九夏
2017-02-01 23:57:48
3481文字
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お題箱「ほののぞでお家デート」

お題箱のお題2

うちの机の上にちょこんと乗っているのは、うちの特別な魔法の箱。
そしてその目の前に座って箱をじっと見つめるのは……うちの、とっても特別な愛しい女の子。
彼女は箱に表示される数字をマジマジと見た後にうちへ視線を向けると、本日何度目かの言葉を口にする。

「ねえねえ希ちゃん。これで本当にパンが出来ちゃうの?」
「ふふっ、そうよ? うちみたいなぶきっちょさんでも昨日試したら無事にできたんやから。あ、もう後一分切ったねぇ」
「ほんとだ! 楽しみだよ」

にぱっととろけるような笑みを浮かべた彼女――穂乃果ちゃんは。
再度その箱。もといホームベーカリーに向き直ると彼女にしては静かにその瞬間を待ちわびていた。
うんうん。これだけ食べる前から楽しみにしてくれるのなら、思い切って買ってみて良かったって思えるなぁ。
子供のように目を輝かせている穂乃果ちゃんが可愛くてじっと見つめている内に、ピーピーと焼き上がりをお知らせする音が響く。

「! の、希ちゃん!」
「穂乃果ちゃん待ちきれないわんちゃんみたいになっとるよ。ほら、できたみたいやし折角だから穂乃果ちゃん開けてみて?」
「良いの!? ありがとう希ちゃん!」
「わっ」

突然うちに飛びついてぎゅっと抱きしめてきた穂乃果ちゃんに驚き反応できないでいると。穂乃果ちゃんはすぐに身を翻しホームベーカリーの蓋に手を伸ばし始めていた。
赤くなった顔を見られなかったから良いかと――恋人として散々穂乃果ちゃんから照れさせられているとは言え、見られるのはやっぱり恥ずかしいから――うちは穂乃果ちゃんの背後から覗き込んで、彼女の反応はどんなものだろうとどきどき見守る。

「わぁ……わぁ……!! 凄いよ希ちゃん! パン! パンが出来てるよ!!」
「そうやねぇ」
「パンだ、焼きたてのパンだー! やったー!!」

穂乃果ちゃんの口から出てくる言葉は当たり前の事ばかりなんやけど、できただけでこんなにもはしゃぐ姿を見れればうちは満足なんよね。
大好きな人の笑顔は何より代えがたいものだと噛みしめて、うちは穂乃果ちゃんに声を掛けた。

「ふふ、穂乃果ちゃん。喜ぶんは良いけど、早く食べないと冷めちゃうよ?」
「はっ! そうだった……! じゃあ取り出して大丈夫?」
「ええよ。火傷はせんように気をつけてね」
「はーい!」

元気よく返事をした穂乃果ちゃんは念の為うちが用意しておいたミトンを手にはめて、ホームベーカリーの機械からパンが入っている容器を手に取りゆっくり引き抜いていく。
うちがお皿を差し出すと穂乃果ちゃんが容器をひっくり返し……ころんと。お皿の上にまんまるとしたパンが転がり出た。
容器を持ったまま両手を上に掲げて、穂乃果ちゃんは喜びを口にする。

「手作りパンの完成だーっ!」
……って言っても、二人で分量測って、材料入れてスイッチぽんって押しただけやんね」
「それでも家で自分で作ってるから良いんだよ! これで皆にも二人で料理作ったよって自慢できるし!」

それ多分にこっちに言ったら手料理舐めんじゃないわよってめちゃくちゃ怒られるやつやんな。
……と思えど口にせず、二人で料理を作ったのだとここは穂乃果ちゃんの言葉のまま受け止めて幸せを感じようと思う。
目の前の穂乃果ちゃんも大好きなパンを作れた幸せを感じてるみたいやし、水を差すのはしたくない。
うちは穂乃果ちゃんへ言った。

「さて、ここから早速パンをいただこうと思うんやけど……
「ど?」
……ここはうちの住んでるマンションの一室な訳で。今ここにはうちと穂乃果ちゃんしかおらん……
「つ、つまり……!?」

意味深に呟くうちにごくりと喉を鳴らして唾を飲み込む穂乃果ちゃん。
そしてうちは悪魔の如き囁きを、そっと彼女に耳打ちする。

……出来立てあつあつのパンを。切り分けたりせず……そのままがぶーっと食べても、ええんよ……?」
「!! そ、そんな事をしたら……!」
「ふふふ、いつもやったらえりちや海未ちゃんが怒る所やろうけど……二人には黙っておくから、ね?」
「希ちゃん……! ふ、二人だけの秘密だよ? じゃあ……

口を開けてそのまま涎を垂らしそうな程うっとりとパンを見つめた後。穂乃果ちゃんはパンをそっと手に取り、遂に大きな口を開けてかぶりついた。
もぐもぐと少し口を動かしてからすぐに目をカッと大きく見開いた穂乃果ちゃんは、改めてしっかり噛みしめるように食べてその一口目を飲み込む。
そして目を潤ませてから口を開いて言ったのだった。

「あぁ……幸せだなぁ……。こんなに贅沢な食べ方もできて、すっごく美味しいし、もう最高だよ!!」
「穂乃果ちゃんがご満悦なようで何よりや」

幸せそうな表情を見れてうちはそれで満足。
……やけど、そこで終わらせてくれないのが穂乃果ちゃん――うちの大好きな人なんよね。

「うんっ! ありがとう希ちゃん! ほらっ、希ちゃんも一緒に食べようっ!」
「えっ?」

言って穂乃果ちゃんがずいっと差し出してきたのはくっきり彼女の歯形がついたパンだった。
うちが予想もしない提案に呆気に取られていれば、穂乃果ちゃんははっと何かに気づいた様子を見せてから言葉を続ける。

「あっ、穂乃果の歯形ついた所じゃダメかな!? じゃあじゃあ、ほら、こっちの綺麗なとこ食べれば大丈夫だよ!」
「! い、いやいやそうやなくて! うちが穂乃果ちゃんの食べかけとか気にすると思う?」
「え? あ。そっかぁ、今更だもんね」

えへへーと照れ笑いを浮かべるのは止めて欲しいんやけどな。可愛くて、あと”今更”って言葉に内包された今までの思い出が脳裏に浮かんで困るんよ……
あんまり顔赤くなってませんように。うちは心で祈りながら言った。

「そう、今更なんよ。今びっくりしちゃったのはそのパン全部穂乃果ちゃんにあげるつもりやったからやし」
「えーっ。折角二人で作ったんだから二人で食べたいよ! この贅沢を独り占めなんてできないよ! 希ちゃんにもこの感動を味わって欲しいんだ!」

感動なんて、今日うちに穂乃果ちゃんが来てからずっとしっぱなしなんよ?
休日。どこにも行かずにうちの家で、のんびりパン作ったり、借りてきたDVD見ようってこんな贅沢、今まで考えた事もなかったもの。
活動的な穂乃果ちゃんやからうちで過ごすなんて退屈やろうなぁって思って……不安から家電を手に取ってしまったんやけど。
――きっとこれがなくても、一緒にのんびり過ごして幸せな時間をうちにくれたんやろうなぁ。
今ある幸せ。あったかもしれない幸せ。幸せばかりで満ちる思考は、貴女がくれたもの。
うちは不意に泣きそうにさえなりそうな予感がして、それを打ち消すように大好きな人の真似をし、大きく口を開けて歯形のついたパンを齧った。
口の中に広がるほんのりとした甘みが心地いい。

……ん、美味しい」
「だよねだよね! 流石二人の愛の結晶だね!」
「もぉ、穂乃果ちゃん大げさやって。ふふ……これお餅やうどんも作れるらしいから、もう少し慣れたら二人で作ったんよって皆に堂々と言えるもの作ってみたいねぇ」
「えっ、そんなのも作れるの!? 次は何を食べようかな……
「作る所から始めないとあかんのよ穂乃果ちゃん? ほら、考えるのは後にして、今は焼きたてのパン食べんと」
「あっ、そうだった! えへへ、希ちゃん、あーん」
「ふふ、たんと召し上がれ」

口を開けてねだる可愛い恋人に、パンを一口分ちぎってあーんってして。
幸せな時間はまだ始まったばかり。

うちの机の上にちょこんと乗っているのは、うちの特別な魔法の箱。
うちの大好きな人と過ごす幸せな時間を彩り、願いを叶えてくれる。
どこにでも売っている。けど、うちにとっては特別な……願いを叶えてくれる、魔法の箱なんよ。


* * * * *

おうちデート……にはなってないかもしれないすみません!
おうちでパンを焼くのはデートになりますか……

のぞほのバラエティボックス的なものを考えている内に箱っぽい形してるホームベーカリーに行き着いた感じです。
ホームベーカリー思いつく前は二人でうどんこねてました。なんでやねん。

これ書くにあたってホームベーカリー見に行ったらめっちゃ欲しくなりました(笑)
希ちゃん自分からは一緒に暮らして一緒に食べようって言い出せなさそうですけど。
そこを穂乃果がぐいぐい言って欲しいですね。