kokokisu
2017-12-18 02:40:44
2382文字
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【竜主】屋根裏でゲームする二人


 長く続いた夏の猛暑を断ち切るような大雨の日、竜司と暁はルブランの屋根裏部屋にたむろしていた。雨が降っているので外で遊ぶことも出来ず、だからと言って部屋の中に閉じ込められるのは退屈で、暁はソファに座り、竜司はベッドに横たわり、ただただ無為に時間を過ごしていた。
「暇だな……
 竜司がぼそりと呟く。これを聞くのも何度目だろうか。雨が窓を打つBGMにアクセントを足してくれているのだと考えるのも、そろそろ無理が生じてきた。暁は眼鏡を押し上げると、竜司に向かって自分の読んでいる本を投げた。
「いてっ。なんだよ」
「俺のおすすめの本。読んだら頭が良くなるぞ」
 暁の言葉に竜司が唇を尖らせる。
「本読んだくらいで頭が良くなんのかよ。ってか、人が遊びに来てるのに自分だけ本読むとかありえなくね!?」
「竜司だって……。何もやる事がないなら、なんで俺の部屋に来たんだ?」
 それも、こんな土砂降りの中、電車に乗ってまで、この屋根裏部屋を尋ねてくれている。その手間をかけてこの場所でやるのが、ベッドに横たわって呪文のように暇だと繰り返す事だけなのだとしたら、暁は彼から時間を分けてもらいたいくらいだった。
 竜司がベッドから起き上がり、ソファに座る暁の隣に腰かけた。引き締まったふくらはぎを太腿に乗せて、後ろ頭をがりがりと掻いている。
「用事がなかったらきちゃいけねーのかよ。俺たち、付き合ってるじゃん」
 それは初耳だ。暁は竜司に告白した記憶もなければ、竜司から告白された記憶もなかった。
……お前さ、愛が重いってフラれるタイプだろ」
 無表情の暁が冗談めかして言うのを聞いて、真顔だった竜司も堪らずに噴き出した。彼の首を腕で捕まえて、頭にぐりぐりと拳を食い込ませる。暁もつられて笑いながら、痛い、と零す。
「んだよ。俺の愛が受け取れねーってのか?」
「俺、束縛されるの嫌い」
 ひとしきり笑った後、暁は眼鏡をずらして目に浮かんだ涙を指先で拭った。
「はー、しょうがないな。暇人の竜司の為に、とっておきを出してやろう」
 暁がそう言って取り出したのは、古い型のゲーム機だった。既にブラウン管につなげられているDVD再生機のコードを抜くと、代わりにそちらの3ピンを差し込んでいる。
「おいおいマジかよ……。これ、骨董品じゃねーの?」
「ちゃんと動くぞ。この前、リサイクルショップで買ったんだ」
「お前、ブラウン管テレビといい、レトロ好きだよな」
「安いから。薄型の大型液晶テレビと最新機種のゲームで遊びたいなら、双葉の所に行ってくれ」
 カセットを差し込んでから、暁がゲーム機の電源ボタンを押した。その手つきが、まるで祈るように見えたので、竜司は嫌な予感がした。
 ブラウン管のテレビがようやく明るくなって、ゲームが起動したと分かる画面が表示される。だが、そこから進まない。真っ白な画面を見て一分も経っただろうか。いったん電源を落とし、また入れ直したが、同じ部分で止まってしまう。それを三度も繰り返した後に、暁が軽く溜息を吐いた。
「あー……。今日のファミコンくんは調子が悪いみたいだ。竜司が骨董品とか言うから、拗ねたんだな」
「いや俺の所為かよ!どう考えてもゲーム機が古すぎるからだろ!」
 暁が電源を入れ直しながら、真剣な面持ちでコントローラーを握り締めた。
「頼むぞ」
「カセットに息吹きかけてみる?」
「いや、それ迷信だから。息の湿気でサビて、余計駄目になるらしい」
 竜司も一緒になってコントローラーを握り、二人で真剣な眼差しをテレビ画面に向けた。ゲーム会社のロゴが表示され、息を呑んで見守っていると、ようやくゲームのスタート画面に辿り着いた。
「よっしゃ!はー、この達成感、やばいな。まだゲーム初めてもいねーのに」
「技術の進歩を実感できるよな」
 言いながら暁は視線をテレビ画面から自分の手のひらの中へと移している。チャットが届いたらしい。彼は完全に依存症だった。
「スマホ触りながら言うと嫌味にしか聞こえねえな、それ」
 コントローラーの方向キーを押して、デフォルメされた2Dキャラを軽快に走らせる。脚の動きと歩の速さが釣り合っていないが、地面を滑っているようで、それはそれで気持ちがいい。
 ゲームのストーリーは単純だった。任侠である二人のキャラを操作して、悪人に浚われた女性を助け出す、と言う物だ。道中に現れる敵を武器で殴り、投げ技で倒しながら、二人の操作するキャラが全国津々浦々を旅して回る。
 竜司が拾おうとしたアイテムを、暁が通りすがりに拾ってしまう。悪気はない、と思いたいが、暁の無表情と正確に動く指先を見ていると、彼の考えが読み取れなかった。だが、それが何度か続いて、流石の竜司も彼に意見をしたくなった。
……なあ、俺、このゲーム初心者なんだけど」
 暁は不満げに訴えた竜司を振り向きもしない。ゲームの中の敵を、手際よく倒している。
「うん」
 竜司は最早、暁に付いていっているだけだった。ようやく敵を殴れるか、と思ったら、暁がすぐさま駆け付けて、竜司の操作キャラの届かない位置まで投げ飛ばしてしまう。これにはさすがの竜司も額に血管が浮かびそうになった。
「なんでさっきから邪魔すんの?これ、対戦ゲームだったか?」
 軽く腹を立てた竜司に問いかけられ、暁は爽やかな笑みを浮かべた。
「竜司はまだ弱っちいから、俺が守ってやる」
「その発想はなかったわ」
 言うが早いか、竜司は暁の脇腹を勢いよく小突いた。くすぐったさに暁が面白い声を上げて、身体を横に曲げている。暁の指が変なボタンを押してしまい、画面の中で彼のキャラクターが無意味にジャンプし始めた。ゲームでは器用な暁にとてもかなわないので、竜司は現実世界の暁を懲らしめる事にした。