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伊坂
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師弟からよろしく(お酒/ハンマヴェ)
#M右ワンドロワンライ様より お題「お酒」で書きました。このマーヴは全然振り落とすつもりでいるからハンは頑張らねばならない。でもハンは頑張れるから大丈夫望むところです。これの第二話は「は?俺も弟子にしてくんない?マーヴ」って怖い顔して現れるルースターですよ。笑
師弟からよろしく
何を思ってか「ふふっ」と笑っているマーヴェリックに、少しのあいだハングマンは見惚れた。ふふって。いや、ふふってそんだけだけど。すげえなこの人。落ちたら最後だ。
「マーヴ」
雄鶏。お前は学ばなかったんだろうがーー。
そう思いながらハングマンはマーヴェリックの左隣の席に座った。
優秀な戦闘機乗りである自分は知っているのだ。
自問自答を繰り返すってことが、軍人人生でいかに無駄かってことを。
まさかマーヴに惚れている?
そうとも。俺はマーヴェリックと特別な関係になりたい。なら行動あるのみだ。自問なんてものが生じた時点で、答えは決まっているようなものなんだから。
「ハングマン」
やあと顔をほころばせてマーヴはコースターごとビールを移動させた。マーヴェリックの右側にはホンドー。だからこれは、二人で飲んでいるところに自分がちょっとお邪魔した形だ。
ナインボールが泳ぎ回るプールサイドにはペイバックとファンボーイがいる。フェニックスとボブとルースターも。コヨーテは窓際でハンバーガーだ。うまいよな、ここのハンバーガー。オニオンの輪切りが厚めなのがいい。
ファンボーイたちは顔を輝かせて「おい、ハングマンの奴」とか何とか言っている。雄鶏は無表情。コヨーテは
……
、零れ落ちそうなレタスを唇で引っ張り出すみたいに食べている。なんて和む光景だ。からのもう一度雄鶏。怖。思わずニヤけてしまう。
「飲んでるかい?」
とマーヴェリックは気のいい上司みたいに言った。優しい表情。ふわっとした髪。まだところどころ髪が湿り気を帯びているのは、砂を落とすためにビーチシャワーを浴びたためだ。ハングマンの髪も濡れている。つい一時間ほど前まですぐそこのビーチでバレーをしていた。だから今はお開きのビール会。
「マーヴ、ビールごちそうさまです」
「最初の一杯だけだよ。ていうか、そのために僕とホンドーを呼び出したんだろ?」
「違いますよ。みんなマーヴとビーチバレーしたかっただけ」
ビーチバレーは楽しかった。みんなサンクスギビング休暇までサンディエゴに留まるつもりでいるらしい。我らが大佐、我らがティーチャー、マーヴェリックとまだ離れたくないからだ。
プラント破壊任務を終えて、全員でシンプソン中将に直談判に行った。僕たち、私たち、もう二週間マーヴェリックに訓練をつけてほしいです。小学生かよ
…
。まあつまり全員が勝利に浮かれていた。シンプソン中将も。マーヴェリックも。顔とか知らない上層部も。で、あっさりと許可が下りたわけで。
マーヴェリックはメディカルチェックで擦過傷多数、打撲多数と言われて三日間の飛行禁止命令を食らっていた。にも関わらず、「なんかもう座学で教えられることはないかなあ
……
」とか言って、二日目には空に飛び出し生徒達は必死に追いかける羽目になった。この人ほんとうにやばい。昔トップガンの教官をクビになったのって、マジだったんだなってみんな思った。教官の適正なしと言われた人に教わってた俺たちって
……
。
「さっき何を笑ってたんです」
「笑ってたかい?」
「ふふって」
「若い君らに誘われて嬉しいなあって。そんなかんじかな」
マーヴェリックの向こうで、准尉はやれやれという顔をしていた。でも咎める目ではない。でも歓迎する目でもない。当然ながら。
ハングマンはマーヴェリックの前にあるビールの残高を見た。グラス半分。グラス半分か。グラス半分でなにができるだろう。どんなアプローチが。どこまで許される。この状況で。
…
よし。
「ねえマーヴ」
ハングマンはカウンターに身を乗り出して、マーヴェリックの向こうにいるホンドーにも語り掛けるように声にした。眼鏡の奥にある目と目が合う。にっと微笑み、制しておく。今から大佐を口説きますが、大丈夫なので見ていてくださいと。
妙なアイコンタクトを受けたホンドーが、戸惑いながらビールグラスの淵に口をつける。そのタイミングを見計らって、ハングマンはマーヴェリックを覗き込んだ。エルロンを操作して、するりと僚機に身を寄せるように。
「まずは師弟からよろしくしませんか」
ぶっと、まずホンドーがビールグラスの淵から口を離す。
えっという顔をして、えっという顔のままマーヴェリックがホンドーとハングマンを交互に見る。
「何? なんて?
……
師弟から?」
「あなたの弟子になりたいんです。あなたからはまだ学びたいことが色々あるので」
「君はちゃんと僕の生徒だし
……
、でも僕から学べることはほとんど無いんじゃないか? それなのに『師弟』?」
「あなたのことが好きになったんですよ。俺って昔から、教師に気に入られたいタイプの子供で」
「それはわかってたよ。講義であの位置に座る子は優等生なんだ。教わることに、自分を成長させることに誰より貪欲。だから他の誰より教師を見る目が厳しい。判定しているんだ。この教師がちゃんと、学ぶに値する存在なのか。あの場所に座る子はたいていそう
……
」
「じゃあ、わかってくれるでしょ? あなたにも気に入られたい。このままみんなと一緒っていうのは嫌なんです。俺を弟子にしてくださいよ」
「どうしよう、ホンドー。ええっ? 弟子にしてくださいは初めてだな」
ああ、逃げた。逃げちゃったな。
苦笑いしながらマーヴェリックはホンドーを見て、目の前のビールグラスを四分の一にした。准尉は関わりたくないという顔でため息をつき、マーヴェリックは自分のビールグラスに手のひらで蓋をしてしまって考えている。
「君のいいところ」
「はい」
「決断が早い。アピールが上手。好機を逃がさない」
「空で迷ってたら死にますから」
「君のだめなところ」
「はい」
「こんなおじさんに引っかかるかあ? 見込みはないよ。言っておくけどね」
「見込みないです? 俺にはまだ、チャンスはあるかなってかんじですけど。俺が優秀すぎるせいですかね」
「困ったな。どうしよう、ホンドー。師弟関係だっけ?」
マーヴェリックは。
ハングマンの思惑通り、ほとんど顔を上げずに会話をしている。ほとんど顔を上げず、ホンドーを見たり、ハングマンを見たり。
他の教え子たちに自分の顔を見られたくないのだ。
早いテンポの会話に、早くこの会話を切り上げたい気持ちと、久々の戸惑いをもう少しだけ楽しみたい気持ちが透けて出ている。
ハングマンは笑った。
もうこちらとしては仕掛け終わったので、もうなるようにしかならないという余裕だ。
「初めての時みたく、あなたは『お手並み拝見』と、そう言ってくれるだけでいいんです」
「あーー。僕を困らせないでくれ。師弟関係か。師弟関係なら?」
「狙わせてくださいよ、あなたを」
「『師弟関係から』ね
……
。師弟関係『なら』構わないけどなあ
……
」
さりげなくマーヴェリックはビールを飲み干し、さっきまでは手のひらで蓋をしていたビールグラスをそのままにした。
ハングマンはそれに気づいてジミーを呼ぶ。
マーヴェリックの気が変わる前に、彼が再び手のひらで蓋をするまえに二杯目のビールを注がなくてはならない。
ジミーが現れ、ハングマンはマーヴェリックの空のグラスを急いで彼に手渡した。いつもより緊張した笑顔で。
ジミーはいつもの笑顔でそれを受け取ると、新しいコースターと共に二杯目のビールをマーヴェリックの手元へと置いた。
「君のおごりだね?」
するとエースの目をしてハングマンの想い人は言ったのだ。ハングマンの右翼を、自身の左翼で小突いてくるように。
「
…
弟子のおごりです」
「わかった。じゃあ『師弟からよろしく』、ハングマン?」
すごいな。
始まった瞬間振り落とされそうで、さすが俺の師匠だとハングマンはにやけるしかない。
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