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kokokisu
2014-12-31 04:15:33
2625文字
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SE加々知 2
白澤の作った弁当を加々知は綺麗に平らげていった。これまで会社で食べてきた昼食は腹さえ満たされればいいと言うような食事ばかりだったので、味など殆ど気にした事はなかった。しかし白澤の手作り弁当を食べていると、つい彼の家で彼と向き合って食事をしている時を思い出してしまう。加々知は白澤への苦手意識は未だにしつこく残っていたが、白澤の手料理は少しずつ好きになっていた。料理の味付けに選り好みの有る方ではない加々知でも、白澤の料理が既成の弁当とは違う事は流石に分かる。味ではなくそれが作られる過程が、自分は碌に食べないのに加々知の為には料理をする白澤の好意が、舌以外の器官を通して彼の料理は美味しいと伝えてくる。この手作り弁当も、白澤の家で食べる料理と同じ味がする。加々知はその弁当を食べている間、自分を眺めて嬉しそうに微笑む白澤の姿が見える様な気がした。
彼の料理が美味いと思ったのはいつだっただろうか。彼はシャツのボタンを外して寝る癖があるのを知ったのと同じ時期だった気がする。彼のシャツのボタンは朝になるといつも外れていて、その姿を隣でいつも見ていたはずなのに、彼の癖だと気付いたのは暫く経ってからだった。料理も初めは出されたので何とも思わずに食べていたが、後になって彼の料理を美味いと思っている自分に気付いた。
白澤の事など鬱陶しい仕事相手くらいにしか思っていなかったのに、彼の家に寝泊まりするようになってから加々知の脳内には仕事に全く関係ない彼の情報が凄まじい勢いで蓄積されていた。喧嘩する以外の交流をしていなかった頃は、白澤に関する情報など知った所で即座に忘れていただろう。今でも加々知は白澤の誕生日や家族構成など知らない事が多い。少し前ならその最低限のプロフィールを知らない事にも気づかなかった。
共有する時間が増えて、否が応でも白澤を知る機会が増えて、無意識のうちに白澤という存在が脳に刷り込まれていった。そのうちだんだんと嫌いではない部分も見えるようになってしまった。なってしまった、と言うのは、少し前に知っていたら嫌っていたであろう白澤の様々な顔が、いまでは許せるようになっていたからだ。
白澤も加々知と似たような心境の変化を経験していた。そもそも白澤が加々知を家に泊める様になったのは、加々知に性的な見返りを求めていたからだ。それなのに最近では加々知を家に泊めても行為まで至らない事があるどころか、寝床を提供する以上の世話を焼いている。白澤の性根が優しい事も大いに影響しているのだろうが、女好きの白澤が何の見返りもなく男の加々知にここまで尽くすのは親切を越えている。白澤はその変化を経て、何の躊躇もなく加々知へ好意を向けるようになっていた。
友人の二人に白澤の事を言わずに良かった。加々知は今更になって自分が危うい行動をしていた事に気が付いた。言い方によっては自分が白澤と付き合っていると二人に勘違いさせる所だったのだ。だがそんな事実は一切ない。
二人に問い詰められた時、白澤と身体の関係はあるが、責められるような事ではないと加々知は思っていた。両者とも望んでやっている事なので、誰かを傷つけている訳でもない。肉体だけの関係と言うには、精神的に満たされ過ぎていた。
しかし冷静になってみると、加々知は白澤に好きだと言った事も、白澤から言われた事もない。自分達の関係が何なのか、はっきり追及した事もなかった。突き詰めてしまえば、お互いに必要な物を提供し合っているだけだ。どちらも何も言わなかったのも、これが利害関係だと自覚していたからなのだろう。余計な事を口にしてしまってしがらみを作る必要などない。
見返りを求めずに尽くしてくれる白澤に、加々知は後ろめたさを感じた。以前から明らかに釣り合わない見返りで寝床を提供してくれる白澤には悪いと思ってはいた。前よりも少しだけ時間に余裕が出来たので、漫然と新しい住処を探していたが、今日の一件で加々知は決心をした。これ以上深みに嵌まる前に、白澤の家を出て行く必要がある。
目の前で喚きながら泣いている白澤を前にして、加々知は狼狽えながらも頭の大部分は妙に落ち着いていた。
白澤は加々知の予想よりも単純で馬鹿だった。加々知を嫌う様になった理由が、女に関する逆恨みと言う下らない物だっただけはある。きっと白澤は根が素直すぎるのだろう。これまでのいがみ合いが白澤の心に何の禍根も残していない。つまり、今の自分が加々知をどう思っているかだけが、白澤にとっては重要であるようだ。
だが加々知はそこまで物事を割り切れないでいた。百歩譲って昔白澤から受けた理不尽な仕打ちを水に流して許してやれても、白澤へ手放しで好意を寄せるのは不安だった。
二人が不仲になった原因が女であるように、白澤は女が絡むと非常に厄介な性格をしている。白澤はとにかく無類の女好きで、誰とも誠実に付き合う気が無く、常に複数の相手を作ってはとっかえひっかえで遊んでいた。泣かせたり怒らせたりした女の数は片手の指の数では足りないだろう。
しかしその中でも加々知へは恋人の様に接してくるのに、女遊びを控える様子が全くない。身体を何度も重ねる内に嫌でも白澤へと執着心や独占欲を抱き始めたので、加々知は白澤が女の気配を漂わせる度に苛立っていた。
加々知は白澤の恋人ではないので白澤の付き合いに口出しが出来ない。だからと言って恋人同士になっても、浮気をしていると言う自覚すらなく白澤は女と遊ぶだろう。現状でもほぼ付き合っている様な物なのに平気で女と会っているので、先がどうなるか分かりきっている。だから加々知は白澤への好意を一歩引いた所で抑えていた。
そんな加々知の頑なな心を溶かしたのは白澤のたった一言だった。
加々知がいるのに女を連れ込む理由がない。当たり前の様に白澤が言ったので、加々知はその不意打ちに顔が熱くなってしまった。
いくら加々知が疑っても、白澤の心はとっくに決まっていた。それは加々知も同じだったのだが、白澤の潔さを見ると敵わないと思ってしまう。口ではいくらでも都合の良い事を言えるし、白澤が女遊びを止めるはずがないと加々知は頭では分かっていた。結局は、白澤の様に自分の想いに素直でいる方が賢いのだろう。白澤を遠ざける理由を必死に探していた自分の方が馬鹿だったようだと加々知は認めた。
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