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kokokisu
2020-08-11 03:21:59
4725文字
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#クラウド生誕祭2020
偶然が偶然を呼び寄せる、ということもあるのだろう。この日のクラウドは、懐かしい面々と次々に鉢合わせていた。
セブンスヘブンの入り口で会ったバレットは、久しぶりにマリンの顔を見に来たと言っていた。採掘は順調で、新しい油田の開発は仲間が進めていると。数日だが休みを取って、彼はマリンと親子水入らずの時間を過ごすと予定を明かした。
記念碑の辺りで再開したのはシドだ。彼は新しい飛空艇のテストフライトで近くまで来たので、暇潰しにエッジまで立ち寄ったらしい。シエラも一緒で、飛空艇の整備が終わるまで、暫くはこの辺りに滞在するつもりと聞いた。
ユフィは、嵐のように突然店に押しかけてきた。リーブの手伝いでエッジへやってきたそうだが、WROは人手不足で、ユフィちゃんがいないと立ち回らない。仕事がひと段落するまで、セブンスヘブンに泊めさせてもらうと押し切ってしまった。
クラウドは懐かしい仲間たちとの再会を喜んでいた。世界中の自分の居場所へと帰って行った彼らが、理由もなくエッジを訪れることは滅多にない。それぞれが進むべき道を歩んでいる彼らを引き留めるのは気が引けた。だが、偶然同じタイミングで街に集まっているのなら、久しぶりに皆で話すのも良いのではないだろうか。近況を聞きたいし、懐かしい昔話をするのもいい。
クラウドの提案に、ティファは直ぐ賛成してくれた。マリンとデンゼルも夜はパーティーだと聞いて大いに喜んだ。ご馳走もだが、クラウドとティファの仲間たちと会うのを楽しみにしているようだった。二人にとって彼らの思い出話は心の弾む冒険譚だ。
早速仲間に連絡を入れて、クラウドは街へ買い出しに向かっていた。フェンリルで通りを走っている最中、思いがけぬ人影を見かける。
黒い長髪に赤いマント。バイクを止めて振り返ってみると、そこには既に彼の姿はない。エッジに暮らす住民がいつもの日常を送っているだけだ。
クラウドは、見間違いだったのだろうか、と考え直した。さすがに、ヴィンセントまでエッジを訪れているということはないだろう。彼は普段、人と関わらないようにして生きている。用事もないのにエッジを尋ねるなど、あり得ない。
きっと懐かしい顔を沢山見て、自分の願望が彼の影を作り出してしまったのだ。クラウドが再びバイクのエンジンをかける。走り出そうとしたとき、赤い獣が路地裏を歩いているのを見つけた。
「ナナキ!」
今度は見間違いではない。彼の尻尾に灯った炎も、赤銅色の鬣も、彼以外に持ち得ないものだ。彼は人目を忍んで姿を隠しながら移動していたが、クラウドには通用しなかった。
「あ、クラウド
……
!」
ナナキは驚いて路地の隙間で身を竦めた。クラウドが駆け寄ると、不審な動きで背後を振り向いている。
「どうしたんだ、こんなところで。もう街には来ないって、言ってたじゃないか」
「ええっと、その
……
。買い物だよ、買い物!仲間が怪我しちゃって、薬が必要なんだ」
下手な嘘だ。ナナキの素直な性分では嘘など吐けない。クラウドは軽く頭を抱えて溜息を漏らした。
何故こうも、皆がエッジに集まっている。バハムートが呼び出された訳じゃあるまいし。まさか、自分の知らない所で何かが動いているのだろうか。
ナナキは誤魔化すように口を開いた。
「クラウドこそ、こんなところで何やってるの?デリバリーの仕事?」
「俺も買い物。そうだ、ナナキも店に来たらいい。今日は久しぶりに皆が集まるんだ」
クラウドが口角を上げて笑った。
「夜になったらセブンスヘブンへ来てくれ。ティファが準備を進めてくれている」
ナナキが獣の瞳を細めて低く唸った。燃え盛る尻尾を大きく振り回している。嬉しい、という感情が、彼の身体にまで現れていた。
クラウドが買い出しから戻る頃、Closedの看板を下げた店には既に全員が集まっていた。セブンスヘブンは本日貸し切りである。集まった仲間たちのため、ティファは昼から店を閉めていた。
それぞれがお土産を持ち込んだらしく、セブンスヘブンのテーブルは珍しいご馳走や飲み物やお菓子で隙間なく埋まっている。マリンとデンゼルは、飲み物やカトラリーの準備でテーブルの間を忙しなく走り回っていた。店の手伝いをしているので、二人とも慣れたものだ。
ユフィは何やらナナキを虐めていた。このドジ、と言われているので、多分食器を割ったか何かしてしまったのだろう。リーブスが止めに入ろうとしているが、ユフィは構わずナナキの首に腕を回していた。
バレットとシドがクラウドの帰りに気付き、にっと笑って手を掲げた。必要以上の挨拶が要らない関係が心地よい。クラウドも両手に抱えた荷物を下ろして、彼らの輪に入っていった。
仲間たちとの思い出話は尽きなかった。クラウドは久しぶりに酒を飲んで、沢山食べて、気持ちがふわふわと浮つくのを感じた。
バレットやユフィの下らない冗談につい笑わせられる。シドの惚気は肩を小突いて止めさせると、ナナキの語る壮大な自然の話に感嘆した息を漏らした。酔ったリーブスが神羅の愚痴を零すのを、時折頷きながら聞いてやる。彼らと話すのは楽しい。時間がどんなにあっても足りないと感じた。
デンゼルは仲間に囲まれるクラウドを、珍しいものでも見るような目で眺めていた。クラウドはあまり喋らないし滅多に笑わない。それが今は、ころころと表情を変えて、饒舌と言っていいほど良く喋っている。彼が心を許している人がこんなに沢山いるとデンゼルは知らなかった。
ティファはデンゼルにオレンジジュースを差し出して、彼の隣に座った。
「驚いたでしょ。クラウドっぽくない?」
「ううん。でも、今のクラウドの方がいいよ」
ティファはふっと笑った。クラウドに聞かせたらどんな反応をするだろう。デンゼルが自分に憧れていることを感じ取り、ちょっとかっこつけているだけなのだ、彼は。
夜も更け始めた頃、セブンスヘブンにもう一人の来客が訪れた。
チリンとドアベルを鳴らして、揺らめく影のような気配で店にやってきた彼。まるで人ではない存在のような出で立ちのヴィンセントに、彼と殆ど面識のないデンゼルはすっかり怯えてしまった。しかしマリンは全く平気な様子で彼の元へと駆け寄っていく。
腰に手を当てて、小さい子を叱るような口調でマリンは言った。
「遅いよ!約束の時間、とっくに過ぎてる」
「すまない。店が見つからなかった」
ヴィンセントがコートの中から白い箱をマリンへと手渡した。ティファが席を立ち、重みでふらつく彼女の手からそれを受け取る。
「やっぱり街で見たのはヴィンセントだったのか」
クラウドがワインのグラスを彼に手渡しながら言った。ヴィンセントがそれを受け取り、注がれた赤ワインを軽く舐めるように飲んだ。彼は味を忘れてしまうほど、酒を口にしていなかった。
「なんの話だ?」
一体何を誤魔化そうとしているのだろう。クラウドは不思議そうに首を傾けた。相変わらず、読めない男だ。
クラウドがヴィンセントと話していると、ティファが白い箱を手に、店で一番大きなテーブルの前へやってきた。待ち構えていたかのように他の面子がテーブルを片付けて、箱を置くためのスペースを作る。打ち合わせでもしていたかのように手際が良かった。
ティファがヴィンセントへと軽くウインクした。
「もう隠さなくていいよ」
ティファがクラウドを手招いて、彼を箱の前に立たせる。彼のために準備された特等席だった。
皆が、にやにやと笑ってこちらを見つめていた。妙な雰囲気だ、とクラウドは思った。自分だけ、何かを知らされていないみたいだ。
クラウドは、ヴィンセントの手土産がどんな代物なのかと身構えた。ティファが箱の蓋を慎重に持ち上げる。
そこに表れたのは、真っ白な土台に沢山のフルーツを盛り付けたケーキだった。中央には自分の名前がチョコレートで書かれたプレートが載せられている。
囃し立てるような口笛の音と、クラッカーの音が鳴り響く。マリンが音頭を取り、皆が一斉に口を揃えて言った。
「「「誕生日おめでとう、クラウド!」」」
クラウドは暫く何が起きているのか理解できなかった。あまりにも予想外過ぎて、驚き過ぎて、瞬きもできない。ケーキがある、ということの意味もまだ分からなかった。
「クラウド、忘れてると思ったんだよね」
くすくすと笑いながら言っているのはティファだ。バレットも豪快に声を上げて笑っている。
「サプライズの仕掛けがいはあったけどな。見ろよこの顔」
「うわ、まだ戻ってきてない。おーい、クラウドー。クラウドさーん」
何かがひらひらと目の前で揺れていた。ユフィの手だ、と気づいたのは、彼女のいたずらっぽい顔が視界に入ってからだった。
クラウドはようやく、今日が自分の誕生日であること、皆が自分の誕生日を祝ってくれていることを理解し始めた。
「みんな、まさかこれだけのために
……
?」
「これだけってこたねえだろ。わざわざ飛んできてやったのによ」
シドがクラウドの背中をバンと叩く。リーブもうんうんと首肯した。
「誕生日を祝うって、良いことですよ。大事な記念日ですからね」
「でも、俺なんかが」
祝ってもらうなんて、と言おうとしたクラウドの眼前に、鮮やかな黄色い花が咲いた。
見た瞬間、クラウドの脳裏に彼女の記憶が蘇った。仲間が皆集まったこの場所で、一人の大切な人が欠けている。慈しまれて育てられていた花は、まるで彼女の笑顔のように輝いていた。
「ナナキに摘んできて貰ったの。一輪だけなら、許してくれるよね」
ティファが愛おしそうに花弁を撫でて呟いた。本当なら彼女にも一緒に祝って欲しかった。きっと、こういうお祝いが誰よりも大好きな人だったから。
バレットがクラウドの肩を義手で掴んだ。
「俺には祝ってもらう価値ない、なんて言ったらここにいる全員でおめえをぶちのめすぞ」
「俺には勿体ない、ってのも駄目だからね。このケーキを食べる口実がなくなっちゃうじゃん!」
そう言ってユフィはクラウドにフォークを無理矢理握らせた。
「最初の一口は誕生日の人が食べるんだよ!」
マリンが瞳を輝かせながらクラウドに告げる。
クラウドは助けを求めるようにティファへ視線を向けた。
こんなの、自分の柄じゃない。居た堪れなくて、気恥ずかしくて、どういう対応をしたらいいのか分からなかった。
ティファは目を細めて笑うと、彼女の花をクラウドの胸元に挿して飾った。良く似合っている。さすが、今日の主役。
「みんな楽しみにしてたんだよ。クラウドの誕生日を。あなたに会えて良かったって、みんな思ってる。だから、誕生日を祝いたい。それだけじゃダメかな?」
クラウドは困ったように眉根を寄せた。慣れない感情を巧く表現できないとき、彼はいつもこの顔になる。堪らなく嬉しいのに、それをどう伝えたらいいか分からない。その彼の可愛らしい癖は、この場にいる誰もがよく知っているものだった。
クラウドが手にしたフォークでケーキの一部を切り崩す。白いクリームを纏った一掬いを口に運ぶ。甘くて、柔らかくて、一瞬で溶けてしまった。
大事に最初の一口を呑み込むと、クラウドはぽそりと呟いた。
「みんな、ありがとう」
緊張した面持ちで彼を見守っていた全員が、それを聞いた途端に歓声を上げる。主役はますます恥ずかしそうに頬を赤く染めた。サプライズのバースデイパーティーは、まだ始まったばかりだ。
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