最終戦の相手は、受付で絡んできた大男だった。四角い闘技場で対面した彼を見て、ザックスはぴゅうと口笛を鳴らした。男へと挨拶代わりに手を上げる。先ほどまでの連戦で戦った相手はザックスでさえも気を抜けないモンスターばかりだったが、男も無事勝ち上がったようだ。顔見知りの彼が決勝の相手であることに対して、ザックスは純粋に喜びを覚えていた。
男はザックスの姿を見た途端、大きく悪態を吐いた。自信がある様子だったので腕が立つことは予想していたが、ここに辿り着くまでに傷一つ負っていないとは何者だろう。マテリアを装備していたので、魔法で回復したのだろうか。それにしては気力も消耗していないようだった。
「よろしくな」
ザックスの言葉を無視して、男はゴングの音と共に彼へと飛び掛かっていった。
身体が大きいだけではなかったようで、男の拳は素早く鋭かった。ザックスは身を捻って男の拳を全て避けた。手で受けたら痛いだろうな、というのが風圧で分かる。身体を傾けて不安定になったザックスを追いかけるように男が丸太のような腕を振るってきた。脇腹に拳が届く直前、ザックスは床に手を付いてその勢いのまま後ろに飛び退った。
「逃げてばっかりかよ」
「直ぐ終わっちゃつまんないだろ、ギャラリーも盛り上がってることだし」
ザックスは観客席を見回した。ここまで勝ち上がる間に既に女性ファンがついていて、黄色い歓声を上げながら応援してくれている。それに笑みを浮かべひらひらと手を振り応えると、更に遠くの座席まで見渡した。
クラウドの姿が見つからない。予選の時から特徴的な金髪の頭を探しているのに、彼らしき人はどこにもいなかった。園長からバイクの燃料を貰うと言っていたので、その話をつけにいっているのだとは思うが。交渉が難航しているのだろうか。
よそ見をしていたザックスに男が猛烈な勢いで突進してきた。背中に背負っていた合体剣を手にして、ザックスは咄嗟に男の体当たりを受け止めた。ガン、と人間がぶつかってきたとは思えない音が響く。全速力を出していたトラックにはねられるような衝撃だった。普通の人間だったら、全身の骨を折られて場外まで弾き飛ばされていただろう。
「ちょろちょろ逃げ回りやがって」
額に血管を浮かべた男が、剣を構えたザックスの両腕を掴んだ。その途端、すばしっこいネズミを捕まえたような笑みを浮かべた。いくら素早くてもこの体躯では、自分に力で敵うはずがない。
男はザックスをそのまま持ち上げて場外に投げ飛ばそうとした。気絶させるか、戦闘不能状態にするか、相手を場外に出したら勝ちだ。車でさえも持ち上げられる男にとって、彼の身体など路傍に転がった棒きれに等しいものだった。
だが、持ち上げようとしたザックスは、まるで地面に根付いた巨木のように動かなかった。男が驚愕して再び腕に力を籠める。渾身の力で彼の足を床から引き剥がそうとしたが、それよりも先にザックスは男の太い腕を片手で掴み返した。
クラウドの剣を背負い直し、男の手を手で受け止める。足で地面を踏みしめると、男と真っ向から力比べをする体勢になった。二人の体格差は歴然であり、ザックスの手は掴まれた男の手に埋もれて見えなくなる程だった。だが、ザックスはその顔に余裕のある笑みを浮かべていた。
ギャラリーもザックスが男に力で敵うはずがないと思ったのだろう。大人と子供の体格差だ。ザックスの身を案じて沈痛な声を上げる者や、男に罵声を浴びせる女の声が会場内に響いた。場内の人間は皆がこれから始まるであろう一方的な凌辱に戦慄していた。
ただ一人、ザックスと対峙している男だけが、自分の相手にしている人間の底知れなさに気付いていた。
ザックスは目をギラギラと闘志に燃やしながら唸るような声を上げた。
「いいねえ、力勝負。俺、そういうの好きだぜ」
男の手に食い込んだ二回りは小さな手が、更に力を込めて指を食い込ませてきた。男はその苦痛に顔を歪めながらも、闘技場の床を踏みしめてその場に留まろうとしていた。
少しでも気を抜いたら、赤ん坊を転がすようにひっくり返されてしまう。男は目の前の小さな男が、絶対に動かすことのできない壁のように見えていた。まるで土に埋まった巨大な岩が、先端だけ地表に現れているようだった。腕力で彼を動かすことは絶対にできないと、組み合った瞬間に思い知らされていた。
力に自信がないから、剣を背負っているのだと思っていたのに。今は貴重なまほうマテリアを装備しているのも、それに頼っているからだと見くびっていた。とんでもない思い違いだった。目の前の軽薄そうな、女好きしそうな顔をした男は、自分が今までに対峙したどんな相手よりも強い肉体をしていた。
ザックスは男と組み合ったまま、再び会場を見回した。ふと、右手の奥まったところに人が座るための席があることに気付いた。人が溢れ返り込み合っている観客席と違い、そこには数える程しか椅子が置かれていない。この施設の支配人や特別なゲストが観戦するための席だろう。黒光りする肌の筋骨隆々とした男と、その隣には色の白い金髪の男が座っていた。脳がそれを彼だと認識する前に、目が探していた人物を見つけ出して、ザックスは反射的に満面の笑みを浮かべていた。
「クラウド!見てるか?これ、決勝戦だぞ!」
会場にいる全ての人間から注目を浴びる男が自分を向いて名前を呼んでいる。観客どころか対戦相手まで、クラウドの方へと視線を向けた。クラウドは恥ずかしさに硬直して、ついむすっとした表情になってしまった。
「……最初から見てるよ。見逃すわけないだろ」
口の中で発したように低い声だった。隣に座る人間でも殆ど聞き取れないほど、小さな音。だが、ソルジャーであるザックスには耳元で囁かれたかのようにはっきりと聞こえていた。
ザックスはにまりと笑みを浮かべた。彼からの声援は、どんなに可愛い女子から黄色い歓声を上げられるよりも効果があった。自然とやる気が漲って、ザックスは対峙している男の手を握る力を強めた。
分厚い筋肉と脂肪で守られた手が、目の前の小さな男の握力で壊されそうになっていた。握り締められる圧で関節が外れかけている。強い痛みに、男はぐう、と唸り声を上げた。掴み合うことができなくなり、男は手を開いて逃げるように身を仰け反らせた。勝てる相手ではないと思った。もう組み合う気は毛頭ない。だが相手は手を組み合わせたまま離さなかった。
「楽しかったぜ、ありがとうな!」
ザックスはそういうと、組み合っていた手を離して男の手首を掴んだ。痛みから逃れられて安堵している間に、男の視界は反転していた。
身体が宙を舞っている。足元に観客席が見えた。頭上には先ほどまで対峙していた青年の笑顔。それがすさまじい勢いで下に落ちていく。母親でさえ我が子を持ち上げられなかったこの巨体を投げ飛ばしたのだと気付いた頃に、男は闘技場の場外に背中から落下していた。
会場の静まり返っていた空気が破裂した。場内にいる観客が、たった今誕生したばかりのチャンピオンを祝福する歓声だった。怒号のような称賛、黄色い悲鳴、いつしか会場の人間は、彼の名前を繰り返し合唱していた。
耳が割れそうな声援が津波のように押し寄せてくる。ザックスはその声を浴びながら、彼の座る観客席へと満面の笑みを向けた。
「クラウドー!勝ったぞ!この勝利はお前に捧げる!お前のために勝ったんだ!」
会場を揺らす声援にも負けない声量で、彼はクラウドへと声をかけた。彼が口を開く間だけ、みなが口を閉ざして耳をそばだてているようだった。称賛を一身に浴びる英雄が、観客席を埋め尽くす人垣の中のたった一人に向けた言葉。会場の誰もが、彼の想い人の名前を認知した瞬間だった。
試合中に彼に心を盗まれた女性が悲鳴をあげる声が聞こえる。酒に酔った男が、がなるように囃し立てる声も。血で血を洗う、強者しか立つことの許されない闘技場は、その瞬間に安っぽい告白の舞台になった。
クラウドは隣に座る男が興味深そうに笑っていることに気付いた。この席を用意してくれたことには感謝しているが、詮索は余計だ。クラウドは苦い顔で頭を抱えながら観客席を後にした。
闘技場のステージからバトルスクエアの入り口に移動するまでの道は、ザックスにとってはレッドカーペットのようなものだった。初対面の人間に鬱陶しいほどにもてはやされ、美女たちからは祝福のキスを受けて、子どもたちにサインをねだられ、売店を空にするほどの花を送られて。
世界は人間の力では及ばないような理不尽に溢れている。それが一瞬で日常を滅ぼしかねないのだと、数年前のメテオで誰もが経験していた。どんなに真面目に生きていても、努力を積み重ねても、報われずに終わるときがある。そんな不幸に対抗しうる人間が存在することを、皆が心の奥底で求めていた。
この日、英雄が生まれるなどと微塵も予想していなかった観客たちは、目の前で繰り広げられた奇跡にただただ心を動かされていた。この時代にはもういなくなってしまった英雄の再来だと、観客席にいた誰もがそう感じていた。
ザックスが皆に祝福される光景を眺めながら、クラウドは一人の英雄のことを思い出していた。
銀糸のように長い髪を膝下まで伸ばした、冷徹な印象を与える風貌。緑の瞳はソルジャーの証だと誰かから聞いて、碧眼だった自分はその目に憧れた。今となっては消し去りたい過去だが、ザックスを取り囲む人々は、子供だった自分の熱狂を映しているようにも見えた。
神羅の誇るソルジャー・クラスファーストの英雄は、丁度モンスターの数が爆発的に増え始めた頃にその名前が世界に広まった。正体の分からないモンスターに怯える人たちが、英雄の出現に喜んだのはとても自然な流れだった。どちらも宝条の実験により生み出されたから時期が重なるのだと考えると皮肉な話だ。
人垣を抜けたザックスがクラウドの元へと駆け寄ってくる。プレゼントの花束を山ほど抱えて満面の笑みを浮かべるザックスを見て、クラウドはただただ笑うしかできなかった。
「お疲れ様。大人気だな」
クラウドがザックスの頬に手を伸ばし、残っていた口紅の跡を拭った。彼の長身に届く女性が少なかったのだろう、多くは首元に残されていて、若干複雑な気分になる。彼には女性からのアプローチを避けようという発想すらないらしかった。
「お前が見てんのにダサい勝ち方できないだろ。素手の相手に力比べ!どうだった?」
ザックスは身体に残した大量のキスの跡を気にすることなく笑っていた。あれだけの観客に褒め称えられながら、彼はクラウドしか見ていない。彼が言っていた、この勝利は自分に捧げる、というのはこのことだろうか。大勢の人に称賛される彼が自分だけを向いていることを、クラウドは擽ったく感じた。
クラウドは腕を組むと、少し意地悪な顔をして見せた。
「一回だけ剣を抜いたろ」
相手の男からの突進を受け止めようと、ザックスは反射的にクラウドの剣を盾にした。彼の身体に擦り込まれたソルジャーとしての反射的な動きだった。避けるのが最善だがそれが間に合わないとき、素手で魔物の攻撃を受け止めるのは危険だ。相手が毒を持っていた場合、致死的な選択ミスになりかねない。
「う……、それは」
言い訳をしようとするザックスの唇をクラウドが指で押さえつける。
「冗談だ。かっこよかった」
素直にそれを認めるのが恥ずかしかった。今の彼へ抱いている感情は、子供の頃に夢中になったソルジャーへの憧憬と同じものだ。身近な存在になったザックスに対してそんな想いを抱いたと知られるのは、照れ臭くて居た堪れない。
クラウドの反応はザックスの予想外のものだった。彼は強いので、もっと冷静な感想が返ってくると思っていた。ソルジャーと一般人では相手にならないとか、勝ち方が単純すぎるとか。素直に褒めてくれた彼を見ていると、こちらまで恥ずかしくなってくる。
二人がお互い恥ずかしそうに俯いていると、横から声をかけてくる人間がいた。
「ここにいたのか」
振り返ると施設のオーナーがそこに立っていた。ビキニパンツ一枚という人目を引く彼の出で立ちを見て、ザックスは驚きのあまり仰け反った。
「誰!」
初対面では彼の出で立ちに面食らっても無理はない。クラウドは軽く頭を抱えた。先にザックスを彼に紹介しておくべきだった。
「ゴールドソーサーの園長のディオだ」
ディオはザックスの反応を意に介さず、ただただ穏やかに笑うばかりだった。
「はは、君は今日の闘技場で優勝したザックスくんだね。私のことはディオちゃんと呼んでくれ。先ほどは素晴らしい試合だったよ。クラウドくんがチャンピオンだった頃の試合を思い出した」
「俺だってチャンピオンだろ!」
ザックスの声が聞えていないのか、ディオは彼の文句などどこ吹く風でクラウドへと向き直った。
「さて、約束のスペシャルマッチの時間だ」
クラウドは苦い顔をした。ザックスが負けるとは少しも思っていなかったが、やはりこうなってしまった。ザックスの試合だけで充分盛り上がったのだから満足しても良さそうなものなのに、やはりディオはゴールドソーサーの経営者だ。むしろ彼が闘技場を盛り上げたことが、火に油を注いでしまったらしい。観客を沸かせそうな自分達を絶対に逃さないというぎらついた目をしている。
ディオは善良そうな笑みを浮かべると、困惑するザックスと気まずそうなクラウドの肩を叩いた。
「チャンピオンが認めるだけある。君たちの試合、いい対戦カードになりそうだ」
「へ?」
クラウドはザックスへと直ぐに謝った。
「すまない、ザックス……」
「俺たちの試合……、って、まさか俺とクラウド?」
ありえないよな、という顔でクラウドを見やるザックスだが、クラウドは苦い表情で俯いている。それがディオの思い付きや冗談ではないのだということが分かった。
「バイクのガソリンを譲ってもらう条件だったんだ」
「俺とお前が闘技場で戦うことがか?」
クラウドはますます渋い顔で首を振る。
「いや、俺が闘技場に出場することがだ。そうだろう、ディオ」
ディオが頷く。
「君は絶対王者だからね。並大抵のチャレンジャーじゃ観客も満足しないだろうが、ザックスくんが相手ならみんな納得するだろう。今日の試合は本当に素晴らしかった」
まるで初めからクラウドが勝つと決まっているかのような物言いだった。ザックスがそれを聞いて腹立たしげに腕を振る。
「なんだよ、それ!俺、前座みたいじゃん!」
ディオに掴みかかりそうな剣幕だ。クラウドがザックスとディオの間に割って入る。ディオは相変わらず涼しい顔をしていた。
「いやいや、そんなことはない。王座を決して譲らないチャンピオンがいたら、それに全力で挑むチャレンジャーを応援したくなるのが人の心理だ。ザックスくんがいなかったらこのスペシャルマッチはここまで盛り上がらなかっただろう」
そう言ってうまく誤魔化すと、ディオは豪快に笑いながら闘技場へと戻っていった。
「既に二人ともエントリー済みだ。今更棄権はよしてくれよ。ゴールドソーサー中に今日のスペシャルマッチのチラシを配ったんだから」
何を勝手に、とクラウドが文句を言おうとしたが、ディオを振り返った頃には姿が消えていた。
ただ闘技場に出場するだけで良いと思っていたのに。ザックスが出場するのを止めるべきだったのか、それとも取引の条件を変えてもらうべきだっただろうか。クラウドが申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらザックスを見上げると、彼は難しい顔をして腕を組んでいた。
「ザックス?」
前座のように扱われるのは不愉快だろう、やはりスペシャルマッチを中止にしてもらおうか、と言いかけたが、彼はそれとは別のことを気にしているようだった。
「クラウド、お前一体どれだけこの闘技場で暴れたんだ?」
訝しむような目つきでクラウドのことをじっと見つめている。闘技場でただ優勝したくらいでは、ここまで園長の絶大な信頼を得られないはずだ。一度は決勝戦を勝ち抜いた自分がただのチャレンジャー扱いなのだから、彼はそれ以上の戦歴を重ねているということになる。
クラウドは眉根を顰めながら視線をザックスから逸らした。ゴールドチケットを持っていることから察して欲しい。全ては若気の至り、ということにしておいて欲しかった。
闘技場の控室で、ザックスとクラウドは待ち時間に装備を整えていた。二人とも対等な条件で戦えるように、とお互いにクラウドの合体剣の内の一本を所持しただけになる。常にクラウドが身に着けていたまほうのマスターマテリアが嵌ったバングルも、ディオに預けることにした。
「これだけは身に付けさせてくれ」
クラウドはそう言うと、ザックスの腕に結んでいたピンクのリボンを解いて自分の腕に巻き直した。ザックスが手伝いを申し出ようとしたが、彼は器用に片手と口で結び直している。自分との戦いでそれが身を守る役割を果たしそうもないのに、結び目が解けないよう入念に確かめていた。ザックスはそのアクセサリーがクラウドにとって何か特別な意味を持つものなのだと察した。
「それ、ティファも付けてたな。何か意味があるのか?」
ザックスに問いかけられたクラウドが、寂しげな笑みを浮かべた。
「ああ。こうしていたら忘れないだろ」
クラウドが自身の腕をぎゅっと握り締めた。彼女が治してくれなかったら、この身体は左腕から腐り落ちていたはずだ。自分のせいで命を落としても尚、彼女は自分を守ってくれた。
クラウドは目を細めてザックスをじっと見つめた。彼も同じだ。命を擲って自分を守ってくれた。彼女に対して抱く感情と同じものを、彼に対してもずっと持ち続けている。こうして彼と再会したことが未だに奇跡だと思えてならない。
自身を見つめるクラウドの瞳の真摯さに気付き、ザックスは気恥ずかしそうに頬を掻いた。
「なんだよ、そんな目で見て。照れるだろ」
命を失ったことなどなかったかのようにザックスは笑っていた。クラウドは湿っぽいことを考えている自分がおかしくなって小さく噴き出した。
「いや、そういえばあんたは俺の憧れだったなって思い出して。神羅の英雄、クラスファーストのソルジャー」
神羅に追われた彼にとって、その肩書はもはや誇れるものではないのかもしれない。しかし当時のクラウドが彼に抱いていた憧憬は本物だ。
決して力では追いつけないと思っていた彼と対等に戦う場が与えられた。純粋に誇らしかった。彼に守られてばかりだった頃に求めて止まなかったものを、今の自分は手にしている。彼と同じくらい強くなったと証明できたら、彼から命と共に引き継いだものを少しは示せるかもしれない。
クラウドはザックスの前で背筋を伸ばして直立した。彼の額を見つめて右手を掲げ、敬礼する。何年振りかも分からない軍隊式の所作だったが、正しい姿勢は数年間に叩き込まれて今でも身に沁みついていた。
「胸を借りるつもりで戦わせてもらう」
ザックスは苦笑いを浮かべた。神羅の英雄と呼ばれたことに対してではない。クラウドからタークスの話を聞いて、神羅の全てを憎むことはないとも思っているのだろう。それよりもむしろ、何もかも見せ合った間柄のクラウドに憧れと言われることが照れ臭かった。
半ば遊びのつもりだったザックスも、クラウドの振る舞いを見て居住まいを正した。見栄えのする高身長に鋼の芯を入れたように背筋を伸ばすと、素早く腕を額に掲げて答礼する。
「手加減しねーぞ」
「お互い様だ」
控室から闘技場への扉が開く。試合の合図だった。二人は姿勢を崩すと、お互いの目を見てにっと笑い合った。
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