kokokisu
2014-12-26 01:51:02
1676文字
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SE加々知




 いつもなら昼休みになると会社のすぐ近くにあるコンビニで昼食を買っている。他にも周りに飲食店ならあるが、加々知はパソコンの前で作業をしながら昼食を取るので、大抵はコンビニの弁当で食事を済ませていた。
 しかしこの日は思ってもみなかった事が起こった。昼休みになって白澤から呼び出しがあったかと思ったら、手作り弁当を差し出してきたのだ。
 加々知はデスクに白澤から貰った巾着袋を乗せると、腕を組んでぼんやりとそれを見つめた。
 妙な事を思いつく人だ、と白澤の行動を評しつつ、加々知は彼に言われた冗談を頭の中で思い返していた。
 母親に作ってもらったと言えばいい。
 手作り弁当を誰に貰ったのかと同僚に茶化されたら、そう誤魔化す様に白澤は言った。買い食いし続けていた癖に何故今日だけ母親に弁当を用意してもらうのか。不自然すぎて信じてもらえないだろう。
 だがそれだけでなく、母親に作って貰ったという嘘では友人達を誤魔化せないと加々知は分かっていた。
 さっそく加々知の後ろに仲の良い同僚達がじわじわと近寄ってきて、うさぎの巾着袋を覗き込んでいる。
「おい、それどうしたんだ」
「女だろ。その可愛い巾着袋は。相変わらずモテるな、加々知は」
 彼らは加々知の友人だ。二人とも加々知の事を良く知っていて、ただの会社の同僚以上の付き合いをしている。
 二人が面白い程に予想通りの反応をしてくれるので、加々知は冗談を試してみたくなった。
「いえ、これは母親に作ってもらったんです」
 加々知がそう言うと、一瞬だけ二人が固まった。
……いや、誤魔化すならもうちょっとマシな嘘考えろよ」
 髪の色の明るい友人の方が怪訝な顔をしている。加々知らしくない冗談だった。
「もしかして母親って、なんか別の意味で?」
 もう一人の友人は深く考えすぎているようだ。眉根を寄せて考え込んでいる。
「なんでもないです。ただの冗談ですよ」
 二人の反応を見て加々知は何も言わなければ良かったと少しだけ後悔した。
「それで、誰に作ってもらったんだよ。ちょっと中身見せろよ」
 加々知は巾着袋の紐を解くと中から弁当箱を取り出した。うさぎの絵がワンポイントで入っている二段の黒い弁当箱だ。蓋を開けると一段はふりかけのかかったご飯で、もう一段はソーセージや卵焼きなどの簡単な定番のおかずが詰め込まれている。
 色気のない弁当だった。独身の加々知に初めて手作り弁当を持たせた恋人が作ったようには見えない。
「なんだ、ハートとか好きとかないのか」
「無くて安心しました」
 プラスチックの短い箸を蓋から取り外すと、加々知は手を合せて食べ始めた。
「なあ、結局誰に作って貰ったんだよ、言えって」
「自分で作ったんじゃないんだろ?」
 二人はしつこく加々知の弁当を作った人物を知りたがった。朴念仁の加々知には浮ついた話題が殆どない。加々知に好意を持っているらしい女性の話は聞いても、仕事一筋の加々知は彼女らを相手にしてこなかった。それが、突然手作り弁当を持ってきたのだ。恋人が出来たなどと言う話も聞かなかったので、二人とも加々知の身に一体何があったのか興味が尽きなかった。
 こうも二人に注目されると弁当の味がしない。加々知は溜息を吐いてほうれん草の炒め物を口に運んだ。
「言っても信じないと思いますよ」
「言わないと信じるも信じないも無いだろ。ほら、観念して白状しろ」
 口に残っていた物を呑み込むと、加々知は質問に答えようとした。二人になら知られても、驚くかもしれないが問題はないだろうと思っての事だった。
「営業の……
「え、この会社の?」
「仲良くしてる女いたっけ?」
 同じ会社の人間が相手だと知り、友人の二人は先走って興奮している。しかし加々知はそこまで言って口を止めた。食い入るように二人が先を待っていると、加々知は急に二人から視線を逸らした。
「これ、言っていいのか聞いてませんでした。今度聞いておきます」
 二人は揃って肩を落とし、すごすごと自分のデスクへ戻っていった。