ミッドガルに寄り添って発展したエッジは、初めの内はガラクタを寄せ集めただけのような街だった。避難した住民の仮住まいも、炊き出しが行われる公共施設も、崩落したプレートの廃材で建設されていたので、外観はスラムによく似ていた。街のあちこちに使われていない資材が積み上げられてゴミと区別がつかず、また素人が見様見真似で建てた家や施設も多くあり、崩壊したミッドガルに住むよりも危険という区画すらあった。
だがエッジが生まれて二年も経つ頃には、街の外観はプレートとスラムの中間と呼べるほどに整備されていた。メテオ撃退記念の慰霊碑を中心として、プレート上なら一等地と呼ばれるような地価の高い区画も存在する。本社ビルが崩壊した神羅の新しい本拠地はここに建設されていた。慰霊碑広場を前庭として一等地の中心部に建てられた、エッジで最も巨大な22階建てのビルだった。
ビルの最上階には社長室と幹部社員の執務室がある。クラウドたちの乗ったヘリが屋上のヘリポートに近付いている最中、ガラス張りの執務室にはルーファウスの姿が見えた。ヘリの到着に気付いて口角を上げている。獲物がかかった、と狡猾なその目が語っていた。
案内された社長室にはルーファウスと、彼の背後にタークスのイリーナが控えていた。
ルーファウスは前にクラウドが話した時と違い、星痕も怪我も完治していた。白いスーツを着こなして自らの脚で立っている。痛々しい位の姿だったが、彼の野心的な眼差しは病床に付していた頃から変わらない。クラウドがぴりと緊張を張り詰めるのを感じて、ザックスも相手が唯の優男ではないのだと理解した。
「久しぶりだな、クラウド。そちらの男性がザックスか。お会い出来て光栄だ」
ザックスがにっと笑ってルーファウスに応えた。
「こちらこそ、まさか社長直々に呼び出されるとは思わなかったぜ。それで、話ってなに?再雇用なら残念だけどお断りだ。もう次の仕事決まってるから」
冗談めかして言っているが、ザックスの目つきは鋭かった。ルーファウス神羅は、今の神羅カンパニーの社長だ。ザックスと直接因縁のある男ではないが、神羅の代表者と言うだけで充分に警戒すべき相手だった。
ルーファウスがその整った容姿に冷たい笑みを張り付けた。
「それは残念だ。契約内容に納得の行かない所があったのなら、いくらでも相談にのるぞ?」
ザックスのこめかみがピクリと動く。全く、少しも笑えない冗談で返された。ニブルヘイムの事件に関わって死にかけた後は、四年もの間、非人道的な人体実験を受け、最後は殺されかけている。その過去を忘れろとでもいうのだろうか。
ルーファウスがザックスの憤りに気付き、肩を竦めて首を振った。
「再雇用が無理なら、こちらからの依頼を引き受けて貰いたい」
クラウドは言葉を遮ろうとしたが、ルーファウスは構わずに続けた。
「ミッドガルの有様はご存じの通りだ。メテオとライフストリームの奔流により街は壊滅。プレートは8割方落下して神羅ビルも今となっては唯の鉄クズになっている。しかも最近になってモンスターが湧き始めた。不幸中の幸いと言っていいのか、エッジに近い東側に出現するモンスターはそこまで強力なものではないが。西側はもう人が住める状態ですらない」
それを聞いてザックスは、なんでも屋として受けた仕事の一つを思い出していた。少し前の話だが、弐番街で暮らしていたという母娘から、荷物を取りに行くためにと家の周囲のモンスター退治を依頼されたのだ。ザックスはモンスターを退治し、ついでに二人の家の荷物を運び出した。ミッドガルで暮らしていた期間が長かったのであろう母親からは泣くほど感謝された。
「我が神羅カンパニーもモンスター退治を請け負っているが、何分人手が足りない。お前たちのような戦闘能力を持ったソルジャーが殆ど消えてしまったからな。西側に出現するモンスターを相手にできるものがいないのだ。そこで、二人にはミッドガルのモンスター退治を依頼したい。報酬ももちろん用意する。引き受けてくれたら、例の取引に応じようじゃないか」
ルーファウスが笑みを張り付けたまま、クラウドとザックスへ手を差し出した。だが二人は険しい表情を崩さなかった。
「お前がそんなことを依頼する為に俺たちを呼びたてる筈がない。本当の狙いはなんだ」
クラウドが詰問する。それまで黙っていたイリーナが、きっとクラウドを睨みつけた。
「いいから引き受けなさいよ。こんなにいい条件だしてるのに」
ルーファウスが手を上げて彼女の発話を止めさせた。イリーナははっとして口を閉ざし、だがまた鋭い目を二人に向けている。
「私の目的が聞きたいか。良いだろう、教えてやる。私はあの土地、ミッドガルを再建したいと願っているのだ」
怪訝な表情を浮かべるクラウドの前で、ルーファウスが仰々しい手ぶりを添えて言葉を続ける。
「魔晄エネルギーを惜しげなく湯水のように使って再発展させようというのではない。だが、石油エネルギーだけではあの街の再建は難しいだろう。私は、ミッドガルが故郷である者たちに、彼らの住処を取り戻させてやりたいのだ」
クラウドには彼の発言が偽善的に聞こえた。隣のザックスも同じなのだろう、険しい表情を崩さない。
「モンスター退治の依頼が儲かる理由を知っているか。多くの人間がミッドガルに全てを残してエッジに避難して暮らしている。一区画のモンスターを退治した所で一時しのぎにしかならないが、その隙にどうにか残してきたものを回収しようとしているらしい。哀れな話じゃないか、彼らはそこに再び住むことを諦めてしまっているのだ」
ルーファウスの芝居がかった演説に、クラウドはうんざりと言った様子で首を振った。
「建前はいい。ミッドガルを取り戻す、神羅カンパニーの目的を教えろ」
クラウドからの指摘を受け、ようやくルーファウスがその顔に張り付けていた笑みを潜めた。神羅カンパニーの経営者としてのぎらついた眼差しを取り戻している。
「あの土地には高エネルギー反応がある。メテオが直撃し、星の傷を癒す為にライフストリームが噴出したからだろう。それに惹き付けられたモンスターがミッドガルに押し寄せているという説もある」
ルーファウスが執務室のガラス窓から廃墟となったミッドガルへと目を向けた。このビルの高さからなら、朽ちた神羅カンパニー本社ビルが薄霞越しに見える。再建させた神羅カンパニーもエッジで最も巨大なビルを建てたが、この星の全てを睥睨していた父親のビルに比べると、まるで子供の積み木遊びだ。
「あの土地の魔晄炉を再び稼働する。魔晄エネルギーを利用しすぎると崩壊を招くということは分かっているさ。だが、節度を持って多少利用するくらいなら罰も当たらんだろう。星命学では死んだ命がライフストリームとなるらしいが、死人に気を遣って生者が不幸を被ることもあるまい。魔晄エネルギーの代わりに湯水のように使われている石油も、元は生物の死骸だぞ。メテオとライフストリームの噴出、それに続く星痕症候群の蔓延で、どれだけの文明が失われたか。星の危機は脱したが、今は人類の危機だ」
ルーファウスは彼らしからぬ真摯な表情でクラウドとザックスを見やった。
「お前たちの力が必要だ。ソルジャー・クラスファーストのザックス。星を救った英雄、クラウド。一般人ではモンスターに敵わないことを知っているだろう」
クラウドは苦い顔で頭を抱えた。断る理由を用意されなかったからだ。神羅が再び魔晄エネルギーを過剰に使うようになれば、また過ちを犯すのではという心配はある。だが、困っている人間が溢れているのは事実だ。クラウドの家族であるデンゼルも、家族を失って孤児になり、同じような子供たちだけで仕事を見つけて食いつないでいた。彼のような子供が今も沢山いるのは知っている。魔晄のもたらす豊かさがあれば、救われる人間が大勢いるということも。
ザックスの頭にはエッジで出会った母娘の姿が浮かんでいた。彼はルーファウスの言葉を聞いて、彼に協力するべきだと判断していた。神羅を信用できないことに変わりはないが、彼がやろうとしていることには共感できる。ミッドガルを再建できるのならするべきだ。サイドカーに詰め込まれただけの思い出に、涙を流していた彼女。建設現場の手伝いも良いが、自分たちにしか出来ない仕事があるのならそちらを優先したい。
「クラウド、俺はミッドガルのモンスター退治に協力しようと思う。それに、こいつらが怪しいなら近くで見張っておくべきだ。放っておいたらまた勝手に魔晄エネルギーを悪用するかもしれないだろ?」
ザックスがルーファウスに賛同した。揺らぐクラウドを見つめて、ルーファウスは強かな笑みを浮かべた。
「ミッドガル奪還はWROとの共同施策だ。WRO側の責任者は元神羅の都市開発部門総括のリーブ・トゥエスティ。彼のことは良く知っているだろう。あちらも今や軍事組織だからな。電力会社の我々よりも余程軍事力がある。嘘だと思うならこの場でリーブに電話してみると良い」
黙り込むクラウドへとルーファウスが続けた。
「クラウド、まだ神羅が怖いか」
ルーファウスの言葉にクラウドは渋面を作った。
「……俺が協力するとして、いくつか条件がある。まず、コルネオにザックスを追うのを止めさせてくれ。これは最初の取引の通りだ。もう一つの条件は、俺をモンスター退治以外の戦闘に参加させないこと。俺もザックスももう神羅の軍人じゃない。もし神羅がまたどこかと戦争をする、ということになっても、俺たちは参加しない」
ルーファウスの顔に上品な笑みが浮かぶ。交渉成立。絶対に失敗できないビジネスの取引に成功した気分だった。神羅に対してこれほどまでに反発的な相手など、彼くらいのものだ。
「承知している。構わんよ。ザックスも同じ条件でいいか?」
話を振られたザックスが、うんと頷いて返事をした。
「では、こちらにサインして貰おうか」
ルーファウスが背後に控えていたイリーナに手で合図した。かしこまりました、と一礼したイリーナが、応接用のテーブルに書類を並べる。クラウドとザックスへソファに座るよう促すと、懐から取り出したペンをそれぞれ差し出した。
「契約書か?」
ザックスが、苦手なものを見せられている、といった表情でその白い紙を見つめた。
「当然だ。これはビジネスなのだからな」
クラウドはその紙をぱらりと捲って、二枚に綴られた契約内容を確認した。
ルーファウスの言っていたこととほぼ相違ない。モンスターにかけられた報奨金の7割を支払うということ。身体の安全は保障されない任務であることを承知すること。作戦遂行にあたり必要な装備の不足分は神羅が提供するということ。任務遂行の成否に関わる情報は機密であること。契約期間中に神羅の利益を害する行動は許されないこと。
書き連ねられた契約内容を読みながらクラウドは昔の記憶を蘇らせていた。神羅軍に入隊する時にも同じような契約書にサインをした。あの頃と似ているようで、全く違う状況だった。
ザックスと書類を取り換えて一通り検分した。どちらに書かれている内容も同じ。特におかしな内容はなかったが、一つだけ気になる部分があった。
「この、精密検査を受けるってのはなんだ?」
クラウドの問いかけに答えたのはイリーナだ。
「あんたたちの身体も会社の資産になるんだから、メンテナンスして当然でしょ。ただで医者に掛かれるんだから有難く思いなさい」
つい口を挟んでしまったイリーナが、ルーファウスからちらと視線を向けられる。慌ててイリーナが口を塞ぐ。その様子を見守っていたレノとルードがやれやれといった具合に肩を竦めた。彼女にツォンの真似事はまだ早かったようだ。
ルーファウスは一つ咳ばらいをして説明を引き受けた。
「モンスター退治は危険が伴う。身体検査は神羅軍では定期的に行っていたことだ。特にお前たちはソルジャーだからな。ミッドガル跡地は放棄された魔晄炉の影響で、魔晄濃度が高い地域も存在する。魔晄炉内よりも低いというくらいなので影響はないだろうが、念のため事前に精密検査を受けて貰う」
「面倒だな」
ザックスが頭をがりがりと掻いて呟いた。神羅軍に配備されていた時は確かに定期検診を受けていたが、今回は軍の作戦と呼べるほどのものではない。ただのモンスター退治なのに、ここまで入念に準備をする必要があるのだろうか。
ルーファウスが彼に賛同するように億劫そうな息を漏らした。
「そう言うな。WRO側の提案だ。モンスター退治に参加する者に少しでも不足があってはならない。無駄に命を落とすな、ということだな。お前たちには無縁の話かもしれんが」
「ま、いいけど。そんで、いつから作戦開始だ?」
「今こちらでミッドガルの外殻建設の為の資材を集めている所だ。工事の人材はWROが募っている。お前たちにミッドガルのモンスターを一掃してもらい、また新たなモンスターが湧く前に防壁を建設して、ミッドガルへの再流入を防ぐ。全て揃うのは三日後の午前中だな。お前たちはそれまでに精密検査を受けておくといい。検査は少なくとも丸一日かかる」
それ以外にもいくつか取引についてやり取りを終えると、ザックスとクラウドは神羅カンパニーの社章の描かれた書類にサインした。
インクが乾ききらない内に書類がイリーナの手によって回収される。ルーファウスが用紙に書かれた二人のフルネームを見て満足気に頷いた。
クラウドがソファに腰かけたままルーファウスへと話しかけた。
「本当に、人に好かれる神羅カンパニーにでもなるつもりか?」
まるで気の狂った知り合いを心配しているような口ぶりだ。ルーファウスは失笑を漏らした。
「それが新しい神羅カンパニーの在り方に相応しいならな」
ルーファウスは相変わらずだった。感情に訴えるのではなく、理詰めで相手を屈服させるような物言い。彼らと関わることを注意深く避けていたつもりだったが、対面で話していると彼と協力したほうが良いとまで思わせてくる。書類にサインまでした今になってもまだクラウドが彼への警戒を解かないのは、全てが彼の筋書き通りであるように感じてしまうからだ。
ルーファウスの狙いを読もうとしたが、クラウドは諦めて首を振った。謀略では初めから敵わないと分かっているのに、彼と知恵比べをするつもりはない。ルーファウスと話して思考を誘導されるより、今回の件に一枚噛んでいるというWROのリーブと話をした方がいいだろう。彼なら信頼できるし、彼の方が神羅の人間の権謀には慣れている。
「それで、どちらから検査を受ける?一日かかるからな。長旅で疲れているだろうが、今日から一人ずつ受けて貰わんと作戦に間に合わん」
ルーファウスに呼びかけられて、手を上げたのはザックスだった。
「俺だ。クラウドは先に帰ってていいぞ。セブンスヘブンの場所は知ってる」
彼は神羅の精密検査を怪しんでいるようだった。クラウドを危険に晒す前に自分が様子見しておこうと考えている。クラウドも同じ思いだったが、彼を信じて任せることにした。彼が検査を受けている間にWROのリーブから話を聞きたい。セブンスヘブンのティファにも、ザックスのことを伝える必要がある。
クラウドは神羅の本部を去り、ザックスも迎えに来た研究者に連れられて、社長室はルーファウスとタークスの面々だけが残った。友好関係とはいえない二人と対峙して緊張していたのだろう。無事に交渉が済んだことに安堵して、レノは溜息を零しながらぐるりと肩を回した。
二人の姿が消えたことを確認した途端、ずっとしかめっ面で社長の背後に控えていたイリーナが、小さく悪態を吐いた。
「こっちから仕事紹介してやろうってのに、なんなのあの態度。巷じゃ仕事が見つからなくて路頭に迷う人間が掃いて捨てるほどいるのに」
それを聞いてレノは堪らず噴き出した。
「素直で良い子だねえ。ツォンさんの教育の賜物か」
今度はルードが笑いを誤魔化すために咳払いをした。ルーファウスもくく、と笑いを零している。
「あの鬼主任の、か」
イリーナは彼らが面白がる理由が分からずに、それぞれの顔を見ては首を傾げた。
自分は何もおかしなことは言っていないはずだ。エッジは魔晄エネルギーで栄華を極めたミッドガルのように豊かな街ではない。アバランチによる魔晄炉の爆破、ウェポンの来襲、メテオの落下、ライフストリームの噴出に、極めつけは世界中で流行した星痕症候群だ。一つの苦難を乗り越えたと思ったら、また次の苦難が訪れる。まともに経済が立ち行かない年数が長引くにつれて、失業者も孤児の数も以前とは比べものにならないほど増えていた。
クラウドたちには自分の身を守る方法がある。それがイリーナには腹立たしかった。どんな凶悪なモンスターでさえ、強化された肉体を持つ彼らには太刀打ちできない。この時代、モンスターを簡単に倒せる彼らが食うに困ることはないだろう。だが、その強化された肉体はどうやって手に入れたのか。神羅の技術のお陰だ。なら彼らが神羅に尽すのは当然ではないか、というのがイリーナの持論だった。
「ツォンはイリーナにクラウドとザックスのことを話していないのか」
ルーファウスが彼らのサインした書類を矯めつ眇めつしながら言った。素晴らしい構成で彼らに疑いを抱かせなかったこの契約書は、タークスの主任が準備したものである。
社長の質問にレノとルードは揃って首を振った。
「情が移るだろうからイリーナには聞かせるなと。こいつ、ティファと仲良くなったってはしゃいでたしなあ」
「なっ……、何言ってんですか先輩!私ははしゃいでなんか!」
必死で否定するイリーナを、レノがきゃらきゃらと笑いながら揶揄っている。まるで仲のいい兄妹のようだ。ルードはサングラスの中で目を細めて二人を微笑ましそうに見守っている。ここにツォンがいたらもう少し空気が引き締まるのだが、とルーファウスは溜息交じりの苦笑を漏らした。
イリーナの鋭い拳をかわしていたレノが、クラウドが本社を立ち去ったと無線で連絡を受けた。
「了解。そっちはもう追わなくていいぞ、と」
ほぼ同じタイミングでザックスが地下の研究室に辿り着いたという報告も受ける。声の若い研究員が穏やかな口ぶりで報告をした。
「こちらも問題ありません。検査は夕方までに完了すると思います。検査結果が出るのは明日以降かと」
「ごくろーさん。社長、オールクリアです。後は検査結果次第だな」
ルーファウスがその報告を合図に、携帯端末でこの場にいない腹心の部下へと連絡を入れた。
「はい、ツォンです」
「クラウドとザックスの合意は得た。二人の検査が終わったら作戦開始だ。お前の方はどうだ」
「成果はありました。戻り次第、詳しく報告いたします」
ルーファウスは分かったとだけ返事をすると通話を切った。
「ツォンが帰ってくる。レノとルードは通常業務に戻れ。クラウドたちとの取引の件もあるだろう」
「ザックスが帰るまで護衛いなくていいんです?」
「構わん、イリーナがいる」
社長直々に名指しされて、イリーナは嬉々とした表情を隠せない。いそいそと社長の背後に回り込むと、彼の尊敬する上司の立ち姿を真似て、手を後ろに組んで直立の姿勢をとっている。
レノとルードは笑いながら社長室を出ていった。社長も分かっていて彼女を残したのだろう。彼女の護衛としての能力は申し分ないし、なによりも可愛い後輩を女好きで知られる夜の街の帝王との交渉に向かわせることはない。血気盛んな彼女がコルネオと対峙したら自分たち以上に血腥いことになりそうだ。
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