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kokokisu
2020-08-09 19:02:46
10114文字
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【ザックラ・コルクラ】Sunshine above the cloud 4
目を覚ましたクラウドは、馴染みのある自分のベッドに横たわっていたことに安堵した。
窓から差し込む明かりに目を刺されて眠りから覚めた。時刻はもう昼を過ぎていた。
客に休業の連絡をしていて良かったと思う。酷使した身体は今でも鈍痛が残っていた。こんな状態でバイクに乗りっぱなしのデリバリーなどとてもこなせない。
バーで知り合った彼らの相手を明け方までしていた。精力が枯れ果てても、彼らはクラウドを開放しなかった。抱き締めたり、キスをしたり、身体を触れ合ったりしている内に時間は過ぎていった。
人肌が寂しい、というのはクラウドも理解できる感情だった。ミッドガルに縁故の者のいない彼らと、神羅軍に入隊したばかりの昔の自分が重なった。相手が他人でも、触れ合っていると寂しさを紛らわせられるというのは、クラウドも良く知っていた。
彼らはバーで提示した金額の半分も払えなかったが、クラウドは見切りをつけて彼らの住処を立ち去っていった。欲しかった情報なら既に得られている。当面の生活費になればと吹っ掛けた金額だったが、足りなければまた稼げばいい。昨夜のように、日銭を得る手段ならいくらでもある。
男たちから得た情報を元に、クラウドは彼らの仕事場へと向かった。
エッジでも伍番街寄りにある、中心部から離れた区画だった。大通り沿いのように目立つ商業施設はない。ひしめき合っているのは住宅ばかりで、廃材置き場のような空き地では子供たちが遊んでいる。
クラウドが訪れたのは、WROが主導で進めている、孤児院の建設現場だった。
現場には昨夜の男たちもいた。こちらに気付いたのかもしれないが、視線も交わさず、会釈すらせず仕事へ戻っていく。ありがたかった。一晩だけの関係に未練を抱く相手は、得てして厄介ごとを持ち込む。
神羅は社会を物質的に豊かにするために事業を展開していた。対してWROは精神的に生活を豊かにする事業を進めていた。利益は度外視で、それが本当に人々の生活に必要ならば、資金も人材も可能な限りの投資をしている。メテオが落ちる前の世界で神羅に辟易していた人間などは、彼らへの援助を惜しまないそうだ。神羅の抑止力として期待されている側面もあるのだろう。未だに神羅の世界に対する影響力は測りしれない。
建設現場に立ててある看板を見てクラウドは自嘲気味の笑みを漏らした。
現場の総責任者の名前は、リーブ・トゥエスティ。クラウドと共に世界を旅した仲間の一人だ。クラウドの携帯電話にいつも履歴が残っている人物の一人である。
初めから昔の仲間を頼っていれば、ここへ辿り着くのも早かっただろう。無駄な労力を割く必要などなかったのだ。見ず知らずの男たちと身体を使って取引をして得た情報は、リーブを頼れば何も失わずに得られるものだった。
しかしクラウドは何も後悔していなかった。むしろ、リーブからこの情報をもたらされずに済んでよかったとさえ思っていた。
彼らはとても優しくて、親切で、お人よしだ。仲間に頼られたら、何の労力も惜しまずに尽くしてくれる。クラウドにとっては胸の痛くなることだった。自分にそうしてもらうだけの価値があれば良かったのだが、生憎、彼らの親切に返せるだけのものを持ち合わせていない。
クラウドは建設現場を見て回った。伍番街にあった孤児院をモデルにしているのだろうか。平屋のレンガ造りで、植物を植えるスペースを豊富に設けてある。外壁には大人が両手を広げたほどの大きさのチョコボのレリーフが飾ってあった。リーブが彼女の馴染みだった孤児院を知っていたのなら、モデルにしても不思議ではない。
作業員の顔を一通り確かめたが、彼の姿は見つけられなかった。
彼は追われる身だ。もう場所を移していることは覚悟していたが。
軽く落胆しつつ、クラウドは他に情報を得られそうな人物はいないか探した。直ぐ目についたのは、スーツを着てヘルメットを被った、いかにも神羅崩れらしい身なりの良い男だった。神羅の都市開発部門にいたリーブの元部下だろう。WROにいる人材の殆どがそうだと聞いている。
クラウドが現場の代表らしきその人に声をかけた。
「すまない、人を探しているんだが。黒髪で碧眼の、背の高い男だ」
敢えてザックスの名前は言わなかった。元ソルジャーの彼を探していると知られたら、面倒なことになりかねない。リーブの関係者だとしても例外ではなかった。
男はクラウドを振り向くと、彼の姿を軽く見分した。
「
……
ん?どちら様かな」
見覚えのない人間だと分かり、軽く突き放した口調になった。エッジで他人に親切なのは詐欺師くらいだ。クラウドは男の態度に構わず続けた。
「彼がここで働いているって聞いた。命の恩人なんだ。世話になったから、礼をしたい」
クラウドは意図せず真摯な口調になっていた。世話になった、では済まないほどのものを彼には与えられている。恩を返すことなどとてもできないが、叶うなら感謝の気持ちは伝えたいというのは本心だった。
男にもクラウドの気持ちが少しは伝わったらしい。彼は気の毒そうに首を振った。
「彼、もう来ないんじゃないかな
……
。力が強いしよく働いてくれるから、こっちが無理言って引き留めてたんだけどさ。多分、本業に戻ったんだと思うよ。まあ、モンスター退治のほうが儲かるだろうしね」
「行き先に、心当たりはないか?」
男は肩を竦めて首を振った。日雇い労働者の素性など、いちいち詮索しないのだろう。彼からはこれ以上の情報は得られそうになかった。
クラウドは男に礼を言うと、踵を返して建設現場から立ち去った。
薄汚いベッドの中で入手した情報を思い出す。男たちはエッジの六番街付近で仲介業者の男と出会った。ザックスも、同じ男の紹介で現場にやってきたらしい。彼と直接話した人間がいるのなら、足を運ぶ価値があると思えた。
クラウドは街の中心部から更に遠ざかるようにエッジを北上した。
ミッドガルに寄り添って三日月形に拡がる街は、南北へ伸びるにつれて細くなっていく。フェンリルを北へと走らせている内に、エッジの東西の両端を一度に見渡せるほど街は狭まっていた。
カーム寄りのこの区画は、エッジの入り口のような地域だった。徒歩でミッドガルの外からやってくる人間の大半がここを通り抜ける。元歓楽街の六番街が近かったのもあり、エッジの北部は宿場町として機能していた。宿泊施設や娯楽施設は殆どが六番街からエッジ側に移設されて、街は第二のウォールマーケットのように栄えていた。
日の暮れ始めた街が、店から漏れる明かりで煌々と照らされている。夜に目覚める区画なのだろう。太陽が沈む前はくすんでいた街並みが、今はネオンサインを薄闇に浮かび上がらせて活き活きと輝いている。店に隠れていた人間が往来に出て客引きをして、エッジに来たばかりの旅人たちは珍しいものでも見るように目を瞬かせていた。
区画全体を見下ろす位置に、ミッドガルの壁にへばりつくようにして立派な屋敷があった。極彩色の建物の屋根付近に、館の主の名前を書かれた看板が下げられている。磨かれた木製の看板を金箔で飾り立てた悪趣味なそれには、『古留根男』の文字が彫り込まれていた。
六番街を支配していた彼は、ミッドガルの崩落と館の出火で殆どの権力を失った。それでも彼は、ドンと呼ばれていた頃の太い人脈と隠し財宝、そして野生動物のように優れた勘を持って再びのし上がっていた。
クラウドは彼の屋敷を横目に通り過ぎていった。今はコルネオに用はない。下手に屋敷に近寄って見つかると、絡まれるので厄介だ。
宿場町とミッドガル平原の境目へと向かう。鉄の骨組みだけのランタンを吊り下げたアーチが街の入り口だった。カームを経由して徒歩で街へやってくる人間は、大半がここをくぐる。ミッドガルに来たばかりで、職を探している人間が多かった。その需要に合わせて、街の入り口には仲介業者が軒を並べていた。
紹介する業種ごとに建物は分かれていた。アーチから続く大きな通りに面した施設では建設業やら給仕やらの職を紹介していたが、少し道を逸れるとバーの店員や接客業など、夜の仕事を紹介しているところもある。肉体労働者向けの仕事は特に需要があるのだろう。紹介している小屋の数が頭一つ抜けて多かった。
目当ての建物を見つけ出し、クラウドはその中に足を踏み入れた。昨夜の男たちから聞いた名前を尋ねると、カウンター越しにひょろりとした上背の高い男が出てきた。
男はクラウドの顔と身体を見て、追い返すように手を振った。
「あんたみたいな細っこいのはうちじゃ雇えねえよ。二軒隣にいきな。給仕と清掃員を探してたぞ。金がすぐ欲しいなら向かいの路地がオススメだぜ。あんたなら即採用だ」
男が笑いながら指さしたのは、風俗業を紹介している裏通りだった。クラウドはそれを無視して、カウンター内の男に詰め寄った。
「男を探している。黒髪で碧眼の、俺くらいの年の男だ。あんたから仕事を紹介されたって聞いた」
クラウドの話を聞いて男が露骨に顔を顰めた。
「仕事探してるんじゃねえのかよ
……
。だったら余所を当たってくれ。面倒ごとには巻き込まれたくない」
「面倒ごと?」
ぴく、とクラウドは眉を動かした。人探しをしているというだけで、何故。旅人の多い街だ、珍しいことでもないだろうに。
男の顔が強張る。口が滑った、と言った様子だ。男は直ぐに取り繕うような表情を浮かべた。
「
……
あんたがあんまり怖い顔してるからさ。ほら、さっさと出てけって。人呼んでも良いんだぞ」
言いながら顔を上げた男の眼前に、鈍色に光るものが現れた。
瞬きの間だった。
武器など触ったこともなさそうな線の細い男が、巨大な剣を片手で持ってこちらへ突きつけている。刃と皮膚の間は拳ほども離れていない。状況を理解した途端、男の全身から冷や汗が噴き出した。
「男に関して知ってることを全部話せ。その面倒ごととやらも」
こちらを見据える彼の双眼は空虚で、一切の情を感じさせない。男は今になって、店に現れた色白な男の瞳が魔晄に染まっていることに気付いた。彼は、目的達成のためなら何も躊躇わないのだろう。男にそれ以上の脅し文句は必要なかった。
クラウドの剣幕に押されて、男は自身の持っている情報を話し始めた。
三日前に、体格の良い妙齢の男に建設現場の仕事を依頼した。WRO主導のプロジェクトは報酬が良く、とにかく人員を集めたかったので、仲介者の男は手あたり次第に声をかけていた。その中になんでも屋を営んでいる彼がいたらしい。
彼は一週間程前にエッジにやってきたばかりだった。仕事を探していたので感謝している、でも事情があって長く続けられないかもしれないと断りを入れてきた。男はそんなこと気にも留めずに、彼をWROの人間に紹介した。
男はそこまで言うと、もういいかと許しを乞うような視線をクラウドへ向けた。クラウドは男の鼻先まで剣先を近づけた。
「面倒ごとってなんだ?」
両手を上げて、男は降参のポーズを取った。武器を持った強盗に立ち入られたら、大人しく金を渡した方がいい。六番街で店をやっていた人間の常識だった。
男は観念した様子で口を開いた。
「コルネオの部下が来たんだよ
……
。男を探してるって。あんたみたいに、男の特徴を言ってきた。黒髪碧眼で頬に十字の傷。年齢は二十代半ば。直ぐ紹介した野郎のことが思い当たった」
思わぬ男の名前が出て、クラウドは目を丸くした。コルネオが何故、ザックスを探している。まさか、どこからか彼の情報を嗅ぎ付けたのか。
男が話を続ける。
「コルネオに逆らったらどうなるか、元六番街の人間なら誰でも知ってる。俺は大人しく男の職場を教えてやったよ」
はあ、と溜息を吐いて、男はさらに続けた。
「そしたら次はタークスを名乗る女がやってきた。若い金髪の女だ。血相変えて掴みかかってきやがった。可愛い顔してんのに、逆らったら殺されるって直ぐ分かったよ。グローブから血の匂いぷんぷんさせてやがんの」
そう言ってちらとクラウドへと視線を向ける。クラウドは男を睨んで先を促した。
「元ソルジャーの男はどこだ、って、すごい剣幕だったぜ。ソルジャーなんて知らねえって言ったら、それだけで腹を一発。コルネオが探してた男のことだって言われてやっと分かった。俺は最低の貧乏くじを引いたんだ」
男は項垂れてそう言った。彼の元に現れたのはイリーナだろう。タークスの中でも特に彼女は血気盛んだ。元ソルジャー、と口を滑らせてしまっているのも、詰めの甘い彼女らしい。
「タークスの女にもそいつの職場を教えた。コルネオの部下が来たってこともな。俺が知ってるのはそれで全部だ」
男が苦虫を噛み潰したような顔でクラウドを見据えた。
「その瞳、あんたもソルジャーだろ。俺はこれ以上厄介ごとに巻き込まれたくない。さっさと出てってくれよ」
「
……
分かった、充分だ」
クラウドは剣を下げて店を出て行った。
店から男が悪態を吐く声が聞こえる。またソルジャーと関わってしまった、と嘆いているのだろう。今の時代、ソルジャーは一般人にとって神羅の残した負の遺産だ。
フェンリルに跨り、クラウドは宿場町からミッドガルへ向かって走り出した。目指すのはこの街の支配者の館だ。
常時なら近寄りたくもないが、今は彼の持つ情報が必要だった。コルネオの部下の方が、タークスのイリーナよりも先に店を訪れた。つまりコルネオは、タークスよりも早く情報を掴んでいる。彼がザックスを追っているのなら、その理由は碌なものではないはずだ。神羅の機密の塊のような彼を捕えて利用しようとしているのなら許せない。どこで彼の存在を知ったのかも含めて、彼に詰問する必要がある。
コルネオを尋ねるのは久しぶりだった。数年前まではバイクのガスが手に入り辛かったので、定期的に彼の元を訪れていた。だがバレットが油田を発見し、神羅がその精製技術を確立してからは、彼を頼ることも殆ど無くなっていた。
館はウォールマーケットに存在していた頃の威容を取り戻しつつあった。エッジによくある、廃材を寄せ集めたようだった屋敷は、少し前に新しく建て直されていた。三階建ての塔のような形をしていて、それぞれの階で屋根が笠のように出張っていた。素焼きの陶器でできたウータイ風の黒い屋根材が使われており、屋根近くの壁には一面に飾り彫りを施された木材がはめ込まれている。壁の色は赤、『古留根男』の看板は金と、とにかく目立つ外観をしていた。
クラウドは館の門を開くと、中にいた柄の悪い見張りの男に声をかけた。
「コルネオはいるか」
男はふんと不機嫌そうに息を吐いて、クラウドから視線を逸らした。
「ストライフか。何の用だ」
「良いからコルネオに会わせろ」
クラウドは見張りの男と顔見知りだった。彼がいつもクラウドとコルネオを取り次ぐ役割をしている。それはコルネオが別の仕事をしているときでも、女と遊んでいる時でも変わらない。彼のボスであるコルネオがクラウドにそれを許可しているからだ。
普通の人間がコルネオに会うために踏まなければならない手順を、クラウドは一切必要としなかった。名前さえだせば、コルネオはどんな状況下でも必ず話を聞く。
クラウドがコルネオの弱みを握っているという訳ではない。コルネオがクラウドを気に入っていた。ミッドガルのスラムで栄華を極めていたコルネオの命を唯一脅かした男。自分の思う通りにならないクラウドと関わりを持つことは、コルネオにとって娯楽の一種だった。だがお互いに仲良くしようというつもりは微塵もない。
勝手に階段を上りコルネオの部屋へ踏み込もうとするクラウドへ、見張りの男は酷薄な笑みを向けた。
「後悔するなよ。コルネオさんはお前にご立腹だ。今まで通りにいくと思うな」
それを聞いてクラウドははっと鼻で笑った。コルネオが自分を殺そうとしたことなど数えきれないほどある。その度に実力でねじ伏せてきた。今更、彼の何を恐れろと言うのか。
コルネオはクラウドがこの辺りへやってきているという話を部下から既に聞いていた。遠慮なく私室まで踏み込んできたクラウドを見ても、何も驚きはしなかったのはそのためだ。
ストライフデリバリーサービスは休業している。それなのにエッジの中心部から離れた宿場町までやってきた。彼は女と遊ぶために仕事を休むような男ではない。
クラウドが厄介ごとに首を突っ込んでいるのでは、という予感は、彼が館を訪れた時点で確信に変わった。毛嫌いしている自分を頼らなくてはならないほど、彼は追い詰められている。
冷たい淡緑色の瞳がコルネオを見据えていた。彼はモンスターに話しかけるよりも慈悲のない声音で言った。
「元ソルジャーの男を探しているらしいな」
彼は既に剣の柄を掴んでいた。コルネオとの距離は三歩ほど。彼ならば一瞬で距離を詰めて首をはねることも可能だろう。護衛の部下も二人、すぐ隣の部屋に控えているが、クラウド相手では役に立たない。
彼が屋敷を尋ねた理由が元ソルジャーの男の情報のためだと知って、コルネオは笑いが込み上げて止まらなくなってしまった。でっぷりと膨らんだ腹を抱えて巨大なベッドの上を転がり回る。こんなに愉快な気分になったのはいつぶりだろう。
クラウドを陥れるチャンスが訪れるなど、本当に久しぶりのことだった。それこそ彼が落とし穴の真上に立ったとき以来かも知れない。コルネオは勝ち目のないギャンブルに当たったときのような高揚を感じていた。
命の危機にある状況なのに、コルネオは狂ったように笑っている。クラウドはますます鋭い視線で彼を睨みつけた。
「何がおかしい」
コルネオはベッドから飛び起きてクラウドの元へと迫った。クラウドは重心を下げて、即座に斬りかかれる体勢になった。それを意にも介さず、コルネオは部屋の壁に貼られた写真の元へ向かった。
六番街の屋敷が火災に遭ったとき、女との記念写真は殆ど焼失してしまった。だがコルネオは、特に大事にしている品物を防弾耐熱の箱に保存していた。館の焼け跡から発掘したこの写真のネガだけは今でも残っている。
写真に映っているのは、黒髪の美女と赤毛の美女に挟まれた、金髪の美しい男だった。男なのだが、女のドレスを着ている。数年前、女装して館に潜入してきたクラウドの姿だ。今の澄ました彼と比べてしまい、何度見てもコルネオは笑いが込み上げた。
「まさかクラウドちゃんがなんでも屋の知り合いだったなんてな」
クラウドが威嚇するように目を細めた。
「どういう関係だ。何故、彼を探している」
「あいつは俺のシマを荒らしてたんだ。モンスター退治は良い金になるのに、あいつが二束三文で引き受けやがるから商売あがったりよ。最近は特に凶暴な奴が多くて稼げてたんだがな」
わざとらしく嘆いてみせると、コルネオは続けた。
「ちょっと忠告してやろうと思って部下にそいつの居場所を探らせたんだ。その内に面白いことが分かってな。神羅のタークスもあいつを探してるって話だ。もっと調べたら、その男は元ソルジャーらしいじゃねえか。ソルジャーは基本神羅を辞められねえが、先の事件で殆ど霧散した。なのに、人手不足の神羅がタークスまで使ってそいつを追う理由はなんだ?」
コルネオが粘着質な笑みを顔に張り付けた。
「神羅が自分とこの人間を追っかける理由なんて決まってる。機密情報だ。その男が持ち逃げしたか、もしくはそいつ自身が隠しときたい存在か、だな」
ますます冷ややかな表情になっていくクラウドを見て、コルネオは足を踏み鳴らして喜んだ。
「お前まであいつを追っかけてるなんてなあ。さすがの俺でも予想外だぜ。それで、今日のクラウドちゃんは俺に何をおねだりしにきたんだ?」
クラウドは怒りも露わにコルネオを睨みつけた。
「
……
彼の居場所を教えろ。どうせ部下に探らせて掴んでるんだろ」
「まあな。さっすがクラウドちゃん、俺を頼ったのは正解だぜ。次の仕事の依頼人、その仕事の目的地、ついでに男が寝泊まりしてるとこまで掴んでる」
一も二もなく、クラウドは背負っていた大剣の切っ先をコルネオへ突きつけた。
「教えろ。今すぐだ」
「あー待て待て!俺を尋問しても情報は手に入らねえぞ!」
コルネオは大げさに首を振る。
「俺に指一本でも触れてみろ。直ぐに俺の部下に連絡が行く」
クラウドの眉間の皺がますます深くなった。まさか部下に彼を襲わせようとでもいうのだろうか。
「無駄だ、そんなの。彼はあんたの手下にやられるような人間じゃない」
「誰が元ソルジャーを襲わせるかよ。タークスでさえ手を焼いてんのに。でもまあ、拠点がめちゃくちゃに荒らされてたら、さすがに寝床を変えるだろうなあ」
コルネオがアプスのように耳障りな笑い声をあげた。
「そしたらまた一から情報収集だ。お前がそんなにいたちごっこしたいなら止めないぜ?」
クラウドは口を閉ざした。脅しなど馬鹿らしい、コルネオを尋問して居場所を吐かせたらいい、とは思うが、そしたら偽の情報を掴まされる可能性が高い。だが対等な取引なら、彼は正しい情報を寄越してくる。それでここまでのし上がった男だからだろう。だから、クラウドは本当に必要なとき、この男の元に足を運んでしまう。
今は時間を無駄にしたくなかった。一秒でも早く彼に会いたい。
「
……
何が目的だ」
クラウドは諦めたように息を吐くと、コルネオを射殺しそうな目で睨んだ。
心から憎々しそうな視線を受けて、コルネオは堪らないとでも言うように身を揺らした。自分と対峙して生意気な態度を崩さないのは彼だけだ。
指輪だらけの装飾過多な太い指でクラウドの白く細い顎を掴む。初めて会ったときから変わらずに綺麗な顔立ちをしていた。あの頃よりも、更に表情の影が濃くなったようだが。
コルネオはわざとらしい口調でクラウドに問いかけた。
「最近、俺の街で勝手に稼いでる奴がもう一人いるみたいなんだよ。細身の筋肉質で、くすんだ金髪を逆立てた男だ。肌は女みたいに真っ白で、目は魔晄と同じ緑色らしいぜ。お前、心当たりあるか?」
クラウドが不機嫌そうに目を細める。この辺りでデリバリーの仕事をしたことは何度かある。だが、彼が言っているのはそれではないだろう。
セブンスヘブンを去り、一人になって直ぐの頃、どうしても眠れない夜があった。この辺りで飲んでいたら、昨夜のように勘違いされて声を掛けられた。それが癖になってしまった時期がある。
相手の男は殆どが一般人だったはずだ。利用した宿屋の店主が告げ口でもしたのだろうか。クラウドは小さく舌打ちをした。
コルネオが唇を歪めて醜悪に笑う。クラウドの顎を掴んでいた手を下げて、彼の小ぶりな尻を鷲掴みにした。
「お前、いつから俺の女になったんだ?誰に何を仕込まれたって?」
「黙れ」
クラウドが低く呟いた。彼にしては珍しく、感情的な口調だ。コルネオに対してというよりむしろ、自らの行いに苛立っているようだった。
コルネオが彼の身体から手を離した。
「男に抱かれるのがそんなに好きならいい仕事を紹介してやるよ。俺の店で客を取れ。俺とクラウドちゃんの仲だからな、一晩だけで許してやる」
不意に彼の顔から笑みが消え失せる。彼が夜の街の支配者として人を脅すときの顔だった。
生意気な彼を自分で嬲ってやるのもいいが、それよりももっと屈辱的な目に遭わせてやりたかった。心底憎んでいる男の命令で男娼をやる。一晩だけといったが、一晩で充分だ。この夜の記憶は永遠に残るだろう。むしろ日常に戻った彼が、ふとしたときにこの日のことを思い出すのが良い。
コルネオが上機嫌でクラウドの肩を抱いた。クラウドは無言でその手を叩き落とした。だが、部屋から立ち去ろうとはしない。取引に応じる、ということだろう。
「今日はいいクスリが手に入ったんだ。クラウドちゃんは特別だからな、試させてやるよ。天国の門が開いちまうんじゃねえか?」
下品な笑い声が部屋に響いた。クラウドはそれ以上何も聞かないようにした。コルネオは人の不安を煽り、その人が怯える姿を楽しむ下衆な男だ。彼の脅しに少しでも表情を変えたら、あの奇妙な声をあげて喜ぶ。想像するだけで不愉快だった。
一晩だけだ。ほんの数時間我慢すれば、彼の居場所を知れる。
コルネオの客の相手など、昨晩よりも悲惨なことになるのは分かり切っていた。だが、より有益な情報を得られるのなら。これくらいの代償で彼に近づけるのなら。クラウドはコルネオの言い成りになる覚悟を決めた。
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