みたむら
2023-12-24 23:35:59
5396文字
Public 刀剣乱舞(長義さに)
 

帰る場所はここにある。

2023.12.23「W山姥切と女審神者版60分一本勝負」(X:@95_158_328)様より
テーマ:聖夜

現実逃避してゲーム三昧していた審神者とクリスマスパーティに招待する長義の話。

 これは、ある日のこと。
 私は、所謂「審神者」という職を持って歴史改変から守る仕事をしている――いや、していたのが正しい。
 ずっと戦い続けて、ある日を境に戦う気力を失った。戦っても戦っても平和にならない世の中。疲弊が溜まっていくし、苦痛も伴う。そして、いつ時間遡行軍にやられてしまうのかと常に警戒をしなければいけない。そんな日常が嫌気をさしたのだ。
 そのため、私は一時的に「逃避」する道を選んだのだ。審神者の仕事を休業し、現代でいつもの生活をする。とはいえ、別に時の政府に許可をもらったとかそんなことはない。私独断で、審神者を、本丸を離脱したのだ。

「ああ……いい話だなぁ」

 グスングスン、とティッシュを何枚か取って今にも目から涙、鼻から鼻水が出てきそうなのを止めていた。目の前にはテレビに映る、ゲームの世界。今、一つの「旅」が終わったのだ。これはそう、エンディングなのだ。あの強敵なボスを何度も挑戦してやっと勝ち取った。そして、主人公達の運命を今、見届けたのだ。あまりにも良い話すぎて、そして彼らとの旅が終わったのだと思うと、思わず涙を流さずにはいられなかった。
 審神者を一時休止してからどれくらい経っただろうか。せっかくの休暇だしと思い、これまで詰んでいたゲームを片っ端から片付けてクリアしていった。どれもやってみたいゲームは当たっていた。どれも神ゲーすぎる!
 誰かのために戦うことは憧れていた。だから、審神者のスカウトに来た時は怪しいなと思いつつも、夢が叶ったのだ。審神者も立派な仕事だ、誰かのために働けるっていいと思う。生きてる感じがするというか。
 でも、現実はそんなキラキラした世界じゃなかった。右を見ても左を見ても暗い世界。しかも、家族は勿論友達にも知られてはいけない世界。自分と、時の政府と、刀剣男士だけが時間遡行軍という強敵と戦うしかない。それを毎日のように戦続きしていれば、誰だって闇堕ち――もとい鬱にはなるでしょうよ、誰だって。
 楽しいことはすぐに終わる。このゲームもついに終わってしまった。私という「神」が見届けられる世界が、終わってしまった。このゲームが終わったら現実に戻らないといけない。また、審神者となって戦う日々に戻る――そう決意してこのゲームを引っ張り出したのだ。そのゲームの世界が終わりを告げた。終わりはなんというあっけない。なんという虚無感。しかし、感動した。

 窓の外を見る。
 外はやけに騒がしい。家族連れが、「クリスマスのご馳走楽しみだね!」と、楽しい会話が聞こえていた。これから買い出しなのか、それともディナーでも予約して豪華なチキンでも食べるんだろうか。何にしても、微笑ましい家族だ。
 私はというと、スーパーの売れ残りをこのゲームを始める前に買ってきたばかりだ。それを温めて一人寂しくクリスマスを楽しむ予定だ。

「これって楽しいクリスマスになるのかな?」

 涙を拭いながら苦笑いを零す。まぁ、ゲームの世界を楽しんで別れを告げた後に、隣近所の家族連れのキラキラ輝く楽しいクリスマス模様を聞かされたら、私のクリスマスは寂しすぎるじゃんと現実にスッと帰っては落ち込む。いいな、羨ましいな。恋人も結婚相手も友達もいない私は一人で寂しくクリスマスを祝うしかない。
 そう思いつつもお腹がぐぅ、と鳴った。時計を見れば夕飯の時間は過ぎ、もうじき夜食という時間帯だった。せっかく買ってきたチキンを食べるか、と冷蔵庫を開いてチキンを取り出し、電子レンジでチンをする。
 スーパーの安売りで買ったチキンでも、温めたら少し元気が湧いてくる。冷めたら美味しくないもんね。準備を済ますと手を合わせて「いただきます」と言ってチキンをかじろうとした――

 端末に連絡が入った。
 私の現代での生活は、ぼっちが多い。そのため連絡がくるとすれば家族か、時の政府か、本丸にいる刀剣男士の誰かだろう。
 手に持っていたチキンを、仕方なく皿の上に置いて端末を取ってみると、着信だった。電話なんて珍しい。しかも、相手は「山姥切長義」と書いてある。

「もしもし?」
『もしもし、主か?』
「ええ……久しぶりだね」
『元気そうで何よりだよ――主、まだ戻る気はないのかな?』

 あまり聞いてほしくない話題を、単刀直入に言ってきたものだから、息が詰まった。それを彼に伝わったのかまでは分からないが、多分様子を伺っている。
 山姥切長義――それは、私の近侍の、刀剣男士の名だ。
 本丸では彼に全てを任せていた。だから、政府からの依頼も長義が代わりに仕切って出陣や遠征などもこなしているだろう。そして、たまに端末にメールや電話をかけてくることがある。何かあっても、「こちらで処理しておく」と言って私を気遣ってくれていた。ただ、本丸での報告は聞いて欲しいという条件で、私を現代に行かせてくれた。彼には本当に感謝している。そうでなければ私は今頃、「審神者」という職を無くしているところだろうから。

「もうすこ――
『本当に? まだ〝旅〟を続けたいのかな?』

 旅――それはゲームという仮想空間の世界のことだ。
 私は所謂ゲーマーというもので、一部を除いてゲームは結構する方だ。長義もそのことは知っているし、おすすめのゲームを話してあげたこともある。だからゲームというものが何かも知っている。
 ゲームを旅、と言い換えている理由は、私がゲームをする理由は様々な世界を旅している=ゲームをすると同義だからだ。私の考えはどこかおかしいのも分かっている。でも、長義は分からないなりに、理解してくれる刀剣男士だった。ちなみに、本丸にいたときにたまに一緒にゲームして遊んだこともあるくらいだ。

『主。どんなに沢山の旅を踏破しても、貴女の世界はここにしかない。貴女が戻ってこないと、世界は動かないんだ』
「長義」
『俺も、本丸のみんなも主の帰りを待っている。俺たちでは、俺ではだめかな?』

 それは、とても難しい選択肢を与えてきていた。
 長義は「もうこれ以上現実逃避は許さない」と遠回しに言っているのが分かった。おそらく、時の政府に私の事情がばれてしまったのか、ばれそうなのか。今のような隠蔽状況は終わりを告げている。政府にこのことが知られてしまえば、私は審神者から解任され、長義たちは刀解されるだろう。私たちが本当にバラバラになるのだ。

『どうしてもその世界が好き? 俺たちの、今の世界は嫌い?』
「戦うことが怖くなった。夢で終わっていればよかった。ゲームの世界みたいな、英雄みたいなかっこいい世界じゃなかった。戦っても戦っても終わらない日常が嫌になった。だからゲームの世界に逃げた」
『で、その好きな世界が終わった感想は?』
――とても、美しくて楽しくて、寂しい」
『どうして、寂しいと感じた?』

 どうして?
 そんなの簡単だ。それは仮想空間なのであって、「私の世界じゃない」からだ。
 その世界に私はいないし、長義たちもいない。あの世界は主人公達の世界のものだ。私はただ、その主人公達と世界を見ただけだ。そこに「私」という住民は、人間は存在しない。
 あの感動の涙は、それを自覚してしまったからの、悲しみの涙だった。何度プレイしても、その世界の住民にはなれないんだって、彼らのようにはなれないって分かってしまった。そこには、私の居場所はない。

『主、部屋に入ってもいいかな?』
「え?」

 突然、変なことをいうものだから調子抜けた声が出てしまった。
 すると、ピンポーンと音が響き、私は慌ててドアに向かう。

「だれで――

 すか、という前に私は一人の男に抱きしめられていた。
 いるはずのない、大事な近侍の姿がそこにいた。
 久しぶりの彼に、私は思わずぎゅっと抱きしめ返した。確か、本丸を出たとき以来だろうか。
 しばらくして、彼から手を解いた。そういえば、やけに彼の体が冷たいなと思って尋ねてみると「ずっと外にいたんだ」と言った。私は思わず、中に入って入って、と言って部屋の中に入れた。
 その時に繋いだ手が彼の言うとおり、外の冷たい場所に長時間いたのだと改めて分かる。
 お互いに端末を切ると、互いに顔を合わせる。
 何ヶ月ぶりに見る姿。私は、恥ずかしくなって少し横を向いてしまう。

「く、来るなら前もって連絡しなさいよ。風邪でも引いたらどうするの?」
「そうでもしないと、貴女を本丸に連れていけないだろうと思ったからね」
「え?」
「直ぐ戻ってくるだろうと思っていたのに、ずーっとゲームをして一向に外に出ようとしない。本丸の運用と時の政府への嘘の報告に、彼らへの指揮、主の身を守るために現代に飛んでいたんだ。何故俺がここまでしたか、分かるかな?」

 近侍ならそこまでしなくてもいいだろう。特に、私を見張っていた――ではなく見守っていたというのは。それでも、彼は私をじっと待っていた。

「っていうか、なんで知ってんの?」
「バイトとやらの時も、俺が貴女を守っていたんだ」

 長義は「ほらこれ」と言って、端末の散歩システムを起動させる。
 そういえば、出て行かない日でも謎の雀?が代わりに遠くへ行けるようになったとかなんとか、長義から報告を受けていたような受けていなかったような……
 うーん、確かになんか心当たりがあったかもしれない。
 一時期、散歩システムを起動するのを忘れてた時があった。珍しく朝寝坊したときだろうか。慌てて家を出て何とかバイト先に着いた時だったので、散歩システムなんかやってる暇もなかったのだ。しかし、バイトが終わり、いざ散歩システム起動しようとしたときには、完了していたのだ。その時は寝ぼけてやっていたのをやっていなかったと勘違いしてたのかな、と思っていたのだけど。実は長義が代わりにやってくれていたようだった。

「で、主は戻るのか戻らないのか、聞いてもいいかな?」
「わ、私は――

 戻らない、とは言えなかった。
 あのゲームをクリアしたら本丸に帰ると誓ったからだ。これについては長義にも内緒にしていたのだが。まさか、長義がここに来るとは思っていなかった。いきなり戻ってびっくりさせようと思ったくらいなので、逆に食らってしまった気分だ。

「も……戻り、ます」
「それはどうして?」
「あのゲームが終わったら元々戻る予定だったの。ただ、まだあのゲームクリアを味わっておきたくて」
「だから、一人で寂しくチキンを食べようとしていたわけ、か」

 そう言って長義は私が食べようとしていたチキンを見て、苦笑いを零していた。な、なんですか。スーパーの安売りは一般庶民にとっては味方なんだよ。そりゃ、豪華なチキンには勝てませんけどね。これでも贅沢なんだよ、この世界では!
 そういう意味を込めて睨んでいると、すまない、と彼はあやまった。

「どのみち、一回本丸に戻ってもらうことは確定だったわけだが。主にそんな質素な食事は似合わない」
「うっ、私は金持ちの家で生まれたわけじゃないんですぅ!」

 貧乏家庭でごめんなさいね。なんて言ってやると、長義は慰めるように頭にぽんと手を置いて撫でた。

「本丸中が、主を連れて帰ってこいって五月蠅くてね。燭台切や歌仙たちがクリスマスのご馳走を作って待ってるんだ」
……え?」
「そのゲームの感想を聞かせてくれないかな。短刀たちも、貴女がいなくて寂しがっている。一人で過ごすくらいなら、本丸に戻って俺たちとクリスマスを祝う方が楽しいだろう?」
「うっ……図星過ぎて何も言えない」

 寂しいんだよ。ゲームが終わった後って達成感以上に寂しくなるんだよ。ああ、あのワクワクドキドキ感がもう味わえないのかーって。んでもって私一人だから、感想を言える相手もいない。その相手が今回は居る。そして、本丸のみんなとクリスマスを祝える――何という贅沢な。何という恵まれた環境だったんだ、私。

「うん。もう審神者に戻るよ。でも今日は、みんなとクリスマスを祝いたい」
「ああ。じゃあ、支度をしてくれ」
「ラジャ!」

 私は頷くと本丸に向かう準備をする。私もクリスマスを本丸で過ごして良いのなら喜んで戻る。そんで、沢山ご馳走食べてまた審神者として頑張るんだ。
 私たちは本丸へのゲートを開いて、久しぶりの本丸に着いた。

「ただいま!」

 私は、本丸の入り口に足を踏み入れてそう声を上げると、みんなが「お帰りなさーい」と出迎えてくれた。
 その後は、クリスマスパーティをして元気を取り戻した。
 ありがとう、ゲームたち。
 私には私の世界がある。私も、そっちに負けないぐらい戦い続けるよ。だから、そっちでも頑張ってよね、主人公たち!

「? どうかしたのかな?」
「ううん、なんでもない。それより、あのゲームの感想を聞いてくれる?」
「ああ。どうぞ」

 酒を飲みつつ、ゲーマーとゲームに理解のある刀剣男士との談笑が始まった。本丸にも、少しだけ活気が戻って来た気がする。
 私には、ここがある。帰る場所はここにあるんだと、笑いながらそう思った。

「帰る場所はここにある。」 完