kokokisu
2019-07-28 19:15:54
2766文字
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キス魔なぺごくん

モルガナと竜司にキスするのが大好きなぺご君

 蓮は口寂しい事を嫌うと、一緒に暮らしているモルガナが一番良く知っていた。
 夜が更けてきたので、もう寝ようぜと促すと、蓮は必ずモルガナの頬に唇を押し付けてくる。気分が上がっているときなど、鼻にかかった甘い声で何度も名前を呼びながら身体中に口を付けてきて、鬱陶しい事この上ない。そして気が済むと何事もなかったかのように離れていき、眠りに落ちていく。人を散々弄んでおいて、と文句を言う隙も無かった。
 自分が猫の身体をしていて、あしらいやすいから、手を出してくるのだろう。こちらがどんなに抵抗しても力で敵う事はない。手を突っ張っても、爪で少々引っ掻いてやっても、全く応えていないようだ。とにかく口寂しさを癒せるのなら、相手は誰でもいいらしい。
 もしも自分が人間で、蓮よりも屈強な男だったとしても、彼は同じ事をしてきただろうか。モルガナは蓮にしつこくキスをされる度、酷く理不尽な仕打ちを受けている気分になっていた。

 ルブランの主人である佐倉惣次郎の娘、佐倉双葉から、彼女を改心して欲しいと依頼があった。自分の所為で母親を殺してしまったという自責の念から、彼女のパレスが形成されている。その作戦会議の為、怪盗団は屋根裏部屋に集まっていた。
 特に取り決めた訳でもないが、それぞれ決まった席に座って、蓮が指示を出すまで待機をしている。フタバパレスの攻略が順調に進んでいる事もあり、各々が自由な時間を過ごしていた。
 杏と真はソファに座り、祐介はビールケースで作った即席の椅子に腰かけて、スナック菓子をリスの様に食べ続けている。スマホの画面を見つめる蓮の隣には、竜司が座って少年漫画雑誌を読みふけっていた。
 蓮のスマホが彼の手から落ちて、テーブルの上で風車の様に回転している。指先で端末を回す動画を見て試しているが、なかなか巧く行かない。怪盗団の掲示板も目新しい情報はなくて、トリックの練習にも飽きてしまった。
 蓮がちら、と視線を竜司に向ける。一部始終を見ていたモルガナは、彼が次に何をするか予想がついてしまった。
 週刊誌を熱心に読んでいた竜司の胸倉を掴み、蓮が彼の顔を上向かせた。怪訝な表情を浮かべる竜司に対し、蓮は艶やかな微笑を湛えている。何、と言いかけた竜司の頬に、蓮が薄紅色をした唇を、むちゅ、とくっつけた。
 逃げる気もないのか、竜司は彼の唇を受け止めたまま、漫画の続きを読み始めた。正面でそれを見せ付けられた杏と真は、呆れ顔で軽く息を吐いた。祐介も一瞬だけスナック菓子の箱から顔を上げてそちらを見たが、何が起きたかを把握すると同時に興味を失い視線を下げている。モルガナは頭上で繰り広げられる光景から目を逸らし、退屈そうに肉球をぺろぺろと舐め始めた。他人が見たら驚くような状況だが、怪盗団の面々はもう見飽きる程にこの光景を見せ付けられていて、すっかり慣れてしまっていた。
 最近の蓮は相手がモルガナだけでは物足りなくなってきているらしかった。夜は二人だけなので、隙あらばモルガナに口を付けてくる。だがこうやって仲間が集まると、事ある毎に竜司へキスをしていた。少しでも口寂しくなるとこれだ。相手が同じ人間の男でも蓮はお構いなしなので、モルガナも最近では諦めがついて、彼の奇行を受け流していた。
 蓮が竜司にキスをしてから五秒は経過しただろうか。ようやく唇を離して、蓮は再びスマホ回しに興じ始めた。竜司もやれやれと言わんばかりに肩を竦め、漫画のページを捲っている。
 一度目はスマホが回らず、二度目はバランスが崩れて膝に落ち、三度目は上下逆さまにキャッチしてしまった。むう、と口を尖らせた蓮が、再び竜司の胸倉を掴む。またか、と困ったように眉を下げた竜司だったが、今度は彼の唇が自分の口に迫っている事に気付いた。ひえ、と悲鳴を上げた時には遅く、竜司の唇は蓮に奪われてしまう。舌まで入れられているのが音で分かり、経験者のモルガナは竜司への同情を禁じえなかった。
 怪盗団のリーダーには悪い癖がある。いわゆるキス魔と言う性質で、彼はその気になったら手あたり次第にキスをしてしまう人間だった。相手に女子を選ばないのは、一応自重しているつもりなのだろう。しかし代わりに手近なターゲットにされがちなモルガナと竜司は堪ったものではなかった。
 蓮と竜司の口がようやく離れていく。ぷは、と息を吐いて、蓮は顔を紅潮させながら満足そうに目を細めた。唾液で濡れた舌先で唇を舐める姿が艶めかしい。魔性の男と形容するに相応しい色気にあてられて、竜司はまるで純情を奪われた生娘の様に、椅子の背もたれに身体を預けた。
「なんか、やる度に巧くなってくんだけど……
 竜司が口を押えながらぼそりと呟いた。口にされるのは極稀だが、そもそもキスをされる回数が多いので、彼の舌に弄ばれるのにも慣れたつもりでいたのだが。回数を重ねる毎に蓮の舌使いは艶めかしく、こなれたものになっていき、竜司はだんだんとこれを悪ふざけとして捉えるのが難しくなってきていた。
「ちょっと、そういう生々しい事言わないで!」
 竜司の発言に杏が顔を真っ赤にして声を上げた。
初めて見た時は驚いたが、今は蓮がキス魔だと分かり、どうにか受け入れているのに。竜司が妙な事を言い出してしまっては、こちらも日常の光景として受け流せなくなってしまう。
 怪盗団のリーダーは素知らぬ顔で、足を組んだままスマホを弄っていた。そんな彼を横目で見て、竜司が小さく溜息を零した。
「良いよな、杏も真も女だからターゲットにされなくて」
 その一言に、二人とも顔を赤くしている。内心では蓮を異性として魅力的だと認めている二人にとって、事ある毎に見せ付けられる彼のディープキスは、少々刺激が強いものだった。相手が竜司だから放置しているが、それが自分になったらと思うと、落ち着かない気分になる。
 モルガナが竜司の軽率な発言に毛を逆立てた。
「おい、余計な事言うんじゃねえよ!レンが男以外にまでキスするようになったらどうするんだ!」
 何度もキスをされる内に、モルガナは感覚が麻痺し始めていた。恋人でもない相手と人前でキスをする蓮の悪い癖を咎める、と言う発想すら出てこない。それどころか、自分だけでなく竜司も蓮のターゲットになっているので、被害が分散されているとすら考えていた。
 言い合う二人を横目で見つめて、蓮はくすりと笑みを零した。こんな反応をしてくれるから、二人にキスをするのを止められない。嫌がるモルガナの小さな口に舌をねじ込むのも、無視してやり過ごそうとする竜司が我慢できなくなるまで嬲るのも、蓮は楽しくて仕方がなかった。竜司とモルガナが口論している隙を突き、蓮は再び二人の頬へと唇を付けてやった。