脆弱な人間を地上の覇者たらしめたものは、繁殖力でも知恵でも社会性でもなかった。長らく地上の覇者はドラゴン族だった。強くしなやかな鱗を持ち、鋭い爪と牙を持つ力強い生き物だ。
彼らにとって人間は、小さくてたくさんいて毛皮を持たない、食べやすい餌でしかなかった。鯨にとってのオキアミのようなものだ。しかし時が流れれば弱かった生き物は変化する。強者と弱者が入れ替わる。
しかし残念ながら変化したのは、人ではない。植物たちだった。
地表を広く覆っていた植物の一群が、毒を持つようになった。度々ドラゴンの火に焼き尽くされるため起こした防御反応である。彼らはドラゴンに反撃することはできなかったが、その数の多さを生かして環境を少しずつ変えていった。燃やされたときや踏みしめられたとき、呼吸をしたとき、毒を空気中に吐き出していった。
人を生かしたのはその毒草であり、強いていうなら人を地上の覇者にしたのは、その適応能力だった。人は体が小さかった。そして器用だった。だから自分たちが暮らす場所から、虫眼鏡で地面を見てでも根気強く一つ一つ毒草の種を取り除くことができた。目が出ても他の場所に植え替えることだってできたし、それらを集落の周りに巻いて、ドラゴン避けの守りにすることすらできたのだ。
ドラゴン族は毒草を取り除く手段を持たなかった。燃やし尽くすしか術がないのである。そうすると毒が出る。巣を作るべき場所を失ってしまったのだ。卵を温めるために火を吹きかけると毒が出る。生まれた雛も毒気で死んでしまう。
そうしてドラゴン族は徐々に衰退していった。
今となっては毒草が生えることができない一部の地域でしか、彼らは生きることができない。火山に住まう希少な絶滅危惧種となり、毒を使えば行動を誘導して安全に観察することすらできるようになったのだ。
ドラゴンの観察ツアーは今も人気だ。
だが、人は忘れている。
弱者と強者は入れ替わる。生き物は進化するのだ。地上の片隅に追いやられたドラゴン族だけが進化しないなどということは、ありえない。
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