kokokisu
2017-12-08 01:30:41
3322文字
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【織田主】年下の彼氏 6

モブ女がでます
織田君成長済み

 秀尽学園高校に入学して、早二年が経とうとしている。高校二年生になった織田信也は、最近、人間関係に悩んでいた。
 小学生だった頃も、彼は家庭環境が原因で同級生に虐められていた時期があった。高校生となった今は、クラスメイトとの関係も良好で、そう言った心配はない。しかし代わりに、信也は、友人達に相談出来ない悩みを抱えていた。
 彼らに相談出来ないと感じるのは、信也の目には彼らの恋愛経験が非常に浅く映ったからだ。
高校生にもなると、クラスメイトや友人の会話が色気づいてきて、性的な話題も増えてきた。その中で信也が彼らの性への知識が間違っている事を指摘したり、自分の恋愛観を零したりすると、まるで違う世界の生き物を見るような目を向けられる。信也は、自分が同年代の友人達よりも、経験がありすぎると気付いてからは、あまりそう言った話題に口を挟まなくなった。妙な噂が立ってからでは遅い。彼は、自分と同じく秀尽に通っていた人が、噂の所為で肩身の狭い思いをしていたという事を知っていた。
信也が悩んでいるのは、彼の恋人に関してだ。付き合い始めた頃、自分が子供だった事もあり、恋人とは少し特殊な関係が続いている。その相談をするとなると、内容は確実にふしだらな物になってしまい、キスをしたというだけで大騒ぎする同級生には聞かせる事も出来ない。信也の周りにいる友人達は、年上の恋人の話をするには幼過ぎた。

 授業中に、信也のスマートフォンがメッセージの着信を告げた。そこに表示されているのは、知らない女の名前だ。信也はうんざりとして、画面を暗くしたスマホをポケットにしまった。
 今回自分のチャットIDを他人に教えたのは誰だろう。同じクラスのあいつか、委員会で先輩のあの人か、それともバイト先が一緒の彼だろうか。個人情報は保護しなくてはならないと、授業でも習ったのに、好き勝手な事をしてくれる。
 信也は高校に入る前に背がぐんと伸びて、元から綺麗な顔立ちをしていた事もあり、女にモテるようになった。友人が勝手に自分の写真を撮って知らない女に寄越したり、今日の様にチャットIDを教えたり、酷い時は住所を漏らされた事もあった。信也は同年代の男に比べて、女に対してどこか冷めていて、近寄り難いと言われている。だがそれも、女子たちからは魅力の一つとして受け止められていた。信也の周りの男たちは、彼を利用しておこぼれを貰おうとするほどだ。
 しかし信也には、一応恋人がいる。もう付き合って五年近い、年上の恋人。恋人の名前は来栖暁と言って、出会った時は高校生だったが、今は大学院に通っていた。
 一応、と言うのは、彼をまだ恋人と呼んでいいのか、信也に自信がなかったからだ。彼とは今でも会っているが、恋人らしいことをしなくなって、もう何年経つだろう。暁は信也が小学校を卒業する前に一度、東京から地元へと帰ってしまった。それからほんの少しだけ疎遠になり、また彼が東京の大学に通うようになってから頻繁に会うようになったが、彼は以前の様な接し方をしなくなっていた。
 付き合い方が変化したタイミングは、信也の二次性徴と丁度重なっていた。信也は身体つきの変わってしまった自分を、暁が今までの様に好きではなくなったのかもしれない、と考えるようになった。前と違い、声も低くなったし、身長も恐ろしい速さで伸びた。それ以外の部分も、見違えるように成長している。暁が好きだと言ってくれた頃の自分と、今の自分が同一人物かと言われたら、信也本人でさえ自信を持って頷く事が出来なかった。
 今でも暁は自分とデートもキスもしてくれる。だが、それだけだ。それだけで信也は彼の事をまだ自分の恋人と思っていいのか分からなかった。何故なら彼は、普通の人間では考えられない程顔が広く、モデルや芸術家、一流企業の令嬢に、女流棋士、検事、政治家、医者など、信也が知っているだけでも多様な人間と深い付き合いをしている。その人たちと二人きりで親密に過ごす事があるのも、信也はよく知っていた。むしろ、人よりも少しゲームが得意と言うだけで、小学生だった自分とまで交流を深めてくれたのが奇跡だったのかもしれない。信也は、その多彩な友人知人の一人に、気まぐれで自分を含めているだけなのでは、と疑っていた。
 
 今日の放課後も、信也は暁と会う約束をしていた。暁の方から誘ってくれて、待ち合わせ場所は渋谷だ。授業が終わると直ぐに教室を出ようとする信也を、クラスメイトの一人が引き留める。
「ねえ、織田君。もう帰るの?」
 引き留めてきたのは、クラスメイトの女子だった。名前が咄嗟に出てこない。
「うん。ちょっと、約束があるから」
「約束って、もしかして恋人?」
 彼女が今にも噴き出しそうな顔で笑うのを見て、信也は思わず苦い顔をした。前に、しつこく言い寄って来た女性に、恋人がいると言って暁の写真を見せたら、大笑いされてしまったのだ。何故笑われたのか、信也には全然理解できなかったが、暁を馬鹿にされたようで、あの時は本当に腹が立った。しかもその噂は、一部の女子や男たちの間で面白おかしく広がってしまった。彼女もその噂を知っている一人なのだろう。
……何の用。急いでるんだけど」
 信也が鞄を抱えながら彼女の顔を見もせずに尋ねた。
「チャット送ったのに、見てくれなかったよね。授業中だから気づかなかった?今度、一緒に遊ぼうよ」
 彼女がそう言った途端、クラス中の視線が自分達の方へと集まるのを感じた。よりによってクラスメイトのいるところで、こんな話をしなくてもいいのに。信也は注目される居心地の悪さに胸がざわついた。
 チャットと言われて、信也は授業中に届いたメッセージの事を思い出した。同時に、今話しかけてきている彼女の名前も。画面に表示されていた、知らない女の名前が、彼女の名前だ。授業中とはいえ同じ教室にいたのに、回りくどい事をする。
友人が、この人の事を可愛いとか、エロいとか言っていたような気がする。確かに、媚の売り方が巧い。チャットを無視されてもこうやって堂々と話しかけてくる積極性も、他の女子には余りない物だ。
だが、信也はこの人よりももっと可愛くて、エロい人の事を知っていた。大学生になってますます色気が増して、全ての所作や言動に艶めかしさを付帯させている暁に比べると、彼女は唯の健康的な少女にしか見えない。信也は彼女の手や目を見ても、暁の時と違って、いやらしい気分にはなれなかった。
 信也は思わずため息を吐きそうになった。一度ゆっくりと瞬きをして、不満を表に出すのを堪える。
 はっきり言って、面倒臭い。これだけの短いやり取りでも分かる。彼女と自分は、きっと合わない。ゲームのコントローラを触ったこともなさそうな彼女と、放課後の時間を拘束されたくなかった。それならまだ馬鹿ばかりする友人と遊んだほうがマシだ。
だが、これだけ人目がある場所だと、無碍に断るとまた何か言われる。だからと言ってその場凌ぎで都合の良い事を言って、しつこく絡まれるのもうんざりだった。暁との待ち合わせの時間は、刻一刻と近づいてきている。
 適当に断ろうかと思ったが、ふと、暁ならどう対応するかを想像した。彼なら、興味のない女に言い寄られても、きっと紳士的に断るだろう。実際、信也はそんな振る舞いをする暁を何度か見た事があった。交流の幅が広いからなのか、彼は女の扱いに非常に慣れている。
 信也は期待に満ちた目で自分を見上げてくる彼女へと、愛想笑いを浮かべた。形だけでも、申し訳なさそうに振る舞う。
「ごめん。今日は、無理。大事な人と会う約束があるんだ。都合がついたら、僕から連絡するよ」
 絶対にしないけど。信也は心の中でそう呟くと、彼女を置いて教室を出て行った。
 教室に残された彼女は、うっとりとした顔で信也の後ろ姿を視線で追っていた。体よく断られて躱されたのに、全く嫌な気がしない。恋愛の経験値が他の同級生達とは格段に違うからだろうか。高校生の彼女からしたら、信也は同じ年の他の男とは比べものにならない程、大人びて見えた。