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伊坂
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I'll make french toast for you.(アイマヴェ)
#M右ワンドロワンライ様より お題「これからもよろしく」で書きました。またまたアイスが元気なアースです(サラと離婚したアイスと、マーヴェリックが一緒に暮らしてるシリーズ)
全然読まなくて大丈夫なんですがバレンタインのお話
https://privatter.net/p/9790707
の二週間後を想定してます
「アイス
……
、どうも調子が悪い。色々調べたんだけど」
「調子が?」
「トースターの調子が。ニクロム線の寿命かなと思うんだよ」
「トースターの調子か
……
」
ほっとした顔をする僚機に、ぁ
……
、とやっとのことで思い至ってマーヴェリックは俯いた。寿命なんて言葉使うべきじゃなかった。使うべきじゃなかったけどしょうがない。幸い、アイスマンの表情はいつも通りで、自分の言葉が彼を傷つけなかったことにマーヴェリックは胸をなでおろした。こうして自分の前にいるアイスマンというものに、心から感謝する。
「見るか?」
「いや、お前が調べたんだからきっとそうだ」
あれ? と思ったのは二週間ほど前だ。少しだけ変なにおい。何か、食べ物ではないものが焼けている匂い。
それで、パンくずや汚れなんかを、水を含ませたキッチンペーパーで拭いてみた。ヒーター部分もきれいにした。それでもやはり、タイマーを回すと妙なにおいがするし、それと温まりも悪い。三分でこんがりと焼けていたパンも、一昨日は全然温まらなかった。異臭がするようになったタイミングと、温まりが悪くなったタイミングが合致していることから、ニクロム線か、そのあたりの部品がもう寿命なんだと判断するに至った。アイスマンは調子が悪いのがトースターだとわかって、一度は顔を上げたものの、またラップトップの画面に視線を戻している。
「新しいのを買うよ?」
「悪いな。頼めるか」
「何年くらい使ってたんだ?」
「あぁー、どうかな」
こりゃあだめだ。まあ、尋ねたところでわからないだろうなとは思っていた。アイスとサラが別れることになって、それで自分が砂漠から出てきて半年。この半年間でトースターを酷使した覚えはなし。順当に、経年劣化でだめになったんだと結論付けることにする。
(思い出の品だったりは
……
しないよな)
コンセントを外し、不用品として処分するための準備に入る。っと、そうだ。寸法を控えておこう。新しく買うのも同じくらいのサイズか、一回り小さなものでもいいかもしれない。機能ももっと絞っていいのかもしれない。
たぶん、マーヴェリックがこの家でアイスと暮らすようになってから、トースターは食パンや冷凍ピザを温めることにしか使っていない。アイスに話しかける前に少しネットを調べてみたところ、この調子の悪くなってしまったトースターは、お菓子を作ったり、グリル料理などにも使える多機能タイプらしかった。食パンも一度に四枚がトーストできるサイズらしい。どうりで広々としていると思った。アイスのためだけに食パンを焼くには広すぎるのだ。マーヴェリックの朝食はミューズリーにプロテインパウダーとミルクをかけたものなので、パンは食べない。
(サラはパン派だったのかな)
もしもサラもパン派だったのなら、庫内にはだいたい二枚のパンが並んだはずで、二枚は同時に、こんがりと焼けたはずだ。効率よく。
それに子供たちやその子供たちがいるときには、四枚ものパンが同時に焼けるという機能は重宝したはず。お菓子を作るということも、おそらくあっただろう。
(一回りコンパクトなものにしよう)
このカザンスキー邸で、さまざまなものを温めたであろうトースターを撫で、マーヴェリックは静かに微笑んだ。もし砂漠で一人で暮らしているままだったら、発生しなかった感慨だ。
「あっ」
と、そこで、妙に明るい声がリビングから上がったものだから、マーヴェリックは振り返った。
「それで一昨日と今日はフレンチトーストだったのか?」
「気づいたか」
キーボードを叩く手を止め、アイスがダイニングチェアから身を乗り出している。器用な奴だ。仕事をしながら、無関心ではなかったわけだ。トースターのことに。マーヴェリックのことに。考えていたから気づいてくれた。本当に自分には勿体ないほどの男だ。
「じゃあ仕方なくフレンチトーストだったってことか
…
」
「トースターが温まらないんじゃしょうがないよな。大将閣下に食パンそのままを食わすわけにもいかないし」
「うわ。黙っててくれ
……
」
「何をだ」
「昨日、サイクロンとウォーロックに自慢してしまった。今朝はマーヴェリックが俺のためにわざわざフレンチトーストを作ってくれたと」
「トースターが壊れたから仕方なく、な? でも
……
」
「『でも』?」
くそ、その顔に弱い。
自分の願いはかなうと思っている顔。叶えてくれるだろ? と決めつけるような得意顔。
いい気になるなよ。
いい気になるだろ。
「そんなにうれしかったなら、時々作ってやってもいいけど
……
」
「言ってみるもんだ」
「フレンチトーストくらいならな」
ふんわりと笑う男に、爆発するみたいな嬉しさがこみあげる。こみあげてしまう。
こんな、負け惜しみみたいな好きを、若返るみたいな好きを、生涯アイスにしか感じない。
見つめ合っているうちに頬が熱くなって、マーヴェリックは耐えられないというようにアイスのそばへと歩きだした。
(終)
波箱はここから
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