九夏
2019-02-11 18:57:17
7172文字
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太陽落つるその日に

別れの戦記パロです。じゅんななな+ふたかお。パロ上キャラが死ぬ話が駄目な方はご遠慮ください。

別れの戦記パロです。じゅんななな+ふたかお。パロとは言えキャラが死ぬ話、傷つく話のが駄目な方はご遠慮ください。
設定は好きに書いてます。細かくは書いてないので何となく感じ取っていただければ幸いです。
別れの戦記、メモワール「友情と悲しみの騎士二人」で決着がついた後の話。




『太陽落つるその日に』


 終わらせなくちゃ、こんな悪夢のような日々を。

「はぁーっ……! はぁっ、はっ……
 お願い、もう起き上がってこないで……。祈るように階段下に転がり落ちた人物を見下ろせば、踊り場でうつ伏せになったままその人はもうぴくりとも動かない。
 ――“やっと”終わったのね。これで“ようやく”次に――……
「うっ、うぅ……!」
 誰よりも特別だった人に対しても浮かぶ染みついた戦場での思考の切り替えに、吐きそうで泣きそうで。けれどそんな暇はない。ここで立ち止まってしまえば、散ってしまった仲間の命も、眼下の人のように斬り捨ててきた人達の命も、全て無駄になってしまうのだから。
「終わらせ、ないと……
 柄をしっかりと握りしめて堪えれば、今度は身体が痛みで軋み悲鳴をあげ始める。
 身体に突き刺さった矢を抜こうと一瞬思ったけれど、止血もままならない今はこのままの方がいいはず。
 こんなボロボロの身体で追いかけても真矢ちゃ……団長の加勢になるかは分からなくても。彼女が言っていたこのお互いを削り合うばかりの戦いの終わりを、見届けなくちゃ。
 足止めとしての役割は十分果たしたはずの私は、壁に手をつき身体を引きずるようにしてそれでも前に進んでいこうとした……その時だった。
「太陽の国、軍団長! 我が大将香子様により討ち取られたし! この戦い、黒獅子の国の勝利である!!」
……………………?」
 わぁっと。突然の勝利宣言の直後に、城全体に揺れんばかりの歓声が、悲鳴が響き渡った。
 どう言う、事……? 真矢ちゃんが、香子ちゃんに? 戦いが終わったの? 私達は負けて…………じゃあ。
 ――じゃあ、私が今まで失った、奪った、命は。全部……全部……
「あ……あぁ……うぁっ……あぁぁぁぁ!!」
 瞬間。私は天井を仰ぎ慟哭していた。ずっとずっと堪えてきたものを、叫びと涙にして。
 どんなに辛い別れがあってもここまで這いつくばってこれたのは、その先に平和な未来が。かつてのように二国共に歩む道が戻ってくるからだと思っていたのに。その為に、どれだけの犠牲を払ったのだろう。でも、掴めなかった。
 もう立つ気力も失い、膝をつく。私は、これまで何の為に……
 絶望に覆われ、もう痛みに侵されるまま目を瞑り、死を待とうかと言う体勢にさえなりそうな私の耳に、声が届く。闇に差し込む、光のようなそれは――……
………………?」
「!? うっ、あっ……!」
 弱く今にも消えそうな声。でも、聞き間違うはずはない。
 私は剣を床に突き立て立ち上がると、声の主がいるだろう階段下を覗き込んだ。
 見れば階段途中で這いつくばった彼女の姿があり、私は痛みを訴える身体に動けと強く念じながら一段一段なんとか降りてその傍に膝をつくと、彼女の身体を抱きかかえる。
「純那ちゃん……! どうして……
 胸元には剣戟の跡――私が、彼女を斬った傷口が見えて。けして浅くないそれは、先程彼女へのとどめとなったと私でさえ思ったのに。そんな状態で、何故。
 正に必死にここまで上がってきただろう彼女――黒獅子の国の軍師、星見純那その人の事が分からず。ただただ戸惑う私に、彼女は瞼を震わせて目を開けると言うのだった。
「ああ、やっぱりななだったのね……。貴女の、泣いている声が聞こえた気がしたら……不思議ね。もう動けないと思った身体が、ここまで這い上がってこれるんだから」
「そんな……
 いまだに止まぬ喧噪に、私の声なんて耳に届くはずない。有り得ないと思っても……かつて、一緒の時をすごした短い日々で。誰にも気づかれない孤独に苛まれている私を見つけてくれた貴女ならと。
 世に争いと悲劇をもたらす神は信じられなくとも、貴女が起こす奇跡なら信じられる。
 私は涙を零したまま、それでも喜びから微笑んで純那ちゃんに顔を寄せ頬ずりをした。寄せた頬がふっと緩むのを感じてから、純那ちゃんが口を開く。
「ふ、ふふっ。また、泣いてるの? やっぱり、泣き虫ね貴女は……
「だって……だって、嬉しいの。こんな喧噪の中、こんなボロボロの身体で。純那ちゃんが私の声を聞いて、探しに来てくれた事が……
「そんな事……私こそ、ななに会いたかったからかもしれな……うっ、痛っ……
「! 純那ちゃん、今止血するから!」
 痛みを訴え身体を震わせる純那ちゃんを見て、慌てて止血できるものを探す。マントを切ってまずは傷口をおさえて……
……なな。もう、いいの」
「!? 純那、ちゃん……?」
 マントに手を掛けた所で、私の腕を引っ張り首を横に振る純那ちゃんは。……もう、これから先を生きる必要はないのだと。私に語りかけているようだった。
「そんな……! だって、純那ちゃんは。黒獅子の国は、勝ったのよ? 純那ちゃんには生きて……
……これから敗戦国となる、太陽の国の人は――感情は、許さないでしょうね。自分の国の、多くの人の命を奪った、軍を。策略を巡らせた、軍師の事を。その思いは、折角生まれる平和の裏で燻る、火種となってしまう……
「そんなの! 純那ちゃんは、自分の目指す世の為に、本当の気持ちを押し殺してまで……!」
『私はね、なな。腐敗した仕組みを壊して、誰もが平等に、平和に生きられる国を導きたい。……その為なら、私は自分の心ぐらい殺してみせる』
 ――もう遠い昔に思われる日。まだ、二国が争いを避ける為に話し合いの場を設けていた頃。非情な戦略を時に用い――でも、私には被害を最小限に食い止める采配に思えたから。どんな人なのか知りたくなった私は自ら軍師へと近づいていった。
 はじめはそつなく流されてしまったけど、何度か会う内に純那ちゃんはその想いを私に教えてくれるようになって。そして、いつしか私達は……
 昔を思う間に、純那ちゃんは力なく笑って言う。
「私の、気持ちなんて。ななが、分かってくれているなら。それで、十分だわ……
「純那、ちゃ……
……私の命が、天堂軍団長の命と釣り合いは取れるはずもないけれど。少しでも、黒獅子側にだって失うものがあると、示す形になればいいわ。……なんて。私が、もう、疲れてしまっただけかもしれないわね」
…………!」
 ぎゅっと。今までその背に多くの命を背負い続けたまま進んできた、星見純那と言う少女の身体を抱いた。
 出来る事なら、苦しんででも生きて欲しい。生きていれば、いつか幸せに巡り会えると思うから。でも……その疲れ切った笑みを見てはもう、私には生きてとは言えなかった。
 彼女の望みを叶えたいと。私は赦しを口にする。
「いいの、もういいのよ純那ちゃん……。今まで、ありがとう……辛かったよね、苦しかった、よね……。もう、休んでいいの。純那ちゃんのままで、あっていいのよ……
「なな……
 はあ、と大きく息を吐いて、純那ちゃんは言った。
「ありがとう、なな。……ああ、私、いいのかしら。最期に、全部を捨ててしまって良いだなんて赦しを、ななに…………愛する人に、その腕の中で、貰えて……
 ああ、私こそいいのかしら? あの日々に抱いた想いを、愛を。また伝えて貰う日がくるだなんて……。もう何もいらない。純那ちゃんにも、最期ぐらい望むものだけを見て欲しい。
「っ……純那ちゃん。いいの、もう他の事なんて考えないで。最期ぐらい、自分の事だけ……
……ななは?」
…………
「ななは、どうするの……?」
 ……そっか。純那ちゃんの最期に望むものに、私はいるのね。幸せで……でも、私は。きっと貴女の望む答えは、返せそうにない。
 私はゆっくりと乞う。貴女からの、赦しを。
……純那ちゃん、ごめんね。私、純那ちゃんと一緒に逝きたい……
……花柳軍団長なら、貴女みたいな優秀な人材、喜んで受け入れてくれるわよ?」
「いや……いやよ。そこに純那ちゃんは居ないもの……
……残念ね。貴女には生きて欲しいと言うのも本音なんだけど……今は、引き留める気力もないわ」
「あ、ごめ……
「謝らないでいいのよ、なな」
 純那ちゃんはそう言って、そっと私の頬を撫でると……キスをしてくれた。
 目を見開き驚く私は、でもずっと恋しかった柔らかさと温もりに抗うはずもなく。自分からも唇をすり寄せて、甘えるようにキスをしていく。
 少しして純那ちゃんは顔を離し、笑んで口を開いた。
「ん…………ふふ。嬉しく思っちゃうのだから、どうしようもないわよね。貴女が、最期に私を望んでくれる事を。だから、謝る必要も、何もないの。もう、私達はこの戦争と言う舞台から、降りて……はっ、ぁ……私は、私に……ななは、ななのままでいて……いいん、だから……
「純那ちゃん、もう……
 言葉は掠れ、息も絶え絶えになり、腕の中の温もりが失われていく感覚――死が、迫っている。絶望と悲しみの中何度も感じた大切な人の死の感覚も、最期に感じられるのが純那ちゃんのもので良かったと思える私は、戦場で時に恐れからなじられた愚かで恐ろしい化け物なのかもしれない。
 ……でも。純那ちゃんは、私は私だと。出会った時から今、この最期の時にも言ってくれるのだから。私は純那ちゃんの事だけ信じよう。
 彼女の頬を撫で、私は伝えていく。自分の正直な気持ちを。
「純那ちゃん、愛してるわ。死の先では、今度こそずっと一緒にいさせて……。んっ……!」
 私の背中に刺さっていた矢を掴むと、ぐっと力を込めて引き抜き放る。数本抜き去れば傷口から血が溢れ、熱い感覚の後に、急速に熱が失われていって。
 ぐらりと視界が揺れ、くらくらする私に声が掛けられる。
「はっ……はぁっ……
「なな……。やっぱり、もう狂っているのね私。貴女を自分の傍に連れていくのが、私の矢で、良かっただなんて……
「あ、はは……私だって、そう。黒獅子の国の軍師を斬り捨てて、私は、ようやくこうして純那ちゃんを、愛する人を腕に抱けたのだから……
 力が、熱が。失われていく身体で、それでも純那ちゃんを抱き留める力だけは緩めずに、私は頬をすり寄せた。
 愛する人の命を奪うのが自分であったと、狂気の喜びの中、それでも。
「な、な……愛してる、わ……。死の、先で……一緒に、ずっ…………
「うん、うん……大好き、愛してる…………純那、ちゃん……?」
…………
 だらりと、私を抱き返してくれた腕は下がってしまって。……愛する人の命の灯が燃え尽きてしまったと言うのに、私の心はとても穏やかなの。
「先に……いったんだね……。そっか……でも、私も……すぐ、に…………
 私にとって、戦争が始まってから、この世は地獄だった。大切な人の死がごろごろ転がって、私の心は壊れそうで……ううん、もう壊れてしまっていたの。
 私の心を支えていたのは、失った仲間が遺した、そしてあの束の間の逢瀬の中で教えて貰った、純那ちゃんの平和への強い意志。
 私も、彼女のように強くあらないと。そうじゃないと、平和は、仲間の命は守れない。
 必死に戦って、駆け抜けて。最後の賭けのような特攻は、負けても結果的に平和自体は得られるはず。
 なら、もう憂う事はない。私は、私であって良いんだよね、純那ちゃん。
 純那ちゃんが良いって言ってくれたから、死の先も一緒にって言ってくれたから。私、もう怖くも寂しくもないのよ。
 もう瞼を開けているのも出来そうにない中、何とか腕の中の純那ちゃんを見下ろした。
 ――穏やかな笑みを浮かべたまま目を瞑る彼女は、まるで幸せな夢を見て眠っているよう。その夢の中で、きっと貴女は私と一緒にいるのよね。それは、なんて幸せな――……
 薄れる意識の中、もう感覚はないけど彼女の身体を抱いて。
「ずっ…………いっしょ…………
 死は永遠の別ればかりだと思ってた。でも、私達は死でようやく奥底に隠していた望みを叶えられるのだと。
 喜びから笑みを浮かべた所で、私の意識は落ちていった。幸福の、永遠の夢の中へ――……


 ◇ ◇ ◇


「それにしても流石双葉殿ですね。あの西條クロディーヌ殿を打ち倒したのですから」
「倒したって言っても、実質相打ちだって。むしろよく生きてるもんだよ」
 無くなった腕を指してぷらぷら上下に振れば、目の前のそいつは苦笑し押し黙るとすぐに立ち去ってしまった。……ちょっと意地悪しすぎたかな。
 ベッドに再度横になると、痛んでも存在はする左手で右肩を撫でた。
 ――クロ子との対決は、運が良かっただけだ。もうどちらが死んでもおかしくない中、響き渡った黒獅子の勝利宣言。
 それはあたしの戦意を奮い立たせ、そして――……クロ子に一瞬の動揺を、隙を生み出した。
 そりゃそうだよな。クロ子はあたし以上に、軍団長との戦いを切望していたに違いない。因縁もあったみたいだし。
「それでも、あたしの腕持っていっちまうんだから。大したやつだよ」
 ハルバードごと吹っ飛んでいく自分の腕が、ゆっくりと目に映って。あの時は死んだかって思ったけど、鍛えているかいがあってか戦いが終わって三日目の今日、目が覚めた。
 ……あたしが目を覚ました時には、もう二国は無茶苦茶な事しか分かんなかったんだよな。
 知ってる顔は皆死んで。上の連中も逃げ出して、今は香子が、太陽の国のまだ国を愛する心が残ってる連中の首根っこ掴んで、太陽の国と黒獅子の国、協力して立て直しを図ってるらしい。
 それぐらい、どちらも死人ばかりなんだから。馬鹿だよな。こんな戦い、何の意味が……
……ん?」
 ぼうっと無気力に考えているあたしの耳に、ドカドカドカと太鼓でも叩いてんのかってぐらい激しい足音が聞こえる。これって……
 バタンッ! と乱雑に開かれるドアの音と共に、あたしは声を掛けた。
「何だよ香子、お前ノックぐら、いぃっ!? ってぇ!? 何す……!」
 けど私の呼びかけに応えたのは、まだ傷も癒えてない身体への飛びつきだった。じわ、と包帯に血がにじむ感覚に怒りの声をあげるけど……。はっとして、あたしは口を噤む。
…………泣いてんのか、香子」
……泣いてなんかいまへん。皆、バカばっかりやから、薬つけに来ただけどす」
 もう何年ぶりかの再会となる幼なじみは、全然久しぶりな感じも出さずにあたしの掛け布団に顔を埋めたまま答えていた。
 顔を上げないまま、ぎゅっと掛け布団を握る香子を見て、あたしは言葉を続ける。
……あっそ。……それで。人に突っ込んできて、お見舞いの品一つもないとか言わないだろうな?」
……太陽と黒獅子、統合軍団長の秘書の役、任命してあげるから感謝しいや」
「この怪我人にあんまりだろ!? ったく、そんなに人いねーのかよ……
……おらんよ。みーんな、バカやもん。天堂はんも、星見はんも……皆、バカや……。命なんて、あってなんぼやろ……
…………
 どいつもこいつも、笑って死んでたって話だもんな。クロ子だって、あたしの一撃に満足してくれたのか笑顔で逝きやがって。なんか負けた気になるっての。
 香子の頭を撫でて、諭すように言う。
「そいつら皆、バカみたいに国の為に……いや、自分の大切な人の為に命張ったんだ。もういないんだし、あたし達はいる連中で何とかしなくっちゃな。……今の今まで一人で踏ん張ってきたんだろ。偉いな、香子」
……子供扱いせんで」
「はいはい。じゃあ、さっさと傷治して軍団長様のお傍付きになる為に、腕なくても動けるようにしないとな。……“陽は落ちてもまた昇る”って、太陽の国の軍に居た頃、よく言ってただろ。その気持ちで頑張るからさ、またよろしくな」
…………ありがと、双葉。…………
「お、おい、香子!?」
 ずるりと、ベッドから崩れ落ちる香子に手を伸ばしても、まだ動くのもやっとな身体では間に合わず香子の身体は床に倒れ込んでしまう。
 息を荒げてベッドから降りて覗き見れば……
「香子、おいっ! ……って……
……すぅ……
……さてはお見舞いとか言って、寝に来たなこいつ」
 すぅすぅと寝息を立てて床に寝転がる香子の目の周りは、真っ赤になって腫れていて。……心配してくれてたのは本当なのだと思うと、照れくさくて右手で頬をかこうとしてもうないのだと気づいた。
「はぁ……。色々先が思いやられるけど。……気張るか。な、香子」
 左手で香子の頭を撫でれば、左手一本でもやれる事はあるんだって更に気づいて笑う。
 脳天気なあたしと香子が残って、地獄みたいな世の中は丁度良いのかもな。ああでもまひるは生きてるんだっけ。子供達の様子も見に行かないと。
 ……太陽は一度落ちきった。これからは昇る時間だ。
 次の朝日まで突っ走らないと。香子が起きたら、リハビリ開始しないとな。
 掛け布団をベッドから引っ剥がして、自分と香子に掛けるとそのまま横になる。野宿より床のがマシだし全然眠れるなこれ。
 昇るまでには、まだ心も身体も休息が必要で。あたしは後から来た医者から香子と二人してカンカンに叱られるまで、ぐっすりと眠っていたんだった……