伊坂
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長閑な一日(アイマヴェ)

#M右ワンドロワンライ様より お題「海+勝負」で書きました。
2時間かかっちゃった…。ルスと和解したことによって、マヴェはたぶん『愛されていい自分』を手に入れるので、アイマヴェはすごいことになるんじゃろ?と思っている。



長閑な一日



『勝てるぞ、ハングマン!』
『負けるんじゃないわよ、ルースター!』

 飛び交う若者たちの歓声に、マーヴェリックは思わず相好を崩した。
 柔らかな潮風。ほどよく温まった砂浜。波の音。カモメの声。
 水着で騒いでいる彼らを見ていると、もう秋も終わりに近づいていることなど忘れてしまう。
「元気なもんだ」
 と、同じように浜辺を眺めていた恋人が言った。
 マーヴェリックは「ああ」と破顔して頷く。
 元気で嬉しい。
 若い世代のアヴィエイターたちが、ああして逞しく笑ってくれている。
 とても幸せだった。
 こんな心地に自分が浸れるだなんて、夢にも思っていなかったから。
「ハイ」
「ああ、ありがとう、ペニー」
「今日は脱がないのね? ピート」
「ええ? うん」
「脱いだのか? 最近?」
「そうなのよ。若い子たちとビーチフットなんかしちゃって」
 すぐ近くに店を構えるペニーが合流して、三人掛けの木のベンチはビールとつまみでいっぱいになった。
 肩から担ぐタイプの保冷バッグを受け取ったマーヴェリックは、ペニーが『大将閣下』を前に調査官の仕事をしているのを見て眉根を下げる。
 まあたしかに脱いだけれども。
 年甲斐もなく、若い彼らとビーチフットに興じてしまったけれども……
「楽しかったか?」
「まぁね」
「俺も見たかったな、お前の水着」
「いやいや、水着じゃない。上を脱いだだけ」
 もう彼らに比べればだいぶ見劣りしてしまっている身体だけれど、恋人であるアイスが心からそう言ってくれているのはわかったので、マーヴェリックは唇を尖らせるように笑った。至近距離から注がれる愛おしげな視線。サングラスをかけていてもわかるそれから、逃げるように身を捩って笑う。

 青い空には小さな塊状の雲が少し。
 日差しの柔さと、風の匂いだけは不思議と秋だった。
 マーヴェリックは恋人が、首の後ろやうなじあたりの髪を撫でてくるのを許しながら浜辺を眺める。
 アイスの腕はベンチの背もたれに置かれていて、浜辺の方から見れば、二人はただ海の方を眺めているようにしか見えないはずだった。
 もっとも、本気のビーチフラッグに興じているヤングガンズがこちらを気にしているとも思えない。
 潮風にアイスの香水が溶けているのがわかって、マーヴェリックはどこか甘い気持ちになる。
 首の後ろで、ドッグタグのチェーンを弄られていて、自分もまた彼の首にかかったチェーンをもてあそびたい気持ちになった。
「なんだってああも熱心なんだかな」
 わあっとか、ぎゃあっとか、悲鳴とも歓声ともつかない男女の声がまた浜辺の方から上がった。
 何本勝負なのかは知らないが、二回連続でハングマンがルースターに勝ったのを見てアイスがふわりと笑う。
 ビーチフラッグの審判はどうやらアメリアが務めているらしかった。「ママー」と手を振るアメリアに、ペニーは大きく手を振り返しながらと笑う。
「あら知らない? 確かピートとデートする権利を懸けて勝負してるはずよ」
「は、「はぁ?」」
 いや、そりゃ声も重なる。
「お前そんなことを許したのか?」
 と、首根っこを掴みながら言ってきたアイスに
「僕じゃない! 僕が言い出すわけないだろう!」
 マーヴェリックは毛を逆立てるように反駁した。
 いや、だってなんで自分なんかとデートすること? が勝負の景品として成り立つんだ!
 よくもまあそんな景品で盛り上がれるな!

 少しの間、マーヴェリックは浜辺で盛り上がる若者たちを見ていた。どうせふざけているんだと思って。
 だが若者たちの集中力は一向に切れない。遠くからでもわかるハングマンの隙の無い笑み。諦めていないルースターの立ち姿。
「ちょっと行ってくる……
 サンダルを履いて立ち上がったマーヴェリックに、にっこりと頷いてペニーは言った。
「そうね。ピートが勝てば問題なし」
 続いて、胸ポケットにかけていたサングラスを、ひどく滑らかな仕草でかけながらアイスが言った。
「さすがに大将権限で取り下げさせるっていうのは大人げがないか?」
「なるほど。あなたが勝つっていうのも大アリね」
 ペニーの言い草に、マーヴェリックとアイスは思わず肩を竦めた。やれやれと嘆息しながらお互いを見つめ合う。

「なんなら勝てると思う?」
 と言ったアイスに、
「ドッグファイトなら」
 と答えてマーヴェリックは唇を吊り上げる。

 正気か? と高笑いしだした恋人が、けれど不敵な表情を浮かべていくのを見て、マーヴェリックはすごく、すごく飛び跳ねたい気分になった。
 こんな長閑な一日に、こんな無敵な気持ちって可笑しい。
 丸腰なのに、きっと誰にも負けない気持ち。
 好きって、すごいな。


(終)





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