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kokokisu
2017-11-19 22:50:56
5922文字
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【P5・モブ主】ニーハイの女王様 6
「おい、あれ暁じゃねーか」
竜司の太腿を踏み台に、車の窓からじっと外の様子を伺っていたモルガナが、真っ先に彼の姿に気付く。その言葉を聞いて、反対側の席に座っていた仲間達も、モルガナの見ている方の窓側へと身を寄せ合った。
竜司が夜道を走る人影を確認するように目を細めた。女の服を着ているのに、大股で走っている。もしも本当に女性だったら、足を上げる度に捲れるミニスカートを気にしていただろう。
充分に近づくと、こちらへ向かってくる人物が暁なのだと分かる。彼の服装がルブランの屋根裏部屋から送り出した時と変わらなかったからだ。
暁は顔の半分近くを白いマスクで隠していた。そこだけが送り出した時と違う。竜司が窓に顔を張り付けたまま呟く。
「なんでマスクしてんだ、あいつ」
「どうでもいいから、早く合流しよ!」
杏がスライドドアを開き、暁を迎え入れた。暁が飛び込むようにして、ワゴンの後部座席に乗り込む。彼の足まで車に入ったのを確認すると、竜司が杏を手伝ってスライドドアを勢いよく閉めた。
暁が乗り込んだのを確認した春が、運転席の男性に声を掛ける。
「車、出してください」
まだ暁が着席をする前に、ワゴンは急加速で走り出した。暁を送った男性の車も、駅を去り、来た道を引き返していく。
ようやく体勢を整えてシートに座ると、暁は大きなため息を吐いた。仲間達の顔を見て、心から安堵する。緊張の糸が切れて、涙が出そうになった。
暁の様子がおかしい事に、仲間達も気づいていた。綺麗に整えられていた髪型は崩れ、服もよれよれで、マスクで隠されていない目元も、化粧が落ちてしまっている。ただ家庭教師をしただけで、こんな姿になるはずがない。
「なあ、暁、何かあったのか」
隣に座った竜司が暁を心配して声を掛けた。暁がマスクを外しながら、彼を安心させるように目を細めて笑う。
「もう大丈夫。合流出来て良かった。春も、車出してくれてありがとう」
正直、迎えがなかったら、ルブランまで一人で戻れなかったかもしれない。少年に嬲られた身体が痛くて、男性の車からこのワゴンまで移動するのがやっとだった。
憔悴している暁を怪盗団の全員が心配している。特に真は、自分の身代わりの様にして潜入をしてくれた暁に対し、罪悪感を覚えていた。危険な作戦だと分かっていたはずなのに、彼ならば大丈夫だろうと、どこかで甘えていたのではないだろうかと、自分を責めてしまう。
「ごめんなさい、貴方一人を危険な目に
……
」
落ち込む真に対し、暁は直ぐフォローを入れた。
「謝らないでくれ。真は悪くない」
あの家で出された物に口を付けてしまった自分が馬鹿だった。男性を改心の対象から外してしまっていたのも、自分の判断ミスだ。そもそも本当に責められるべきなのは、事件の犯人である。真が気に病む必要などない。
重苦しい空気になる車内で、一人だけいつもと変わらない人間がいた。
「どうやら作戦は簡単にはいかなかったようだね。それで、正しいターゲットの名前は入手できたのかい」
表面上は一応心配しているような素振りを見せているが、その言葉には暁への情が感じられない。彼が決して無傷で戻って来たわけではないと一目見れば分かるはずだが、こんな状況下で、明智は敢えて、彼に怪盗団のリーダーとしての役割を強く求めているように見えた。
怪盗団の面々が、明智を責める様に視線を向ける。
「僕は何かおかしなことを言っているかな。彼が女装をしてまで潜入捜査をしたのは、ターゲットの名前を入手する為だろう」
聞き捨てならないとでも言うように、春が眉をきっと吊り上げて明智を睨んだ。
「そんな、言い方
……
!」
彼女を皮切りに、明智への非難が他のメンバーからも噴出しそうになっていた。作戦立案者は明智であり、今回の作戦が予定通りにいかなかったのは、彼の責任でもあるはずだ。それなのに、実行者である暁ばかりを責めるような言い方をしている。仲間達の誰もが、よりにもよって今、加害者の元からようやく脱出できたばかりの暁に、作戦の結果を聞く事はないと思っていた。
明智は明智で彼らの甘さに辟易していた。犯罪者を追っているのだから、どんなに努力をしたとしても、捜査には結果が伴わなければ意味がない。暁が可哀そうな姿に変わり果てているからと言って、それを同情するのはそもそも彼への侮辱だろう。つまり彼らは、彼の事を、わざわざ犯罪者の元を尋ねて、言葉にしたくない程の何か嫌な思いをして、何の成果も得られず帰って来ただけだと評しているのだから。それならば初めから素人が正義の味方気取りなどしない方が良い。暁も、これで少しは怪盗稼業に懲りたのではないだろうか。
そこまで正直な事を言ったら、彼らはきっとますます恐ろしい剣幕になる。明智は素知らぬ顔をして、暁の様子を伺った。名前は入手できなかった、本当に嫌な目に遭った、もう二度と危険な事はしたくない、などの弱音を吐く事を少しばかり期待しながら。
しかし暁の瞳は、いつも以上に強い意志を宿して赤く輝いていた。
「名前なら入手した」
怪盗団の面々が、一斉に明智から暁へと視線を向ける。
暁は鞄から数枚の紙の束を取り出すと、明智へと指先のスナップで放り投げた。明智がそれを空中で受け止める。
明智は暁の小生意気な程の周到さに舌を巻いた。彼は、泣き言を漏らすどころか、潜入捜査の成果を見せてきたのだ。
彼が渡してきたのは、ダイレクトメールと個人宛のはがき、請求書などの郵便物だった。宛先に書かれているのは、当然、例の男性の名前だ。
暁は彼の家から帰る時、玄関に置いてあった郵便物を盗み取っていた。もし名前の書いてあるものが他になかったら、ネットであの家の住所を調べるところから始めなくてはならなかったが、都合よく彼宛の手紙らしきものが放置されていたので、拝借してきた。
「
……
郵便物に書かれている名前は全部同じだね。宛先ミスはなさそうだ。これで確定していいんじゃないかな」
明智が手紙を確認して呟く。その声音には、自身の敗北を認めたらしい若干の悔しさが滲んでいた。
「なんなら、その郵便物の名前が間違ってないか確かめてやろうか?さっきの車のナンバープレートなら覚えてるぞ」
ノートパソコンを膝の上で開いている双葉が、眼鏡の奥で笑みを浮かべて明智に言う。明智は彼女が何をしようとしているのか直ぐに察した。
「警察の車両登録情報をハッキングするつもりかい。そこまでする必要ないよ。請求書の名前が間違っている可能性は低いだろう。そもそも、それは犯罪じゃないか」
明智が苦笑を漏らした。はっきり言ってしまえば、郵便物を盗むのも犯罪行為だ。しかし、そこまで言及すると、もはやただの難癖になってしまうだろう。手段を選んでいられるような相手ではなかった。何より、名前の入手手段にまで口を出しては、女装までして潜入捜査をした彼に、何と言われるか分からない。
「さすがリーダー!決めてくれるぜ」
竜司が暁に称賛の言葉を送った。肩を抱こうとして、女装した暁の白い肩がオフショルダーのトップスから露出していることに気付き、不自然な動きで手を引っ込めている。照れているらしい竜司をみて、暁は今すぐに服を脱ぎたくなった。
「それで、いつメメントスに行く?」
後部座席にいた祐介が、暁へと尋ねた。本当なら今からでもメメントスに向かいたいくらいだが、今の身体でシャドウとまともに戦えるだろうか。それに、時間も遅い。今からメメントスに潜入していたら、改心できたとしても、戻る頃には夜中を過ぎているだろう。まだ高校生の彼らはどうしても、例えば夜中に集会をしているなどの悪い意味で目立つ行動は、控える必要があった。何より、彼らは怪盗団であることを世間に隠している為、警察に目を付けられるのは可能な限り避けなければならない。
暁の疲労が限界に近いのを見越して、モルガナが彼の膝に飛び乗りながら言った。
「今日はもう寝ようぜ。改心は明日決行でいいだろ」
その言葉を聞いた瞬間、暁は限界を迎えてしまった。隣の竜司に凭れかかると、目を閉じた途端、眠りに落ちてしまう。
モルガナの言葉は、暁にとって睡眠薬か何かなのだろうか。明智は唐突に晒された彼の無防備な姿に面食らってしまった。
「疲れてたんだね。無理もないか」
杏が彼の寝顔を眺めながら、小さな声で呟いた。ミニスカートを履いているのに、大きく開いてしまっている脚を隠すように、彼女の上着を彼の膝にかけている。
「寝かせといてあげましょう。竜司、祐介、ルブランに着いたら、彼を部屋まで運んであげて」
真の言葉を聞いて、暁に凭れかかられて硬直していた竜司が、戸惑ったように目を瞬かせた。
「えっ、俺らが?こいつ、ミニスカなんだけど」
「確かに、それは問題だ。それに、寝ている彼の身体を勝手に触るのは
……
」
竜司と祐介の反応を見て、双葉が訝しんでいる。
「男同士だろ。パンツの一つや二つ見えたところで、何が問題なんだ?その乳も、偽物だからな」
恥じらいも何もない双葉に対し、竜司と祐介の方が言葉に詰まってしまった。女装しているとは言え、暁が男であることは分かっている。それでも、今は女にしか見えない彼のスカートが捲れでもしたら、男として、無反応でいるのは難しい。
彼らのやり取りに呆れた明智が、雲一つない晴れ空のような笑みを浮かべながら挙手をして提案した。
「僕が運ぼうか。彼一人なら、いけるよ」
ボルダリングをしているので、暁くらいの体格の人間なら、腕の力で持ち上げる事が可能だ。それに、二人と違って、明智は暁が女装していても、彼をちゃんと男として認識していた。スカートが捲れても、トップスが脱げても、偽物の胸に手が触れたとしても、彼にとって暁の身体を運ぶのは、荷物を運ぶのと何も変わらない。
しかしながら明智の提案は、竜司から無言の睨みによって却下された。女装している事に関係なく、疲弊しきって眠っている親友を任せられるだけの信頼を、明智はまだ彼から得ていなかった。
ベッドに運ぶくらいで、大げさすぎる。明智は肩を竦めると、仲間からお姫様のように大切にされている暁の寝顔を見つめた。彼は誰かに守ってもらわなくてはならない程、繊細な人間ではない。様になりすぎている女装に目を眩まされて、怪盗をしている時、ジョーカーと呼ばれている時の彼がどう振る舞うかを、彼らはきっと忘れてしまっているのだ。
女性暴行犯の改心には、少年の名前だけでなく、彼の父親の名前も必要だった。彼ら二人のシャドウの反応が、メメントスに現れる。暁達は作戦会議を短時間で終わらせると、直ぐにメメントスへと向かった。
仲間達に集合をかけた時から、暁は全身からピリピリとした緊張感を漂わせていた。今回の彼は、悪人の改心を行う義賊でありながら、被害者だ。改心をしなければならないという使命感だけでなく、ターゲットに対して個人的な感情も少なからず抱いていた。仲間たちはあくまで無表情を貫き通す彼の心が推し量れずに、彼へどのような言葉をかけたらいいのか分からなかった。
メメントスの深部に、少年と父親のシャドウの気配がある。ナビの指示に従いフロアを探索すると、空間が歪み、道の先が一点に向かって吸い込まれていた。メメントスの内部は現実世界と比べられないに程異質な光景をしているが、歪みがここまで酷いのは、シャドウのいる場所だけだ。
「準備はいいか、リーダー」
モナに声を掛けられて、ジョーカーは軽く頷いた。
少年と父親のシャドウは、暁が二人に抱いた印象通りの自分本位な主張をした。少年は女を弄ぶ事に罪悪感など全くなく、それどころか女の喜びを教えてやっているとさえ言った。父親も父親で、子供のした事に対して泣き喚く女を被害意識が強すぎると評し、それどころか、被害を警察に通報しようとした人間に対しては、十分な金を与えてやったのに息子の将来を潰そうとする馬鹿者、とまで吐き捨てた。
戦闘に参加していたクロウとモナ、クイーンは、ジョーカーの怒りを痛い程に感じていた。少年と父親のシャドウに向けられる彼の敵意が、研ぎ澄まされたナイフの様に鋭い。シャドウの発言は聞いている人間全ての神経を逆撫でる物であったが、誰よりもその言葉の意味を理解できてしまったジョーカーは、煮え湯を飲まされたような怒りが湧いていた。
「言いたい事はそれだけか」
喚き散らしたシャドウに向かって、ジョーカーが鋭く言い放つ。シャドウは次の瞬間、人ではない異形の姿へと変貌した。壺に入った青い小さな使い魔の姿を、ヤギの頭を持つ悪魔が現れる。アガシオンと言う名の精霊と、サバトで崇められるバフォメットだ。女性の家庭教師は父親にとって息子へ捧げる供物だったのだろう。
ジョーカーは深紅の皮手袋をきつく嵌め直すと、ナイフを片手にマスクへと手を掛けた。彼の横に立っていたクロウは、隣からぞっとするような気配を感じ取った。迫りくるシャドウから一瞬だけジョーカーへと視線を移す。見ると、彼の綺麗な横顔が、狂喜の笑みに歪められていた。
人間の二人と対峙している時には叶わなかった、彼らの根本的な悪を叩きのめす事が出来る。自分がその手段を持っている事に、ジョーカーは堪らない恍惚を感じていた。本当ならば被害者は泣き寝入りをするしかなかったはずだが、法律や道徳観念と言った曖昧な物に頼る必要すらなく、これから自分は悪そのものを叩く喜びを、言葉通りこの手に感じる事が出来るのだ。ジョーカーは迷いのない動きでマスクを剥ぎ取り、強力な大天使のペルソナを呼び出した。
クロウは何も知らずにこちらへと向かってくる二体のシャドウが哀れな存在に見えた。彼らは無知で、これから自分達が鋭い牙と爪に嬲られる事に気付いてすらいない。圧倒的なペルソナ能力を持つジョーカーにとって、彼らは最早、力加減を間違えたら壊れてしまうだけのおもちゃだろう。爪で捕まえ、牙を突き立てる感触を充分に楽しんで、息があるうちは可愛がって貰えるに違いない。
現実世界で弱り切っていた暁と、こちらの世界でシャドウを弄ぶ彼との落差が大きすぎる。いくらニーハイが似合っていたとはいえ、お姫様のようなという形容詞は余りにも相応しくなかった。女装の力で可憐な女の子に見えていたとしても、中身は今の彼と同じなのだから、精々、怪盗団の女王様とでも呼んでやるべきだった。
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