kokokisu
2015-02-15 20:55:41
1810文字
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神様じきじきのお出迎え


 加々知の家には最近妙な男が住みついていた。
 男の名前は白澤と言い、どうやらまっとうな生き物ではないらしい。自称だが彼は神獣で、本当なら天国でうさぎと桃太郎と薬局で働いていなくてはならないのだという。数億年前から地球上に存在する億越えの爺さんな上、額と身体にも七つ目があり、その目を使えばどこまでも見渡せるらしい。
 この自己紹介を聞いた加々知は瞬時に携帯電話で警察に通報しようとした。ここまでぶっ飛んだ不審者を見るのは加々知も初めてだったので、少し楽しくなってしまったが、この男をその辺りに野放しにしていては地域の治安に関わる。警察に自分の家の住所を告げようとする加々知をどうにか止めて、白澤はそれからも意味の分からない供述を繰り返し、追い出す事に失敗した加々知の同居人になっている。

 仕事から帰った加々知を出迎えたのは、三角巾と割烹着を着て手にはお玉を持つという昭和な服装をした白澤だった。
「おかえり~!早かったね」
「ええ、まあ。約束していましたしね」
 白澤がそれを聞いてニコリと笑う。
「お前の為に色々ご馳走用意したよ」
 首を伸ばしてリビングを覗き込むと、テーブルの上には所狭しと加々知の好物が並べられていた。全て、白澤が加々知の為に作った物だ。
 白澤が加々知のスーツを受け取り、ハンガーに掛けている間、加々知はテーブルの前に座って料理の数々を眺め感心していた。
「これはすごいですね、白澤さん。貴方にも取り柄があったなんて」
 身元も住所も確かでない白澤は働かないまま加々知の部屋に居座っている。有無も言わさず押しかけられた加々知にとって、白澤が小食なのだけが救いだった。
「相変わらず口悪いな。そう言うとこは昔と変わってないね」
 また始まった、と加々知は思った。白澤は加々知の事をずっと昔から知っているらしい。それも、数千年前から。
「ま、いいから食べてよ。ケーキとプレゼントもあるよ~」
 一人暮らしで恋人もいない加々知は、誕生日を祝われて悪い気はしなかった。手を合せて早速食事を始めている。

 酒を沢山飲まされて、加々知はすっかり酔っぱらっていた。白澤の硬い膝の上に頭を乗せてしまっているようだが、起き上がる事さえできない。
「昔はどんなに飲んでも酔わなかったのにねえ」
 へらへらと笑う白澤も少し酔っぱらっている。
「あんなに飲ませられて酔わない人間なんていないです」
「そうだった、今は人間なんだった」
 白澤が手を叩いて笑っている。加々知はその耳元で弾けるような音に顔を顰めた。
「そろそろ誕生日プレゼントをあげようか」
 金もないはずなのにいったい何を用意したのか。怪しむ加々知の腹にとんでもない痛みが生まれる。
「がっ……!」
 見ると白澤が加々知の鳩尾に深々と拳を突き入れているではないか。白澤の拳は加々知の内臓にまで届き、さっき食べたばかりの物を吐き出してしまいそうになった。
 ずっと一緒に暮らしている間に、加々知はこの不審者へ疑いを抱く事を忘れてしまっていた。毎日笑顔を向けられて、一緒に食事を食べて、時々は一緒に眠る事まであった。そんな相手を24時間警戒し続けるなど不可能で、その為に白澤から暴行を受けても直ぐには自分の身に何が起こったのか加々知は分からなかった。
「何、するんですか」
 酔いと腹の痛みで気持ち悪さが頂点に達している。脂汗が額に滲み、加々知は腹を押さえて蹲りながら忌々しそうにそう呟いた。
「あれ、これくらいじゃ駄目なのか。人間の身体ってのも、意外と丈夫なんだね」
 白澤が悪びれも無くそう返してくる。その表情は、今までの白澤が突如豹変して襲いかかってきていると言う風ではない。
「ちょっと早いけどそろそろあっちに帰るよ、加々知。いや、鬼灯。お前の居場所はここじゃなくて、地の底の果てにある冥界だ」
 すっかり見慣れた白澤の軽薄な笑顔が、血も涙もない狂人の物のように見える。白澤は楽しそうな笑顔のまま右の肘を張ると、まだ動けないでいる加々知のこめかみに勢いよく打撃を加えた。人の物ではない怪力に頭蓋骨は割れ、衝撃は脳にまで到達し、加々知は物を考える間もなく絶命してしまう。
 白澤は彼の目を閉じさせ、身体だけになった彼を置いて部屋を出て行った。ベランダから去る間際、白澤は加々知の身体にひらひらと手を振った。
「あっちでもまたよろしく」