白夜
2022-02-20 23:57:12
2306文字
Public その他
 

テルシマ


ギンガ団へと入った当初からポケモンの調査からコトブキムラへと帰還した際に食べることが習慣になっているイモヅル亭のイモモチを口の中へと運ぶ。香ばしい味とモチモチとした癖になる食感は何度食べても飽きることはない。
そんなイモモチに舌鼓を打ちながら、自分の目の前に座りイモモチを食べている想い人にチラリと目を向けた。いつもと変らず黙って無心にイモモチを食べている。
彼女が食べているイモモチと自分が食べているイモモチは作った人も同じものであるにも関わらず彼女が食べているイモモチの方が美味しそうに見えてしまう。もちろんその理由に気付かないほど子供ではない。だからこそシマボシ隊長の食べているイモモチが食べたいなどという子供のような言葉を吐き出さないように飲み下す。
このように食を共にしてくれるようになったことだけでも奇跡に近いことなのだ。
本来、彼女は一人だけにも邪魔をされず静かに食べることを好んでおり、一人で食べていることが常であった。実際、よくラベン博士が一緒にどうですかと誘っていたが、毎回彼女の口から肯定の言葉が出ることはなかった。
食へのこだわりは他人には不可侵なものだ。誰にも邪魔をすることは許されないものであると思っている。
だからこそ、どんなシマボシ隊長と食を共にしたいと思っても彼女を食事に誘うことはしなかった。ただ、たまにイモヅル亭内で見かける綺麗な姿勢で食べている彼女の姿はとても好ましく感じたし、やけ食いかのように食べている様子は可愛らしいと感じていた。

そんな彼女と食を共にできるようになったのは比較的最近のことだ。

「この後、時間は空いているか」

ポケモンの調査から戻り、ポケモン図鑑をシマボシ隊長へと見てもらっている最中、不意にシマボシ隊長から声を掛けられた。

「え、あ……、えーっと、何か手伝う仕事でも?」

思わぬことに思わず反応が遅れてしまった。ポケモン図鑑を見ている時の彼女はいつも無言だ。だからこそ珍しいなと思ったし、きっと何か急ぎの仕事でもあるのだろうと思った。

「いや、そうではない。いつものようにイモヅル亭に行くつもりか?」
「ええと、何もなかったらそのつもりですけど……

ポケモン図鑑へと伏せられていた瞳がこちらを向く。ドキリとした。思わぬイレギュラーな事案にどうして良いのか分からなくなる。ポケモン調査におけるイレギュラーな事案には比較的平気に対処できるのに、どうしても彼女相手になるとままならない。
そもそもテルが調査終わりにイモモチを食べに行っていることを把握しているような物言い。単に部下の行動として把握しているだけなのかもしれないが、知っていてくれているだけで嬉しいものがある。ただそれがどうしたのだろうか?と彼女を見つめると、彼女は小さく咳払いをした。

……この後、一緒に食事でもどうだ」
「えっ」

一瞬耳を疑い、瞠目する。
自分の都合の良いように聞こえている幻聴なのではないかとすら疑った。ずっと一緒に食事をしたいと思っていた想い人に誘われるなんて誰が思うだろうか。
だから驚きの声が思わず口から出てしまっても仕方がないことだろう。

「別に上司としての命令ではない。断ってくれてもキミの不利益になるようなことはない」
「いえ、まさか! 是非ともよろしくお願いします! むしろ一緒に食べてください!」

ただその姿が嫌がっているように見えてしまったようで、そう念押しされるが断る気など全く無い。この機会を逃してはならないと、即座に返事をする。
その勢いがあまりにもすごかったからか、「そ、そうか。わかった」といつもはポーカーフェイスな表情に僅かに崩し、引き気味になっている。
そんな表情さえも愛らしいと思ってしまうのは恋は盲目だからというからだろうか。そんなことを思いながらシマボシ隊長の珍しい表情を見ることができたとだらしなく頬を緩ませた。

それからだ。シマボシ隊長とよく一緒に食事をするようになったのは。
もちろんテルから誘うこともある。以前はあれほどまでに遠慮していたというのに我ながら単純な奴である。それによっぽどのことがなければテルからの誘いに乗ってくれるため遠慮という言葉は頭の中から抜け落ちつつある。
あの日何を思ってシマボシ隊長が食事に誘ってくれたのかは未だに分からない。一度聞いたことがあったが、上手くはぐらかされてしまった。
それでも一緒に食事をしてくれるのはシマボシ隊長にとってとても"特別"なことだとテルは認識している。だからこそこうしてシマボシ隊長と食事を取る時間はヒスイの地での楽しみの一つである。

「テル、どうした。こちらばかり見て。箸が止まっているぞ」
「へ、あっ」

イモモチを食べているシマボシ隊長を見ながら食べていたのだが、いつの間にか思考の海に潜り込んでしまっていたらしい。
声をかけられ、ハッとして箸でつまんでいたイモモチを皿の上に落としてしまう。
更にこっそり見つけてみたつもりが、しっかり相手にバレてしまっていた。

「食事中にうわの空とは行儀が悪い」
「す、すいません……
「だが、その様子何あったのか?」
「いや、えっーと、その……あー」
「どうした、はっきりしないな」

貴女のことを考えていました!など明け透けに言えるほど神経は図太くない。

「えっと、シマボシ隊長の食べてるイモモチ美味しそうだなって思いまして」
「何を言っている? 同じものだろ?」

何と返そうかと考えるが何か良い言い訳は思い浮かばない。そのため出たのは素直な言葉だった。