kokokisu
2015-02-16 19:43:14
1200文字
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枕営業される白澤さん


 白澤は薬局のカウンターに肘をついて座り、うんざりとした顔で正面に座る鬼灯を見つめた。
「なんだよその大荷物」
 いつもなら金棒一本か、精々それに風呂敷を縛り付けた位の荷物しか持ち歩かない鬼灯が、今日は巨大な箱を背負ってきていた。半透明のプラスチックのコンテナからは大量の金魚草が透けて見えている。蓋はしっかり閉じられているはずなのに、漏れ出すようにして金魚草の鳴き声が聞こえていた。
「頼まれ物ですよ」
 鬼灯が白澤に言って用意させた茶を啜りながら一息を付いている。白澤には特に用は無かったが、近くを通りかかった鬼灯はここの休憩場所にしていた。
 薄く透けて見える金魚の不気味さに寒気を覚える。金魚草の声が、地獄の亡者の血を吸って育ったのではないかと言う様に恨みがましく聞こえた。こんな呪いのアイテムを一体誰が何の目的で頼むと言うのだろう。
 白澤がコンテナをじっと見ているのに気付き、鬼灯は蓋を開けて、一匹を取り出してみせた。
「これ、乾燥してエキスを抽出したら滋養強壮になるらしいんです。私は観賞用としか思っていなかったんですが、そんな使い方もあったんですねえ」
 まだ生きていてぱくぱくと口を動かす金魚草が鬼灯の声を借りて喋っているようだ。白澤は眼前に突きつけられた金魚草を、鬼灯の手ごと押しのけた。
「いくら滋養強壮でも、こんな不気味な物のエキスなんて飲みたくないよ。気持ち悪い」
 鬼灯はそれを聞いてむっと眉間を寄せた。
「あんたの生み出す呪われた生物よりは愛嬌があります。大体貴方、仮にも東洋医学の権威でしょう。色眼鏡を掛けて薬の材料を見るのはどうかと思いますよ」
 言いながら鬼灯は、金棒の先に結んでいた風呂敷を開いて中から赤いキャンディのような物を取り出した。それが何かと訝しむ白澤の前で、数粒を纏めて口に入れている。ガリガリと噛み砕き、飲み込んでしまった。
 見る間に鬼灯の息が上がって行き、血走った目つきで白澤の腕を掴んでくる。
「えっ、ちょっ、なに?」
「金魚草エキスの効果を見せてやります」
 噛み付く様にそう言った鬼灯が白澤を彼の自室に連れて行き、二人は夜が更けても薬局へは戻ってこなかった。

 鬼灯の精力をまざまざと見せつけられた白澤は、ベッドの上でぼんやりと虚空を見つめていた。
「金魚草っていくらするの?あのコンテナ一つ分、早急に現金で買い取りたいんだけど」
 鬼灯のマーケティングはうまく行ったようだ。白澤は金魚草エキスを使った自分が連日連夜女と遊んでもまだまだ旺盛な姿を夢見て、鬼灯とその場で取引を交わした。
 白澤から受け取った札束を銀行員の様な手つきで数えながら、鬼灯は白澤の単純さに内心驚いていた。いきなり男に襲われたと言うのに、直ぐに何が益かを判断して取引を交わしている。彼の脳みそは余程柔らかいのだろうと、ここまで来ると感心してしまった。