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九夏
2022-01-31 21:43:13
6667文字
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『as yet unknown』(杏こはSS)
杏こはオンリーで受けたリクエストのSSです。
羽野さんリクエスト:狭い空間に閉じ込められた付き合ってない杏こは杏ちゃん
『as yet unknown』
「ほんっとごめんね、こはね。私のせいでこんな事になっちゃって
……
」
「う、ううん。杏ちゃん、あまり気にしないでね?」
目の前の杏ちゃんの顔が何とか見えるぐらい薄暗い中、もう一度手を周りに伸ばしてみるけど何か壁のようなものに当たって押してもびくともしないし、指を引っ掛ける所もないつるつるとした手触りが返ってくるだけ。
――
今私と杏ちゃんは、狭くて暗い謎の空間に抱き合うような形で閉じ込められている。
抱き合ってると言うか、抱きしめないといけないぐらい狭いんだよね。
周りが何も見えないのは不安でも、私が落ち着いていられるのは杏ちゃんと一緒だからだと思う。
でもその杏ちゃん自身は、ここにいる事になった原因が自分のせいだって落ち込んじゃってるけど
……
。
事の発端は今日ミクちゃん達が居るセカイに来て、レンくんとリンちゃんとこのセカイの入り組んだ道の話をした事だった。
色々な抜け道を知っているレンくん達も、このセカイの全部を把握してる訳ではないみたいで。
『じゃあちょっと探検して、私達で新しい道見つけちゃおっか』
杏ちゃんの言葉に、このセカイの事をもっと知りたいと思っていた私は頷いて、練習も終わった後だしと早速皆で
――
東雲くんはくだらねぇって言ってたけど、青柳くんが面白そうだって目を輝かせてたからかな。最終的に一緒に来てくれた
――
出かけたの。
レンくん達も普段あまり行かないって場所まで着くと、皆それぞれ一人だったり自分の相棒と一緒に新しい道を探し始めた。
終わったらここで合流ってなった場所に帰れる自信がなかった私は、ビビッドストリートに似てるから私と一緒なら大丈夫! って言ってくれた杏ちゃんと探索をし始めて少し。
「あれ
……
?」
ある路地裏を覗き込んだら、真っ暗で何も見えない事に首を傾げる。
今まで通ってきた道は薄暗くても何となく道が続いてるのは見えてたのに、おかしいな。
「あれ? こはね、どうしたの?」
「杏ちゃん。あのね、この先変に真っ暗で何も見えないなって」
「え? わ、ほんとだ。何だろ
……
ふふ、瑞希に借りた漫画なら、ここから知らない世界にワープできたりね」
そう言って臆せず杏ちゃんがその路地裏を覗き込んだ、その時。
「えっ
……
!」
「あっ、杏ちゃん!?」
するっと、杏ちゃんの身体が暗闇に飲み込まれるように入り込んでいって。その様子があまりに怖くて、でも何とかしないと杏ちゃんがって私は手を伸ばし
――
……
そうして、今に至る。
杏ちゃんは深い溜息を吐いてから言った。
「いや、後悔しても仕方ないんだけどさ。あそこでミクとか彰人とか呼んでから行動すれば、こはねまで巻き込まずにすんだのにってどうしても思っちゃうんだよね」
「でもあそこで杏ちゃんの手を取れなかったら、きっと私すごく後悔してたよ。一人取り残される事も
……
杏ちゃんを一人にするのも、考えるだけで辛いから」
「こはね
……
」
私はもう杏ちゃんの相棒だから。どちらも辛いけど
……
相棒を一人にするなんて、相棒として一番したくない。
杏ちゃんはいつだって私が困った時に隣に立ってくれてる。居てくれるだけでどれだけ支えになっている事だろう。
だから今ここに居る事自体に後悔なんてない。
……
杏ちゃんの助けや支えになれてない事には情けなく思ってるけど。
そう思って少し俯こうとする直前、杏ちゃんのおでこがこつんと私のおでこに押し当てられて目を見開いた。
「ありがとう、こはね。そうだよね、こはねは私の頼もしい相棒だもん。申し訳ない気持ちは変わらないけど、正直そばに居てくれて心強いよ。一人だったらパニックになっちゃってたかも私」
「そ、そうだと嬉しいな。でも、ここから抜け出す方法とかも何も検討つかなくて、結局何か役に立てたりはしてないね」
あははと苦笑いすると、杏ちゃんはぎゅっと私を抱きしめまっすぐ見つめてから言ってくれる。
「そんな事ないよ! こはねが居るって安心感すごいんだからね? こんな狭くて真っ暗な所、気味悪くて一人で長い間閉じ込められたら余計な事考えちゃいそうだし」
「余計な事?」
杏ちゃんが眉を下げて不安そうな表情になったのを見てつい尋ねてしまうと、杏ちゃんはあー
……
と少し言い淀んだ後に答えた。
「いや、何か出てきそうだなーとか
……
?」
「え?」
出てきた言葉と、私から目を逸らしいつもより小さな声で言う杏ちゃんの様子に驚き固まる。
えっと、何か出てくるって
……
懸命に考えてみて、もしかしてとある可能性に気づいてまた驚いたまま口を開いた。
「もしかして杏ちゃん、怖いの
……
ホラーとか苦手?」
「うー
……
そうなんだよねぇ。あー、出来ればこはねには知られたくなかったな」
「え? 怖いの苦手な子の方が多いし、そんなに恥ずかしい事じゃないよ?」
「それは、そうかもだけど
……
」
むー、と少し拗ねるような感じで杏ちゃんは言う。
「
……
こはねの前では、ドキドキさせるカッコいい相棒でありたいじゃん?」
「
…………
」
伏し目になってそう零した杏ちゃんを、私は口を開けてほうっと見入ってしまった。少しの間の沈黙も耐えられないのか、慌てて喋りだす杏ちゃん。
「ちょ、ちょっとこはね、黙られると恥ずかしいんだけ
……
」
「
……
杏ちゃん、かわいいね」
「!? う
……
あ、も、もーっ、こはねにこにこしながら言わないでよ! やっぱり適当にごまかしとけば良かった
……
」
ここがもう少し明るければ、きっと真っ赤になってわーってなったりがっくりしたりと百面相している杏ちゃんの顔をもっとはっきり見れたと思うと惜しくなる。
でも十分、杏ちゃんのかわいい姿が見れて心がぽかぽかしちゃったし、顔を見られたら今以上に杏ちゃんが照れちゃうだろうから今ぐらいが良いのかな。
私は微笑みながら言った。
「ふふ、でも正直に言ってくれるのが杏ちゃんらしくて好きだよ」
「そう言って貰えるのは嬉しいけど
……
もう、私ばっかりカッコ悪いの悔しいからこはねにもかわいいとこ見せて貰うからね~」
「ふひゃっ!? あ、あんひゃんひょっへふにふにひないひぇ~
……
!」
えいえいってほっぺを両手で挟まれてむにむにされるとくすぐったくて、でも杏ちゃんと目が合えば心地よくて二人で笑い合う。
少しの間むにむにされ続けた後、杏ちゃんは満足げに溜息を吐いて私をやさしい瞳で見つめると、私をそっと抱き締めてきた。
「杏ちゃん?」
「
……
うん。やっぱりこはねがここに一緒に居てくれて良かったって思っちゃうな。こんな状況だけどさ、あったかくて、心地いいよ」
「本当? 良かった。私も同じ気持ちだよ」
あたたかな声色に、杏ちゃんが心からそう思ってくれてるのが伝わってくるのが嬉しくて私からもぎゅっと抱き返す。
杏ちゃんの言う通りこんな時に思ってる場合じゃないけど、杏ちゃんとより距離が縮まったみたいで嬉しくて。
しばらく抱き合った後顔を見合わせた私達は
……
何故か黙ったままじっとお互いの顔を見つめ合っていた。
何だろう、この気持ち。あったかくて、でも今は胸がきゅーっと締め付けられるような感覚が出てきてる。
もっと。もっと杏ちゃんの事が知りたい。もっと近くにありたい。
これ以上近づくなんて出来ないのにそんな思いを抱くなんて変なのは分かってる、でも
……
。
段々と落ち着かない気持ちと共に鼓動が早まってくる自分に戸惑っていると、杏ちゃんが私の前髪に顔を寄せてすぅって息を吸ったので大きな声が出てしまう。
「ひゃあっ!? あ、杏ちゃん
……
!?」
「あっ、ご、ごめん。こはねから甘い香りするなぁって思ったら、つい
……
」
「そ、そうなの? さっきカフェオレ飲んだからかな
……
?」
「あはは、きっとそれだね。うん
……
」
「え、っと
……
」
杏ちゃんはいつも距離感が近いから、これぐらいのスキンシップいつもなら驚いても動揺まではしないのに。
ちょっとやりすぎな時ごめんごめんって笑って言う杏ちゃんの言葉も続かないし、私達どうしちゃったんだろう
……
?
どき、どき。この空間には私達の他に何もないからかな。自分の鼓動がやけに耳に響いてうるさく感じてしまう。
沈黙の中、先に口を開いたのは杏ちゃんだった。
「こはね、あのさ
……
って、きゃーーーっ!?」
「えぇっ!?」
杏ちゃんの言葉を遮ったのは、急に暗闇の中から伸びてきた人の腕。
悲鳴をあげた杏ちゃんは私を痛いほど強く抱き締めてきて、私はその苦しさと杏ちゃんの悲鳴からか思っている以上に冷静にその腕を観察できてる。
何かを探すように指をわきわきとさせながら動き回るその腕は、杏ちゃんの肩に触れるとがしっと、強く杏ちゃんの肩を掴んだ。
「いやっ!? や、何これ、やめてよもう
……
!」
「あ、杏ちゃん! ダメ、絶対にダメだから
……
!」
何とかしないとってぺちぺちその腕の手のひらを叩いてもびくともしない。
腕はそのまま杏ちゃんを引っ張って腕の方へと引き寄せようとして、私は必死に杏ちゃんを抱き締めて引き留めようとする。けど
……
。
「ひゃあっ!? 増えたっ!?」
「う、嘘っ!?」
もう一本腕がにゅっと現れて杏ちゃんのもう片方の肩を掴んでしまった。
「こはね、こはねっ!」
「! 杏ちゃんっ!!」
流石に怖くて身が竦んでしまいそうになった私は、けれど必死に私を呼ぶ杏ちゃんの目から涙が零れてるのを見れば身体は勝手に動き出して謎の腕に掴みかかる。
「杏ちゃんを離して! このっ
……
!」
「
……
はね
……
?」
「えっ?」
腕から声が
……
ううん。腕の持ち主が発した声がかすかに聞こえ、私の名前を呼んだ気がしてはっとした。
「今のって
……
?」
その声に聞き覚えがあると感じたのは杏ちゃんもみたいで、腕の方を見やって呟く。
私達に次に届いた声は、はっきりとしたものだった。
「こはね、杏! 良い? レン、リン、行くよ! せーのっ!」
「わっ!?」
「ひゃっ!?」
杏ちゃんに抱きついたまま、私達二人は腕に引っ張られて空間から引きずり出され、開けた場所に出ると眩しさに悲鳴を上げ目を瞑る。
「こはね、杏、大丈夫?」
「え
……
? あ
……
ミクちゃん!」
ようやく光に目が慣れてきて声の方を見上げると、私達を心配そうに覗き込んでいるミクちゃんの姿があった。
「ミク! もしかして、私達の事助けてくれたの?」
「まあそうなるのかな。ここが変な感じがするって見つけたのは、レンとリンだけどね」
ミクちゃんの後ろを見れば、レンくん達も少し涙目でこちらを見つめている。
「よ、良かったよ二人共ー!」
「こはねちゃんの帽子が落ちてるのを見つけたら、何か真っ暗で変な所があったんだよ」
リンちゃんの言葉にえっと思って頭を触ると、確かに帽子がなかった。落としている事にも気がつかない程、それどころじゃなかったんだと実感する。
「レンとリンがわーわー心配して騒いでるのを聞きつけて来たら、どうにもおかしかったからね。メイコに言付けだけして、レン達に身体を支えて貰いながら腕で中を探ってみたら人の感触がして
……
」
「やっぱり、さっきの腕ってミクのだったんだ。そっかー、良かった
……
」
「良かった?」
杏ちゃんの安堵の声に首を傾げるミクちゃん。杏ちゃんは慌ててごまかした。
「な、何でもないない、こっちの話ね! あはは
……
」
……
まさかミクちゃんの腕に怯えてたなんて言えないもんね。杏ちゃんの様子に苦笑いして、私ははっと気づいて慌ててミクちゃんへ言う。
「ミ、ミクちゃんごめんね! ミクちゃんの腕って気がつかなくって、助けてくれようとしてるのに叩いたりして
……
」
「ふふ。その感じだと私の腕だけしか見えてなかったんでしょ? それなら警戒しても仕方ないんじゃないかな。こはねは杏を守ろうとしたんだから、勇気ある自分を誇っても良いと思うよ」
「ミクちゃん
……
あ、ありがとう」
怒るどころか私を褒めてくれるミクちゃんの言葉に照れて、何より嬉しくて顔が熱くなるのが分かった。
目の前の杏ちゃんも笑って伝えてくれる。
「ミクの言う通りだよこはね。もうパニクっちゃって何にも出来なかった私を守ろうとしてくれてありがとうね。最っ高にカッコいい相棒だったよ!」
「あ、杏ちゃん
……
」
私の大好きな眩しい笑顔でお礼と、最大の賛辞を送られて。私はもう嬉しすぎて涙が零れそうな程舞い上がっていたけれど。
「
……
それで。杏とこはねはいつまで抱き合ってるの?」
「えっ?」
「え?
……
えぇっ!?」
ミクちゃんの言葉に互いを見た私達はようやく今の自分たちの状態
――
地面の上に背中から倒れ込んだ杏ちゃんの上に私が乗ったまま、抱き締めあっている事に気づいた。
ぼっと一気に顔を赤くして、慌てて杏ちゃんの上から退く。
「あ、杏ちゃんごめんね、ずっと乗っちゃってて
……
!」
「いや、私も言われるまで自然すぎて気づかなかったし、そもそも全然嫌じゃなかったから気にしないでよ」
「そ、そっか。なら良かった
……
」
杏ちゃんを見れば本当にやさしく微笑んでいて、きっと言葉通りなんだと信じられてほっとする。
嫌じゃなかったなら良かった。
……
何だかちょっと嬉しそうにさえ見えるだなんて、自惚れかな?
その笑顔をじっと見つめたくて、そして杏ちゃんもまた私から視線を外す事はないまま、少しの間見つめ合っていた私達は。
「ねーねー。ここ怖いし早く戻ろうよー」
「そうだよ。またこはね達に何かあったら大変だって」
「
……
ってリンとレンは言ってるけど、二人はどうする?」
「えっ、あっ、はいっ!」
「い、行きます行きます! 戻ろっ、こはね」
「あ
……
うんっ」
三人の言葉に反応して素早く立ち上がった杏ちゃんから手を差し出され、自分の手を重ねて杏ちゃんに引っ張られながら立ち上がる。
メイコさんのお店の方に皆で歩きながら、私と杏ちゃんはあの謎の空間がどんなものだったのかミクちゃん達に説明していった。
「真っ暗で何もない空間かぁ」
「ミク、あれが何か分かる? 結局私達が出た後、普通の路地裏になってたとかちょっと不気味だよね」
そう。あの場から立ち去る時に空間があった所を見ると、もう真っ暗ではなくて普通に道が開けてたの。
うーん、と少し考えてからミクちゃんが言った。
「確証はないからただの推測になるけど。このセカイはこはね達皆の想いで出来てるって前に言ったよね?」
「うん」
「そんなセカイにある真っ暗で何もない空間となると
……
まだこはね達の中で形にならない想いがあって、それがどう言う訳かセカイに紛れて出てきてしまったんじゃないかな」
「形にならない、想い
……
?」
「そう。キミ達もまだ自覚できてない想いがあるんだよ、きっと。私の推測ではね」
まだ自覚してない想いって何だろう? 考えを巡らせてもすぐに答えが出るはずもなく、隣で歩く杏ちゃんも同じようでうんうん唸ってから口を開く。
「うーん、分かるような分からないような? 自覚できてないねぇ、どんな想いなんだろ?」
「さあ。それは私よりも杏達の方が分かるものだろうし。もしかすると自覚しないまま消えるかもしれないけど
……
」
「? ミクちゃん?」
ちらと私達を見たミクちゃんは、ふっと微笑んで言った。
「多分、二人ならいつか形にするんじゃないかな」
「えっ、何でそう思うのミク?」
「ふふっ、何となく、だよ」
ミクちゃんはそれ以上何も言わずに、私達から距離を取ってレンくん達に声を掛けるとそのまま会話し始めていた。
私と杏ちゃんはお互いを見て首を傾げるしかなくて。
「ミクちゃん何だか楽しそう
……
?」
「うーん、さてはミク分かってて黙ってるね? 思わせぶりにされたままじゃ気になっちゃうじゃん。手強いだろうけど、もっと話聞き出したいな。行こっこはね」
「あっ、杏ちゃん
……
!」
私は駆け出した杏ちゃんに引っ張られるまま、ミクちゃん達の後を追う事になった。
――
起き上がってからもずっと繋がれた手が、無自覚な想いの正体だと私達が気づくのはまだ少し先のお話
――
……
。
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