白夜
2021-08-01 17:34:50
2486文字
Public その他
 

歳下彼氏のお願い事

hpmi 簓零。逆行感想リプのやつ。

「なぁ、れいー。まだなんー?」

部屋の外から聞こえてくる簓の声。その声色はワクワクとした喜色に染まっており、天谷奴が出て来るのは楽しみに待っていることが容易にうかがえる。天谷奴はその声にハァーと深い溜息を吐いて、自分の姿が映っている鏡を見る。
そこに映るのはセーラー服を着た自分自身の姿。胸元はパツパツであり、丈の長さが短いせいで腹筋が晒されているほどサイズが全く合っていない。更には筋肉が付きガッチリとしているすね毛の生えた脚が太腿半ばから短いスカートのせいで晒されている。
そんな格好とした良い歳をしたおっさんの姿。あまりにも似合っていないその姿に頭が痛くなってくるし、吐き気ももよおす。
しかしなぜ天谷奴がセーラー服を着ているのかというと、部屋の前で天谷奴がセーラー服を着て出て来るのを今か今かと待ち望んでいる簓が着てくれと土下座する勢いで縋り付いて頼んできたからである。
それは久しぶりに簓の自宅で会ってすぐのことだった。
それにはさすがの天谷奴も引いた。最近は本業の芸人としての仕事も忙しそうにしており、テレビで観ない日はないくらいであったため、あまりのオーバーワークについに頭がイかれてしまったのかと思わずにはいられなかったし、そもそもそれはどこから調達してきたんだと口元を引きつらせた。
もちろん初めは、そんなのおっさんが着て良いもんじゃねぇだろ、と拒否をした。当たり前だ。このようなものを嬉々として着るおっさんなどただの変態である。
しかし、そこまで思ったにも関わらずこのような格好をするに至ったのかというと単なる惚れた弱みだ。
跪いて天谷奴の脚に縋り付き上目遣いで「セーラー服を着た零をこの目で拝みたいんや。忙しくて心身共に疲れ切った簓くんを癒すためと思ってこれ着たって?」と可愛らしく強請られ、仕方ねぇな、と承諾してしまっていた。我ながら情けないと思う。
これが二回り近く歳の離れた青年に惚れた野郎の末路だろうかと膝をつきたくなってくる。

「なー、零。もうさすがに着替えたやろ? 早よ、出てきてやぁ」

鏡の前でやっぱり無理だと断ってしまおうかと考えていると、急かしてくる簓の声。
一体、簓がどんな期待をしてセーラー服を着て欲しいと強請ってきたのかは分からないが、本当に似合っているとでも思っているのだろうか。そうであるとすれば、絶対に期待外れになってしまうだろう。ガッカリする様子の簓の顔を思い浮かべてしまい再び溜息が出る。
そんな天谷奴のことなど知る由もない簓は「なぁ、入ってええ?」と言って入って来ようとする始末。

――ハァ、仕方ない。笑うなら笑え。

そのような意気込みでドアノブに手をかけてゆっくりとドアを開けた。そうすると案の定、簓が部屋のすぐ目の前に立って待っていた。
似合わねぇだろ、と簓の顔を見るには少し気まずく感じて俯いて言う。ああ、顔も耳も熱くて仕方がない。おそらく赤くなってしまっているだろう。とんだ羞恥プレイである。
しかし、いくらか待っても簓は何も言ってこない。
どうしたんだ?と俯けていた顔を上げてみれば、糸目がカッと見開かれており瞳が露わになっていた。普段、はっきりと見ることができるのは珍しい瞳。簓は何も言わず、ただ目を見開いたまま天谷奴のことを凝視している。

「おい、簓。似合ってないなら似合ってないってはっきり言え。さすがのおじさんも傷付くからな?」
………――った」
「なんだよ?」

似合っていないという自覚は始めからある。むしろセーラー服が似合っていない自覚がないほうがおかしい。ただ簓に着てくれと強請られ、天谷奴は着ているのだ。
感想くらい言え、と簓のことを咎めれば、ようやく簓は口を開いて言葉を発した。しかし、その声は何故か掠れており、何を言っているのか聞き取ることができず天谷奴は眉をひそめて聞き返す。

「アカン、勃った」

そして、次ははっきり聞こえたのだが、その言葉に天谷奴は瞠目して己の耳を疑った。思わず、ハァ!?と驚愕の声が出てしまう。
簓の下半身に目を向ければ、簓が部屋着として履いているスウェットの柔らかな生地が見事に押し上げられている。

「お、お前正気か……?」
「おん、俺は正気やで」
「いや、こんなもん似合ってねぇだろ」
「何言っとんのや、零。こういうのは似合ってないのがエッチなんやろ……!」
「簓……、お前……

真剣な表情でそんなことを力説してくる己の恋人に天谷奴は再び引いた。
歳の差故にジェネレーションギャップもあるだろうし、多少自分がついていけないようなことでも付き合ってやりたいという気持ちは持っている。しかし、今回は引かずにはいられなかった。最近の若い子の性嗜好が分からない、と本気で思った。
簓がおかしいだけなんだろうか。おい、盧笙どうなんだ、と心の中で現在期末テスト前で忙しくしているであろう男に問う。直接本人に聞けば、「知らんわ! そんなもん! そもそもそんなこと俺に聞いてくるな!」と怒ってきそうな問いであるのだが。

「なんや、そこまで引かんでもええやん」
「いやぁ、おいちゃん、ちょっと簓くんの性癖についていけねぇわ」

あからさまに引いた天谷奴に不満げに簓は口を尖らせる。ちなみに簓の下半身は未だに元気なままだ。そんな簓に対して、呆れ半分照れ半分。
歳の分だけ様々なことを経験してきたし、さすがにもうこれ以上目新しい経験などないだろうと思っていたのだが、この歳下の恋人と付き合うようになってからは数多くの新しい経験をさせられている。本当に共に居て飽きない男だ、と苦笑する。
すると簓の手が伸びてきて天谷奴の頬に触れた。その触れ方は欲を孕んでいることを隠していない。今の今まで天谷奴にその気はなかったのだが、簓の熱い視線と共に欲を持って触れられたことでじわりと体が熱帯びる。
なぁ、ええ?と天谷奴をのぞき込み上目遣いでこちらを見てくる。ああ、良いぜ、と笑みを零しながら言えば、嬉しそうに簓は笑い少し背伸びをして天谷奴の唇に口付けた。