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伊坂
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TGM
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I love you too, 4EAE.(アイマヴェ)
指輪を作ったことがないので描写がフワフワです……!ご満悦アイスからしか得られない栄養がある。健康アースで書いてま〜す。
「可愛らしいお方ですね」
そう言われて、トム・アイスマン・カザンスキーは素直に顔をほころばせた。
見たままのことを言われて。
思ったままのことを言われて。
ご満悦とはこういうものなんだろうなあと思う。
これが立派な家ですねだとか、素敵な服ですねだとか、そういうことだったらアイスはむしろ気分を害していた。見ただけで何が分かるのかと、正反対のことを思ったはずだ。たぶん。
今、アイスの視界の中では、最愛の僚機が左手の指のサイズを測られている。さまざまなサイズ、さまざまなデザインの指輪に指をくぐらせ、きつさやゆるさを確かめている。ひらひらする手のひらがいい。追いかけて、つかまえて、五指の隙間に五指を滑り込ませてわからせたい。
可愛い奴だろ。
見ての通り、俺の僚機はとても可愛い奴なんだ。
セールストークだとしてもアイスはご満悦だった。
体全体が日向にあるかのような気分で、女性店員の話に耳を傾けているマーヴェリックを眺めていた。
奇跡的な生還といっていい。マーヴェリックもそうだったが、アイスもそれはそうだった。夏から向こう昏睡状態が二回。回復は絶望的と思われ、死を覚悟してすべてを計画していた。来々年度の予算のこと。ダークスターのこと。プラント破壊任務のこと。マーヴェリックのこと
……
。マーヴェリックのこととはつまり、ブラッドリーとの関係のことでもあった。
乱暴な作戦だったと思う。だけどもう、自分には時間の猶予がなかった。彼を護ってやれる時間はほとんどない。悩んで、でも実際に悩んでいた時間は一瞬だった。
あれでマーヴェリックも仕事人間だ。軍人とはそういうものだが、ここまで海軍という組織に留まっていられたのは、結局、本人の資質によるところが大きい。事あるごとに貴方が庇いだてしたからでしょうとか、君が居なければとっくに居ない人間だろうとか、そういう冗談を抜かす輩にアイスはずっと苦笑いを返してきた。「でも使える男ですよ」と図々しく言い放ってきた。あれで、役に立ちたい男だ。仲間想いの男だ。「俺のせいで」と辞めかけた男を、「お前のおかけで俺は生きてるぞ」と抱きしめて引き留めた。
マーヴェリックの飛び方を誰もまねできない。つまりそれは、マーヴェリックにしかできないことがあるということだ。戦闘機と人間の合いの子みたいな奴。誰の追随もゆるさない飛び方。だからアイスは、その才能を生かすことをいつからか自分の使命とした。マーヴェリックに、マーヴェリックにしかできない仕事を託すことによって、自分自身の価値すら証明してきた。まさか星が四つにまでなるとは思わなかったが。
国防総省からプラント破壊任務の話が舞い込んできたとき、アイスは(マーヴェリックしかいない)と思った。奇跡でも起こらなければ成功しない任務だ。だがマーヴェリックなら。マーヴェリックならそれを起こせる可能性がある。
となればあとは逆算だった。熱の下がらない頭で考え続けた。彼の破天荒についていける者たち。彼の破天荒を支え、受け止められる者たち。事前に知らせることも考えはした。だが
――
、そうすれば逃げられることは目に見えていた。あと少ししかない自分の時間で、何をマーヴェリックに残せるかを考え続けた。どうすれば彼の中にある悔いを、諦めを取り除いてやれるか。俺はもう長くない。だからほかの奴らにも知らせたい。お前が凄い奴だってこと。ちゃんと役に立つんだってこと。いろいろと問題もあるが、愛されるべきなんだってこと。どうかわかってやってくれ。すまなかった、ブラッドリー。
ハッと目を覚まして、アイスは、自分のいる場所が死後の世界であることを疑わなかった。光。物音。息苦しさ。命が途切れてはつながり、生きているのか死んでいるのかわからない時間が長く続いた。大手術だったらしい。舌と食道を切除し、同時に腹直筋の遊離皮弁を用いて再建手術を行った。自分がまだ「生き永らえている」ことを認識できたのは、手術開始後から丸四日が経過してのことだった。
麻酔でぼんやりとした頭で、医師や、家族や、そして部下からさまざまなことを聞いた。声はまったく放てず、いっそ死にたかった、という投げやりな気持ちが断続的に沸き起こった。そうだ。任務は。プラント破壊任務はどうなった。医師や家族を下がらせ、部下たちから話を聞いて、そうしてようやくアイスは『よくぞ』と思った。よく蘇ったぞ、アイス
……
。そしてよくやってくれた、マーヴェリック。お前が生還するから、俺も生還できたのだと思った。いっそ死にたかったという気持ちは、いつの間にか消え失せていた。
退院までは三か月を要した。今は服薬と、食道を用いた代理音声の獲得を目指してリハビリが続いている。休職中とはいえ、やらなければいけない仕事はこんこんと湧いてくるので、無理なくそれをこなしながら日常を送っている。
サラとは数日前に離婚が成立した。「死ななかった時のための遺言」というのを、彼女が受け入れてくれたためだ。最後の我が侭だった。マーヴェリックと暮らしたいという我が侭。『お前と結婚したい』というタイピングでの告白に、マーヴェリックは驚いて、しばらくの間アイスの顔を眺めていた。そしてそれから、「いいよ」と言った。初めて見る顔だった。愛される覚悟ができた男の顔だった。『指輪を作りに行きたい』とタイプしかけて、けれどそれは後ろから抱き着いてくるマーヴェリックに阻まれた。愛しくて、この愛しさを喉奥でこらえなければならないことが悔しくて、リハビリを頑張ろうと思えた。
「アイス! アイスももう少しゆるく作ってもらったほうがいいぞ」
店はほとんど貸し切り状態だった。
通路を挟んで反対側のソファに座っていたマーヴェリックが、女性店員を伴ってアイスの隣に移ってくる。
『どうしてだ?』
と、ラップトップにタイピングすれば、それを目でとらえたマーヴェリックが「君も僕もパイロットだろ?」と得たり顔で言った。
「聞いたら、パイロットは脱げ落ちないギリギリくらいにゆるく作る人が多いって」
『気圧の変化に晒されるからだな』
「ああ、君は知ってたか。僕は初めてだから」
アイスは足を組み直して、マーヴェリックが再びサンプルの指輪に指を通す光景を眺めた。銀色のリングが、左手の薬指にはまっては抜けていく。違うデザインのものが、はまっては抜けていく。グローブをする際に引っかかるといけないので、石なしのデザインがいいとは店に来る前から言っていた。
恋人の稚いつむじを見下ろしながら、アイスはラップトップのキーボードをカタカタ鳴らした。
『俺もまだパイロット?』
「はあ? マスタングに乗せてやらないぞ」
『そうだな、どっちがいいパイロットかまだ決着がついていない』
朗らかに笑って画面を見せると、マーヴェリックはくつくつ喉を鳴らしてアイスの左手を取った。
店員たちが微笑んでいるのを見上げて、アイスは穏やかに笑む。
ほらな、俺の僚機は可愛い奴だろ?
(fin)
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