玲緒
2021-07-03 04:04:07
1514文字
Public
 

Day 3 : Wedding

#sansterweek2021 ver.2
3日目のお話。

それは、そこまで遠くはない昔の記憶……

「とうさーん!」

フォロワーたちに仕事の引き継ぎをしていると、廊下の向こうからぱたぱたぱたと軽快な足音が聞こえてきた。その場にいた全員の目が、音のする方角へと向けられる。
視線の先に居たのは、白いレース生地を握りしめてこちらへ駆けてくる小さなスケルトン……この研究所の所長である、ガスター博士の愛息子だった。フォロワーの一人が「あ、サンズだ」と少年の名前を口にする。

「とうさん! ねえコレ見て! キレイでしょ?」

サンズと呼ばれたスケルトンの子供は、足下までやってくると、握りしめていたレース生地を頭から被って、くるりとターンしてみせた。
白いレース生地を衣装に見立てているのだろうか。まるで花嫁が身に纏うヴェールのようだと思いながらガスター博士が見つめていると、その場にいたフォロワーの一人がクスクスと笑い始めた。

「へえー、カワイイじゃん。まるでお嫁さんみたいだなぁ、サンズ?」

茶化すような物言いに、隣で聞いていたもう一人が責めるような視線を向ける。
だが言われた本人は褒められたとでも思っているのだろうか。可愛いだとか、お嫁さんだとか、男に対して言わないような言葉を向けられたにも関わらず、嬉しそうに笑って大人たちを見上げていた。そして、突拍子もないことを口にしたのだった。

✳︎

「あの時、なんて言ったか覚えてるかい?」

真夜中のプライベートルーム。ベッドの中で、向かい合う形で横たわる小さなスケルトンの頬を撫でる。

「いつの、話だよ……
「お前が仕事に就くずっと前の話さ」
……、知らねぇ……

少しの間を置いて呟かれた言葉に羞恥の色が見え隠れしているのに気付いたものの、敢えて指摘はしないでおく。覚えていても、いなくても、今の二人にはそんなことはどうでも良いのだ。

「あの時のお前は、大人になったら父さんのお嫁さんになるんだ!ってフォロワーたちの前で宣言したんだよ」

あの時は、幼い子供の戯言だと思って疑わなかった。己の心に芽生えた小さな恋心でさえも、一時的な気の迷いだと言い聞かせて、蓋をした。
だってまさか、現実のものになるなんて誰が想像できようか。
この子が私を好いてくれるのは、私が育ての親だから。私がこの子を愛おしいと思うのだって、この子が自分の子供だから。そう思って、そう思うことで、良好な関係を築いてきていたのに……

……迷惑、だった?」

不安げな声が聞こえてきて、視線を下ろす。おずおずと骨の手を伸ばし私の手に触れてくる幼い恋人。その左薬指には、先日贈ったばかりの小さな指輪が嵌められている。

「そんなわけないだろう」

嫌だったなら、そもそも指輪などプレゼントしたりするわけがない。それは本人もわかっているはずなのだが、まだ半信半疑なのだろう。

「お前と一緒になれたこと、とても嬉しく思っているよ。これ以上の幸せなどないだろうと思うくらいにね」
……ほんと……?」
「ああ、本当だよ」

嘘じゃない、と言い聞かせるように、両手で幼い恋人の頬に触れる。
カツン、と硬質な物が当たる音につられて、彼の視線が右頬へと向けられる。音の正体に気づいたのか、驚いたように眼窩に浮かぶ白点が揺らいだ。

「それ……指輪?」
「ん、そうだよ。お前とお揃いになるように、作らせたものだ……結婚指輪というのは、そういう物だからね」

そう告げてから、ゆっくりと顔を引き寄せ口付けた。
全てを伝えることは難しくても、せめて少しだけでもいいから、幸せなのだというこの想いが、幼いお嫁さんに伝わってくれたらいいなと思いながら……