kokokisu
2017-12-03 22:09:06
4012文字
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ワイルド三人が仲良しな話

設定とか細かい事は考えてないです

 訳あって地元から都会に出てきた来栖暁には、借りの住まいである東京にも、家族の様に信頼している人物がいた。
 保護観察官である佐倉惣次郎と、彼の娘である佐倉双葉は、当然ながら暁にとって家族だ。だが彼ら以外にも、暁が兄の様に慕っている人たちがいる。
 その二人は、結城理と鳴上悠と言う、暁よりも一つ年上の少年たちだった。
 結城理は暁よりも少しだけ背の低い、中性的な少年で、長い前髪で片目を隠している。とても無口で、端正な顔立ちは人形の様に無表情だが、たまに感情を表に出す事があった。そして、驚くほどの大食いだ。暁がまだ完食できていないコスモバーガーのビックバンチャレンジを、彼はおやつ代わりの様にして達成してしまった。
 もう一人の鳴上悠は、背が高く、体つきも一流アスリートのようにしっかりした、それなのにとても家庭的で優しい少年だ。中性的な理や暁とはまた違い、彼は一言で表すと美しい人で、均整の取れた身体も相まって生きた彫刻モデルのようだった。そんな彼が家庭菜園で育てた野菜をふんだんに使った手作り弁当を持ってきた時、暁は驚いて三回は誰が作ったのかと聞き返した程だ。弁当は殆ど理が食べてしまったが、ルブランカレーを初めて食べた時と同じ、舌が喜んでいると感じる程のおいしさだった。
 彼らと暁が知り合ったのは、その特殊なペルソナ能力がきっかけだった。彼らは三人ともワイルドと言う、複数のペルソナを使い分ける事の出来る能力者である。特に理と悠はシャドウとの戦闘経験を暁以上に積んでいて、もし彼らと争う事になったら、暁でも勝てる気がしない程だ。ペルソナに関する助言だけでなく、一年先に生まれた先輩として色々教えてもらう内に、暁は彼らが兄の様に思えてきて、友人とはまた違った意味で慕うようになっていった。
 
 暁の住処であるルブランの屋根裏部屋に、理と悠が揃って遊びに来ていた。
 本当ならば休日である今日は最近公開されたばかりの映画を見て、花屋でバイトをして、怪盗チャンネルで得た情報を確かめようとしていたのだが、悠が暁に会いたいというので、それらの予定を全てキャンセルした。そうせざるを得なかった。悠からの誘いを下手に断ると、また危ない事をしているんだろう、と余計な邪推をされてしまう。
「お邪魔します。……相変わらず、雑然としているな」
 ルブランの屋根裏を訪れた悠はまず、暁の部屋が片付いていなかったことに小言を言った。ベッドには猫の毛が沢山ついていて、机の上は潜入道具を作る為の道具が散らかり、床には猫と大勢の人間の足跡が残っている。怪盗と学生の二足の草鞋を履く大変さは、悠も理解しているが、これは看過できないと思った。
「ちゃんと掃除しないと駄目だぞ。ここは貸してもらっている部屋だろう」
 悠が呆れて溜息を漏らす。工具の散らばる机を片付けようとするのを、暁が慌てて止めた。
「触らないでくれ」
 下手に場所を入れ替えられたら困る。散らかっているようにみえるが、暁にとってはちゃんと整理された状態なのだ。ドライバーの刺さっている場所も、ペンチの位置も、材料の散乱具合だって、これが暁にとって最も作業効率のいい配置だった。
「人の机を触るなんて、プライバシーの侵害だ」
 無神経な親の様な扱いを受けて、悠は少し傷ついた。これでも、暁を心配しての行動だ。散らかった机では勉強も読書も出来ないだろうし、家の中なのに床が足跡だらけなのは衛生的ではないし、いつ会ってもちょっと猫くさいのは、いくら顔が可愛くても、いかがなものかと思う。
 悠が暁の腕を掴み、ぐいと自分の方へ引き寄せた。彼の力は強く、暁には物理的に逆らう事が出来なかった。
「制服、猫の毛だらけじゃないか。ちゃんと洗濯してるんだろうな?」
 まさか風呂までサボっているのではと怪しんで、悠が暁の頭に顔を埋める。コーヒーの香りに混じって、微かに猫のにおいがした。いつも猫のモルガナと一緒に寝ているからだろうか。今すぐ銭湯に連れて行って、洗ってやりたい。
 暁はうわ、と声を上げると、悠から逃げるようにもがき始めた。
「助けて、理さん!」
 暁に声を掛けられて、後少しで目を瞑って眠るところだった理が、横たわっていたベッドからゆっくりと身体を起こした。
「悠」
 その一言で、悠も自分の行動が行き過ぎていたと気が付く。暁を解放してやると、彼はすぐさま理の元へと逃げてしまった。
「ありがとう」
 暁がベッドの上に乗り、この三人で最も小柄な理を盾にして悠から隠れている。理が脇の隙間から暁を覗き見た。逃げるくらいなら、悠を部屋に呼ばなければいいのに。
「理、暁を甘やかすんじゃない。暁の為にならないぞ」
 自分の為、と言われても、暁は全く納得が出来なかった。ペルソナ能力に関しては、確かに彼らが先輩で、学ぶところが多い。しかし自分の生活にまで口を出してこられると、口煩い母親に監視されているようで、はっきり言って少し鬱陶しかった。
 その点、理は放任主義なので助かる。怪盗団の活動の話をしたときも、悠はそんな危険な事、と言ってきたが、理は暁の心配すらしなかった。暁なら大丈夫だろう、と悠を宥めてくれたのも、理だ。言葉数は少ないが、信用されているのを感じる。
「悠さん、今日は何の用で来たんです」
 これ以上、生活態度に干渉されては堪らない。暁は悠の注意を自分の部屋や身だしなみ以外の物に向けようとしていた。
「そうだ、思い出した。今日は、コーヒーの事で聞きたい事があったんだ」
 暁はそれを聞いて直ぐに悠の叔父の話を思い出した。彼の叔父の堂島は、コーヒーが好きで、淹れる時は必ず豆からだそうだ。暁もルブランに来てからはインスタントを飲まなくなったので、話で聞いただけだが、彼の叔父とは仲間意識のような物が芽生えている。
「コーヒーの事なら、惣次郎さんに聞いた方がいい。俺よりも詳しいから」
 悠はたった数回挨拶しただけで、惣次郎にまで気に入られていた。彼の為なら、惣次郎は、自分に教える時以上に優しくレクチャーしてくれるだろう。本人は無自覚なのだろうが、悠の人たらしは本当に酷い。
「でも、仕事中だろう。邪魔しちゃ悪い。それに俺は、お前に教わりたくてここまで来たんだ」
 悠が暁の元に寄ってきて、理の後ろに隠れている彼の柔らかい黒髪をくしゃくしゃと撫でた。そしてにこりと笑みを浮かべる。この笑みで何人の女を落としてきたのだろう。暁は赤面してしまうのを抑えられず、恥ずかしさに顔を伏せてしまった。
 二人に挟まれた理が、腰にしがみついている暁を振り向き、声を掛けた。
「暁、教えてあげたらいい。悠も、折角お前を頼ってきてるんだから」
 理にまで言われたら、暁は断る理由が無くなってしまった。渋々と理の服から手を離し、ベッドを下りる。
……分かりました。それで、何が知りたいんですか」
「助かる。実は堂島さんが、最近エスプレッソに凝ってるらしくて」
「まさか、マシン買ったんですか?」
「いや、直火式。ほら、最近カフェラテが流行ってるだろ。菜々子が飲んでみたいって言ったんだけど、チェーン店のなんか飲ませられないって、堂島さんが。それで、エスプレッソに合う豆を暁に聞いて来て欲しいって頼まれた」
 暁は顎に軽く手を当てて思案した。豆の特徴を説明してくれた惣次郎が、これはエスプレッソにしてもうまいと言っていた種類はどれだったかを思い出す。
「店の棚に置いてあったと思います。お客さんがいなくなったら、豆を挽いてから淹れてみましょうか。確か、冷蔵庫に牛乳もあったし」
「助かるよ」
 理は途中から話についていけなくなり、座ったまま瞼を下ろしそうになっていた。
 そういえば、どうして自分はこの場に連れて来られたのだろう。ここに来る前、悠はわざわざこの三人のチャットで暁に声を掛け、暁も暁で自分が一緒に来る事を前提に話を進めていた。来ない理由がなかったので一応来てみたが、コーヒーの味に興味のない自分には全く関係のない話じゃないだろうか。
 悠は今にも眠りそうな理に気づいて、彼の頬をむにゅっと掴んだ。
「エスプレッソは眠気にも聞くそうだぞ。理にぴったりじゃないか」
「いや、眠い時は眠りたいから……
 暁も理の手を掴み、ベッドに倒れそうになっている彼の身体を自分の方へと引っ張った。
「理さん、この前コーヒー淹れたら美鶴さんに褒められたって言ってくれたじゃないですか。エスプレッソまで淹れられたら、もっとモテますよ。ラテとか、女の人好きだし。俺が淹れ方教えてあげます」
「どうでもいい」
 理は何故二人が自分をわざわざこの場所に呼びつけたのか全く分からなかった。コーヒー談義なら二人でやればいい。理はただ、ルブランのカレーを食べる事を期待してこの場に来ただけだ。
「カレー食べて帰っていい?」
 ルブランのコーヒーは確かにおいしい。だが、それでは理の腹は膨れない。正直にそう漏らすと、暁と悠は同時に彼を振り向いた。
「だめだ」
 二人の声が揃う。
「だって、理がいないと暁が言う事を聞いてくれないし」
「理さんがいないと、悠さんを止める人がいないから」
 お互い様な言い分をぶつけ合うと、悠は暁を少し厳しい目線で見つめた。暁は暁で、理の後ろにまた隠れている。
「理、ちょっと暁を叱ってくれ」
「理さん、悠さんに教育ママみたいだぞって言ってください」
 二人同時に全く真逆の事を要求してくる。理は彼らが自分を挟んで言い合うのが、非常に面倒くさくて、誰でもいいから助けを求めたくなった。どちらも非常に優秀で強力なペルソナ使いであるはずなのだが、何故だろう、二人が飼い主を取り合う犬と猫のように思えてくる。理は彼らに獣の耳と尻尾が生えている姿を幻視しそうになっていた。