Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
伊坂
Public
TGM
Clear cache
Summer of Ghostrider(グスマヴェ)
#M右ワンドロワンライ様より お題「熱帯夜」で書きました。
お盆に化けて出てきてくれるグースの話
Summer of Ghostrider
どうもだめだ。気分が悪いわけじゃないのに。唇が震えて、熱いのか寒いのかよくわからない。視界はくっきりしているのに、心が塞いで仕方がない。体中に靄が張り付いて、関節を緩ませているような。悲しいのか大丈夫なのか。空腹なのか満腹なのか。それがわからなくてイライラする。
「おかえり、ハニー?」
だからずっとずっと求めていた声が耳朶を撫でたことに、マーヴェリックは動揺して、目を皿のように見開いて、「グース
………
」と泣きそうな気持ちでつぶやいた。ついに僕はいかれてしまったのかもしれない。でなけりゃ君が、君がここにいるはずない。僕は君が恋しくて、自分に都合のいい幻影を作り出してしまった。これはそういうことだろう?
「グー、ス
……
」
「ああ、もう、ひどい顔だ、ハニー」
暗い官舎の間取りの中で。
細身のグースがふわりと微笑んだことに、マーヴェリックは身体が傾ぐほどに安堵して、ぼろぼろと涙をこぼした。
「グースなのか? だって
……
、君は
……
」
「夏だから俺のことで滅入っちゃってんだろ? 来てやったよ」
「うぅ、グース
……
、うっ
……
」
グースの姿はどこかぼんやりとしていて、それは自分が涙ぐんでいるせいではないと思った。簡素なソファが透けて見える。でもいいんだ。自分のためにグースが化けて出てきてくれた。それでいい。ごめんとありがとうが生まれ続けて、呼吸困難になりそうだった。
「グース
……
、ごめんな
……
。僕のせいで
……
、僕が
……
、お前を
……
」
どうしたって覆らないことを、ずっと抱えながら生きていく。そう思ってきて、そう思っていた。謝ったところで、悔い続けたところで、グースは戻ってこないから。
「グースなのか
……
? 本当に
……
?」
床にうずくまりながらマーヴェリックは言った。細長い指が伸びてきてマーヴェリックは見上げる。あまりに優しい表情をしたグースに、またぼろりと涙がこぼれた。グースの指は、マーヴェリックの額の汗を拭うかのように何度も往復する。なのに感触はなかった。優しさがあるだけだった。
「どうも触れないんだよな」とグースは言い、「
……
うん」とマーヴェリックは答えた。そして思いついて「浮ける?」と聞いた。グースは笑って、のけ反るような姿勢で浮いたままリビングを一周して見せた。マーヴェリックは泣きながら笑った。一周旅行から戻ってきたグースがマーヴェリックの涙を指で拭い、マーヴェリックの涙は拭われなかった。透けた手のひらを握ろうとしてできない。見えているだけ。透けているとはいえ柄シャツの柄まで見えているのに、グースを掴むことはできなかった。正しく彼は幽霊だった。
「ハニー。元気を出さなきゃ」
「元気になった。なったよ! お前が会いに来てくれて
……
。そうだ、キャロルと坊やには会いに行ったか? 二人とも驚いてたたろ?!」
「いや
……
。幽霊は一人にしか会いに行けないんだ。だからお前のところに来た」
「なんでだよ
……
」
「キャロルと坊やにはお前がいてくれるけど、お前はそうじゃなかったから」
「
……
」
「ごめんな。そばに居てやれなくて」
パームツリーの描かれたアロハシャツは、生前グースが着ていたもので。マーヴェリックはグースの胸に向かって項垂れた。抱きしめて、頭を撫でて、背中を叩いてほしくって。
抱きとめようとグースが慌てて両手を出す。
けれどマーヴェリックの身体は、グースの身体をすり抜けてリビングの床にゴンとぶつかった。痛くはなかった。落胆しながら上半身を起こせば、困ったようにくちばしを尖らせるグースと目が合った。
「いつまで居てくれるんだ?」
「ハニーが元気になるか、夏が終わるまで」
「俺が元気になったらもう会えない? 次の夏は?」
「
……
マーヴ。大丈夫になって欲しくて来てやってんだ」
「僕は大丈夫にならない
……
! グースがいなくなるなら、大丈夫にならないよ
……
」
次の夏は? と聞いた時、マーヴェリックはグースが己の上唇を軽く舐めるを見逃さなかった。優しいグース。僕を案じて、僕のために化けて出てきてくれたグース。君が嘘やでまかせを言うときの癖を忘れていない。僕が大丈夫になるまで、きっとそばに居てくれるつもりのグース
…
!
「グース、飛びに行こう」
幽霊よりも青白い顔をして、涙の張った両目を輝かせ、マーヴェリックは自分にとって唯一無二の男に手を差し出した。
波箱はここから
スタンプや反応もらえると嬉しいです
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内