kokokisu
2017-11-26 02:19:54
7700文字
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【P5・モブ主】バッドエンド&ストリップ


 どうせ全て終わったのだから、最後くらいは自分の為に生きてみよう。冬の寒さに体が骨から凍るような日の朝に、来栖暁はそう決意した。
 ルブランの屋根裏部屋は、薄い窓ガラスから冷気が侵入してきている。ベッドは窓際に置かれていて、朝にもなると石油ストーブの産んだ暖気を完全に殺していた。毎夜、モルガナと二人分の体温で、ようやく風邪をひかないだけの温度をブランケットの中で保っている。
 暁はモルガナを置いてベッドから起き上がると、ストーブに火を入れて、服を着替え始めた。久しぶりに袖を通す制服は、肌慣れなくて、他人の服を着ているかのようだ。
 着替えを終えた暁を見て、モルガナが彼の鞄に入ろうとする。暁はそれを止めて、鞄のファスナーを閉じた。
「どうした、暁?」
 モルガナが不思議がって暁に尋ねる。学校に通っている間も、謹慎中も、モルガナは暁の傍に居た。それは彼にとって当然の権利ですらあった。
 政治家であり、暁に無実の罪で前科を擦り付けた獅童正義の改心は達成された。獅童に自分が死んだと思い込ませる為、ずっと不登校だった学校も、今日から通う事が出来る。明日からは期末試験も始まると、川上からのチャットで伝えられていた。
 だが、改心した獅童がテレビで罪を告白したのに、社会は何も変わっていない。大衆は最早獅童の罪に関して考える事を放棄し、怪盗団に至っては、存在を否定されていた。
「昨日の夜の事覚えているか。獅童の改心もしたのに、大衆の認知も変わらないし、俺たちの取引も潮時っていう奴だ。俺も同意見だよ」
 暁の言葉にモルガナが傷ついた表情を見せる。
「ワガハイは、……ワガハイはもう、お前の傍にいちゃいけないってのか?」
 モルガナの反応を見て、暁も彼と同じように、悲しい顔をした。しかし、暁の心はもう決まっていた。この後にもし仲間達と出会って説得されても、信頼できる人からチャットが届いても、感情は大きく揺り動くだろうが、彼の行動は変わらない。変わりようがなかった。今の彼の心を支配して、彼の身体を動かしているのは、失ってしまった人間への慕情から生まれる、深い後悔だけだった。
「お前はここに居たらいい。惣次郎さんは、お前に良くしてくれるよ」
 暁の言葉は、自分にも言い聞かせているようだった。モルガナは自分についてくるよりも、ここにいた方が幸せだ。そうでなければ、モルガナを置き去りにする罪悪感に耐えられそうにない。それに、彼を自分の我儘に巻き込む訳にはいかなかった。彼が何と言おうと、どう思われようと、彼はここに置いていく。
「お前はって、どういう意味だよ。お前はこれから何をするつもりなんだ?学校に行くだけじゃないのか?」
 モルガナは暁が何か不穏な事を企んでいると直ぐに察した。思えば彼は少し前から、人の話を聞いていなかったり、夜中にぼうっと虚空を見つめていたり、モルガナの知っている彼とは違う振る舞いが多かった。彼の様子がおかしくなってきていると分かる予兆はいくらでもあったが、暁に聞いても、何でもないの一点張りで、相談をしてもらえなかった。
 暁がおかしくなり始めた時期も、理由も、モルガナははっきりとわかっていた。獅童パレスを攻略中に、暁にとって非常に影響力の強い人間が死んでしまったのだ。あの日から暁は、怪盗団のリーダーとして振る舞う時以外は、思い詰めた表情を見せるようになった。
 明智の死が暁にこのような変化をもたらすとは、モルガナも予想外だった。かれとは確かに付き合いがあるようだったが、それでも暁を殺そうとした人物だ。同情すべき最後だったことはモルガナも認めている。しかし、彼の死を理由に、暁が自棄になりかけているのは、放っておけない。
 暁はモルガナを置いて屋根裏部屋から一階へと階段を下りて行った。一階で彼の起床を待ち構えていた惣次郎が、彼の姿を認めて直ぐに朝食の用意に取り掛かる。
「惣次郎さん、今日は、朝食大丈夫です」
「ん?どうした。腹でも壊したか」
 カレー皿に伸ばしかけていた手を引っ込めて、惣次郎が暁に尋ねた。
 暁は何も告げずにルブランから出て行った。二階から後を追いかけてきたモルガナの目の前で、店の扉が締められて、チリンとドアベルが鳴る。惣次郎に向かって暁を引き留めて欲しいと訴え続けたが、モルガナの言葉は猫の鳴き声としか伝わらない。
「なんだ、お前。今日はおいて行かれたのか」
 惣次郎は暁の異変に気付いていなかった。モルガナは自分が猫の姿である事をこの時ほど呪った事はなかった。


 電車に乗った暁が向かったのは、秀尽学園ではなく国会議事堂だった。スマートフォンのイセカイナビを起動して、もう一度、獅童パレスのキーワードを口にする。
「獅童正義、船」
「候補が見つかりません」
 スマホのスピーカーから無機質な機械音が流れた。既に獅童のオタカラを盗み終え、彼のパレスは崩壊している。鴨志田や、斑目、金城、双葉、奥村のパレスも、オタカラを盗むと同時に崩壊して、二度と侵入する事が出来なかった。
しかし暁は、諦めきれずに、何度も同じキーワードを繰り返した。
「獅童正義、船」「候補が見つかりません」「獅童正義、船」「候補が見つかりません」
 暁の声まで機械の音声になってしまったかのようだ。もうパレスがないのだから意味がない行動だと分かっている。それなのに暁は、その無意味な行動を繰り返さずにはいられなかった。厚い壁に邪魔をされ、彼を一人置き去りにしてしまったのは、獅童のパレスの中だった。現実世界で彼が見つからないのなら、そこより他に、彼を探す場所などない。
彼が無意味な言葉の反復を止めたのは、スマートフォンがチャットの着信を告げてからだった。
 チャットを送信してきたのは、同じクラスの杏だ。今日から登校するはずだったのに暁の姿が教室にないので、心配している。杏が伝えたのか、竜司からもチャットが届いていた。
 暁はチャットアプリを開きすらせずに、スマホの電源を切った。ポケットにスマホをしまい、いつもより軽い鞄を抱え直し、駅へと歩き出す。
 明智の事を記憶にしまい込もうとして、また頭の引き出しから引き摺り出して、それをもう何度繰り返しただろう。暁は明智が自分にとってここまで大きな存在だとは知らなかった。彼が生きている間に交わした言葉が、仮面としては見事だった彼の笑顔が、最後に見せた本当の彼の姿が、頭にこびりついて離れてくれない。
 明智を気に入っていたのだろうか。いや、違う。ずっと偽った自分ばかりを見せてきた彼と、他の仲間達の様に、本当の意味で交流を深められていたとは思えない。もし彼を気に入っていたとしても、それは偽りの彼であり、彼の影を好きになっただけなら、失ったものに対してここまで苦しまずに済んだだろう。
 きっと、あれから明智との本当の付き合いは始まるはずだった。彼との戦闘を経て、忌憚なく言葉を交わし、最後にはお互いを認め合えたのだ。あの後にもし二人の関係を再び見直し、深める事が出来ていたら、暁はきっと明智を気に入っていた。竜司や祐介と同じように、彼が気のおけない友人になる未来だってあり得た。彼の罪が裁かれて、償う間も、償った後も、彼が仲間である事を誇らしく思う自分がいた可能性だってある。彼が生きてさえいれば約束されていたその未来を潰された事が、暁はただただ悲しくて、苦しかった。
こんな事になるのならいっそ、彼と通じ合ったと思える瞬間など、与えて欲しくなかった。彼が死を迎える姿を見る事もなく、彼の生きていた証ごと、彼の死を実感できる物は、パレスに閉じ込められてしまった。現実世界のどこで彼に別れを告げればいいのだろう。暁は自分の抱えている感情の置き場を見つけられなかった。
 明智には死んでほしくなかった。彼ともっと話がしたかった。嘘偽りのない彼に、自分を友人だと呼んで欲しかった。
 どんなに願望を積み上げたところで、全てが過去の話になってしまう。これから先の事を考えられないのなら、自分はもう死人だ。過去の妄執に囚われて、ただ使い道のない肉体を引きずっている。
 そんな日々がずっと続いて、怪盗団の活動も行き詰まり、今朝になって遂に、暁はもう全てが終わってしまったのだと感じた。明智がいなくなってからも生かされてきた今までの時間はとても苦しかった。その苦しみから逃れる為に、暁は今までの自分を殺してしまう事にした。


 暁が訪れたのは、仲間達と訪れた海水浴場だった。東京を抜けて神奈川の半島まで電車に乗り、暁は一人で海へとやって来た。
 オフシーズンでしかも平日の海水浴場には人の気配がない。だからこそ暁はこの場所を選んだ。近くにある東京の海は、平日でも人が多い。それに東京の街中は、怪盗団の思い出がどこもかしこも溢れかえっていて、ここまで来ないとしがらみから逃れられそうになかった。
 東京から日帰りで行ける距離なのに、この場所は静かだ。夏は人が溢れかえっていて、身の置き場もなかったが、すっかり様変わりしている。場所は全く同じでも、冬になったというだけで、海の色も砂の色もくすみ、人の生気が感じられない。認知の歪みが少ないパレスに入り込んだ時のことを暁は思い出していた。
 スニーカーで浜辺の砂を踏みしめて、海へ向かって歩いていくと、暁は波の届かない瀬戸際に腰かけた。潮風が冷たく、薄っぺらいコートしか着ていない軽装の暁は、軽く身震いをした。都会に比べてこの場所は音が少ない。暁は久しぶりに静寂の中に身を置いた気分になった。
 学校をサボって、仲間達からの連絡を無視して、怪盗団の役割からも逃げている。これだけでも暁は今までの自分をじわじわと殺している実感を味わっていた。
前科を付けられてからの自分は、目立たないようにと眼鏡をかけて顔を隠して生きてきた。怪盗団のリーダーになってからは、相応しい自分になる努力をして、スケジュールも全て怪盗団の活動に合わせた。どちらも自分が望んでやってきたことだと思っていたのに、与えられた結果は、明智の喪失だ。東京に来てから今までの自分の行動を、あの瞬間に全て否定されたような気がする。
 暁は太腿を抱え込んで、膝に顔を埋めた。海の水が打ち上げられて崩れる音を聞いていると、まるで無意識の海を泳いでいるようだ。
心理学では意識を氷山に例えるらしい。人の行動は殆どが無意識からの影響を受けているという説がある。今日ここに自分が自分を運んできたのも、その無意識が行ったことなのだろうか。これまでずっと効率的に、仲間と怪盗団の為にと意識をして動いてきた事に比べて、冬の無人の海水浴場を訪れるのは、誰にとっても何の得にもならない行為だ。怪盗団のリーダーであるという強い意識を捨てた結果がこれとは、明智がこの場に居たらなんと言って笑うだろう。
「こんな所で何をしているんですか?」
 暁は人が近付いている事にも気付かなかった。波の音以外に対して、耳が閉じていたようだ。声だけでも若いと分かる男が、話しかけてきている。
 膝に埋めた顔を上げずに、暁は声の主へと返事をする。
「何も」
 人を突き放すような答えだったが、若い男は面白そうに笑うと、暁の隣に腰かけた。
「まさか、死のうとか考えていないよね」
 男の発言を聞いて、暁は気づいてしまった。怪盗団のリーダーだった自分なら、死ぬなんて事、考えもしなかっただろう。ニイジマパレスで罠に嵌められ、警察の取調室で明智に殺されかけたが、怪盗団は暁が生き残る為の策を打っていた。暁もその作戦に沿って、完璧に自身の身体を動かしていた。あのころの自分には、自分で自分の命の使い道を決める権利すらなかったのだ。
「そんな事、思いつきもしなかった」
 暁が男をようやく振り向いた。そこにいた人間を見て、暁は一瞬息を飲んだ。
 年は自分と同じくらいの、端麗な容姿をした細身の男だった。雰囲気が、誰かに似ている。明智に似ているのだろうかと思ったが、見た目も雰囲気も彼とは違う。だが、彼には、自分と全く無関係の他人とは思えない物を感じた。
 男は暁と同じように膝を抱えると、彼を見てほっとした様に笑った。
「それなら良かった。じゃあ、どうしてこんなところにいるの」
 答えに迷った暁だが、彼には何故だか何を話してもいいような気になった。どちらにせよ、これからの自分の行いには、怪盗団のリーダーとしての責任など伴わない。
「今までの自分を殺しに来た」
 こんな事を言ったら、流石に男も自分と関わるのはよそうと思ってくれるだろう。暁はそう確信していたが、男は薄く浮かべた笑みを崩さなかった。
「なるほど」
 まるで暁の考えを全て理解しているかのような返事だ。彼は一体何者なのだろう。今更になってそんな疑問が暁の頭を過ぎる。
「殺して、どうするの」
「分からない。死んだ後の事なんて、誰も分からないだろう」
「それもそうだ」
 男が短く笑うと、潮風に晒されて冷たくなった暁の手をきつく握り締めた。
「つまり君はまだ今までの自分を殺せていないんだね。僕がいい方法を教えてあげようか」
 男が暁を自分の方へと引き寄せ、凭れさせる。まだ温かい彼の手が、暁の身体を服越しに撫でてきた。
暁はようやく彼が自分に近づいてきた理由が分かった気がした。こういう事を求められたのは、彼が初めてではない。暁は何故か、女だけでなく、男からも性的な目で見られてしまう性質だった。バイト先で身体の関係を求められたこともある。男を好きだと思った事はないので、これまではずっと躱してきていたが、今の暁には彼を拒絶する理由が見つけられなかった。
 死んだように動かない暁を見て、男が小首を傾げている。
「どうしたの。今までの自分を殺しに来たんだよね」
「だから、お前に抵抗していないんだ」
 犯したいなら犯せばいいと、暁は四肢を投げ出していた。男が男に抱かれたくらいで死にはしないが、少なくともこれまでとは違う自分になれるかもしれない。とにかく暁はこれ以上、今までの自分と同じ行動を取りたくなかった。
 男は優しい手つきで暁の頭を撫でた。
「僕が脱がせてもいいけど、自分で脱いだ方が良いと思うよ。服って言うのは、周りの人間が見る君の姿だ。君は自分を殺したいんだろう。それを脱いだら、君は君を殺した事になるんじゃないかな」
 彼が何を目的としているのか、暁は全く予測がつかなかった。だが、服が自分を作っているという考えには同意出来た。だから彼は東京に来た時にファッショングラスをかけていたのだ。パレスに入ると怪盗団の服装が変わったのも、パレスの主の、怪盗団に対する認知によるものだ。実際、中身は同じなのに、学生服を着ている自分と、怪盗服を着ている自分が別人であるように暁自身も感じていた。
 暁は自分を抱きかかえるようだった男の手から逃れると、海を背景に立ち上がり、コートを脱いで砂浜に落とした。冬の海は寒く、それだけでも身震いしてしまう。スニーカーから足を抜き、靴下も脱いで、暁は裸足で冷たく湿った砂浜の上に立った。
 男の見守るような視線に晒されながら、暁は制服のジャケットのボタンを外した。左腕をジャケットから抜き出すと、暁の細い肩からずるりと落ちて、足元で黒い布の塊になる。サスペンダーの金具をぱちり、ぱちりと外してから、ベルトを肩から下すと、白いインナーの裾を両手で掴んだ。暁の視界には男しかいなかったが、彼は自分が公共の海水浴場にいる事を覚えていた。人がいないとは言え、冬の寒々しい空の下で裸になる事に対して、ようやく恥ずかしさが生まれてくる。インナーを捲り上げようとする手に躊躇いが見て取れた。
「手伝おうか」
 男が立ち上がり、暁の元へと近寄ろうとしたが、暁は軽く首を振ってそれを制止した。
 インナーをぐいと持ち上げて、タートルネックから頭を抜き、暁の引き締まった上半身が晒される。羞恥で身体が火照り、暁は寒さに対して感覚が鈍くなり始めていた。
 スラックスのボタンを外した暁だが、ウエストを掴んだまま、動けなくなってしまった。もし誰かが見ていたらと考えると、身体が竦んで動けなくなる。だが、男に見守られながら、秀尽の学生服を脱いでいく内に、自分が今までとは別の人間になっていく感覚があった。前の学校の制服から、秀尽の制服に切り替わり、それから過ごした日々を、文字通り制服と一緒に暁は脱ぎ捨てていた。怪盗チャンネルでターゲットを確認し、仲間達と緊密にやり取りをして、イセカイナビで改心を実行していた自分が、そっと首を絞められて、少しずつ息絶えていくようだ。
 それまで何も言わずに見守っていた男が、スラックスを掴んだ暁の手に自分の手を重ねた。
「頑張って」
 怯えて固まっていた暁の身体を解すように、少しずつ彼の手を下の方へと擦り動かしていく。暁の白い太腿には、寒さと、裸になる恐怖から粟立っていた。男は暁の太腿の付け根から膝までを撫でおろし、それと同時に膝に引っかかっていたスラックスを、彼の脚から完全に抜き取ってしまった。
 下着だけになった暁は、地面に落ちていた制服を拾い上げると、サスペンダーで乱雑にまとめて、海へと投げ放った。強風に煽られて思っていたよりも遠くにはいかなかったが、波にもまれて砂浜の上でぐちゃぐちゃになっている制服を見ると、暁は次第に心が晴れていくのを感じた。
 暁が寒さから守るように体を抱き締めて、砂浜の上で小さく縮こまった。しかし彼の顔には無邪気な笑みが浮かんでいた。頬は興奮から紅潮していて、高い声を上げて楽しそうに笑っている。明智を殺してしまった間抜けな自分が、ようやく息絶えたのだ。暁は海水と砂で汚れた制服が、殺したばかりの自分の死体の様に見えていた。
 男が着ていたコートを脱いで、裸の暁を包み込んでやった。寒さが和らいで、痙攣しているようだった暁の身体の震えが少しだけ落ち着く。暁はコートに袖を通すと、男を押し倒すように抱き着いた。
「うわっ、危ないな……。どう、生まれ変わった気分は」
 暁が男の口を塞ぐように唇を奪う。二人の間に挟まった眼鏡がずれる程、暁の口づけは激しかった。男は目を見開いて驚いたが、直ぐに受け入れて、上に乗っかっている彼の腰を抱き締めた。
 口を離した暁が、ずれた眼鏡を掴んで、それも海へと放り投げた。二人の間に唾液の糸が引いている事も構わずに、暁は火照った顔に笑みを浮かべた。
「清々しい。肩の荷が下りたみたいだ」
 男が暁の答えを聞いて、端正な顔立ちを綻ばせて笑った。
「それなら良かった。暁君、今まで本当によく頑張ったね」
 男が自分の名前を知っている。まだ教えた覚えもないのに。暁は怪盗だった頃と変わらない観察眼と注意力を持っていたが、その違和感の原因を追究する事を止めてしまっていた。