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白夜
2023-03-19 14:29:40
5559文字
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眩暈を覚えるような
ビグマグ 寄稿していた話
敵として戦っていた時の方がまだ距離が近かったとぼんやりとマグマトロンは思った。
そう思ったのは、かつてアンゴルモアカプセルの争奪を繰り広げて命をかけた戦いをしてきた宿敵を偶然見かけたからだ。その宿敵を見かけたマグマトロンは思わず足を止めた。
「きゃっ、もう! 急に立ち止まらないでよぉ!」
後ろにいたディーナビはマグマトロンの背中にぶつかってしまい非難の声を上げる。しかし、その言葉を聞いてはいないようで、一体どうしたのかとマグマトロンのぼんやりとした視線の先を見て、そういうことかと呆れたように大きくため息を吐いた。
その視線に孕んでいる熱の存在に気付いたが、その視線を送っている本人が気付いていない。それだけではなくその視線を送られている相手もそのことには気付いてはいない。
そういうマグマトロンはいうと、偶然見かけた宿敵に声を掛けようかという考えも頭に浮かんだが、共にいる者が視界に入ってきたことにより足が止まって声を掛けることをためらってしまっていた。
親しそうに話している相手はマグマトロンの知っているかつての彼の訓練生とは違った。見慣れない顔かと思ったが、会ったことがあることを思い出す。宿敵の戦友であったという記憶がますます声を掛けるのをためらわせた。
何故、自分がこのようなことでためらいを感じてしまっているのかと自己嫌悪する。そして、マグマトロンには見せたことのない表情で会話をしている様子を見ていると無性に空虚を覚えて、胸の奥からじわじわと得体の知れない痛みが広がっていく。
「熱い視線ばかり送ってないで話し掛けに行けば良いじゃない」
「何、馬鹿なことを言っているんだ」
立ち止まって遠目でビッグコンボイのことを眺めているマグマトロンに痺れを切らしたディーナビが呆れた口調で言った。その言葉の中には自分の気持ちに気付いていないのをからかう意図も含まれていたが、そのことにマグマトロンは気付かない。相変わらずだとやれやれと言った表情をするが、その意図は伝わらず何故そのような反応をするのか分からないといつも以上に眉間に皺を寄せた。
「だからビッグコンボイと話したいんじゃないの?」
ためらいもなくズバリと言い放たれた言葉にビクリと眉間が動き、肩が小さく揺れる。馬鹿なことを言うなと言おうとしたがはっきりとした物言いに思わず動揺してしまったせいで喉の途中で言葉が詰まった。
この程度で動揺してしまう自分自身に再び動揺する。
常に死と隣り合わせの環境で戦ってきたマグマトロンには理解出来なかった。
(何故、このような想いをしなければならんのだ
……
)
知らず知らずのうちに強く歯を食いしばってしまう。
「くそっ
――
もう良い、行くぞ」
これ以上、この場に居るとおかしくなってしまいそうだと、小さく舌打ちをして身をひるがえした時だった。
「マグマトロン?」
急な呼びかけにビクリと肩を震わせた。ゆっくりと声のした方へと振り向くと黄色の瞳と目が合う。こういう時に何を言えば良いのかという知識はマグマトロンには存在しない。そのようなマグマトロンのことなど露知らず、こちらへと戦友を連れてやってくるビッグコンボイ。
「あーら、気付いてもらえて良かったじゃない」
小声でそう言っておもしろそうに笑うディーナビに対して何を笑っているんだと軽く小突く。それでもクスクスと笑うのを止めようとはしない。
「こんな所で会うなんて珍しいな」
「あ、あぁ」
ディーナビにからかわれて、しかめっ面をしているマグマトロンに対して、それを指摘するわけでもなく話しかけてくる相手。無愛想でもあるが昔と比べれば穏やかな声色。その声に胸が温かくなるのを感じたが、視界に入ってくるもう一人の存在に眉間の皺を深くした。
「ああ、彼はロックバ
――
」
「知っている」
そんなマグマトロンに気付いてかどうかは分からないが隣にいる戦友であるロックバスターのことを紹介しようとした。しかし、その名前を言い切る前に知っていると言葉をかぶせた。その声はいつも以上に不機嫌なものであったが、本人は気付いていない。
「そりゃ、会ったことあるからなぁ。まあ、あの時はかなり物騒な初対面だったけどな」
「そう言えば、そうだったな」
ロックバスターの言葉に、その時のことを少し上を向いて思い出すようにしているビッグコンボイにマグマトロンもあの時はどのような手を使っても倒すことを考えていたなと昔を懐かしむように記憶を辿ってみた。
あの時はまだ今のようにただ純粋に戦うことを楽しむのではく、マグマトロンはビッグコンボイの息の根を止めるということしか考えていなかった。何よりあの頃はビッグコンボイが本気でマグマトロンのことを倒そうと考えていた。そして、マグマトロンはそのことを好ましく思っていた。
ぶつけられる容赦の無い感情と殺気をとても心地良いものだと感じたのは隠しようもない事実であった。そのことを考えてみれば、ワンマンズアーミーに戻った今よりも訓練生の教官をしてアンゴルモアカプセルの争奪戦をしていたあの頃の方がマグマトロン自身に対しては孤高の戦士だったのではないかと思い、さらに距離を感じでしまった。
ますますモヤモヤとした感情が心を蝕んでいく。
「ああ、これも知ってるかと思うけど、俺とビッグコンボイはコンビを組んでたこともあるんだぜ?」
そう言って、親しげにビッグコンボイの肩を抱くロックバスター。
そう言って浮かべたどこか得意気な表情にマグマトロンはあからさまにムッとした表情を浮かべた。
そんな戦友の宿敵を見たロックバスターはビックコンボイに熱い視線を送っていたマグマトロンを少しからかうつもりで言った言葉であったが、ここまで嫉妬の感情を向けられ、反応を返されるとは思っていなかったので思わず笑いそうになってしまう。
そして、そのやり取りを後ろの方で傍観していたディーナビも笑いを堪えるので必死であった。
◇◆◇◆◇
偶々、戦友であるビッグコンボイに会い、最近の調子や任務について他愛もない話をしていた時だった。ふと感じる視線。
しかし、そういうことに敏感なはずのビッグコンボイは気付いている様子を見せない。気のせいかとも思ったが確実に感じる視線を無視することなど出来ずに話している最中に視線をずらすと、そこには知っている姿があった。
ロックバスターにとっては戦友の命を奪おうとした人物である故に未だにあまり良い感情を抱けない相手。一体何だよと思い、意識を向けていると、その視線がただ見ているだけの視線ではないということに気付いてしまった。
――
それは明らかに熱を帯びている視線。
(はあ? マジかよ! あの破壊大帝様がビッグコンボイのことを!?)
これは気付いてはいけないことに気付いてしまったのではないかとヒヤリと下がる機熱。気のせいであって欲しいと思った。
「ん? どうかしたのか?」
「ん、あー、いや
……
その
……
」
いきなり黙るロックバスターを不思議に思い、声を掛けるが何やら様子がおかしい。先程からこちらではない所に向けているのも疑問に思っていたので、ロックバスターの視線の先を追った。
そして、マグマトロンを視界にとらえたのだった。
◇◆◇◆◇
何故、声を掛けてしまったのかビッグコンボイ自身も分からなかった。声を掛けたのはほぼ無意識で、マグマトロンの姿を見た途端に声を掛けずにはいられなかったのだ。
そのことに動揺していることに気付かれていないだろうか、動揺を取り繕うために出した言葉は震えてはいないだろうかと不安に思い、俺らしくもないと自嘲する。
そして、声を掛けてからずっと仏頂面であるマグマトロンにどうしたものかと考えていると「じゃあ俺はこれで」と隣に居たロックバスターがニタリと笑いながらビッグコンボイの肩を叩いた。
「俺がいるとどうやらお邪魔みたいだしな」
そして去り際に付け加えられた言葉。
「おい、それはどういう
――
」
「なら、私もここから退散するとするわー。先に行ってるわね、マグマトロン」
ロックバスターの言葉の真意を聞こうとするが当の本人は後ろ手に手を振ってくるだけだ。なおかつ、ディーナビもよく分からないことを言ってキャハハと笑いながら去って行く姿にビッグコンボイは首を傾げた。ちなみに言われたマグマトロンも同様に意味が解らないと首を傾げている。
――
二人残されたビッグコンボイとマグマトロン。
実は戦いが終わってから今まで他に誰かが居る状態で会うことばかりで二人きりになったことがなかった。
二人の間に気まずい沈黙が流れる。
「あー、そのあれだ。こうして二人きりで対面するのはあまり慣れたものじゃないな」
その沈黙を破ったのはビッグコンボイが先だった。
少し困ったように自分らしくもなくポリポリと頬をかいて、自分よりも大きい体を持つ相手を見上げた。
「あ、ああ
……
、そうだな」
それに釣られて機熱が上がる。原因の分からない熱にマグマトロンは思わず眉をひそめた。
「どうかしたのか?」
「いや、何でもない」
急に怪訝な表情をする相手を疑問に思ったビッグコンボイに見上げられ顔をのぞき込まれることでますます機熱が上がる。原因の分からない熱に居たたまれなくなり、何でもないと無愛想に言い、プイッと顔を背ける。
そんなマグマトロンに次はビッグコンボイが怪訝な表情をする番である。機嫌が悪いのかと思ったが声色は機嫌が悪いようには思えない。むしろ困惑しているようにさえ思えたが、その理由が見当たらない。まして、マグマトロンが困惑するといったようなことが脳内のイメージに全くと言って良いほど合わなかった。
「どこか調子でも悪いのか?」
心当たりの原因がそれしか思い浮かばない。調子をうかがうように見るが何故かマグマトロンは頑として目を合わせてこようとしない。最早、お互いにむきになっていた。
目を合わせようとするビッグコンボイと合わせようとしないマグマトロン。二人とも負けず嫌いなせいもあり、よく分からない攻防戦が始まった。ビッグコンボイはマグマトロンの体をこちらに向けようと無意識的に肩に手をかけていた。不意に触られた手をマグマトロンは振り払おうとするが、その手を意地でも放そうとはしない。
「何故、俺のことを見ないんだ!」
「黙れ! 何故、貴様のことを見なければならんのだ!」
体格には違いがあるが、二人の力はほぼ互角と言って良い。
あまりにも不毛すぎる戦いは長期戦へとなるかと思いきや、それはお互いがバランスを崩すということであっという間に終わりを告げた。ドサリと二人の重みのせいもありより大きい倒れた音が響いた。
「おいッ、早く退け
――
」
顔を上げると異様に近い顔の距離にマグマトロンは言葉を詰まらせた。何とも言えないくらいの感情の高揚と気まずい雰囲気に思わず機熱が上がり思考回路が停止してしまう。思った以上に近いその距離に機熱を大幅に上げていた。自分の上に乗りかかっている相手のことをすぐにでも突き飛ばしたり押しのけたりすれば良いはずであるのに行動に移すことが出来ない。一致しない思考と行動。
「わ、悪い
……
!」
同じように驚いて固まっていたビッグコンボイはハッとしてマグマトロンの上から急いで身体を退かした。
すぐに退いたビッグコンボイとは反対にマグマトロンは仏頂面で未だに固まっていた。顔に集中する熱とスパークが異様に高鳴っている感覚にどうして良いのか分からなかったからだ。
そんなマグマトロンの心中など知らないビッグコンボイは怒らせてしまったのではないかと勘違いをしてしまい内心慌てる。以前から二人きりで落ち着いて話してみたいと思っていた。それなのに折角の機会にむきになってしまったとは言え、不本意なことをしてしまったと密かに肩を落とした。
「すまない
……
、大丈夫か?」
機嫌をうかがう様に手を差し伸べられた。いつもなら一人で起き上がれるとその手を振り払っていたのかもしれないが差し出されたビッグコンボイの手を無意識のうちに握っていた。じんわりと体温が手のひらに伝わってくる。思いがけない相手の熱に息を呑んだ。今までこんな熱を感じたことはない。
「お前の体温は心地良いな」
ジッと握られている手を見ていたビッグコンボイはふと呟いた。
「
――
っ!」
それは他愛もない一言であったが、マグマトロンの機熱をより上昇させるのには十分の一言であった。
立ち上がることなく片手で顔の下半部を押さえて俯いてしまったマグマトロンに一体どうしたんだと慌てて屈み、顔を見つめる。その些細なことにさえ思考をかき乱される感覚に何でこの俺がと内心舌打ちをして、未だに握っていた手に気付いてハッとして放した。
「今日は本当にどうしたんだ? いつもと何か違うぞ?」
「そんなもの知らん! 貴様のせいだ! くそッ
――
」
心中乱れている自分とは違い、落ち着いた声色で話し掛けてくるビッグコンボイの姿に無性に苛立ちを感じ、手を払いのけて立ち上がる。そして、「何故、貴様なんかに!」と一言だけ吐き捨て、ドスドスと荒い足音を立てて、ディーナビの待っている場所へと行くべく立ち去って行った。
ビッグコンボイは急に声を上げて怒りを露わにする姿に驚いて立ち去って行くマグマトロンに何の声も掛けることが出来ずに後ろ姿をただ眺めていた。
「
……
何か悪いことしたか?」
その場に取り残されて、ふと我に帰りポツリと呟いたが、その理由は怒ったマグマトロン本人でさえも説明出来ないものであった。
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