや、こいつはソルジャーにならなかった。神羅は昔からあんなだったからな、分かるだろ」
なれなかった、ではなくならなかったと言ってくれた。クラウドは俯きながら嬉しそうに微笑んでいた。彼はいつも自分を見くびらない。一般兵でしかなかった自分とも、友人のように対等に接してくれる。
男がくっくっと耳触りな笑みを漏らした。
「なるほど、恐れ入ったぜ。しかし俺らの中隊はラッキーだな。あんたたちみたいな英雄がいるんだから」
含むところのありそうな言い方だった。ザックスが怪訝そうに眉を顰める。
「どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。あんたらだって契約書にサインしたんだろ。身の安全を保障されない任務だって書いてあった。神羅が契約書にその文言を書く時は、生きて帰れるか死んじまうかは五分五分だ。だが、死んでも報酬は代理の受取人に支払われる。この作戦に参加している傭兵は全員、死んでもいいから金が欲しいって奴らばかりだ。俺だって同じだよ。妻と子供が食っていける金を残せるなら、神羅の仕事でも受けてやっても良いって思って参加したんだ」
クラウドは咄嗟に言葉が出てこなかった。そうまでしなくては家族を養えない人間が溢れ返っているという現実を目の当たりにした。リーブの言葉を思い出す。子供でさえ兵役を望む貧しい世界。神羅カンパニーが与えていたのはこの星に住む人間には過ぎたる富だったのかもしれないが、当たり前とされていた生活を送っていた人たちにまでその負債を払わせるのは余りにも理不尽だ。
ザックスはクラウドとはまた別の考えを持っていた。神羅カンパニーはやはり悪だ、と。作戦に参加している傭兵たちの統率が取れていない理由がようやく分かった。彼らはこの作戦の遂行に意義を感じていないのだ。書類にサインさえすれば、彼らは求めているものを与えられる。神羅は傭兵たちの命を金で買った。
二人の険しい表情に気付いていないのか、新たに会話に加わってきた傭兵が機嫌の良さそうな声を上げながら二人の肩を掴み寄せた。
「今日の仕事が終わったら飲みに行こうぜ。あんたらの分は奢ってやるよ」
クラウドは咄嗟に断ろうとしたが、それよりも先にザックスが誘いに乗った。
「俺は人の三倍は食うし、クラウドもこんななりして俺より飲めるからな。神羅から貰う報酬が無くなっても知らねえぞ?」
冗談めかしていったザックスに、男は声を上げて笑った。
「はは、あんたらが俺を生かして帰してくれるんならそれでも構わねえよ」
聞いているだけでクラウドまで笑いが込み上げてきた。命懸けの状況だからだろうか、出会ってからまだ間もないのに絆らしきものが生まれ始めている。傭兵たちとザックスの他愛もないやり取りを見ていると、クラウドは自身が神羅軍に所属していた頃を思い出した。星を巡る旅をしていた頃の仲間とも近い繋がりを感じる。ただの取引で神羅の依頼をこなしていたが、作戦の遂行にそれ以上の意義が生まれ始めていた。
朱で塗られた外壁に、黒い素焼きの瓦屋根、彫り込まれた主の名前に金箔の張られた看板を掲げた三階建ての館は、エッジ北部の歓楽街を見下ろすように小高い位置に建てられていた。ミッドガルの外壁の一部を取り込むような形をした屋敷の最上階は、外壁よりも高い位置にあり、廃墟となったミッドガルの内部を覗き見ることが出来る。
資材を積んだ神羅のトラックがミッドガルの外壁の内側を沿うように走り、六番街を横断していた。廃墟の僅かな人の往来によって瓦礫の間に生み出された細い路がある。無数に転がる石くれに車体を揺らされながら、トラックは土煙を上げてその道を北へと進んでいった。時刻は間もなく日暮れだ。夜は視界が効かなくなるので今日はこれが最後の運搬だろう。
館の主人であるコルネオが、その光景を忌々しそうに見下ろしていた。部下から連絡のあった通り、神羅の雇った傭兵たちの中には二人の異質な存在が混じっていた。彼らが隊列に加わったとなれば、作戦の成功は保障されたようなものだろう。こちらでも展開していたモンスター退治受託の事業は縮小するべきかもしれない。ミッドガルへの派兵が主だったのに、神羅の思惑通りに事が進めば稼げなくなってしまう。
神羅が雇った二人の男の内一人は黒髪で体躯の良い男だ。なんでも屋を名乗っていた頃には格安でモンスター退治を引き受けていた。恐ろしく腕が立ち、神羅の一般兵でも相手にならない強力なモンスターまで屠ってしまう。コルネオの放つ追っ手だけでなくタークスも蹴散らしていたので、神羅に恨みがあるのだと思っていた。だから、神羅が彼を抱え込んでしまうとは思っていなかった。
もう一人の男はコルネオの顔見知りだった。金髪の美丈夫で、彼も神羅のソルジャーと同じかそれ以上の膂力の持ち主だった。以前はデリバリーサービスという彼の戦闘能力を持て余すような仕事ばかりしていたのに、彼まで神羅の作戦に加わってしまっている。WROとの共同戦線だったので言い包められて参加したのだろうが、それでも彼が彼個人ではなく組織の為に力を振るうというのは無視できない状況だった。
コルネオは苛立たしそうに悪態を吐きながら壁を蹴り付けた。この屋敷に堂々と正面から乗り込み、取引を持ち掛けてきた黒スーツの二人組を思い出す。いや、取引と言われたが、あれはただの恐喝だ。
命が惜しかったら元ソルジャーのザックスを探るのを止めろ。さもなくば、この街で仕事が出来なくなる。
口だけの脅しではなく、神羅にならそれが実現可能だと分かっていた。コルネオはエッジの歓楽街の支配者だが、神羅はWROと共にエッジを支配している。それどころか、この星の全ての街が神羅の管理下に置かれているようなものだ。魔晄エネルギーを失っても彼らは未だに世界への影響力を失っていない。
もう何の価値もない廃墟となったミッドガルにへばりついた街の一区画で幅を利かせている男など、彼らにとっては路傍の石にも等しいのだと思い知らされた。ようやく六番街の支配者だった頃の権力を取り戻しつつあったが、神羅と関わると自分の矮小さを思い知る。コルネオは身を掻き毟りたくなるような屈辱を感じていた。
どうにか彼らに辛酸を舐めさせてやりたい。神羅の牙城を崩す手立てはないか。コルネオは自らの持つ情報の全てをかき集めて、繋ぎ合わせて、謀略を巡らせた。
一つの案が思い浮かび、コルネオはにやりと笑みを浮かべた。
特殊嗜好を持つコルネオの顧客のために特別な調合をしていたドラッグがあった。薬の作用はクラウドのお陰で実証済みだ。豚に犯されて痙攣しながら達する彼を見るのは刺激的で、娯楽と名のつく全ての行いを味わい尽したコルネオでも充分すぎるほどに楽しめた。当然、認可されるような代物ではないため、その薬の存在を知るのは限られた人間だけになる。
何もかもを見下す神羅の態度が気に食わなかった。この企みを決行して得られるものなど何もないが、彼らの鼻を明かすことができるならそれで充分だ。少なくとも、彼らの立案した作戦にはない筋書きを付け加えてやれるのなら、充分に実行する価値はある。
その次いでに、いつも澄ました彼が屈辱に塗れた顔を晒すのなら尚面白い。人の弱みを握るための撮影が趣味のコルネオは、彼が恐らく人生で最も無様な姿を晒している光景を写真に収めて部屋に飾っていた。その写真の一枚を眺めながらコルネオが奇妙な笑い声をあげる。これを見た彼の反応を想像するだけで歓喜から身が震えた。
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