kokokisu
2020-10-15 23:37:40
2697文字
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【セフィクラ】さよなら、星を旅した仲間達


 この星に俺を知る奴があんただけになってからどれくらい経つ?
 最後の仲間のナナキを見送った時、それに気づいてぞっとした。人と関わる事を止めて、街に住むのを止めて、あんたと話す時以外は人間の言葉を使わなくなった。ナナキが言い残したんだ。言葉もいらない関係だったね、と。一番長く一緒に暮らして、種族は違ってもお互いが誰よりも大切だった。それなのに彼がいなくなった途端、俺は“誰か”を探さずにいられなかった。真っ先に思い浮かんだのがあんただった。俺の故郷を焼き払い、母を殺し、大切な人を奪っていったあんたが。今や俺にとって唯一の繋がりだった。
 酷い気分でこの手紙を書いている。殺し合う為に存在しているような相手に、俺は救いを求めているんだ。
 もう一度あんたが蘇ったら、今度は剣じゃなくて言葉を交わしてみたい。みっともなくののしり合ってから、気が済んだら昔の話をしないか。俺はあんたが俺に執着する理由も聞いていなかった。
 仲間がいなくなってから、俺は自分が生きているのかも分からなくなってきている。もう、喜びも悲しみも、憎しみでさえもすり減ってなくなりそうだ。俺は死ねない。だから、生きたまま死にたくない。あんたに会えば、生きる感覚を少しは取り戻せるかもしれない。
 もしあんたがこの手紙を読む事があったら、ミッドガル跡地に来てくれ。俺はそこを動かない。この肉体に終わりがあるなら、消滅するまでそこにいる。

 何年海を漂ったか知れない薄汚いビンにその手紙は入っていた。書いた本人は文字と認識していたのかもしれないが。紙の上にのたくった筆跡は、とても読めたものではなかった。モンスターの鳴き声を言葉として解読する程、その手紙を読む事は困難だった。
 セフィロスは手紙に残った思念を依り代に復活を遂げていた。それに込められた願いは、本体の持つ意思よりも強い物だった。それは既に本体の持つ意思が、存在の核と呼べるそれが希薄になっている証であった。
「何も海に投げなくても良いだろう」
 セフィロスは苦々しく言って、空になったメッセージボトルを海へ放った。栓の抜かれたそれは、海水を吸い込んで海底へと沈んでいく。誰にも見つからずその末路を辿っていた男の想いを考えて、酷く頭の芯が重くなった。あるいはそれでも良いと思っていたのだろうが。
 久しぶりに踏みしめた大地は白い砂浜だった。神羅の一部だった頃と変わらない出で立ちに容姿。あの男、クラウドの記憶を核として受肉した、「セフィロス」という存在。クラウドへの強い執着以外は、全て彼に与えられた。
 草木の生い茂り、完全に朽ち果てたミッドガルに彼はいた。まるで生きた彫像のように、剣を抱えて座っている。もう街だった痕跡もないが、かつてここには教会があった。彼が見送った家族は皆、ここに眠っている。
 セフィロスはクラウドのくすんだ金髪を優しく撫でた。
「クラウド、起きろ」
 この男が生きていなければ、自分という存在を形造る核がなくなってしまう。それは、思念となり永遠を生きるセフィロスにとっての“死”そのものであった。
 終わりを彼に決めさせるつもりはない。彼は、自分の為に生かす。その為なら、彼が希う存在になってやろう。
 眠りから覚めたクラウドが、目の前にいる男を認識した。魔晄に染まった目を大きく見開き、薄い唇の隙間から声を漏らす。
「あっ、う、ああ!」
「文字だけじゃなく言葉も忘れたのか、クラウド」
 それでもセフィロスが自分にとって何者かは覚えているのだろう。クラウドは手に剣を携えると、彼を眼光鋭く睨みつけた。
 違和感に気付いたのはその時だ。セフィロスは、常に彼の背丈を優に超える抜き身の刀を手にしていた。だが今の彼は何も武器を持っていない。服装は最強の戦士だった頃と何も変わらないのに、それだけが異常だった。
「っあんた、剣はどうした」
「ほう、人間の言葉をまだ覚えていたか」
 セフィロスは生身の自分へ剣を向けるクラウドへと皮肉たっぷりに言った。
「話をするのに剣は不要だ。この手紙を覚えているか」
 ところどころ破けた古い紙きれをクラウドに見せる。クラウドはまるで取り返しのつかない過ちを見せつけられているように眉根を寄せた。
……もう俺は眠るって決めたんだ。あんたを頼るなんてどうかしていた。星の支配者になりたいなら勝手にしてくれ。俺にはもう、守りたい人もいない」
 クラウドは剣を下げて、再び崩れかけた石の上に座った。草に覆われてみえなくなっているが、そこには彼の家族だった人達の名前が刻まれていた。
「哀れだな、クラウド。まるで昔のお前のようだ」
 生きる意味を見失い、一人で消えてしまおうとする彼。セフィロスが殺したいと思う程の執着を抱いた男の姿はそこにはなかった。
 このまま眠ってしまうと言うのなら、いっそ彼の命を奪ってしまおうか。生きる意志のない彼なら、戦うまでもなく倒す事ができる。
「その価値さえも、今のお前にはないな」
 セフィロスは嘲りの笑いを零した。生きたまま死んでいる男に執着を抱いていた自分も、それでも彼への未練も捨てきれない自分もどうしようもなく馬鹿馬鹿しかった。
「クラウド」
 それまでになく穏やかな声で彼の名を呼ぶ。上向いた彼の頬を大きな手で掴むと、彼と唇を重ねた。
……あんた、何のつもりだ」
 さも迷惑そうに言って、クラウドは腕で口を拭った。このまま死んでも良いと言った男がようやく感情らしい感情を見せていた。
「お前には生きてもらう」
「俺は生きている。誰の所為で死ねなくなったと思っているんだ」
「違う。俺の為に生かすと言っているんだ」
 クラウドはそれを聞いて盛大な失笑を漏らした。
「冗談じゃない。どうして俺が、あんたの為に」
「俺への憎しみはまだ残っているようだな。それなら俺も、当分は消えずに済みそうだ」
 そう言ってセフィロスは、口角を持ち上げて笑った。クラウドの心臓が久方ぶりに強く脈打つ。この笑い方に憧れた事もあった。すり減ってなくなったはずの感情が蘇ってくる。
「あんたは、ずるい」
「それもお前が望んだ俺だろう」
 セフィロスに腕を掴まれ、クラウドは立ち上がった。彼の言う通りだ。今の彼は、自分の望みを反映している。彼は思念に受肉する際、クラウドの記憶の影響を強く受けた。憎しみが今よりも大きかった頃は絶望をもたらす存在だったのに。全ての仲間を失って、もう彼を憎み尽す事も出来なくなっていた。
 ミッドガル跡地に別れを告げる。一人の寂しさを教えてくれた皆へ。