kokokisu
2020-10-07 00:43:56
6757文字
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【ザックラ】ボディ・コミュニケーション 中


 ミッドガルのプレートを睥睨する神羅ビルのふもとに神羅社員の為の宿舎があった。零番街の端にある一般兵の宿舎は、軍備置き場の倉庫と見分けのつかない粗末な造りをしている。クラウドが寝泊まりしているのはこちらの区画だ。クラスファーストのソルジャーであるザックスは、それとは別の区画に神羅カンパニーから家宅を与えられていた。
 神羅ビルから歩いて行ける距離にソルジャー専用のマンションがある。セキュリティや任務遂行の合理性からビルの直ぐ近くに建てられているのだが、一等地に建てられた高級マンションでの生活は一般兵にとっては憧れの的でもあった。ファーストはその中でも最上階付近のワンフロアを住居としており、サードやセカンドのソルジャーでも立ち入ることができない。多忙なファーストのためにハウスキーパーまで手配されており、宿舎と銘打ってはあるが実質一流のホテルと住み心地は変わりなかった。一般兵の宿舎と比べると居住環境は正しく雲泥の差だった。
 ザックスの部屋に足を踏み入れたクラウドは、その広さと清潔さに感嘆の声を上げた。
「リビングだけで俺の相部屋よりも広いよ」
 それを聞いてザックスは笑った。ソルジャーの制服を脱いで上半身裸になる。
「任務ばっかでほんと寝るだけの場所になってるけどな。クラウドもここで暮らすか?ベッドルーム広いし、もう一個くらい余裕で置けるぞ」
 クラウドは慌てて手を振った。
「いいよ、勿体ない」
「勿体ない?何が?」
 何も思い当たるものが浮かばずに、ザックスが首を傾げる。クラウドは恥ずかしそうに俯いた。
「俺はただの一般兵だから。身の丈にあったところに済まないと、みんなに笑われる」
 ザックスはそれを聞いて軽く眉根を寄せた。卑屈に聞こえるが、そうならざるを得ない事情があるのだろう。軍隊ではよくある話だ。閉塞的な世界なので、嫉妬からのいじめは多い。
 リビングからベッドルームへとクラウドを案内する。ザックスは暫く留守にしていたのだが、ここだけ他の部屋とは違う空気が漂っていた。寝室には家主の香りや気配が染みついていた。クラウドはそれを感じ取って少し緊張してしまった。友人が少なかったのであまり人の部屋に呼んで貰った経験がない。
 ザックスはクラウドの反応を見てやましい思いが湧き上がりそうになった。寝室は特別な人しか入れない空間だ。これから彼と二人でベッドを共有する。意識しない方が無理だ。
 ザックスがベッドに腰かけた。クラウドがその正面に立つ。
「うつ伏せになって。ズボンもベルト外したほうがいいな」
 彼に言われる通り、ザックスはベルトのバックルを掴んだ。妙な気分になりながらベルトを引き抜いていると、クラウドまで神羅軍の制服のベルトを外し始めた。ザックスは驚きの余り目を向いた。ジャケットのファスナーを下ろす彼の指の動きはここに連れ込んだことのある女との行為を連想させた。
 彼の言うマッサージは、もしかしたら自分の知るものと違うのかもしれない。そういう名前を付けたサービスが六番街のスラムにはある。クラウドへと無意識に抱いていた下心がそうさせたのだろう、ザックスはいやらしい妄想が頭の中に溢れ出てしまった。
「いや、ちょっと!」
 ザックスは慌てて彼を止めようとした。だがクラウドは一度怪訝な顔をしただけで、ザックスの制止を無視してジャケットを脱いでしまった。サイズが合っていないのだろう、だぶついた白いタンクトップだけの姿になり、彼の細い腕が露わになる。日に焼けていない肌は正しく雪のような白さだった。
 動揺するザックスを余所に、クラウドは平然とした顔をしている。
「マッサージって、結構体力使うんだ。ジャケット着たままじゃ暑くて……
 クラウドはザックスの肩を掴んでうつ伏せに押し倒した。靴を手早く脱いでベッドに膝を乗せる。ザックスの筋肉質な臀部に跨ると、クラウドは彼の逞しい背中に手のひらを乗せた。
「マッサージ始めるよ。ザックスは何もしなくていいから」
 ザックスは何かを言いかけていたが、クラウドはそれに気づかずにマッサージを始めた。
 肩の付け根を親指の腹で強く押す。ソルジャーは事務仕事が少ないので、筋肉はそれほど強張っていない。だが、ザックスの身体はクラウドにとって大きすぎた。手先だけで揉んでも、彼は何も感じないだろう。全身の体重をかけなければとても揉み解せなかった。彼に跨って、腕に全身の体重を乗せてやっと指を押し込むことができた。
 クラウドはマッサージに合わせて、全身を揺さぶるように前後に動かした。ぐ、と全力で押し込む度に、自然と吐息が漏れる。まだ肩甲骨の辺りしか揉んでいないのに汗が滲み出していた。全身を揉み解す頃には汗だくになっていそうだ。
「ザックス、気持ちいい?」
 突然投げかけられたその質問にザックスがびくりと震えた。跨った体が跳ねあがるように揺れる。
「んっ、うん!気持ちいいです!」
「なんで敬語なんだよ」
 くすりと笑ってクラウドは更にマッサージを続ける。
「眠ってた?いいよ、寝て。俺も終わったらリビングのソファで寝るから」
 言いながらクラウドはザックスの大きな肩から引き締まった腰へと手を下ろした。肌を撫でるような手つきになってしまい、擽ったかったのか、ザックスがまたもぞりと動く。
 思っていた通り、腰の筋肉が一番硬くなっていた。任務地まで長時間のトラック移動に、何日もの間野営をしていたのだ。横たわって眠れない日も多かっただろう。クラウドは肩よりもずっと丹念にザックスの腰を揉み解した。
「ん、やっぱりここ、硬い……。しっかり揉んであげないと。ザックス、どう?もっときついほうがいい?」
「いや、ダイジョブ……
 ザックスは苦しそうに呟いた。硬く握り締めた枕に顔を埋めたままで表情は見えない。
 筋肉が凝り固まっているので、あまり強くすると痛いのかもしれない。クラウドは少しだけ力を緩めて、優しく撫でるように腰を揉んでいった。
 ずっと大人しかったザックスが不意に口を開いた。
「なあ、他の奴らにも同じようにマッサージしてやってんの?こうやって乗っかって?」
 妙なことを聞いてくるな、とクラウドは不思議がった。
「うん。俺は小柄だから、こうしないと揉まれた気がしないって。力も強くないから……
 へえ、とだけ言って、ザックスはまた静かになった。暫くすると寝息のように穏やかな呼吸が聞え始めた。
 もしかしたら今度こそ眠ってしまったのかもしれない。それ以降何も言わなくなったので、クラウドも黙ってマッサージを続けた。


 うつ伏せの体勢で良かった。だがこのままだとマズい。限界を超えそうなのに、クラウドは立て続けに誘惑としか言えない動作を繰り返している。
 デート一回の相手ならとっくに場所を入れ代わってぐちゃぐちゃに抱いていた。だがクラウドは違う。乗っかっているのが友達というだけで、今の状況はザックスにとって拷問と化していた。
 クラウドには何の素振りも見せずに、ザックスはどうやってこの事態を打破しようかと必死に考えていた。まず思い浮かぶのが、クラウドの腕を掴んでベッドに押し倒し服を脱がせて、というもので、慌ててその思考をかき消す。それならマッサージを止めて貰うかと思ったが、それは彼を傷つけてしまいそうでできない。だからといって終わるまで待つ、というのも辛い。クラウドに気付かれないよう少し腰を浮かせてしまう程にそこは育ってしまっていた。
 まず、乗っかられた瞬間にやばいと思った。クラウドの柔らかい小さな尻が、自分の身体にぴたりとあたってくる。ズボン越しだったからギリギリ理性を保てた。なのにそのまま上で前後運動をされて、喘いでるみたいな声を出されて、ぺたぺたと身体を触られて。挙句の果てに、「ザックス、気持ちいい?」とか「ザックスの、硬い」とか言われては、熱が暴発しかけるのも無理はない。
 何度も自分が何を我慢しているのか分からなくなりかけたが、その度にクラウドは『トモダチ』だと自分に言い聞かせた。それ以外に衝動の防波堤がなかった。力では確実に勝ってしまうし、彼は同性すら狂わせるほどに可愛い。彼のことは好きなのだが、友達としての好きだから、一線を超えるのは駄目だと判断できるだけの分別は一応残っていた。同じく自分を友達だと思っている彼を傷つけたくなかった。
 クラウドはこれを無自覚でやっているのだから危うい。ザックスは彼の貞操を本気で心配した。彼を敢えて指名していた男たちは確実にマッサージ以上の何かを求めている。それどころか相手の男たちに自分の身体を揉ませたと言っていた。彼が気付いていないだけでいやらしいことをされていたのではないだろうか。
 彼と身体を触り合った男たちのことを想像するだけで頭の血管が切れそうになる。そいつらは後で特定して絶対に締め上げるとして、問題は今だ。
 どうやったら彼のマッサージに感じてしまっていると知られずに済むか。クラウドを襲わないのは当然として、友達である彼をいやらしい意味で意識してしまったと気付かるのも避けたい。下手したら嫌われてしまうかもしれない。いやそれだけならまだいい。たった二つしか違わないとは思えないほど、自分たちは体格も力も立場も違う。彼が自分を恐れるあまり、こちらの要求に従ってしまう方がザックスは怖かった。
 煩悶していたザックスが、ふとクラウドの言葉を思い出した。マッサージの最中、ザックスは眠っててもいい、と。
 枕に顔を埋めたまま、静かな呼吸を続ける。眠れなくても眠ったふりをしてしまえばいい。相手が眠ってしまったら、クラウドもマッサージを止めるだろう。せっかく揉んでもらっているのに申し訳なかったが、とにかく彼に幻滅されたくなかった。

 マッサージが始まってから、ザックスは殆ど何も喋らなくなった。クラウドはそれを彼が本当に疲れているからだと判断していた。
 カフェで会った時、彼は見たこともないような険しい顔をしていた。いつも明るく笑っている彼が笑顔を忘れてしまうほどの任務。一般兵の自分が同行しても敢え無く命を落としてしまうような危険な戦場。それが彼の生きている世界だ。
 彼はソルジャーと言うだけで、危険な任務を次々に依頼されてしまう。まるで神羅が彼を死ぬまで戦わせようとしているかのように。何のために強くなったのかと、疑問に思ってしまうことはないのだろうか。彼と親しくなり、彼のおかれている境遇を知るにつれ、クラウドは彼のことが心配でたまらなくなっていた。
 腰を揉んでいた手を止めて、クラウドは呟いた。
「俺は、こんなことしかできないけど……。本当に感謝しているんだ。ザックスたちが危険な任務を引き受けてくれているから、俺たちは死なずに済んでる」
 ザックスの広くて逞しい背中に手を乗せる。憧れの人の身体だ。彼のように強くなれたら、といつも思っている。
 クラウドは照れ隠しのように笑みを零した。
「口で言うのはやっぱり恥ずかしいな」
 だから、マッサージで少しでも伝わればと思ってこんな提案をした。また一日も経たない内に、彼はまた過酷な任務に赴かなくてはならない。目が覚めてから身体が軽くなったな、と感じてくれたらそれだけで嬉しかった。
 自然とマッサージをする手に力が入り、身体が熱くなってきていた。ザックスは、タンクトップに下着と身軽な恰好をしている。彼が眠っていることを再度確認すると、クラウドは制服のパンツも脱いでしまった。
 火照っていた身体が涼しくなり、マッサージを続ける気力が蘇ってきた。クラウドはザックスに背中を向けて太腿にぽす、と跨ると、彼の脚を揉み始めた。筋肉で膨らんだ太腿は両手を使っても指が届かないほど太く、ふくらはぎもクラウドの腿より太かった。しかし膝や足首の関節は締まっている。どう鍛えたらこんな身体になるのだろうと、クラウドは感嘆するばかりだった。
 足首を両手で掴み、膝に向かって血を押し流しながら揉み上げる。筋肉で肥大したふくらはぎのあたりで掴めなくなり、表面を撫でるようになってしまった。
「ザックスの脚、おっきくて両手でも包めないな……。下から上に扱くと気持ちいいって聞いたんだけど」
 クラウドはもう一度、とさっきとは別の足首を掴んだ。倒した上体を起こしながら、足首から膝に向かって手を滑らせていく。やはり膝に届く前に指が解けた。自分の小さな手では無理だ、と諦めた。
 次は太腿を、と体勢を変えているときだった。急にザックスが起き上がり、彼の身体に乗っかっていたクラウドはバランスを崩してベッドに転がり落ちてしまった。
 ザックスと場所を入れ代わったクラウドは、シーツの上に手を付いて身を起こした。ずっとザックスの横たわっていたベッドは心地良い温度に暖まっていた。
「起きたの?起こしちゃった?」
クラウドの問いかけにザックスは応えない。クラウドの肩を掴み、彼の身体をシーツに縫い付けるよう押し倒した。
「ごめん、クラウド。俺もう駄目」
 目は据わっており、薄暗い寝室でも分かるほど彼の表情は険しい。ザックスの様子にただならぬものを感じ取り、クラウドは身を強張らせた。何か彼の気に障ることをしてしまったのだろうか。
 ザックスはクラウドを押しつぶすようにキスをした。突然のことだったので、クラウドは彼が何をしたのかもわからなかった。唇同士が触れ合っていると気付いたのは、ザックスの舌が口の中に入ってきてからだった。意識した途端に、顔が燃えるように熱くなっていった。
 満足するだけクラウドの柔らかい口の中を蹂躙した後、ようやくザックスは舌を引き抜いて唇を離した。
 抑えつけられて身動きが取れなくなっているクラウドをじっと見下ろす。一線を超えようと誘ったのは彼だ。わざわざこんな、下着だけみたいな姿になって身体を擦り付けてきた。彼に慕われて、慈しまれて、愛情を注がれていることまで分かってしまった。今更、彼に拒絶されなくてはならない理由が分からない。
「クラウド、俺お前のことが好きだ。だから、クラウドのこと抱きたい。クラウドも俺のこと好きって言ってくれたら、続きをしたいんだけど、いい?」
 クラウドはザックスの告白を直ぐには呑み込めなかった。ただ顔が熱くて、さっきされたキスの余韻がいつまで経っても消えなかった。熱に翻弄されているようなザックスの顔から視線を下げると、下着を持ち上げるほど硬くなっている彼のものが目に入った。自分の腕のように太くなっていて、思わず血の気が下がってしまった。
 怯えるクラウドに気付いて、ザックスは何度も優しくクラウドの首や鎖骨に唇を付けた。
「頼む、優しくするから。クラウドも俺のこと好きだろ?」
 飢えた獣のようなザックスの前で、クラウドはただ身体を明け渡すしかできなかった。彼のことは好きだが、そんなつもりでマッサージをしたわけではないのに、と怖くなってしまう。ザックスが突然豹変した様に見える。何が彼に火を点けたのかが全く分からなかった。
「好きだけど、でも……
 心の準備ができていない。彼を友達としてではなく好きなのかもクラウドはよく分かっていなかった。
 戸惑うクラウドへと、ザックスは一途な視線を向けた。
「俺以外の男もこんな風に触った?」
 まるでそうであって欲しくないと祈るような口ぶりだった。その質問にクラウドの心臓が縮まった。自分がザックスをどんな手つきで揉んでいたか、自覚せざるを得なかった。他の同僚や上司に対して同じ感情を抱いてマッサージしたことはない。ザックスだけは特別で、彼の辛い表情が見たくなくて、だから癒したいと思った。これが好きという感情なら、ザックスと同じ気持ちでいるということになる。
 クラウドは恥ずかしそうに俯きながら微笑んだ。
「ザックスだけだ。俺もザックスのことが好きだよ」
 クラウドはザックスの首を抱き締めて彼を引き寄せた。自分からも軽く口を重ねる。身体を密着させると彼のそこがあたって、自分とは比べられない大きさであることが分かった。少し怖いが、彼に痛くされるのはきっと耐えられる。クラウドはザックスのために自分がなにかできることが嬉しかった。
 控え目なキスがクラウドらしい。ザックスは彼が可愛くて仕方なかった。彼の気持ちを確かめると同時に、彼の薄い身体を弄り始めた。クラウドには悪いが、マッサージの間にずっと我慢していた分を、ようやく発散できるとしか考えられなかった。