玲緒
2021-05-25 01:02:46
1572文字
Public
 

Day 1: Embarrassment

#sansterweek2021 一日目のお題より、恥ずかしさ(Embarrassment)
キスの日もあったのでそちらと絡めて書かせていただきました!

【Embarrassment】

 仕事の合間に設けた休憩時間。誰もいない仮眠室で、束の間の睡眠をとっていた時のことだった。
 ぺたり、ぺたり、とスリッパ特有の小さな足音が聞こえた気がして、微睡んでいた意識がゆっくりと浮上する。

(この足音は、サンズくんかな……

 この研究所で、スリッパを履いて動き回る研究員は一人しかいない。
 徐々にこちらへと近づいてくる足音にどう反応しようか悩んだ挙げ句、ガスターは敢えて気付かぬフリをした。
 普段であれば、あの子の足音はもっと軽快で慌ただしいくらいなのだが、今聞こえてくる足音は、どちらかと言えば忍び足に近い感じだ。おそらく、こちらを起こさないようにと気を遣ってくれているのだろう。ならばここは、あの子の好意に甘えておこう。そう思っての判断だった。

 徐々に足音が近づいてきて、止まった。方向は、自分から見て左側……気配はすぐ側に感じられる。

……

 だが、すぐ側までやってきた気配は、何をするでもなくその場に居続けていた。目を開けられないから何をしているのかまではわからない。
 もどかしい時間だけが過ぎていく。
 流石に気になって、目を開けようとした。その時だった。

……博士……

 不意に、囁くよう声がした。まるで、こちらが起きていないことを確認するかのような……妙な雰囲気だった。そのせいで、目を開けるタイミングを失ってしまった。

……

 再び沈黙の時間が二人を包む。
 はて、一体どうしたと言うのだろうか。サンズは何をするでもなく隣に立ち尽くし、一言呟いただけで黙ってしまった。

 これは……起きるべきなのだろうか……

 しばし待ってみるも一向に変化がない為、ガスターはもう一度目を開けようとした。その直後……

 コツン、と何か固いものが唇に触れたのだ。

「!」

 覚えのあるその感触に、またもや目を開けるタイミングを失ってしまった。
 コツン、コツンと固いものが唇に触れて、しっとりと弾力のある何かが唇を撫でる。驚いて、声を発しようと口を開くと、不可抗力なのか、それとも意識的になのか……弾力のあるソレが隙間をぬって侵入してきた。少し冷たくて、キャンディーのようにツルリとした感触のソレが遠慮がちに舌に触れて、這うように奥へ奥へと伸びていく。
 キスをされているのだと理解できるまでに、かなりの時間を要した気がした。
 応えていいのか、いけないのか……どうにも判断がつけられない。そうこうしている間にも、彼は過去の体験を再現するかのように、懸命に自身の舌を絡ませようと奮闘している。だがこちらが動かない以上、どうすることもできないだろう。それでも頑張っている彼に応えようとしたその瞬間。

 〜〜♪

 ベッド脇に引っかけてあった白衣のポケットから音楽が流れ出した。
 それを聞いたサンズは、ビクッと肩を震わせて口内から去っていった。

「ッ……!」

 パタパタパタと慌ただしい足音を立てて遠ざかっていく気配を感じながら……ガスターようやく目を開けた。
 つい先程まで触れられていた唇に己の手を当てがって、つい今しがたされた行為を思い出して、赤面する。


 キス自体は、そこまで恥ずかしいことではないし、初めてでもない。それこそ数え切れないほどに回数を重ねてきている。けれど……こんなことは初めてだ。

 まさか……あの子からキスをされるなんて、思ってもいなかった……

…………どう、したものかな……

 初めての体験に、身体の中から恥ずかしさが込み上げてくる。

 嗚呼、参ったな……いったい、どんな顔をして戻ればいいのだろう。

 休憩時間の終わりを知らせるアラーム音を耳にしながら、熱を帯びた顔を片手で隠して息をついた。