玲緒
2021-06-01 22:59:15
2093文字
Public
 

Day 2:Height difference

#sansterweek2021
二日目のお題『身長差』

 それは、とある日の研究所でのお話。

「ん、あれは……

 実験に必要な資料を探して資料室を訪れたガスターフォロワーNo.1『アインス』は、一足先にやってきていたらしい小さなスケルトンの姿を見つけ、物陰に隠れた。そっと顔を覗かせ、様子を窺う。
 小さなスケルトンは、どうやら棚の最上段にある本を取ろうと奮闘しているようだった。アインスと同じ程しかない背丈の彼は、研究員たちの中でも一番若くて、一番の新入りだ。

「くそ……もう、ちょっと……

 彼は懸命に背伸びをして、スリッパを履いた骨の足でバランスを取りながら手を伸ばしている。ぐぬぬぬぬ……と唸り声をあげ、額に汗を浮かべて、すごく必死だ。
 そんな彼を見て、アインスは声を掛けるべきか悩んだ。
 自分も同じくらいの背丈だから、最上段の資料を取るのは苦労するし、一人で取ろうとすれば確実に時間がかかり、タイムロスに繋がる。だから取りにくい位置に資料がある事を想定して、資料室には高めの足台を用意していもらっているのだ。だがその事を、あのスケルトンは知らない。

……教えてあげるべき、だよね……

 おそらく、知らないのは彼だけだから。
 アインスは意を決して物陰から身を出した……その直後。

「すとーっぷ」

 不意に背後から白衣の襟元を引っ張られたかと思うと、そのまま物陰へと引きずり込まれた。突然のことに、喉から出そうになった悲鳴をおさえるかのように、黒くて大きな手が口に当てられる。短くてちょっと硬いブラシのような毛の感触が、相手の正体を伝えてくる。

「んーっ! んーっ!」
「まあまあ、落ち着けって、アインス。もう少しだけ、黙って見てようぜ?」

 ヒヒヒと笑う男の手を掴み、強引に引き剥がす。見上げれば、思ったとおり……長身の黒猫がにんまりと口元を歪めて立っていた。

「ツヴァイ……なんで止めるんだよ」

 後輩が苦労してるのに! そう責め立てるも、ツヴァイと呼ばれたガスターフォロワーは動じることなく、物陰に隠れながら後輩のスケルトンを見つめていた。

「まあ、見てなって。そろそろ来る頃だ……
「来るって、何が?」
「見てりゃわかる」
……

 後輩へと向ける視線を追って、顔を向ける。
 ちょうど、視線の先に居るスケルトンの指先が、ようやく本の角に届いたところだった。カリカリと懸命に引っ掻いて動かして……だが必死になりすぎて、足台が傾きはじめている事に気付いていない。

「あと、もうちょい……っ」

 資料棚に手を添え、支えにして背伸びをする。少しずつ傾く足台と、棚から飛び出してくる本。
 あともう少しで取れる。そう確信した直後……

「うわぁっ!」

 ガタンっと音を立てて足台が傾いた。悲鳴と共にスケルトンの身体が資料棚に向かって倒れ込んでいく。

 危ない!

 咄嗟に物陰から飛び出そうとしたのとほぼ同時に、彼の背後の空間が揺らいで、黒い人影が現れた。白い風穴の空いた複数の手がスケルトンの胸部を優しく包み込み、ゆっくりと持ち上げていく。

「危ないよ、サンズくん……

 揺らいだ空間から現れた黒い人影が言葉を発する。スケルトンが振り返り、ガスター博士?! と声をあげた。

「高いところの物は私が取るから、無理せずに呼びなさいって、言ったよね?」
「す、すみません……
「で? どれが必要なの?」
「! えっと……

 ガスター博士に促されるまま、サンズと呼ばれたスケルトンは必要な資料の名前をあげていく。博士はさりげなく彼を自身の懐へと抱き寄せながら、召喚した手で言われた資料を取り出していく。

「ほぅ……実に興味深い」

 ぽつりとガスター博士の呟く声が聞こえた。注意深く表情を窺えば、博士はとても楽しそうに、懐にすっぽりと収まったスケルトンに目を向けていた。博士の召喚した二つの手には、複数の分厚い冊子が抱えられていた。なんの資料なのかはわからないが、博士の様子からして彼の気を引くような分野のものなのだろう。

「もし君さえ良かったら、私の部屋で詳しく話を聞かせてもらえないかな」
……

 博士のセーターに吸収されて返事は聞き取れなかったが、博士の表情を見るに、おそらくOKしたのだろう。
 数冊の資料を召喚した手に持ちながら、ガスター博士は背の低いスケルトンを抱きかかえて踵を返し、そのまま資料室を後にした。


 気配が遠ざかった事を確認して、ツヴァイとアインスは物陰から姿を表した。

「ねえ、なんで博士が来るってわかったの?」

 怪訝そうに目を細めてツヴァイを見上げると、彼は愉しげに口角を釣り上げた。

「そりゃあ……毎回同じこと繰り返してりゃ、誰だって覚えるだろ?」
「えっ? 毎回……?」
「そ、毎回。いつもいつも、サンズは同じようなことをやってんのさ」

 あれは絶対わざとだな、と確信した様子で呟かれるツヴァイの言葉に、アインスは、声をかけなくて良かったと……邪魔に入る結果にならなくて良かったと、本気でそう思ったのだった。