白夜
2018-05-11 00:18:34
2426文字
Public 強竜
 

無題

青←喜+楽

 とろとろの蜂蜜のように甘ったるい感情と胸を締め付けるほろ苦い感情が混じり合う。
 そんな今まで感じたことのない感情が胸の奥から次から次へと溢れ出してくる。それは今までに経験したことのない感情だった。そして、その経験したことのない感情は喜びの戦騎の心を甘く蝕み、戸惑わせていた。
 思考を埋め尽くしているのは、敵対している獣電戦隊キョウリュウジャーの一員であるキョウリュウブルーこと有働ノブハルのことだった。思考から消そうとして喜びを集める新しい作戦などを珍しく真剣に考えてみるが、そちらの方に関しては全く思考が働かない。
 歩道橋の高欄に頬杖をやる気なくつき、まさに歩道橋の下の方で行われているデーボモンスターとキョウリュウジャーとの戦闘を見つめながらキャンデリラは悩ましい溜め息を吐いた。
「そんな溜め息なんか吐いちゃって、どうしたんですか?キャンデリラ様ぁ?」
「ふふ、何でもないわ」
 隣に立っていたラッキューロが喜びの戦騎である自分の上司に似つかわしくない溜め息に少し驚いたようにキャンデリラのことを大きな瞳で見つめてくるので、何でもないとニコニコと微笑みながらラッキューロの頭を撫でながら告げる。正直なところ、この感情をラッキューロに話してみたいという気持ちもあるが、この感情をどう言葉に表して良いのか今のキャンデリラには分からないのだ。
 ただ最近よくアイガロンがいろんな感情や気持ちが頭の中でごちゃごちゃして怖い、訳が分からない、と混乱したように泣いているところを見かけるが、もしかしたらそれと同じようなものなのかもしれない、と青色の彼を目で追いながら考えてみる。
 しかし、それでもやはりよく分からない。
 むしろ目で追えば追うほど、キャンデリラにはとても理解できそうにない知らない感情が胸の奥で膨れ上がっていくばかり。

「あ、負けそうっすね」
「あら、そうね」
 そんなことを考えていると、いつもの負けのお決まりのパターンに突入したのに気付いたラッキューロがいつものお気楽な口調で呟いた。その言葉に確かにそのようだと、ラッキューロと顔を見合わせて笑う。
 こういうところが戦騎としての自覚がないだとか戦騎として気が抜けていると怒りの戦騎に怒られる要因なのであるが、当初からお気楽コンビと称される二人であるし、性分であるのだ。変えることなど出来ない。キャンデリラは“喜び”の戦騎なのだ。
 しかし、そうであるにも関わらず、喜びとは違う、蜂蜜のように甘く、珈琲のようにほろ苦い感情がキャンデリラの心を蝕んで、キャンデリラに悩ましい溜め息を吐かせるのだ。
「また溜め息吐いてるッスよ。大丈夫ッスか?」
「うーん、大丈夫か大丈夫じゃないかって言われたら、大丈夫じゃないのかしら?ラッキューロはどう思う?」
「えー、それボクに聞かれても分かんないですよー。なんか悩みッスかぁ?」
「悩み?そうねぇ、こういうのを“悩み事”っていうのかしらね……?」
 必殺技を決めようとしているキョウリュウジャー、主にキョウリュウブルーを見つめながら呟くようにそう返した。今まで悩みなど感じたことはなかったし、そもそもあれこれと考えることはなかった。だから悩みかと言われても正直なところよく分からない。
「も、もしかして、キョウリュウブルーのことッスか……?」
「あら、よく分かったわね!」
 ラッキューロはキャンデリラの向けていた視線の相手に気付いたらしい。なぜか少し恐る恐るというようにキャンデリラに聞いてきたラッキューロにキャンデリラはすごいわ!さすがラッキューロね、とにっこりと微笑む。しかし、そんなキャンデリラとは正反対な様子で、何を言えば良いのか分からないというように視線を彷徨わせた後、手に持っていたスクスクジョイロを手持無沙汰のように黙った弄る。
「ラッキューロ?」
「あ!あ、復元水かけに行ってきます!」
 その様子を不思議に思い、どうしたのかと顔を覗き込めば、ハッとした様子を見せて歩道橋を駆け下りていく。少し様子のおかしいラッキューロに対して、首を傾げるものの、復元水により巨大化していくデーボモンスターを眺めながら、そう言えば今日はキョウリュウブルーと会話らしい会話が出来なかった、と気付き、残念に感じた。そして、また溜め息が一つ零れた。
 
 ただ知らない感情に対して戸惑いはするが、このドキドキするような感情を知らないままでいるのは勿体無い、とキャンデリラは思う。
 もしかしたら、このトロトロに蕩けた甘い蜂蜜のような感情のことをキョウリュウブルー自身に聞いてみれば、その感情の名前を知ることが出来るのかもしれない。何より彼はキャンデリラ達とは違い、様々な豊かな感情を思った人間なのだ。キャンデリラの知らない感情をたくさん知っているはずなのである。
 そのようなことを先頭を見ながらあれこれ考えていると、今度話す機会があれば、直接聞いてみれば良いんだわ!と思い付き、上機嫌に笑った。
「ラッキューロ!そろそろ帰りましょ!」
 下の方で戦闘を見上げて見ているラッキューロにそう言って笑いかけて大きく手を振ると、あ、いつものキャンデリラ様だ!と少しホッとしたような表情でキャンデリラを見る。更に歩道橋から降りて、いつものように手を繋げば、ラッキューロもニッコリと笑う。
 そして、キャンデリラはキョウリュウブルーのことを想いながら、氷結城に戻るべく帰路についた。




***
自分の知らない感情に対して、ラッキューロちゃんは気付かないふりをしたりあまり深く考えずに流したりしてそうで、キャンデリラちゃんは戸惑いはするけど真っ直ぐ向き合うタイプ、アイガロンちゃんはそれが怖くて戸惑って泣くかその感情に蓋をしてそう、ドゴルド様は想像するのが難しいけど始めは苛々して当り散らすけど最後は一人で黙って昇華しそうなイメージ。